第2話 誤字報告は大変ザマス!
今回も美麗な絵が新たに載っているッッッ!!!
神絵師様にマジ感謝ッッッ!!!!!!!
ザウェストとじれじれ太郎は依頼主と会う為、都内某所にあるカフェーへやって来ていた。年代物のシャンデリア。やや暗い店内。ふかふかのソファ。“純喫茶”という言葉がしっくり来るこの店は、コーヒー通であり密かにコーヒーインストラクターの資格持ちでもあるザウェストのお気に入りであった。
店の名は、“サロン・ド・ホラー”という。
「やはりここはいつも閑散としていていいっスね」
「落ち着いてる、と言えよ。まぁホラージャンルはなろうの中でも過疎ジャンル四天王の一角を成すくらいだからな」
ちなみになろう過疎ジャンル四天王とは……ホラー、童話、詩、その他の4つである。これらは日刊ランキング1位の作品ですら50ポイントにも満たない事が多い、なろう屈指の不遇ジャンル達なのだ!
「俺はホラー好きだからね、この落ち着いた店内で本格派のホラーを嗜むのがいいんだ」
「それはそうと隊長、待ち合わせまで少し時間があるっスね。コーヒーでも飲みましょうよ、せっかく来たんですから」
「そうだな、この店のブレンドは俺のオススメだ。ウェイトレスさん、注文いいですか?」
手早くオリジナルブレンドを注文すると、カウンターの奥でマスターが豆を挽き始めた。
「オラァ!」
ドゴォン!
「オラァ!」
ドゴォン!
拳で豆を粗挽きにし、焙煎するマスター。この店のブレンドはコロンビアとブラジルが中心。挽き目はやや粗く、深煎りでじっくりと旨みと香りを引き出し、ハンドドリップで一杯ずつ丁寧に濾してゆく。こういった手間暇をかけられるのが過疎ジャンルの利点である。
やがてコーヒーが運ばれてきた。ザウェストはまずカップを持ち上げて鼻を近づけ、鼻腔を香気で満たし、至福の表情をする。それからそっと唇をカップにつけ、ずずっと一口めを含んだ。
「うぅーん、このニッチな香りがたまらないな。サイコホラーの血飛沫のニュアンス、容赦ないグロ描写のまったり感、そして極限状態の人間心理を鮮やかに描き出す舌触り……さすがはサロン・ド・ホラーのオリジナルブレンドだ」
「言ってることがめちゃくちゃっスね。読解力高そう(笑)」
っとそこで、カランとカウベルが鳴ってチャラチャラした若者クラスターが入店してきた。
「うぃ~、喉乾いたぜぇ」
「うぃ~、ねぇねぇ店員さん、この店で一番おいしいヤツ、ちょうだいね」
「うぃ~、マジダリぃ、通勤通学の隙間時間にダラダラ読めてそれなりに面白いヤツ無ぇのかよ~」
「お客様、お待たせ致しました。当店の謹製、“ホラーコメディ・ブレンド”です」
「うぃ~、読み易くて面白ぇ!」
「うぃ~、女の子がカワイイ!」
「うぃ~、ほとんどラブコメでホラー要素は申し訳程度しか無ぇけど、俺は好き~★★★★★」
「……」
「ちょ、隊長! 殴りに行っちゃダメっスよ!!」
「わ、分かってるぜ……過疎ジャンルは簡単にランキング一位が獲得できるから、遊び半分でジャンル詐欺作品に蹂躙される定めだってことくらいは……くっ!」
拳をギュラギュラと握り締め、ザウェストは耐える。
「なろうは完全実力主義の世界だからな。ムカつくけど、作品のパワーで殴り返すしかない。俺達はそういうシビアな勝負をしているんだ」
そう、たとえ露骨なジャンル詐欺作品がランキングを席巻しようとも、作者たるもの、己が実力でもってねじ伏せるしか道は無いのである。まかり間違ってもエッセイで文句を垂れ流すことなかれ。それは一時的な慰めにはなるかもしれない。だが結局現状を変える一手になりはしないのだ。
「うぃ~、もっとホラーコメディを寄越せ~★★★★★」
「うぃ~、なんか暗くて読むのがダリぃ本格ホラーなんかいらねぇ~」
「うぃ~、うぃ~」
「……」
ドゴォン!
ザウェストは拳で若者クラスターを退店させる!
