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第5話 襲い来る大蛇!毒蜘蛛!

 アマゾン! 見渡す限りの大自然! ザウェストとじれじれ太郎は依頼主である粗探文乃の命を受けてこの地へと降り立った!


挿絵(By みてみん)



「よし、早速“なろう作家は読者をバカにしているのか?”について探っていくぞ! アマゾンには危険がいっぱいだ、心してかかるぞ!」


「……」


「どうした、じれちゃん。元気がないな?」


「僕の200万円……」


「諦めろよ、騙されちゃったもんは仕方ないぜ」


「どうしてあの時もっと真剣に止めてくれなかったんですか!? 隊長ぉ~~~!!!」


「どうせ止めても聞かないだろ。俺はやめとけって言ったはずだぞ?」


「羽交い絞めにしてでも止めるべき場面だったでしょう~~~~~!!!!」


「うるせぇ! 200万如きでグダグダ言うな! ほらよ!」


 おもむろに懐から封筒を取り出すザウェスト。分厚く膨らんだ封筒の中身をチラリとじれじれ太郎に見せる。


「今回のお前の報酬だ。あまりに不憫だから先に渡しておくよ。250枚くらい入ってるからさ」


「!!!!!!!!!!!!!!!! 隊長!!!!!! 一生あなた様についていきます!!!!!!!!!」


 なお、封筒の中に入っているのはこども銀行券である。じれじれ太郎は知能が低い!


「よし、じゃあ早速、熱帯雨林に突撃取材だ。とにかくジャングルには危険な生き物が多いからな。充分に注意するように」


 ちなみに何故アマゾンへやってきたのかについては明言を避けよう。聡明な読者諸氏、それぞれがそれぞれの正解を見つけてもらいたい為である。決して理由を考えてないからという訳ではない。


「っと、早速現れたな! 頭上に気を付けろ、じれちゃん!」


「な、何スか!? どわぁ!!! 大蛇!!!」


 そこには巨大などす黒い体色をした蛇がいた!


「あの黒光りしたわかりにくい体色は間違いない、ダクファン・パイソンだ!」


「ダクファン・パイソン?」


「なろうアマゾンにおける地雷の一つだ。わかりにくくて暗いだけの話を“ダーク・ファンタジー”という言葉でさも高尚なものであるかのように擬態するのが得意技の危険な毒蛇だ。この種は意識がかなり高いから下手に刺激するとすぐに噛み付いてくる。そーっと横を通り過ぎるんだ」


 シュコー! シュコー!


挿絵(By みてみん)


 ダクファン・パイソンは炯々と光る目で二人を見詰めている。


「隊長、何か蛇が小声で喋ってますよ」


 じれじれ太郎は耳を澄ませる。


「シュコー!


例えば世界の僅かばかりのひずみが生じたところで、

例えば世界の僅かばかりの人間が消えたところで、

例えば世界の僅かばかりの良心が埋没したところで、

例えば世界の僅かばかりの瀟洒が廃れたところで、

例えば世界そのものが僅かばかり傾いたところで、


どれほどの人間がそれに気付くであろうか


流麗で研ぎ澄まされたメトロポリスの街下で、

猥雑で押し込められたスラム街で、

素朴で切り離された田舎の集落で、

荘厳で閉ざされた山中で、

衛生で排他的な研究所で、

不遜で悪衆的な軍隊で、

無用で生産性の無いパーソナリティの檻の内で、


どれだけの人間がそれに気付くであろうか


一遍の不合理であれ、一端の不調和にしろ、一節の不調律さえ、一刻の不一致にすら、

一部の不得手にしかり、一滴の不謹慎にも、一時の不道徳でも、一概の不快感としても、


詰まるところ、流動のダイナミクスの中では微細のズレに過ぎない


行けば流され

行かずも組み込まれ

従えば搾取

逆らえば陵辱

進めば混沌

戻れば破綻


中庸に漂う間にのみ、わずかばかりの安息ありき


だから何も変わらない

だから何も動かない

誰も気付かない

誰も気付けない


そこにあるものは認識の中で単なる「あってあるもの」に過ぎない


シュコー!」


「イカン! ダクファンあるあるの一つ、謎ポエムだ! 耳を傾けるな! 脳神経を焼き切られるぞ!」


「なんだか脳がふわふわしてきた……気持ちのいいポエム……はわわぁ」


「ダメだ、ダクファン・パイソンの術中にハマッちまった! このままじれじれ太郎が創作の暗黒面に堕ちてしまえば、謎ポエムはおろか、読者は全く興味がないにも関わらず詳細なキャラ紹介や世界観の説明をプロローグの前に何話にも渡って掲載しかねんぞ! 仕方がない、荒療治だ!」


 ドゴォン!


