第11話:魔物を美味しく食べよう!
「今夜は肉料理だな。半分は干し肉にして保存食にする。残りは……スープに入れるか?」
「狼の肉なんて調理したことはないですけど……肉食の肉、ですよね?結構な臭みがあるんじゃないですか?」
私は少し不安そうに尋ねた。
「臭みか。だいたい魔物肉は癖があるものだが……。」
セシルさんはそんなものだろうと言いたげな顔をしていた。
「なら下処理をしっかりして美味しく食べられるようにしましょう。確かお塩はあるんでしたよね。」
「ああ、岩塩があるぞ。どうするつもりだ?」
「美味しく食べられるように下ごしらえをします!」
私は意気込んで答えた。
シャドウウルフを美味しく食べよう!
1.シャドウウルフの肉を塩水に漬ける。お肉が白っぽくなるまで水を交換しながら1〜2時間ほど塩水につけておく。この作業に一番手間と時間をかけ、お肉の臭みを極限まで抑える。
2.水気をよく切り、ミストリーフやルミナスフラワーなどのハーブを細かく刻んでお肉全体によくまぶして擦り込む。ハーブ特有の美味しそうな香りが立ち上る。これなら上手くいきそう!
3.ステーキ大の大きさに切ってフライパンで焼き目がつくまでこんがりと焼く。ジビエ肉なのでしっかり中に火が通るようにウェルダンの状態まで焼き上げる!火加減に注意を払いながら、完璧な焼き加減を目指す!
4.肉を取り出し、皿の上で少し肉を休ませる。その間に肉汁の余ったフライパンにエルフ特製ワインとミルメルエキスを加え、肉汁で特製のソースを作る。食欲を引き立てるソースの香りが広がり、私は自分の料理に対する自信を少しずつ感じ始めた。
5.最後に岩塩を削って振りかけ、ハーブを添える。
これで、シャドウウルフのステーキの完成!
「おお、あの獣臭がほとんど感じないな。」
セシルさんは驚きの声を上げた。
「完全には消し去ることはできなかったと思いますけど、きっと美味しく食べられるはずです。」
私は少し緊張しながらも自信を持って答えた。
「それは楽しみだ。ではいただこうか。」
「はい、いただきます!」
私はステーキに一口かぶりついた。
ん!これは……結構お肉は硬めで筋肉質な感じだけど、これはこれでワイルドな味わいがあって美味しい!
ワインを使ったソースのおかげで臭みもそこまで強く感じないし……ああ、ステーキ丼にして食べたらもっと美味しかったろうなぁ。でもこれだけしっかりした歯応えのお肉なら煮込み料理の方が合うかもしれない。明日もお肉があれば何か違うものを作ってみようかな。
「いただきます。」
「!いつものお祈りの言葉じゃなくていいんですか?」
「あれは長いしな。それに作ってくれたお前に感謝をせねばならない。だから使わせてもらったぞ。」
「えへへ……嬉しいです。」
セシルさんが私と同じように「いただきます」と言ってくれることが、とても嬉しく感じられた。そうこうしているうちにセシルの口にもシャドウウルフのステーキが運ばれた。
「!!!」
「どうしましたか?あ、やっぱりちょっと臭みありますよね……。」
私は心配そうに尋ねた。
「う……美味い!!」
「よかった!」
その言葉に私はほっと胸を撫で下ろした。
「なんだこれは!最高に美味いぞ!普段は硬くて臭くてとても好きにはなれない味だったが、美味すぎる!こんな料理初めてだ!私の特製ワインを使われた時はどうなることだと思ったが……」
セシルさんは感動のあまり慌ただしくキッチンへ向かうと、木製のワイングラスを2つ持ってワイン瓶を片手に猛ダッシュで戻ってきた。
「これは絶対にワインに合う!!」
セシルさんは性急にグラスにワインを注ぐ。
そしてステーキを一口食べると一気にワインで流し込んだ。
「くうう〜〜〜!!これは最高だな!!美味い!美味すぎる!!程よい獣臭も逆にワインが進む!!このソースがまたワインを飲みたくさせるな!!」
「そんなに喜んでもらってよかったです。」
「アリス、お前も呑め!」
「ええ?私もですか?」
「そうだ!こんな美味い肉にワインを呑まずしてエルフがやってられるか!」
「私エルフじゃないんですけど……」
苦笑いしつつワイングラスを持つとセシルさんはグラスになみなみとワインを注ぐ。
「さぁいってみてくれ!ぐいっと!美味いぞ〜!」
「う〜ん……」
そんなにお酒は得意じゃないんだけどなぁ……でも勧められてしまったものは仕方がない。
私は少し躊躇しながらも、お肉を口にしてからワインを飲む。
「あれ?美味しい……」
「そうだろうとも!エルフが作るワインはそれはそれは上物なんだぞ。これだって私が丹精込めて作ったワインなんだからな。」
「セシルさんが作ったんですか?すごい!これ、すごく美味しいです。」
「だろう!だが、この肉料理には敵わないな……やはり美味い料理があってこその美味い酒だ!」
セシルはワインを飲むペースがとどまることを知らない。そんなに沢山飲んで大丈夫なんだろうか……。
普段からお酒の場に行くこともなければ、一人でお酒を飲む習慣もないので、人がどれくらいのペースで酔っぱらうのかがわからない。そもそも飲み会のような騒がしい場所も好きじゃないし、人との交流が苦手な私にとって飲み会など苦痛以外の何ものでもない。
しかし、こういう時に人の飲むペースを知っていたら止め方の一つも分かったんじゃ無いかとちょっとだけ後悔した。
数分後。
一人でボトル一本を開けたセシルは泥酔していた。一方の私は、グラスになみなみ注がれたワインを飲み干してもケロッとしている。存外アルコールには強い体質なのかもしれない。
ぐでんぐでんに酔っぱらいながらも瓶を振って最後の一滴まで飲み干そうとするセシルさん。
「セシルさん、その辺にしておいた方がいいですよ。」
「先生って呼べっていってんだろ〜ぉ。いいんだよ、もう少し飲ませろよ〜。」
「駄目ですよ。それに、この後研究の続きもするんじゃなかったんですか?」
「大丈夫大丈夫〜材料は揃ったんだから〜、あとはお前が抽出さえすればどうってことはないだろぉ?」
「私、動物から染料の抽出の仕方なんて分かりませんよ……」
「私の部屋に魔術書がある〜……そこに魔物の素材の加工についての本があるはずだからそれをとってこい〜……」
「はぁ……わかりましたよ。」
私は酔っ払っているセシルさんの言葉に仕方なく従い、地下室にあるセシルさんの部屋へと向かった。