「あー、コーヒー旨ぇ!」
そうこうしているうちに、依頼主との待ち合わせの時間がやってきた。
「すみませんザマス!」
つかつかとテーブルに近寄ってきた妙齢の女性。美しいプラチナブロンドの髪。透明度の高い青い瞳。
「おや……あなたがもしかして今回の」
「そうザマス。依頼主ザマス」
一礼し、その美女は楚々としてソファに腰掛けた。
「俺はザウェスト探検隊の隊長、人呼んで完全無欠のイケメン、Kei.ThaWestです」
「誰もそんな呼び方してないっスけどね」
ドゴォン!
「ぶらばっ!」
裏拳が顔面にヒットして滂沱滂沱と鼻血を流すじれじれ太郎!
「うふふっ、血気盛んザマスわね。ワタクシも自己紹介致しましょうザマス。ワタクシ、粗探文乃と申しますザマス。趣味は誤字報告。多い時は一日に1000件ほど、誤字報告をして作者の皆様の文章をより美しくする手助けをしているザマスわよ」
「ほほぅ、誤字報告ですか」
「左様ザマス。最近のなろう作家はまともな日本語すら書けないクズばかりザマスわ。文頭の一字下げ、三点リーダ、ダーシの使い方も知らないザコが腐るほどいらっしゃいますザマスわね。正しい日本語を使わない創作など、チラシの裏にでも書いてろザマス」
「なるほど……まぁ確かに言わんとすることはよく分かりますよ。激戦区とされるハイファンや恋愛ジャンルにおいても、ランキング1位になる作品ですら、それらのルールを守っていないケースはあります」
「そうザマしょう? ワタクシ、読者をバカにしている作者が許せませんことザマスよ! 本当に読まれる価値のある良作が、こんな基本的ルールすら守れないような低俗なゴミに埋もれてしまっている現状はおかしいと思いませんこと?」
バンバン!
文乃がテーブルを叩く。
「思いませんこと!?」
「うーん、困りましたね。なろうは誰でも自由に創作が出来る場のはず。たとえば、アニメ化されるような人気作品を読んで感銘を受け、自分も創作してみたいと思った初心者さんが書き始めたばかりの作品であれば、文法がおかしくても仕方ない側面はあるのでは?」
「最初は誰しもビギナーザマス。でも、だったらワタクシの指摘を受けた時点ですぐに誤字を修正するべきザマしょう? ワタクシ、寝る間も惜しんでザコ作者様の為を思って誤字報告を送っているんザマスよ?」
「あのですね、誤字報告を受けて修正するかどうかは作者の裁量次第なんですよ。そもそも連載にかかりっきりで他に手が回らない場合もあるでしょう」
「そういう態度が読者をナメてるというんザマス! 読者なくして作者なし! 公の場に作品を出す以上、作者は高い品質のものを提供する義務があるザマス!」
「いやぁ……義務なんか無いでしょう? だって、無料で書いてるんですよ?」
「タダだったら何でもしていいザマスか? じゃあ無料だからといってスーパーの刺身しょうゆやワサビのパックを全部持って帰っても許されるんザマスか!?」
「たとえ話が的を射てなさ過ぎて草」
「屁理屈言わないで欲しいザマス! ワタクシは自分の時間を潰してまでクソザコナメクジ作者の為に、変な言い回しの文章を改稿したり、セリフがおかしい部分は修正したり、性的搾取される巨乳のキャラクターを貧乳にしたりしてますことザマスわよ!!?」
「……」
「……今、何て言った? 巨乳を……貧乳に、だとっ!?」
「そうザマス。世間一般ではそんなに巨乳の女性はいないザマス。創作においてもよりリアリティを追及するなら、不自然な巨乳はギルティザマスわ!」
ドゴォン!
「ギャー!」
鉄拳制裁が炸裂! ザウェストは巨乳にうるさかった!!!
「てめぇのその安っぽい“リアリティ”とやらで、他人の夢を踏みにじるな! いいか、エンタメというのは夢の集合体なんだよ。だから都合のいい展開でも、設定に粗があっても、唐突なハーレムでも、イケメンに深い理由なく好かれても、全部許されるんだ。読者が楽しいと感じてくれたなら、オールOKな世界なんだよ! くだらない自論の押し付け、エゴが前面に出た誤字報告、そんなもんスパムメールと変わらねぇ!」
「ヒエッ!」
文乃はしめやかに失禁!
「……という訳で今回の依頼について話を窺いましょうか」
みんなも誤字報告は、節度を守って送ろうぜ!
でも作者は基本的に自分の誤字に気が付かないので、明らかおかしいところとかは積極的に報告して構わないぜ!