第3話 ワタクシ、テンプレを使って適当に書いたらランキング1位が取れるようなサイトで何か書こうという気が起こりませんザマスわ!
「なるほど……“なろう作家は読者をバカにしているのか?”。深いテーマですね。なろうで活動する者なら誰しもが考えねばならないテーマの一つでしょう」
ザウェストは深く頷いた。
「ザマス。ワタクシ、最近のなろう作家の態度が気に入らないザマス。どれもこれも似たり寄ったり、何か流行ればバカの一つ覚えで丸パクリ、壊滅的な文章力、テンプレめいたキャラクター、中身モロバレの長文タイトル、もう読まなくても駄作だとわかりますわザマス!」
「もはやその解答自体がなろう毒者のテンプレだなぁ……。結局、あなた自身はランキング上位作品はほとんど読まれないということでよろしいですね?」
「ええ、ワタクシ、ミュート機能の達人ですのでザコ作者はみんなミュートにしておりますわ!」
「まぁ、ミュート機能は読者の権利として積極的に行使するのはいいと思いますよ。どんな作品を読むのも自由ですし」
「けれど、最近は本当に良作がスコップ出来ませんの……」
文乃は憂いを帯びた表情になった。
「どうしてこんなにもなろう作家は同じような作品ばかり書き上げてしまうのでしょう……? ワタクシ、なろう小説界の未来が心配でなりませんわザマス」
「うーん、困りましたね。あなたはご自身で何か書かれたことは?」
「ありませんわザマス」
「では試しに書いてみてはどうです? 実際になろうで作品を書いてみたら分かることがたくさんありますよ」
「嫌ですわ、面倒くさい。ワタクシ、暇ではありませんの。それにテンプレを使って適当に書いたらランキング1位が取れるようなサイトで何か書こうという気が起こりませんザマスわ!」
「……」
「どうやらあなたはなろう作家達が実際にはどれだけ努力しているかご存知ないようだ。コイツを御覧なさい」
「……え?」
ザウェストは隣に座っているじれじれ太郎を指差した。会話に飽きてしまってスマホで小説を書いている!
「ぐふふ……ここでまさかのヒロインNTR展開はさすがの読者もビックリするだろうなぁ。更に絶望した主人公がTSして寝取った男と駆け落ちするどんでん返しも予想がつかねぇだろう、ぐひょひょ!」
「キモッ……」
「どうですか、文乃さん。こうやって作者はみんな、読者にいかにして喜んでもらうかというのを常に考え努力しているものなのです。そしてウェブでたくさんの読者に読まれる為には、それ専用のやり方がある。作者というのはみんな、承認欲求の塊です。そりゃ誰だって、頑張って書いた作品なんだから読まれたいと思うでしょう? だから読まれる為のものを書くし、読んでくれる読者に媚びもしますよね。いちいち文句を言ってくる層の意見に耳を傾けずとも、自作を楽しんでくれる読者だけを見て書いていれば十分ポイントも稼げるのです。読者の数は膨大ですから。クレーマーなんて数%もいませんよ。連中は声が大きいからたくさんいるように見えるだけです」
「にょほほっ、まさかヒロインの巨乳がパットで作られた偽物だとは諸葛孔明でも見抜けますまい。どぶふぉっ、このパイ揉みシーンはウケるぞよぉ~」
「……」
ドゴォン!
「ぎにゅうっ~!」
じれじれ太郎が吹っ飛んで壁に大穴を開けた!
