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プロローグ

 とある日本の高校生に冬風怜(ふゆかぜれい)という少年がいた。

 その少年は高校二年でサッカー部に所属していたが、数ヶ月前に右足に大怪我を負ってしまった。ところが、モテそうだなと軽い気持ちで入った怜にとってはラッキーだった。

 学校は四月に入り、高校二年目の新学期が始まった。


「はぁ〜、春休み明けの学校はだるいなぁ〜。俺にも彼女とか幼馴染がいたら毎回ぼっちで登校せずに楽しめるんだろうなぁ」


 朝の青々しい空を見上げながら、怜が呟いた。

 学校がある坂を一歩一歩重そうに登り、桜が舞い散る校舎に怜は入った。足の怪我は回復してきて、歩けるようにはなってきた。


「まっ、今日は怪我のお陰で、ダルい朝練がなかっただけマシか。いっそこのまま退部してもいいなぁ」


 怜にとって、朝練はただの作業だ。時間の無駄にしかならない。

 新しい教室に入り、怜はボサボサの青髪をかきながら、スマホを取り出しサッカーゲームをして待った。

 そんな怜の背後から足音が近づいてきた。その足音は廊下を走る音だ。


(誰だ? まぁ可愛い女の子とばったり会って、そのまま恋に……とかだったらいいけどな〜)


 変な期待をしながら待っている怜だったが、教室に入ってきたのは金髪頭をした高橋旬(たかはししゅん)だった。

 旬は怜を見つけると声をかけてきた。


「よぉー、おはよう怜! ひなとは違うクラスになっちったよ〜。まぁ二年目も同じクラスよろしくな」


 旬はひなと幼馴染だ。中学生の時に付き合っていた彼女とは別れ、高校から付き合い始めたそうだ。ちなみに旬とは1年の時も一緒のクラスだった。


「まぁそうだよな〜。安定の旬だよな……」


 怜は旬の顔を見るなり、少しガッカリした表情をして挨拶をした。

 怜の顔を見かねた旬は、思わずツッコミを入れた。


「あぁ!? なんだよ!? ガチャで爆死したような顔して? なぁ、それよりさ、新入生の可愛い女の子を集会の時に探そうぜ!」


 チャラい旬がニヤニヤしながら話した。


「おいおい、いいのか? お前には()()がいるだろう? 浮気なんかしてると()()に捨てられるぞ」


 怜は道端に捨ててあるガムを見るような呆れた顔をして話した。


「いやいや誤解だって〜、俺らの仲だろ? 独り身の怜がちょっと寂しそうだから、代わりに俺が見つけてあげようってことだよ。安心してくれ! 俺は怜の味方だよ!」


 旬は太陽のようなキラキラした瞳で怜を見つめた。

 怜も彼女が欲しいのは嘘では無いが、少し腕を組んで悩んだ。


 その結果――


「はいはい、わかったよ。お前の悪ふざけに乗ってやるよ」


 手のひらを返して、喜んでいる怜であった。

 キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴り、次々に慌てながら何人かの生徒がクラスに入ってきた。

 しかし、怜の友達は旬だけだ。その旬も友達の元に行ってしまった。

 ぼっちの怜はスマホとにらめっこをしながら担任を待った。


(はぁー、友達がいないのも以外と苦しいものだな。一瞬誰かに声をかけてみるか? いやいやそれは嫌だな。ギャンブルと一緒だ。もし失敗すると恥ずかしいし、成功したとしても変な空気になりかねない。まぁどっちにしろ俺は話しかけない。そう最高にイケメンな俺がぼっちで座っているんだ。どこか可愛い女子が話しかけてくれるはずだ。サッカーだってしているんだ。エースじゃないけど以外と役にたつはずだ。女子は全く知らないけどな。毎回エースが点決めるたびにきゃーきゃーしやがって。ディフェンスの俺にも止めた時くらいきゃーきゃーしろや! もうだんだんイライラしてきたな。もういいや新しい靴でも探そう」


 怜はブツブツ独り言を言いながらスマホをいじりだした。

 そんな怜の元に足音を立てながら誰かが近付いてきた。女子らしい苺のような甘い香りが怜の鼻を麗した。怜は思った。


(なんだ!? 女子が近付いてきた。まさかのあれか? やっぱりイケメンな俺に話しかけてくれるのか? いざとなるとどうやって話していいかわからないな。あのクソマネージャーならいつも話しているのに! クソー)


 怜が勝手に緊張していると目の前で止まった女の子が怜に話しかけた。


「あ、あの〜申し訳無いですが。そこ私の席なんですけど……?」


 茶髪のセミロングの女の子が桃色の目をキラキラさせて話してきた。

 怜はその目の輝きに、『俺にアプローチしているのか』と誤解した。しかし、席が間違っているのには変わりはない。


「あ〜ごめんね。新しいクラスだからつい間違えてしまったな」


 高校二年の春初めて女子と会話をした。緊張した怜だが、自然なフリをして立ち上がり後ろの席に移動した。


(あの子、絶対俺に気があるだろうな〜。俺も心の準備をしなくては……)


