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第18話:セシルの願い

 私がセシルさんの元に戻り、謝罪が受け入れられたその日の夜のこと。

私たちは暖炉の前で静かな時間を過ごしていた。暖炉の火が揺らめき、部屋には温かな光が広がっている。

セシルさんは古びた椅子に座り、私に向かって静かに問いかけ始める。


「アリス、聞きたいんだが……お前、ミカエルのことは知っているか?」

私は一瞬驚いた表情を浮かべ、セシルさんの目を見つめた。ここで嘘を言っても仕方がない……。私は怒られるのを承知で小さく頷き真実を話した。


「……はい、セシルさんの日記を読んで知りました。ミカエルさんはあなたにとって、とても大切な存在だったんですよね。」

セシルさんは一瞬微笑み、思い出に浸るように目を閉じた。

暖炉の火が彼女の顔に柔らかな影を落とす。


「そうだ、ミカエルは私にとって特別な存在だった。奴はな、王都では落ちこぼれの魔法使いとして馬鹿にされていたんだ。人間ではそこそこいい年齢だったのに簡単な初級魔法しか使えなくてなぁ……。皆から馬鹿にされていたよ、それでも彼奴は魔法使いになるという夢をずっと愚直に追いかけて居た。」

セシルさんの目には遠い記憶が映っているようだった。


「彼奴が私の弟子になり、長い時間をかけて修行を積んだことで、彼は王都でも上級魔法使いと渡り歩けるほどの力を得るようになった。彼の成長を見るたびに、私は彼を誇りに思っていたよ。」

セシルさんの表情は穏やかでありながらも、少し悲しげだった。


「奴が宮廷魔法使いの地位を得たとき、私にプロポーズしてくれた。その時、私は彼の真剣な気持ちと長年の努力に心を打たれ、ミカエルと結ばれることを決意した。生きる長さは違えど、彼と共に居たいと願ったんだ。」

私は静かにセシルさんの話を聞いていた。


「セシルさん、それは……素敵なことですね。」

セシルさんは微笑んだ。


「そうだ、アリス。私たちは本当に幸せだった。彼は私にとって、何よりも大切な存在だった。誰よりも特別な人だったよ。」

セシルさんの表情が一層悲しげになる。


「しかし、そんな幸せは長くは続かなかった。ミカエルは、ある日突然、私の元を去ることになった。彼を失うことは、私にとって計り知れない苦しみだった。」

セシルさんは深いため息をつき、私の目を見つめた。私はその答えを聞きたかったが、セシルさんが自ら語るまで過去は詮索しないと誓ったばかりだ。

私は静かに話の続きに耳を傾けた。


「弟子を失う辛さは、言葉では言い表せない。ミカエル以外にも多くの弟子を失ったが……彼がいなくなってからの空虚さは、今でも心に深く刻まれている。」

私は涙を浮かべながら、セシルさんの手を優しく握った。

セシルさんはエルフで、他の種族よりも長寿と聞く。お弟子さんの中にはエルフ以外の種族も沢山いただろう。ミカエルさんもその一人で、寿命はセシルさん達エルフの数分の1にも満たない。

それに弟子を宮廷魔法使いとして送り出すということは軍に入れるということ。

きっと寿命以外にもいろんな理由で沢山のお弟子さん達を見送って来たんだろう。

その事を考えるとセシルさんの気持ちが痛いほど伝わって、私は涙を堪えきれずにいた。


「セシルさん、あなたの痛みを少しでも分かち合いたいです。あなたの大切な人を失った辛さを理解し、あなたを支えたいんです。」

セシルさんは私の手を握り返し、深く頷いた。


「ありがとう、アリス。……お前にお願いしたいことが一つだけある。聞いてくれるか?」

私は真剣な表情でセシルさんを見つめた。


「何でも言ってください、先生。」


セシルは一瞬黙り込み、深く息を吸い込んでから言った。

「……お前は死ぬな、アリス。お前が私の弟子である限り、絶対に死んではならない。私にもう、弟子を失う辛さを味わせるな。いいな?」


私は涙を拭い、強く頷いた。

「はい……先生。私は、絶対に生き抜いて見せます。少なくとも、先生を見送れるくらい長く生きて、絶対にもう先生を悲しませたりなんかしません。」


セシルさんは穏やかに微笑み、私の決意に感謝の意を示した。

「はは、私を見送る、か……ありがとう、アリス。これからは共に歩んでいこう。エルフと人間、生きる速度は違えど私はお前と共に生きたい。」


「はい……!」


こうして、私とセシルさんは過去の痛みを共有し、共に未来を見据えて歩んでいくことを誓った。その夜、私たちの心は一層深く結びついた。

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