表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

胎児

作者: 永井 遥香

「あっ、蹴ったっ」


大きく膨らんだお腹をさすりながら、妻の(なぎ)はほほえむ。


「もうだいぶ大きくなったねぇ、生まれるのが楽しみで仕方ないよっ!」

「もうすぐでパパとママにあえるからねぇ、ふふっ」


ぼくたちは、待望の第一子を妻のお腹に授かっている。出産予定日はいまから1ヶ月後。

自分の両親もはやく孫の顔がみたいと、まだかまだかとしつこく聞いてくる。

生まれてくるのは女の子と判明して、2人で既に名前は決めてある。

千歳(ちとせ)」だ。


「ほらぁ、ちとせっ、ぱぱだぞぉ」


凪のお腹をさすりながら、お腹の中にいる娘に話しかける。


「あなたはちゃんと良いパパになれるのかしらねぇ?」


凪が笑みを浮かべながら小馬鹿にするようにいってきた。


「あたりまえですよ!一緒にたくさん遊ぶんですから!歩けるようになったらおにごっことか、かくれんぼなんかしたいなっ」

「それいいねぇ」


娘が生まれてくる日を想像しながら、ぼくたちは会話に花を咲かせていた。


凪がおかしくなったのは、たぶんこの後からだったと思う。



朝起きで寝坊なんてしたことがなかった凪が、最近になってアラームに気づく様子がない。

疲れているだろうと思い寝かせてあげる。


家事をしている時も、なんだかずっと空をみつめている。


「なぎー、大丈夫かー?」

「……」

「なぎー?」

「あっ、はい!ど、どうしたの?」

「いや、ずーっとぼんやりしてたぞ?疲れてるのか?」

「あ、ごめんなさい…、つかれてるのかなぁ?」

「休んだ方がいいんじゃないのか?

「いや!大丈夫だよ!ちょっとぼーっとしちゃってただけだとおもうから!」

「そうならいいけど…」


この時のぼくは、妊婦さんならこーゆーこともあるのかな?と言うふうに軽く考えていた。

しかし、これからなぎはどんどんおかしくなっていった。



夜、何かの音で目を覚めると、時計は2時を示している。横に寝てたはずの凪がいなくなっている。


「あれ、なぎ?なんの音だ?これ」


とりあえず音が鳴っているリビングの方へ向かう。

リビングでは、なぎが砂嵐のチャンネルを流したテレビを目を見開いて眺めて、なにがぶつぶつといっていた。

なんと言っているかまでは聞き取れなかった。


「なぎ!なにしてんだよ!」


ぼくはリビングの電気をつけ、テレビの電源を切る。

テレビを切ってもなお、なぎの様子はかわらなかった。ぼくはなぎの肩を揺すりながら言う。


「なぎ!おい!」

「あっ…、あなた」


すごく驚いた表情をしているなぎ。


「え、あたし」

「やっばおまえおかしいぞ??」


なぎはまだ状況を理解していないようだ。


この日は、自分がみた凪の行動を本人に伝え、ベッドに戻り目を閉じた。



この日のあとも、なぎの奇行はとまらなかった。

皿洗いをしていたと思ったら、一点を見つめながら、包丁を振り下ろしていた時があった。

テレビを見ていたと思ったら、膨らんだ自分のお腹をひたすら殴っている時もあった。


なぎに自分の見たことを話しても、本人は一切記憶がないらしい。


「わたし…そんなこと…」


といって泣いてばかりいた。

凪を精神科に連れて行こうとしたが、凪は絶対にいきたくないようだ。


こんな日々が続き、出産日がだんだんと近づいてきた頃。

土曜日のお昼時にテレビをみていると、凪が突然口を開いた。


「あなた、ちとせがうまれて、歩けるようになった時のために遊びの練習をしましょっ」

「遊びの練習?」

「あたしとあなたでかくれんぼしましょっ」

「ほぉ。」


2人でかくれんぼやるというのもおかしな話だが、まぁ娘のためだ。

なぎの言うことに付き合うことにした。


「私が隠れれば、ちとせも一緒にかくれてることになるからねっ」

「なるほど」


なかなか面白いことを言うものだと感心した。


「じゃあ、隠れてっ」

「ちとせー、かくれるよっ」


お腹にいる娘に話しかけるようにお腹に手を添える。

久々にはしゃいでるなぎをみて、すこし嬉しくなった。


「あっ、ちゃんと目と耳をふさいでね!」

「わかってますよぉ」


家の中という狭い範囲だからか、耳も塞ぐよう要求してくる。


「じゃあ、かぞえるよっ。いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお、ろーく、しーち、はーち、きゅーう、じゅう!さっ!なぎとちとせをみつけるぞぉ!」


家の中だから、探すところは限られている。

まずはお風呂場を探す。浴槽は蓋が閉められているが、さすがにこの中には入れないと思いお風呂場を後にした。


「さあぁ、どこかなぁ?」


わざとらしく大きな声でそう言いながら探す。

トイレの扉も開けてみるが、ここにもいない。


「なかなかみつからないなぁ」


次に寝室に入る。入る瞬間、すこし生臭さを感じたが、気にせずに中に入る。

ベットの裏に、なぎの特徴的な茶髪が目に入る。


「なぎとちとせみっけ!!」

「あちゃ~、見つかっちゃったかぁ。でもちとせはまだ見つかってないよっ」

「え?いや、だってなぎのおなかにいるんだから。」

「だから、いないんだって」


そういって、なぎはベットの裏から立ち上がる。

目を疑った。

なぎの片手には包丁が握られており、お腹は真横にぱっくりと裂けていて、大量の血が垂れていた。


「え…なぎ…?」

「ねっ、ちとせはもうお腹の中にはいなくて、どこかに隠れてるんだよっ」

「なにいってんだよ…」


ぼくは、ふとあることに気づきお風呂場に走り出す。


お風呂場の扉を勢いよくあけ、浴槽の蓋を恐る恐るあける。


「あぁぁ…」


浴槽の中には、人の形をした真っ赤な物体が転がっていた。



「あらっ、ちとせちゃん見つかっちゃったねっ」


一番怖いのは、やはり人間なのかもしれませんね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