 そんなことを考えていると教室の扉がガラガラと開いた。扉を開いたのは新しい担任の先生だった。


「はーい! みんな席についてね〜」


 二十代前半の黒髪ロングの身長約170cmモデル体形の女性の先生が入ってきた。その姿にみんなザワザワしていた。怜は担任に目がいかず、ずっと前の席の女の子のことを考えていた。


(ここはやはりデートは俺から誘うべきか? それともあっちから来るのを待つか。初めはどこがいいんだ? まぁ安定に映画か、いやいや水族館もいいなぁ〜。魚の勉強が必要そうだ)


 怜が妄想を膨らましていると、担任が話し始めた。


「今日からこの二年A組の担任を持ちます影山翔子(かげやましょうこ)です。みんなとは友達みたいに接していきたいと思いまーす。楽しい1年間にしましょうね」


 笑顔で挨拶をすると拍手が湧き、次に怜たちの自己紹介が始まった。怜は意気揚々と心を躍らせた。


(きたぜ自己紹介。俺はこのタイミングで前の女の子やそれ以外の女の子もメロメロにさせてしまうのかー。困ったぜ。まぁ、とにかくイケメンの要素をわかりやすく話さねば。一年の時は……『俺はお前らとは違う! 格が違う人間だ。よろしく頼む』こんなことを言ってぼっちだったから普通に話そう)


 一年の時のトラウマを思い出し、普通に話すことにした。

 それぞれ自己紹介が始まり、前の席の女の子の番に周ってきた。


「初めまして、私の名前は浅野結衣(あさのゆい)です。部活はバレー部に所属しています。趣味は出かける事が好きです。部活が休みの日には、友達や彼氏と出かけてます。よろしくお願いしまーす」


 高くハスキーな声で、結衣の自己紹介が終わるとみんな拍手をし、結衣は着席した。

 それを聞いた怜の反応は……。


(あぁ〜、ハスキーでとても虜にさせる声だ。永遠に聴いてられるなぁ。うん!? 今彼氏って言った? 絶対言ったよね!? うわぁ、終わった……、あんな可愛い子、絶対に彼氏くらい、いただろうな。まぁいたからってアレだよな。俺がそこまで本気で狙ってたーって訳じゃないし、そもそも俺は年下好きだ。まだ一年がいる)


 結衣に彼氏がいた事が発覚した怜は、負けたボクサーのように座り込んでいた。


「はい! では次に冬風怜くん。お願いします」


 等々怜に順番が周ってきてしまった。担任は天使のような笑顔で怜を見ているがそれに比べて怜はそれどころではなく、深く落ち込んでいた。

 中々立ち上がらない怜に、クラスが騒ついた。

 怜は順番が周ってきたことに気づくと、岩を持ち上げるようにのっそり立ち上がった。


「あ……えっとー、冬風怜です。サッカーしてます。でも怪我であと数カ月は運動ができません。よろしくお願いします……」


 怜の地獄に堕ちたような表情で自己紹介が終わった。

 クラスの空気はどんより重くなり、自己紹介が終わるとみんな苦笑いをして拍手をした。

 全員自己紹介が終わり、体育館に移動になった。数人、その場の空気に耐えきれず、避難するかのように廊下に出て行った。 

 死んだ顔をしている怜の元に、何事かと心配して旬が駆け寄ってきた。


「おい! 怜。どうした? 腹でも壊したか? とりあえず屋上に行こうぜ」


 屋上はいつも怜や旬が落ち込んだ時や悩みがある時に行く場所だ。

 旬は怜の手を引っ張り、屋上に連れて行った。その姿はまるで、散歩を嫌がる犬を無理やり引っ張る飼い主のようだった。屋上に着くなり、怜は鬼の形相で叫び出した。


「うぁぁぁぁ!! 何が趣味は出かけることだよ! 彼氏!? ふざけるな。俺の気持ち考えろよ。このビッチが!」

「お、おう。どんまい。やっぱり浅野さん狙ってたんだね」


 自己中心的な恋心を怜は叫び出した。まるで負け犬の遠吠えだった。旬も死んだ魚の眼で見守った。

 それからは慰めながら体育館に向かった。体育館に着くと、一年生がいた。


「おい、旬。可愛い女の子いたら、一応俺に報告しろよな!」

「おう。やる気が違うな……。まぁ任せろ」


 切り替えが早い怜に旬はただただ、呆れるだけだった。

 怜は集会が始まる前にキョロキョロと可愛い女の子を探すが、気になる女の子は見つからず、集会が始まった。

 前に話の長い薄らハゲの校長が立ち、話し始めた。


(あぁ話なげー)


