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第17話:幽霊の剣士とムーンガーデン

私が古代の神殿の深部に足を踏み入れると、薄暗い廊下の先に巨大な扉が見えた。扉の前には霧が立ち込め、その中から不気味な影が浮かび上がってくる。


「これは……幽霊……?」

半透明の鎧をまとった長剣を持った幽霊の騎士が現れ、私に向かってゆっくりと歩み寄ってくる。その姿は威圧的だが、私は剣を抜かずに手を挙げ、話しかけることにした。


「待ってください!戦うつもりはありません!」

幽霊の騎士は一瞬動きを止め、青白い炎の灯った瞳で私を見つめている。


「何者だ……ここに何の用だ……?」

私は深呼吸をし、自分の目的を説明し始めた。


「私はアリス、ネイリストであり、セシル先生の弟子です。この神殿に入りムーンリリーを採取するための試練を受けています。争いは望んでいません。」

幽霊の騎士は私の言葉に耳を傾け、少しずつ警戒心を解いていく。


「私はかつてこの神殿を守っていたエルフの騎士、今はその成れの果て……ここに囚われている亡霊だ。ここを訪れる者は皆、力を求めてくる者ばかりだった……。」


「あなたの忠誠心は素晴らしいですね。しかし、私は力を求めているのではなく、この試練を通じて成長し、ムーンリリーを持ち帰りたいだけなんです。」

幽霊の騎士の瞳に一瞬の迷いが見える。


「……私が求めるのは、ただの力ではない。真の勇気とは誠実な心を持つ者に宿る力のこと。その者こそが、この神殿の試練を乗り越えるに値する。」

幽霊の騎士はそのまま長剣を抜くことはなく私と話をしてくれた。


「私はかつてこの神殿を守るために命を捧げた。しかし、死してなお、この地に囚われているのは、生前の誓いを果たすためだ。ここには、かつて我が主が守れと命じた聖なる宝が眠っている。その宝が悪しき者の手に渡ることを防ぐために、私は永遠にこの地に留まることを選んだ。」

私はその言葉に心を打たれた。死して尚、主の為に忠誠を誓い、ここにとどまり続ける彼の姿に瞳を揺らした。


「あなたの忠誠心は立派です。しかし、あなたがここに囚われ続けることが正しいとは思えません。あなたは立派に役目を果たしました。この遺跡の宝には私も手を出しません。あなたの魂を解放し、安らかに眠らせることができるなら、どうかその機会を私に与えてください。」

幽霊の騎士の瞳に希望の光が差し込むように見えた。彼は申し訳なさそうに、でも嬉しそうに私に告げる。


「……私の魂は長い間、この地に囚われていた。任務を果たすのにも……疲れた。もしそれが可能ならば、頼む……私を休ませて欲しい。」


「わかりました。やれるだけのことはやってみます。」


私は手を結び、心を込めて祈り始めた。私の魔法は心と強く結びつているとセシルさんが言っていた。なら私が本気で祈れば、きっと彼を解放させてあげられるはず。


お願い。彼をこの永遠の苦しみから解放してあげて。きっとあなたの主人だって、あなたの働きを褒めてくれるはずだよ。大丈夫、もうここにひとりぼっちでいる必要はないよ。


私が必死に祈り続けていると、手から放たれる柔らかな光が幽霊の騎士を包み込み、彼の霊体が徐々に輝き始めた。

幽霊の騎士の姿が少しずつ変わり始め、かつての生前の姿を取り戻していった。彼の顔には微笑みが浮かび、その目には感謝の光が宿っていた。


「ありがとう……指先に光を宿す者よ……。私の魂は、ついに解放される……。永遠にこの地を守ることが私の使命だったが、貴殿の心がそれを許してくれた……」


「これで主様のところにいけますね。」


「!……ああ、またあのお方のお側にいけるのだろうか…。」


「いけますよ、きっと。そう私が強く祈ります。」


「ありがとう……。」



 騎士の姿が完全に消えると、その場に静寂が戻ってきた。霧も晴れ、巨大な扉が静かに開き始める。すっかり日が落ち、月夜に照らされた庭園にはムーンリリーが咲き誇っていた。


今夜はちょうど満月……ムーンリリーが最大限にその美しさを発揮する時だった。あまりの美しい光景に私は思わず息を飲んだ。


「わぁ……!」

これが、古代エルフ族が命懸けで守ろうとしたムーンリリー……。


一歩庭に踏み出すと柔らかな光が私を包んだ。その美しさに言葉を失ってしまう。真っ白に光り輝く百合と、甘い香りに包まれるとこれまでの苦労が嘘のように消えていった。実際、ムーンリリーの効果で体力が回復したのだろう。疲労や体の重さがすうーっと消えていくのを感じた。


今までいろんな植物を採取してきたけどこんなのは初めてだ。ルミナスフラワーの輝きよりもより強く、魔力をうまく感じ取れない私でもこの庭園が魔力で満たされ癒してくれるのを感じた。


庭の美しさに感動していると、そこに白く巨大な狼が現れた。私は咄嗟に身構える。

また魔物……!?

