頁22:ダンジョン探索初級とは
道無き道を大陸地図に表示される矢印だけを頼りに進む。
【本】が無ければ恐らくはあっという間に遭難していたかもしれない。それ程に山中は人の手が入っていない様子だった。
そう言えばスタ・アトの村周辺ですら切り株を見なかった。山間にありながら林業を営んでいない村って有り得るのだろうか?
もしかするとミッション1の世界設定に関する未設定部分が影響しているのかもしれない。
「もうすぐだヨ。上手い事モンスターにも見つからなかったし運が良かったよね♪」
あ、そう言えばもう一つ忘れていた。
「【怪物】と言うのは敵対生物の事ですよね?」
「ん? そうだヨ。他にも魔物だとかクリーチャーとか呼ばれる事もあるけど」
『魔』物───。『魔』の文字は煩悩や凶事、執着を表す文字でもあり、サンスクリット語で障害・破壊・殺す者などの意を持つmāraの略ともされる。いずれにせよいい意味では無い文字だ。
彼が選択した歴史ルートによりこの世界に出現した敵対生物は確かに命を危ぶむ存在ではあるが…しかし果たしてそれが本当に『魔』物と称されてもいい理由になるのだろうか。ゲームやファンタジーの中では当たり前の存在であるのならば、それは人が生み出したモノだ。
「どうして『魔物』なんでしょうね」
「えっ? どうして?って…」
「確かに放っておけば人や動物に害を及ぼすかもしれません。でもそれはあくまでもそういう役割であるからであり、彼等にしてみたら野生の動物が生きる為に命を食らうのと同じ行為なのではないでしょうか」
「イヤ…さすがにそこまで考えた事は無かったヨ…。相変わらずキミすごい事言うよネ…」
神々廻さんは腕を組んで顎の下をボリボリ掻いた。
「敵だから倒す、倒して経験値にしてレベルを上げる、レベル差があり過ぎるとやられる、だから強くなるために勝てるヤツを大量に倒す…。ゲームではずっとそういう扱いだったし、そういうシステムのひとつでしかないって思ってたからなァ…」
だからと言って同じ命だから無下に殺すなんてやめましょう、なんて言わない。
本のシステムは絶対だろう。つまりそういう役割として召喚されてしまった以上、こちらが手を出さなくても向こうはきっと存在意義に則って命を奪いに来る。衝突を回避出来ればなどという考えは恐らくは通用しない。
「まさか…みさキン、敵は倒すな!って言うつもり?」
「いいえ、それは有り得ません」
ピシッと言い放つ。
人類は生き残り歴史を紡ぐ為に彼等を殺め続けるだろう。それはこの星の歴史の為の必要な犠牲なのだ。誰にも手を合わせてもらう事の無い───
ならば、せめてその業だけは背負おう。産み出してしまった側として。
「敵対生物の総称ってまだ未設定のままですよね?」
「え? …ああ、うん、決まってないヨ」
彼が本を開いて確認する。
「お願いがあるのですが、それ…私が決めてもいいですか?」
「えっ? マジ!? なんかイイ名前あるの?」
「ええ…。名称は───」
その名を聞く度に私は思い出し、いつまでも忘れないだろう。そしてその意味を誰も知らずとも、この星に生きる人々の中に永遠に刻まれて欲しい。
自分達が生きる為に犠牲になるモノ達がいるという、その意味を。
《 世界設定/名称/敵対生物総称:ヴィクティム が世界に登録されました。世界設定の一部名称に修正が入ります。》
◇◆◇◆◇◆
「こいつぁ…いかにもいかにも、って感じだネ…」
【ヴィクティムの巣】と名称が変更されたダンジョンは崖の裾元にぽっかりと口を開けた天然の洞窟の様だった。
それを我々は少し離れた茂みから観察している。
「実際に自分が突入する側になると…緊張がパネェっす…」
「巣と言う割にはあまり敵の姿が見えませんね? 蝙蝠の巣みたいに飛ぶ眼がわっさわっさと出入りしている物だと想像してましたけど」
「気持ち悪い事言わないでくれる!?」
だって自分でそれを退治するって言ったんじゃないですか。
