頁35:後の祭とは
摘んだ花束を握り締めながら轟音がした方へ走る。場所の予想はついていた。というより彼の居場所以外は考えられない。
不規則に並んだ統一感の無い建物の間を縫い、先程までいた棺の並ぶ路地裏へ───なんだか大騒ぎしているような声が聞こえた。まさか神々廻さんが何かやらかして袋叩きにでも…!?
「な…!?」
最終コーナーを曲がり切り視界に飛び込んだ光景は───
『『『『シ・シ・バ!! シ・シ・バ!!!』』』』
すり鉢状に深く抉られた地面、そしてその穴の底で興奮した村の男性陣に囲まれて胴上げされている彼の姿だった。
なにこの状況。
「みっ、みさッ、さっピー! たすっ、たすけっ! オタスケっピ!!」
助けてっピと言われましても。楽しそうですし。
と言うかこの大穴…何が起きたのだろうか。この人数でこれだけの穴を掘るには時間的にまだまだ足りない筈だが。まあ神々廻さんが何かしら絡んでいるのは間違いないだろうな。取り敢えずは話を聞かない事には始まらない。
「あの! すいません!!」
『『『『 !!! 』』』』
ヒッ!?
私の声にそれまで歓声を上げながら胴上げをしていた男性陣が、ほぼ同時に動きを止めて私の方を見た。ギラっと。
「おぎョぐぇッ!」
放り上げられた後に受け止めてもらえなかった神々廻さんが変な姿勢で地面に落下した。どうして着地の時だけ変な姿勢になるんだろうこの人。
「あ、あのですね…その…落ち着いて……」
「『 』の遣いのシシバが付き従っているって事は…」
誰かが不穏な発言をした。遣いって? どうしてそういう事に??
まさか我々の正体がバレたのか。
「まさか…」「そのまさ…か…?」「おいィ…」
え…ちょ、何ですか。
あ、分かった。これは絶対に良くないパターンだ!
『『『『ああああ女神様あああああああ!!!!!!』』』』
「いやああああああああああああああああああ!!!!!!」
目が爛爛と輝いた男性陣が、傾斜角度のきついすり鉢穴を物ともせずに駆け上がってこちらに突進してくる。
本能的な恐怖を感じて私は一目散に逃げだした。女性陣の陣地へ。
「ちょっと! オレは!?」
そんなの自分で何とかして下さい!!
◇◆◇◆◇◆
女性陣が炊き出しをしている広場?に、正座させられた男性陣が並んでいた。ちなみに何とか自力で穴から脱出し後からふらふらやって来た神々廻さんも何故か正座していた。条件反射か。
半泣きで全力疾走して来る客人である私をおかしなテンションで追いかけてくる男性陣…という構図に異常事態を感じたよしこさんが鶴の一声で暴動を鎮圧したのだ。すごい。
「で…? どういう事だい…ああ? 穴掘りはまだ終わっちゃいないと思うが…何を遊び歩いてるってのかねぇ…? しかもミサキちゃんをこんなに怖がらせて泣かせて…おーよしよし…怖かったねぇ…」
な、泣いてません。(半分しか。)
先程の柔和な印象とはかけ離れた鬼のよしこさんが誰にとは言わず問いかける。男性陣は完全に委縮してしまっている様だ。
「……はいじゃあ代表してたけし」
「あ、は、はい…」
たけしさんと呼ばれた初老の男性が震えあがりながら返事をした。
確かこの方は我々が最初にこの村に来た時にひろしさんと話していた方だったか。
それにしても本当に『The 日本人名』だな。
「し、シシバが…あ、いや旅人さんのあんちゃんがよ…、『 』たった一振りで…でけぇ穴を掘っちまってよ…」
「何バカを言ってんだい! 嘘も大概にしな!!」
「ヒィィ!!」
たけしさんが恐怖で仰向けにひっくり返った。正座のままで。体柔らかいんですね…。
すると、神々廻さんがおずおずと手を挙げた。
「あの~…それホントなんです…。いや、オレもなんでそうなったのかさっぱり分かんないですケド…」
よしこさんの鋭い眼光が神々廻さんを射抜く。
「ヒェッ」
「…それは…本当かい…?」
「は…はひ…」
傍から見ても分かる程にガクガクと震える神々廻さん。
「あの、よしこさん、どういう経緯なのかは私も見ていないので分かりませんが、確かに穴はもう掘られてました」
同じ立場なのにちょっと可愛そうな気がしたので私からもフォローを入れる。
私の言葉を聞いてよしこさんの表情が少し柔らかくなった。気がした。気のせいかも。
「ふむ…なるほどねぇ。──シシバさんと仰いましたかねぇ?」
言葉が出なかったのか必死で首を縦に振る彼。
よしこさんはゆっくりと彼の方へ歩み寄る。神々廻さんもたけしさんに続きそうな顔をしていた。
「私達の村の仲間の為に、何の縁も縁も無い筈の旅人さんであるあなた達が尽力して下さったこの御恩。村人を代表し、心より感謝申し上げます」
そう言うと、よしこさんは腰が抜けかけた神々廻さんの前で膝をつくと深々と礼をした。
「へ…?」
予想していなかった謝辞に彼も理解が追い付かなかったらしい。
「ミサキちゃん」
「は、はい」
よしこさんが手招きで私を呼ぶ。なんだろうかと傍まで歩み寄ると、よしこさんは私と神々廻さんを両の腕で抱える様に抱きしめた。
「えっ」
「ちょ、ばーちゃん!?」
「…ありがとう…ありがとうねぇ…」
「「 !! 」」
突然の事に驚いたけれど、すぐに分かった。抱かれた腕が細かく震えている。顔が見えなくてもその声で分かる。
「無念だっただろうに…もっと生きたかっただろうに…。だけどあなた達に葬って貰えて、みんなきっと喜んでるよ…。すまないねぇ…本当にありがとう……」
気付けば、皆泣いていた。明るく振舞っていたように見えたけれど、誰しもが心に深い傷を負っていたんだ。そんなの…当たり前じゃないか。
「ごめん、ばーちゃん…。オレのせいで…」
「神々廻さん」
「…うん」
もらい泣きしている神々廻さんが呟いた言葉を私は制した。その先は言ってはいけないのだ。どれだけ本当の事を告白して懺悔したくとも。私達にはその資格は無い。
「あなた達のせいじゃないよ…。全ては星の定め、『 』の思し召しさ」
無音…? 思し召し、という言葉から想像出来るのは───
「さあさあ! 泣いてないで皆で一気に準備しようじゃないか!」
よしこさんが力強く発する。
それに応える皆さんの歓声。…そうか、私達も今、きっとこの村の人間なんだ。だからこそ最後まで責任を取らなければならない。命を落とす運命を強制的に与えられてしまった人達の為にも。
それが間違ったカミサマとしての我々の使命だ。
誰かがボソッと呟いた。
「泣いてないで、って…よしこさんも泣いてたクセになぁ…」
「おだまり!!」
この星に来てから最初の夜が近付こうとしていた。
(次頁/36へ続く)
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