しかし、私の緊張とは裏腹に穏やかで低い声が優しく響いた。


「よくぞここまで辿り着いた。勇敢なる者よ。そして我が主のしもべを救ってくれたこと、心より感謝する。私はルナウルフ、このムーンガーデンの守護者だ。」

ルナウルフという真っ白で美しい狼は私の心に直接語りかけてくる様に優しく話しかけて来た。


「あ、ありがとうございます。私はネイリストのアリスと申します。」


「ねいりすと……聞いたことのない言葉だな。ここへは何をしにきた?」


「えっと、ネイリストとは爪を装飾する仕事をする者です。私の爪はルミナスフラワーを使った染料で染め上げています。これで魔力を高め、なんとかここまで来ることができました。私はムーンリリーを手に入れるために参りました。この花を採取し、私の師であるセシルさんの元に戻り、彼女に心から謝罪をしたいのです。セシルさんは過去に深い悲しみを抱えており、その悲しみを乗り越える手助けができるのはムーンリリーの力だと信じています。」


「なるほど。己の為に使うのではなく、あくまでも師の為にムーンリリーが必要なのだな。そしてそのネイルとやらの力……かつての予言にあった“指先に光を宿す者”やもしれぬ。」


「指先に光を宿す者……?」

さっきのエルフの騎士さんも言って居たな、と思いながらその言葉に耳を傾ける。


「“指先に光を宿す者、その光は闇を照らし、道を示す。光の指先を持つ者が現れ、世界に平和をもたらすだろう。”……これが我が主である、エルフ王の残した予言だ。」

ルナウルフさんがそういう。私がその予言の者だという自信はなかったが、ルナウルフさんの後ろを着いて歩き始めた。


これまで通った道とは違う道を進むルナウルフさん。そして、彼は私を古代のエルフ王の棺が収められた部屋へと案内してくれた。

「アリスよ、お前には真の純粋な心と強い意志を感じた。古代エルフ王の御前に案内しよう。そこで、月光の短剣(ルナリス)という秘宝も手にすることができるだろう。我が主がお許しになれば。」


月光の短剣(ルナリス)……ですか?でも私はムーンリリーさえもらえればそれで……」


「主から仰せつかったのだ。月光の短剣(ルナリス)を持つに相応しい者が現れたら、かの者を私の前に連れてこいと。」


「は、はい……。」

私がその予言の主じゃなかったらどうするんだろう……。そんな不安を抱えながら棺が備えられている大きな広い部屋へと足を踏み入れた。私とルナウルフさんが祭壇の前に立つと、古びた石棺が目の前に現れる。棺の中には、何千年も前に朽ち果てたエルフ王の白骨が安置されていた。棺の上には、美しい短剣『月光の短剣(ルナリス)』が献上されている。


「この棺に安置されているのは、私の主であり古代エルフ王だ。彼は月光の短剣(ルナリス)を納め、ムーンリリーを守り続けた。今、お前がその力を継承する時が来た。」


「そ、そんな大切なものを私が継承してしまっていいんですか?」


「構わない。お主は王の予言にあった“指先に光を宿す“で間違いない。何千年の時を、この月光の短剣(ルナリス)も待っていたであろう。」


私そんな大それた人間じゃないんだけどな……と一抹の不安を感じていると突然、棺の周りに淡い光が現れ、古代エルフ王の亡霊が姿を現した。亡骸の姿で現れた彼は威厳ある姿勢で私を見つめ、その目は暗い闇を宿している。


「“指先に光を宿す者“よ、汝からは心の強さと純粋さを感じる。この月光の短剣(ルナリス)とムーンリリーの力を正しく使いなさい。これらの力は大いなる善をもたらすことができるが、誤った使い方をすれば大きな災いを招くこともある。忘れてはならぬ、その力の責任を。大いなる力には、大いなる責任がついてくることも。」


遺体に握られていた手から月光の短剣(ルナリス)が浮かび上がると、差し出した私の手にそれは収められた。その短剣の真っ白な刃は骨から削り出されたような質感と見た目で、特別な装飾もなく、驚くほど軽い。むしろそのシンプルな見た目と軽さが少し安っぽくさえ感じさせた。しかし、私のネイルに反応してか、突然古代エルフ文字と月の紋様が浮かび上がり、柔らかく光り輝きだすとその刀身は実に美しいものへと変わった。


