葵ちゃん誕生
公園のライトのを浴びるとだんだん人影は、濃くなってきた。
それと同時に怜の期待も上がっていった。その表情はまるで、初めてガチャガチャを回すような何も汚れのない少年の顔だった。
(うわー、人影が濃くなってきたぞ! 俺もついに『守護霊使い』ってやつになるのか〜。人影だから間違いなく人型か天使型もしくは神型だな。これで最強になって悪霊から人を救いまくって、ヒーローになるんだろうな〜。まぁひょっとしたら、俺の活躍が広まってモテたりしそうだなー)
怜は鼻を伸ばして、守護霊が煙から出てくるのを待った。
その姿を見た柚奈はある程度思ってることを察し、クズな男だなと思って引き気味に見ていた。
豊姫も同様こいつの守護霊にならなくてよかったと心で安堵していた。
煙がもくもくと上がっていき、少女のような可愛らしい声で、咳をする声が聞こえた。
その声に怜はまた期待が膨らみ、ワクワクしていた。
少女は咳をしながら、苦しそうに手で煙を払った。すると少女の声が聞こえてきた。
「うわー、いきなり何!? こんなことされたら、葵、お婆ちゃんみたいな声になっちゃうじゃん!?」
煙の中からは身長は柚奈と同じくらいの百六十センチメートルで、月の様な白髪は胸くらいの長さで、瞳はオッドアイで右が月のように真っ白で、左が川のような滑らかな水色だ。肌は雪のように白く、なぜか大きめのサイズの白のロンTとショートパンツを着用していた。白のロンTでショートパンツは見えない状態だ。
その姿をジロジロと柚奈が近づき、声をかけた。
「その姿は間違いなく人型ですね。翼もありませんし、神のオーラもありません」(でも気にくわないのが……私より胸が大きすぎです)
「何!? ジロジロ見て、葵そんなに変なの? 葵は普通の……、あれ? 何だっけ、葵忘れちゃってるの?」
柚奈は一人で少女よりも胸が小さいことにショックを受け、体育座りをして、わかりやすく落ち込んでいた。少女の胸のサイズは見たところEくらいに見えた。対する柚奈はBとCの間くらいで大きいとは言えなかった。
そんな柚奈の気持ちを知らず、少女は記憶がないことに気づき、パニックになっていた。
怜は怜で、強そうな女の子を想像していたが、自分よりも小柄で弱々しい守護霊が出てきて、ガッカリしていた。しかし、怜の下心は強く、ワンチャンあると思っていた。
落ち込んでいた柚奈だが少女の姿を見てまた驚いた。
「あ、あなた何で足があるんですか!?」
「知らないよー! 急にこんなところに呼ばれた葵の気持ちにもなってよー。家に帰りたいよー」
少女は座り込み、涙をボロボロと零しながら震えた。まるで迷子になった子供のようだった。
下心丸出しで口を開かなかった怜がやっと口を開いた。
「足があるのがそんな不思議なことなのか?」
「えぇ、普通は膝から足が無く、主人の足元から霊体が繋がってるのですが、私も見るのは初めてです。一度私の師匠に見てもらいましょう。あと気をつけてください。足があるってことは、自由に行動しますので、くれぐれも逃げられないようにお願いしますね」
柚奈がフラグを立てた。ふと二人とも少女の方を見ると、そこにいたはずの少女は消えていた。
焦った二人は道路側を見ると、全力疾走する少女が見えた。
二人は引ったくりにあった被害者のように全力で追いかけた。
「どういうこと!? 急に呼ばれたと思ったら足があるだなんて、人間なんだからあるに決まってるでしょ! もう早くお家に帰りたいーって私の家どこだっけ? もういいや、とりあえずどこかに! そうだ、交番だ。交番に行こう」
「おーい! 待てよー」
家を探しに少女は走っているが、よそ見をしている少女の前にいきなりトラックが走ってきた。
少女は気付かずに前に進み、ライトの光でやっと気づいた。
トラックはスピードを緩めるどころか、一定のスピードで少女目掛け走ってきた。
怜は焦り、なぜトラックは少女に気付かないんだと思った。
そして次の瞬間。そのまま少女はトラックに引かれてしまった。
その姿を見た怜は顔を青ざめて近寄った。
「マジかよ!? 大丈夫か!」
しかし、少女は怪我どころか、どこも傷はなく、ただただ立ち尽くしていた。
その様子を見て怜は安堵した。少女の手を引っ張り、コンビニに連れ戻した。
泣いている少女に対し、優しく柚奈は質問をした。
「落ち着いてください。あなたは今『幽霊』です。一度死んでおり、前々から先輩の側に守護霊としていたはずです。パニックになることは少しは警戒していましたが、とりあえず、何か覚えていることはありますか?」
「葵……、全然覚えてない! 死んだっていうこともその男の側にいたことも、でも名前は覚えている」
少女は泣きながらも震えた声で、話し出した。
柚奈は少女の隣に座り、安心させられるよう、背中をさすった。
その様子を怜はなんとも言えない顔で見守っていた。
そして少女は震えながらも頑張って名前を教えてくれた。
「名前は葵。これだけはハッキリと覚えている。でも苗字もお母さんもお父さんも全然分からない」
「そうなのですね。今日の所は葵ちゃん、先輩の家に泊まってくれませんか?」
「嫌だ! こんな下心丸出しの男の家なんて、まっぴらゴメン。せめてあなたの家がいい」
「何だよ! 下心丸出しって!? 俺も葵ちゃんのこと心配したんだぜ」
葵は怜の家に行くことをキツく拒んだ。
言われたことに怜は少しショックを受けたが、自分家に女の子が来ることは全然苦ではなかった。むしろラッキーだと思っていた。
そこで柚奈は葵にコソッと何かを話した。
葵は笑顔で頷き、了承した。
柚奈は怜に近づき、言葉をかけた。
「先輩。これからは『守護霊使い』として葵ちゃんと一緒に戦うこともあると思います。その中で注意しておくことが山ほどありますが、大事なことだけを話します。1つ目は戦う中で自分が『守護霊使い』ってことを他の人には黙ってて下さい。守護霊使いはこの日本では少なく、貴重な存在です。それが悪い人たちにバレた時、人身売買として捕まり売られてしまいます。二つ目は自身の『悪霊化』です。力を持ちすぎた為、天狗になり経済問題や復讐として普通の人間を襲っていくと、それに慣れた守護霊がどんどん悪化し、最終的には悪霊として主人を飲み込んでしまいます。3つ目は戦いにおいて、『悪霊』を助けようとは思わないで下さい。悪霊は色んな姿をしていますが、苦しみで悪霊になってしまう例もあります。そうなった場合は助けられません。その霊の為にも倒してあげて下さい。最後に、悪霊化した中でも自我が残っているやつもいます。それを『悪霊使い』といい、倒すのにはプロの守護霊使いでないと無理な時があります。私でも倒せるか微妙です。もしばったりあってしまった場合にはすぐに人がいる所か、私のところにきて下さい。これで以上です。健闘を祈ります」
柚奈は説明が終わるとコンビニを後にした。
葵と怜は気まずい雰囲気だが、とりあえず怜は夕飯がまだだったので、一緒にコンビニに入った。
気まずい怜はさっさとお弁当やジュース、お菓子をカゴの中に入れ、買い物を済ませた。
葵はどうすればいいかわからず、コンビニの入り口で、そわそわしながらプカプカ浮いていた。
会計が終わるとレジ袋を持った怜が葵に話しかけた。
「おい。買い物終わったから行くぞ」
葵はプイッと顔を背けた。
その後、怜から距離を開けて、家に帰った。