第19話:神話級の秘宝、月光の短剣
私とセシルさんは早朝から活動を始め、彼女は古い本や巻物を持ち出し、私もまた自分のノートや資料を用意した。
「まずは、この短剣について記されている文献を探そう。古代エルフの文献には、ルナリスに関する記述があるはずだ。」
「はい、先生。一緒に探してみましょう。」
私たちはセシルさんの家の図書室に移動し、古い書物や巻物を一つ一つ丁寧に調べ始めた。
数時間が経ち、私が一冊の古い本を手に取ると月光の短剣の図解があるページを見つけた。
「先生、この本に何か見つけました。ルナリスについての記述があるようです!」
「見せてくれ。……これは……確かにルナリスについての記述だ。」
セシルさんは真剣な面持ちで文献に目を通す。
「ルナリスはただの武器ではないのか。しかも神話級の秘宝……。とんでもない代物だな。この短剣には月の力が宿っており、使用者に特別な力を与える……さらに継承された者しか使用ができないのか。」
「神話級?ですか……?……なるほど、月の加護を受けることで、傷を癒す力も持っているんですね……。これがあれば、いろんな人を助けることができるかもしれません。」
「神話級というのは等級のことだ。秘宝とよばれる魔道具にはそれぞれランクがあってな。下から一般級、特殊級、希少級、伝説級、神話級となる。秘宝自体、貴重な代物ではあるが、神話級ともなればその存在自体が神話に登場するレベルの貴重なものなんだ。これはその神話級のとんでもない秘宝だ。」
「えええ!!私そんなとんでもないランクの秘宝手に入れちゃって大丈夫なんでしょうか……」
「そうだな……大丈夫ではないだろうな。問題はこれがエルフ族の耳に入ってしまわないか、だ。エルフ族は古い習慣をとても大事にする種族でな。特に王から王へと継承されていた代物が人間の手に渡ったとなれば黙ってはいないだろう。」
「そうなんですね……。一体どんなことが起きるんでしょうか?」
セシルさんの真剣な表情に緊張が走る。エルフ族の教えはセシルさんから度々耳にして居たが、伝統や掟を固く守る種族なのは端々から感じて居た。そのエルフ族に私がルナリスを継承したことが知られたらどうなるんだろう……。
セシルさんは重い口を開いて続けた。
「最悪の場合は戦争だ。しかし、アリスが正当な継承者として選ばれたことを証明すればそれは回避できるかもしれない。」
「せ、戦争ですか?私、ただ貰っただけなのに……」
「はは、とんでもないものを貰ってしまったな。しかしここでどうこう言っていても仕方ない。この剣についてさらに調べていこう。」
ことの重大さに驚いて腰が抜けそうになる。そんな私を見て愉快そうにセシルさんは笑いながら文献に目を通していく。
「ここにはルナリスの正しい使い方も記されている。月光を浴びせることでその力を最大限に引き出すことができるようだ。特に満月の夜にその力を最大限に発揮するらしい。」
「なるほど……今夜、月が出たら試してみましょうか?」
「そうだな。今宵はちょうど満月だ。ルナリスの力を試すには絶好の機会だ。」
昼食をとりながら、私たちは文献を読み漁っていた。干し肉を片手に本を読み漁る。二人とも夢中になることがあれば食事は二の次というのは似ているところらしい。そんな事を考えているとセシルさんが突然私にある提案をしてきた。
「なぁ、アリス。ムーンリリーを使って新しいネイルアイテムを作ってみるのがどうだ?」
「ええ?でもあれは先生の為にとってきたもので……」
「それは分かっている。だがこうして生花にしてもいずれ枯れてしまうだけだからな。それならば素材として使用してやった方が此奴の為にもいいだろうと思ってな。」
「セシルさんは……それでいいんですか?」
「私は構わない。お前からの気持ちは十分に受け取った。魔法の為に役立ててくれるなら私もこの花も本望だろう。」
「……わ、わかりました。」
「どうした?何か迷いがあるようだな。」
「……私は、この花を自分のために使うのは間違っているのではないかと思っています。この花は、あなたのために採ってきたものですし、私がルナウルフさんから採取の許しを得たのも、自分の利益のためではなく、先生への謝罪のためでしたから……。」
私の躊躇いがちな言葉にセシルさんは穏やかな表情を浮かべ肩に手を添えてくれた。そして励ますように優しく、私に言葉をかけてくれる。
「アリス、お前の気持ちはよく分かる。でも、考えてもみてくれ。この花の力を使って新しいネイルアイテムを作り出すことで、私への贖罪だけではなく、多くの人々を助けることができる。お前がその力を正しく使うなら、それは私利私欲ではなく、真の善意によるものだ。」
「……そうですね。先生のためだけでなく、多くの人々を助けるために、この花の力を使うことができるなら、それは正しいことだと思います。」
セシルさんは深く頷き、私の肩に手を置いた。「その通りだ、アリス。お前の心の純粋さと善意を信じている。だからこそ、ムーンリリーの素材を存分に使ってくれ。」
「はい、わかりました!」
私は先生に背中を押され、ムーンリリーを使った新たなネイルの生成に踏み出すことに決意した。




