きぇぇっ!これはいったいなんの場面なのだっ!
『はあっ、はあっ、はあっ!!!』
夜道を駆け抜ける人影が1つ。呼吸は荒く、焦燥しているような息遣い。
ダッダッダッ。
その人影を追うもう1つの人影。
そちらは息は整っており、極めて冷静なように一定のリズムで呼吸を行う。
さながら、草食動物を追い詰めようとする肉食動物のように、駆け抜ける。ただし、一定の距離をとりながら。腹が空いているのでなく、純粋に狩るプロセスを楽しむかのように、獲物を物理的にも精神的にも追い詰めていく。
その手には、大きなナタを持ちながら走る。
『いやっ、いやあああああああっ!!』
獲物は混乱し、ただでさえ人通りが少ない夜道なのに、この時間に人のいなさそうな河川敷に向かい走る。
時間は午前0時15分。
今日は金曜日。
聞こえるのは秋のここち良い風に誘われて、鳴くスズムシの音色だけ。
『なんでっ、なんでっ!!私が、何をしたっていうのよぉっ!!』
ガサガサ。
草木をかき分ける獲物。パニックに陥った人間を追い詰めて、狩る瞬間は何よりも興奮する瞬間である。
バシャバシャ
『いやっ、いやあああああああああ!』
獲物は川に入っていく。対岸に逃げようとしているのだろう。知能が草食動物のそれより、低いと言わざるを得ない。獲物は腰まで水に浸かる。
よく知っている。
そこで、よく人が溺れていくのを、よく知っている。
ドボン!
『あぶ、あぶ、がはっ・・・・。』
言わんこっちゃない。
『た、助け・・・。』
大丈夫。助けてあげるよ。君に溺死は許さないから。いつも、同じパターンだから準備もしている。紐がついた浮き輪を投げ込む。
『かはっ、かはっ!』
獲物は浮き輪にしがみつく。急死に一生を得たのか、安堵しているだろうよ。紐を手繰り寄せる。
『ひっ、ひっ!!!』
想定したリアクションだな。溺死するか、狩られるか。到達する運命は同じだ。ナタを振り上げて待つ。
『いやっ、いやっいやあああああっ!』
そうちょうど足がつくくらいのところでナタを構えているのだから、浮き輪を離して川底に沈むか、このナタで頭をかち割るのを許すかの2択しかない。
さあ、命が散る瞬間を。
尊いこの儀式を執り行うことにしよう。