「バカヤロウ! 巨乳を途中で貧乳に変えるな! おっぱいは大きいか小さいか、はっきりしろ!!! 読者を惑わせるな!!! それと、パイ揉みシーンはなろうではR-18だ! よく言われる“少年誌程度の微エロ”すらなろうでは引っ掛かるということを胸に刻んでおけ!!!」
「ぶらばっ! わかり申した……」
「いいか、なろうは広告収入のみで運営しているサイトだ。そして広告配信元のグーグルアドセンスは審査がかなり厳しいことで知られている。“子供と一緒に見ても問題ないコンテンツ”という基準に抵触する内容は一切掲載できないとよくよく覚えておくといい。何故なろうがこれだけエロに厳しいかというと、要するにレーティングが海外基準だからだ。その代わり、エロで勝負したい時は姉妹サイトである“ノクターン”“ムーンライト”“ミッドナイト”を使うといい。思う存分性癖をぶつけることが出来るぞ!」
ここでザウェストはコーヒーで舌を湿らせた。
「ところで、じれじれ太郎、お前の小説、少しは読まれるようになったのか?」
「は、はい。隊長のアドバイス通りに、“中身を端的に表した長文タイトル”“わかりやすいあらすじ”“一話から主人公を登場させる”“毎回主人公が何かしら褒められる”を忠実に守った結果、それまでは一日平均して100PVも無かったのが、何とか一日1000PVくらいまではもらえるようになりましたぁ!」
「ふっ、進歩したじゃねぇか。どれ、ちょっと読ませてみろよ」
「はい!」
ザウェストはじれじれ太郎の小説『その日、平凡な高校生だった僕に恋のキューピットが舞い降りてきたあの日』改め、『クッッッッッソ生意気なメスガキ幼馴染が、自分では気が付かなかったが隠れイケメンだった俺が髪を切った途端告白してきたけどウケるwww俺は高嶺の花の生徒会長と付き合うんでご愁傷様www』を読み始めた。
「なるほど、展開が速いし文章もだいぶ読み易くなったな。で、一日に何回更新してるんだ?」
「連載初日に五話、それからは毎日三話ずつっス。一話あたりの文字数もそれまでの5000字から一気に減らして1000字くらいにしたっス」
「それでいい。だがこの内容ならもう少し伸ばせそうな気がするがな。って……お前、この、バカヤロウ!」
突如、ザウェストの怒号が響いた!
「うわっ! 何スかそんな急に大声出して!?」
「何なんだよ、この投稿時間は!?」
目次ページを見ると、どの回も投稿時間が、
0:00
7:00
12:00
16:00……
といった感じできっちり00分に投稿されていたのである。
「お前まさか禁断の……“予約投稿”を使っているな!?」
「えっ、予約投稿ってダメなんスか!?」
「当たり前だ! 予約投稿はデータの処理順が一番早い! トップページに表示されている時間が手動投稿と比べて遥かに短い、もしくは全く無くなっちまうだろうが! 要するに読者の目につかないってことだ! 予約投稿ってのは十分な数の固定客を掴んでいる大物作者の為のコマンドだ! これからまさにランキングで上を目指そうとするワナビが気軽に使っていい方法じゃないんだぜ!」
「そ、そんなっ!? でも投稿時間の末尾が00分になってるのが気持ちいいじゃないスか!?」
「お前は予約投稿のせいでかなりの新規読者をロスしている。この内容なら俺の見立てでは少なくとも一日5000PVくらいは出せるはずだ。それに、だ」
「ま、まだ何かあるんスか!?」
「投稿時間が悪い! どうしてことごとく深夜なんだ! 毎日三話更新はいい。だが何故それが1時、2時、3時なんだよ!?」
「だって深夜が一番執筆捗るじゃないっスか! それにせっかくなら書きたてアツアツの作品を読者に届けたいってのが作者の心情でしょ!」
ドゴォン!
「ぶらばっ!」
「お前はなろうを甘く見ている! そんなんじゃ更なる高みは目指せないぞ! 投稿時間というのは本当に大切な要素だ。まず、お前は自作の読者層をきっちりと想定しているのか? そして想定した読者層に対し最も刺さる時間を考えているか? 現実恋愛、さらにこの内容であれば恐らくターゲットは10代~20代前半までの若い男性だろう。ならばどの時間に投稿するのが適切か、言ってみろ?」
「ぐぬぬ……学校や仕事が終わる、夕方くらいっスか?」
「そうだ。だがそれだけでは不十分だ。通勤通学の隙間時間に読まれることを考慮し、朝の7時や8時も狙い目だ。いいか、新連載を始める時、初日に大量更新するのは単に作品の認知度を高める為だけではない」
「ど、どういう意味っスか?」
「新連載初日に大量更新する、その真の意味を今からお前に教えてやる。覚悟しろ!」
果たして、初日に大量更新する真の意味とは~~~~~!?
気になって夜しか寝れんぜ~~~~~~~!!!!!!!






