傾慕の騎士
私の傷は随分と良くなり、歩き回ったり子どもたちと遊んだり出来るまで回復した。
その代わりに、愛馬が怪我をしていたと聞いたときはすこぶる焦った。馬の怪我は洒落にならない。ライン家の人々は、心配させると私の傷に障ると思って、怪我のことを隠していたらしい。
「倒れていた貴女を魔獣から守っていたようです」
特に命に別状はないとのことで、まずは安心だった。するとラインは私に、取り敢えず暫くここに滞在しないかと持ちかけてきた。
だが、私はもうかなり動けるまでに回復してきたし、代わりの馬さえ見つかれば、セクントゥスだけ預けて出立してしまっても構わないと思っていた。
「留まっている訳にはいかない、今も魔獣に悩まされている民たちを無視することが出来ようか」
「いやいやいやいや貴女、傷が塞がったばかりですよね? 血も足りていないでしょうし、無理は禁物です」
医者もびっくりなスピードで回復した私だが、確かにちょっと気張ると傷が裂けそうな予感はある。しかし、何だろうか、やたら誘いがしつこい気がするのだ。
「何故だライン卿、何故そこまで私を引き止める」
「う……いや、本当のことをお話しますと」
向き直って頬を赤らめるライン。なんだその顔は。今までに見たことがない。彼の感情が分からない。何なのだそれは。
「一目惚れ……しましたもので……」
「えっ」
東の男は馬鹿正直。そういう謳い文句がある理由が何となく分かった気がする。駆け引きも何もあったものではない。
どうやら彼は、倒れていた私を抱き起こし、兜を取ってみた時から、ずっと私に恋をしていたらしい。こうして自分で冷静に取りまとめると、何か凄く恥ずかしい。
ラインは片膝をついて礼すると、精一杯声を張り上げた。
「何も、この想いを遂げさせてくれとは言いません!! ですが、レディ、何卒この未熟な騎士に一時の甘い夢を見ることをお許しください!」
要するに、もうちょいアピールの時間とチャンスくれということである。
ラインはとても善い騎士だし、普通の女子なら即オッケーだろう。だが私には使命があるから、これに付き合う義理はない、といいたいところだがないこともないっていうか助けてもらった恩があるから普通に無碍には出来ないっていうか。
逡巡していると、ここ数日で仲良くなった子どもたちがわらわら集まって囲んでくる。
「どうしたのー」
「きしさま帰っちゃうのー?」
「馬の乗りかたおしえてよ!」
「髪のしばり方おしえてー」
まあ、少しくらいなら悪くもないか。ここに留まっていたって魔獣を追い払うくらいなら出来よう。思えばずっと、戦ってばかりで人々との交流は疎かにしていた。
「まあ、そういう…………ことなら…………?」
黒髪の騎士は嬉しさのあまり泣いた。