 みんな話が終わるのを工夫して待った。スマホをいじったり、友達と話したり、中には体育館の上のバレーボールを数えて待ったり、色々だ。

 しかし怜は違かった。目を凝らし、自分好みの可愛い女の子を探していた。

 まるでの幻の宝を探す冒険家のようだった。


(うーん。あれはダメだな。四十点。もっと顔のパーツが整って欲しい。デブは論外だ。もっと胸は大きく、スタイルがいい女子はいないものなのかね。クソー! 早く彼女作ってぼっち卒業したいんだけどなー。はぁ)


 怜が集中して探したが、中々見つからず校長の話も終わってしまった。その後は新入生挨拶や担任発表が終わり、集会が終わった。

 一斉に教室に戻る際、怜の前をある少女が横切った。その少女は灰色ボブで、今にも吸い込まれそうな真っ白な眼で、プルンと艶が輝くピンク色の唇をしていた。

 怜は一瞬の出来事に驚き、追いかけようとした時にはもうその少女は消えてしまっていた。それでも怜は妖精を追いかけるように、体育館を走って出た。


(あれ!? あの女の子はどこだ。ここまで出れば見つかるはずなんだけどなー。にしてもめちゃくちゃ可愛いかったな。絶対アイツに話しかけるぞ!)


 どこか心の中でスイッチが入り、燃えていた。いきなり飛び出した怜を追って旬がきた。


「いきなり、どうしたんだ? 可愛い女の子でもいたのか?」

「いいや。あれは妖精なのかもしれないなぁ」

「はぁ!?」


 怜は本当のことを言わなかった。本当のことを言ったら旬にも狙われる危険があったからである。

 その後ホームルームを終え、旬は部活へ、怜は下校した。


「あぁ〜終わった終わった。今日は午前中に終わったから最高だなー。帰ったらとりあえず、途中だったゲームでもやろうっと」


 怜は帰ってからすることを考え、スキップしながら帰った。まるで小学生と同じだった。

 自宅に着き、鍵を開け、中に入った。怜の家には誰もいなかった。小学生の時に母親を亡くし、今まで父親と一緒に生活をしてきた。父の仕事は忙しく、いつも海外を飛び回っていた。なので怜は毎回出前や弁当を一人で食べていた。お金は毎月父が振り込んでくれる為、何不自由なかった。

 そんな生活に慣れてきた怜は二階に上がり、ベットにダイブして、スマホを見た。


「はぁ〜明日は雨か……傘忘れないようにしよっと。とりあえずゲームでもするか」


 怜はベットから降り、テレビをつけてゲームを始めた。

 ゲームに夢中になり、そのまま数時間没頭した。気がつくと怜は眠っていたようだ。目が覚めスマホを見ると午前一時だった。


「あぁ〜寝た寝た。腹減ったなー。明日っていうか今日学校休もっかなー。とりあえず近くのコンビニに飯でも買いに行くか」


 怜は財布を持ち、鍵を閉め家を出た。

 夜道を歩きながら、夜空を見上げ美しい月に怜は心を癒された。怜は月が好きだった。その理由は“見たくないもの”を見ないで済むからだ。

 そう、怜は霊感が強いのだ。しかし、小さい頃からいろんなものを見てきたので、少しは気にならないが、成る可くは見たくないようだ。

 ふと怜は電柱の方を見てしまい、何かと目があった。怜は視線をずらし、進んだ。そう怜は“見たくないもの”を見てしまったのだ。しかし、今日は様子がおかしい。その“見たくないもの”がどんどん怜に近づいてきた。

 怜は走った。走って走って逃げた。歯を食いしばり、心臓が締め付けられるように痛かった。足の怪我など今更考えられなかった。ふと後ろを確認すると、誰もいなかった。安心し、息をつき前を向いた。


「うあぁぁぁぁ!」


 怜はそれを見ると恐怖のあまり悲鳴をあげた。

 その正体は『幽霊』だった。幽霊の姿は上半身はサラリーマンの姿をしており、顔は真っ青で白目を向いていたが、下半身が蜘蛛のようになっていた。幽霊は怜に襲いかかってきた。口から糸を吐き、怜を喰らおうとしていた。

 怜は精一杯走り、逃げた。


「マジかよ! この幽霊、俺を喰おうとしているのか!? なんで!? どうしてだよ。今まで見てきた奴らはそんなことしてこなかったのに……。とりあえず助けを! いや、ダメだ。助けなんか来ない。来るはずがない。こんなやつ誰が退治できるんだ?」


 怜が諦めかけたその時、月の中から誰かが飛んできた。

 目を凝らしよく見るとあの少女だった。集会で怜の前を横切った一年生の少女だった。

 少女は何かを口ずさみながら数珠を右手に巻いた。すると水がその幽霊を囲んだ。水は荒れ、幽霊に襲いかかった。その流れは美しく、月を移す鏡のようだった。少女は刀を抜き、勢いよく振り下げ幽霊を斬った。

 真っ二つに斬られた幽霊は煤になり消え去っていった。

 これが怜と柚奈の初めての出会いだった。

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