 ザウェストはじれじれ太郎を殴り倒して、ぐったりした彼を担いでその場を離れた。ダクファン・パイソン……何という危険生物であろうか。


「はぁ~、はぁ~、危なかったっス! 危うく登場キャラクターの名前をみんなドイツ語から引用するところでしたっス!」


「ああ、間一髪だったな。日本が舞台の現実恋愛でドイツ人ばかり出てきた日にゃあ、ブラバ程度じゃ済まされない。最悪、魔女狩りに遭うかもしれないからな」


「ふぅ……登場キャラの名前を無駄にわかりにくいものにするのは悪手っスからね。パッと見で読めない長ったらしい名前はブラバ案件っスね」


「その通りだ。ダクファン・パイソンはなろうアマゾンの中でもまぁまぁの生息数を誇る。しかも声がデカい個体が多いから関わらないのがベストだ。幸いなことに連中は群れで行動する習性があるから、こちらから積極的に手を出さない限りそんなに被害を受けることは無いが……」


 このように、なろうアマゾンには危険生物がたくさん生息しているのである。


「……っ! じれちゃん! ケツのところに毒蜘蛛がいるぞ!」


「え? ぎゃあー! 噛まれた!!!」


「マズいぞ! そいつはブンガクセイ・タランチュラだ!!!」


 タラン! ブンガクセイ・タラーン!


挿絵(By みてみん)


 危険な毒蜘蛛は邪悪な呪詛を吐きながら迫ってくる!


「ダメだ! このままではじれじれ太郎が“作家たるもの”とか“小説とはかくあるべし”みたいなしょーもない幻想を抱いて地の文をクソ重くしてしまうぞ!? 純文学ジャンルのみに生息しているはずのこの毒蜘蛛がどうしてこんな場所に!?」


「うぅ……苦しい……隊長……助けて……一話あたりの会話率が高すぎる気がしてきました……もっと地の文を加筆して……セリフを減らして……キャラクターの一挙手一投足に至るまで緻密に描写……」


「クソッ、脳に毒素が回り始めている!」


「美しいタイトル……そうだ、タイトルを変更……『熱毒』……このタイトルにしよう……燃える恋を病魔になぞらえた意味深で味わいのある短文……ぐひひっ」


「くっ! そうか、分かったぞ! 何故ブンガクセイ・タランチュラがこんな地にまで出没し始めているのか! 純文学ジャンルのランキングが最近、“本物の実力者”達によって占められているからだ。純文学から書籍化を果たす作者も出てきて、これまでは中途半端な実力でイキっていたタランチュラ達が純文学ジャンルから弾かれてしまったんだ! チクショウ……行き場を失った毒蜘蛛の怨嗟の念なんかに負けてたまるか! こうなったら荒療治だ!」


 ドゴォン!


 ザウェストはじれじれ太郎を殴り倒して、ぐったりした彼を担いでその場を離れた。ブンガクセイ・タランチュラ……何という危険生物であろうか。


「はぁ~、はぁ~、危なかったっス! 危うく三島由紀夫クラスの文豪になるところだったっス!」


「いや、それは無いから安心しろよ」


「ふぅ……危うくカフカ並みの文書を書いちゃうところだったっスねぇ……」


「“カフカ”って言うかお前はただの“不可”だろ」


「あ、それうまい事言ったとか思ってます? 読解力高そう(笑)」


「……」


挿絵(By みてみん)


 ドゴォン!


「ぶらばっ!」


 じれじれ太郎は吹っ飛んでアマゾン川に落っこちた!


「ギャー! ピラニア! カンディル! ワニー!!!」


「そこでクラムボンの気持ちでも考えとけ!」

ちなみにダクファン・パイソンの謎ポエムは実際に僕が高校生の頃に書いていた本格SFアクションの冒頭の内容です。

作者自身も意味がさっぱりわからない正真正銘の謎ポエムですね(白目)。

かれこれ20年は前の話になるのか……懐かしいなぁ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ポエムの文字数の多さに想いを感じると思ったら、確かに魂込めた一作品だったのですね…… [一言] なるほど、どっちもかなりの猛毒をもった危険生物ですね() タランにがぶがぶされた人、純文学ジ…
[良い点] アマゾンには危険生物がいっぱい(●´∀`●)でも、毒蛇にしろタランチュラにしろ、ネーミングと話の持っていきかたがお見事です。読ませますねぇ。 [一言] ポエム素敵です(^^)詩ジャンルで…
[一言] ξ˚⊿˚)ξ <なんてこった! ぎゃてーさんのせいでブンガクセイタランチュラが野に放たれていたとは! ξ≧▽≦)ξ
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