「待ってても仕方無いですし、暗くなる前に行きましょうか」
「ちょちょちょちょっと待って!」
スッと腰を浮かす私を慌てて止める神々廻さん。何やら本を必死に調べている。
「設定…設定設定設定…難易度設定は…無し…無いのかよ…! 採光方式…物理光源じゃなくて常灯…これは助かる…オートマッピング有り…縮小マップ網膜表示有り…ヨシ……敵座標表示有り…ヨシ…!」
何をブツブツ呟いてるんだろう。ゲーマーって分からない。
暫くその作業を眺めていると、私の本が勝手に召喚されページが開く。
《 世界設定/基本設定/探索 が変更されました。》
この変更はCP消費はないのか。何を変更したのかは分からないけれど、保身だけは必死な彼が決める事だし不利に働く事は無いと思うが…。
「よっし、出来る限りはやった…! ダイジョーブ、きっと初級…初級だ…!」
不安だ。
まあ知識皆無な私も人の事は言えないんだけれど。
「い、行こう…!」
やっぱりやめよう!と言わない辺り、意外ではあった。一応成長してるのかしら。
◇◆◇◆◇◆
洞窟の中はひんやりとして、少し湿った土の匂いがした。想像とは全く違う。生物が棲み付いているのであれば獣臭やら腐敗臭などの悪臭で満たされている物だと覚悟はしていた。
「あっ…」
視界に突如起きた変化に思わず声を漏らしてしまい、鬼の形相の神々廻さんに『(シーーー!!)』とされてしまった。不覚。
すると彼は本を指差した。
ああ、成程。私も本を呼び出すとチャットページを開く。
《すいません、視界に何か表示されて驚いてしまいました。》
《あ、そうか、ごめん! さっき探索設定の中にダンジョン内でのミニマップ表示の設定があったからONにしたヨ。向いてる方が上、立っている場所から20メートル以内の情報が表示されるって。敵対生物が範囲内にいるとこれも点で表示されるみたい》
20メートル…確認してから仮に突進されたとしても何とか対処できる距離だ。しかも目視では分からない死角や壁の向こう側、背後でも範囲内であれば存在を判別できる。これは便利かもしれない。
ただ、透過されてるとは言え視界の端に強制的に異なる画像が差し込まれるのはモニターを至近距離で凝視しているみたいで慣れない。酔いそう。
それと。
《明かりも無いのに明るいですね、中。》
《松明とかの光源を置かなきゃいけない『リアル設定』か、なぜかいつでも明るい『ゲーム的ご都合設定』のどっちかから選べたからご都合設定にしたのヨ そこまでリアルな難易度にはしたくないからサ。》
身も蓋も無いな。
《今の所…敵の表示は無いみたいですね。ゲームの常識だとこれからどうするのですか?》
《恐らくは討伐目標としてボスが奥にいるハズだからそれを倒す。雑魚はたぶん永遠に湧くから、全部を相手にしないでとにかく進むのを第一にした方がいいかもネ。もしかしたらお宝とかもあるかも…》
《お宝?? それって誰かがここに財産を隠したという事ですか? わざわざ? こんな場所に?? 自宅の金庫じゃダメなのですか??》
敵がうろついててセキュリティーも微妙で衛生状態も良くはなさそうなのになぜこんな場所を選ぶのだろうか。異世界って分からない。
《いや、そんな事を言われましても…》
《え、しかもそれを勝手に持って行く心算ですか? 誰のかも分からないのに? 立派な犯罪じゃないですか。警察は無いっぽいので代わりに私が叩きのめしますよ?》
《本当に申し訳ございませんでした…。》
謝られた。彼が罪を犯す前に防げてよかった。
《ところで『心算』ってなんて読むんでしょうか…。しんざん?》
《つもり。》
《アザース!》
学校か。
《では気を取り直して、急な接敵に注意しながら進みましょう。》
《イエス、マム!》
いつから私は上官になったんだろう。
(次頁/23へ続く)
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