王の亡霊はその光景に深く頷き、そして満足げに微笑んだ。するとその姿が徐々に薄れていく。


「汝がその力を正しく使うことを願っている。これで私もやっと安らかに眠ることができる。さらばだ、“指先に光を宿す者”。」


王の亡霊が完全に消え去ると、再び静寂が戻る。私は月光の短剣(ルナリス)を手にし、鞘に収めるとベルトの中にそれをそっと収めた。



 私が継承したことを見届けたルナウルフさんは再びムーンガーデンへと私を導き、ムーンリリーの採取を許してくれた。ムーンリリーの花をいくつか摘み取り、大切に抱える。


「お前はさまざまな試練を乗り越え、ここに辿り着き、予言の通りに月光の短剣(ルナリス)を手にした。ムーンリリーと月光の短剣(ルナリス)を手に、師の元へ戻り、その力を正しく使え。」


「ありがとうございます、ルナウルフさん。この力を正しく使えるように努力します。」


私はルナウルフさんに感謝の意を示し深々と頭を下げ、ムーンガーデンを後にする。こうして、私は新たな力と責任を背負い、再び旅路へと戻るのであった。



 森の中を慎重に歩きながら、私はセシルさんの元に戻る決意を新たにする。ムーンリリーと月光の短剣(ルナリス)を手に、セシルさんに誠心誠意謝罪をし、再び信頼を取り戻すために全力を尽くそうと心に誓った。


私は夜通し歩き続け、ついにセシルさんの家にたどり着いた。朝日が昇り始め、森は淡い光に包まれている。私はセシルさんの家の前で一度立ち止まり、大きく深呼吸をした。


セシルさん、どうか私の謝罪を受け入れてください……。

ドアの前で一瞬のためらいを感じたが、深呼吸をしてから勇気を振り絞り、ドアをノックした。

ドアがゆっくりと開き、セシルさんの厳しい表情が見えた。彼女の目は冷たく、怒りと失望の色を帯びていた。

私はその視線に怯まず、まっすぐに彼女を見つめ返した。


「……アリス。」


「セシルさん、私は……」

セシルさんは一言も発さず、じっと私を見つめ続ける。私は勇気を振り絞り、深く頭を下げた。


「セシルさん、本当に申し訳ありませんでした。あなたの日記を勝手に持ち出してしまい、あなたの大切な思い出に触れてしまったことを、心から反省しています。本当にごめんなさい!」

セシルさんの表情は変わらず、私の言葉を黙って聞いている。その冷たい視線が胸に突き刺さるように感じる。


「私はあなたの過去を知り、あなたがどれほどの痛みと悲しみを抱えているのかを理解しました。その上で、私を弟子として受け入れてくれたこと……それがセシルさんにとってどれほど辛いことだったのかも気付きました。それでも私は、その傷を癒す手助けをしたいと思ったんです。」


私は月光の短剣とムーンリリーをセシルさんに差し出した。彼女は一瞬驚きの表情を見せ、その後、短剣とムーンリリーをじっと見つめた。


「どうやって……?」


「様々な試練を乗り越え、エルフ王の亡霊と対話しました。そして、この力を正しく使うようにと託されました。セシルさん……いえ、先生。どうかもう一度私にチャンスをください。私はあなたの弟子として、あなたを支え、共に前に進むことを誓います。」


セシルさんはしばらく沈黙し、その後、深い溜息をついた。

「アリス、お前の決意と誠実さには感謝する。しかし、信頼を取り戻すには時間が必要だ。それでも、お前がここまで努力したことは評価に値する。お前がその過ちを償おうとする姿勢を見て、考えさせられた。……お前の謝罪を受け入れよう。」


「!!」

その言葉に私は両目からぼろぼろと涙をこぼした。


「ありがとうございます、セシルさん。私はこれからもあなたのために尽力します。どうか見守っていてください。」


セシルさんは穏やかな表情で頷き、私を優しく家に迎え入れてくれた。その瞬間、私は胸の中に温かい希望の光が灯るのを感じた。

再び師の元で学び、成長することができる。私は新たな力と共に、セシルさんとの絆を再び築いていく決意を固めたのだった。

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― 新着の感想 ―
アリスの「傷を癒す手助け」という言葉が少しひっかかりました。その傷を暴いたのも深くしたのもアリスなのではないかと…。作中で許されているので読者がとやかくいう問題ではないのですが、少しモヤモヤします…。
2024/12/04 10:50 退会済み
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