第1話 ギュラギュラと光り散らかした太陽がアスファルティに照り抜く!!!
驚天動地の新連載!!!!!!!!
しかも美麗なイラストがついてくる!!!!!!!!!
ここは都内の85階建てタワマンの一室。素晴らしい眺望を誇るその部屋には種々のトレーニングマシーンが置かれている。
「シュッ! シュッ!」
リズミカルな呼気を発しながら天井からぶら下がったサンドバックを叩き、蹴る男が一人。我らが主役、Kei.ThaWest探検隊の隊長、ザウェストその人である。
「シュッ! 今日もいい天気だなぁ! シュッ!」
身長184センチ、体重74キロ、年収7億円、イケメン。これが彼のスペックである。どうだ、羨ましいだろう? なお実際の作者はおぎやはぎ似の底辺労働イケメンである。
「コンコン」
ふいに部屋のドアがノックされた。
「誰だい?」
ザウェストは蹴り足を宙に残したまま、問いかける。
「隊長~! 新しい依頼です~!」
やってきたのはザウェスト探検隊のメンバーの一人、小間使いのじれじれ太郎だった。
「よぅ、じれちゃん。元気そうだな。新しい依頼って、今度はどこだい? バミューダ海域? エリア51? 恐山?」
「アマゾンですよぉ」
「お、いいじゃん。冒険って感じがするね。シュッ!」
「そんな事より聞いてくださいよ、隊長~! 僕の書いた恋愛小説が全くウケないんですよお、ふえぇ」
じれじれ太郎はそう言うといきなりその場に泣き崩れてしまった。
「おいおい、じれちゃん。どうしたってんだよ」
「なろうの現実恋愛ジャンルに投稿した僕の新作が全く評価されなくて早くも投稿1週間にして心が折れそうなんですぅ! このままだと冒険に行けません(泣」
「チッ! 何を弱気になってるんだよ。ちょっと俺に読ませてみろよ。アドバイスしてやるからさ」
「隊長! ありがとうございます! これです、『その日、平凡な高校生だった僕に恋のキューピットが舞い降りてきたあの日』っていう作品です!」
タイトルを言いながらスマホを差し出してくるじれじれ太郎。その名の通り彼は恋愛ジャンルにおいて“じれじれ”要素を推した作品を得意としていた。
「既にタイトルからして地雷臭が凄いなお前……どれどれ」
眉間に深く皺を刻みながらザウェストはじれじれ太郎の作品を読み始めた。
「ふむふむ……」
そして微妙な表情をした。
「隊長~! 何なんですかその半笑いの顔は!?」
「お前なぁ、自分で冒頭の一文を読み上げてみろよ」
「えっ!? はい、わかりました。丸二日間くらいかけてじっくり考えた、川端康成もトンネル抜けたら崖崩れ起こすレベルの名文ですよ。耳くそかっぽじってよく聞いてきてくださいね! “ギュラギュラと光り散らかした太陽がアスファルティに照り抜いた” どうですぅ?」
「……」
「隊長~! 何なんスかぁ!? その顔は!?」
「……お前なぁ。ギュラギュラって何よ?」
「いや、太陽が凄く照ってる擬音語ですけど?」
「ギラギラ、ではなく?」
「よりエモくしてみました」
「“光り散らかす”とか、“照り抜く”ってのは?」
「んも~! 作者にいちいち説明させるんスかぁ!? なろう読者の読解力の低下が酷い! エッセイ書いちゃいますよ?」
「……」
「もう聞くのもめんどくさくなってきた。まぁいいや、一応最後まで確認しとこうか。アスファルティって、何?」
「アスファルトのことっスよ! ビスコッティみたいな小気味よくクリスピーな表現にすることでこれから先に起こる楽しい恋愛模様を暗示しているっスよ! 読解力、鍛えてくださいね隊長!」
ドゴォ!
腹に前蹴り喰らったじれじれ太郎が壁際まで吹っ飛んでいった。
「お前なぁ……こんなもん冒頭からブラバ案件じゃねーか!」
「ぶらばっ!」
盛大に吐血したじれじれ太郎がよろめきながら起き上ってきた。
「ぶ、文学性っスよ。クラムボン的な……」
「ど素人が意味不明な造語を安易に使うなよ。ウェブ小説は読み易さ至上主義だぞ。わけわからん言葉は無し。基本的に一般名詞、普通の言い回し、小学生や中学生でも読める文章で、一文は短く、かつ一話あたりも出来るだけ少なめの分量で、隙間時間にサクッと読めるように書け」
「ぐぬぬ……読み応えは!? 深い読了感や感動は置き去りでいいんスか!?」
「御託は読まれてから言えよ!」
「で、でもこの前、読者から感想もらったっスよ!」
「ほぅ……でも、小説情報ページには感想0件ってなってるけど?」
「もらった感想を速攻で削除したっス! 暴言書かれてたんで!」
「あーよくあるヤツか。作者の人格否定とか、人気作品の感想欄ではしょっちゅう見るな。このところランキング上位の作品では感想欄を閉じている物が多いが、あれだけ頻繁に酷い感想を書かれるのならそりゃ閉じて当たり前って感じだな。単なる憂さ晴らしで作者を攻撃するモラル無き読者は許せん。でも、お前くらいの底辺作家でも暴言って飛んでくるんだな」
「底辺!? その言い方酷くないっスかぁ~!? 報告しますよ!? ひなちゃんに!」
「おいおい、俺は何もお前を個人攻撃したいわけじゃないぜ? 一般的に“ブックマーク100件”という目標をクリアしていない作者の事を、“底辺作家”と呼ぶんだ。でもあくまで便宜上、というだけで作者自身が自分の事を底辺だなんて思う必要はないぞ。作者としていつも高い意識を持っていたものだな」
「そう、それっス! 高い意識、僕は持ってるんで暴言は削除! 感想欄をクリーンにしておくのも作者の努めっスから!」
「で、何て書かれてたんだよ?」
「えーっと、確か……“基本的な文法がめちゃくちゃなのでまずはしっかりとご自身の文章を推敲してから投稿された方が良いかと。あとタイトルがさすがに酷過ぎるのですぐに変更した方がいいです。あらすじ部分の【書籍化作家すらひれ伏す圧倒的文学表現】というのは誇大広告もいいとこなので消してください。イライラします。本文も改行が全くされてないので目が滑る上、意味不明な単語の羅列で読むに堪えません。読者に対して不親切過ぎるので何とかしてください”みたいなのがつらつらと……」
「……」
「んも~! その顔やめてくださいよぉ~!」
「お前なぁ、それは暴言じゃなくて親切な指摘だろ! 全部その通り過ぎるよ!」
「いやいや、そもそも文学というのはそう簡単に読み解けないからこそ味わいがあるものじゃないんですか!?」
「なら一般公募にでも応募せぇ!」
「ヒエッ!」
じれじれ太郎はおしっこ漏らして縮み上がった。
「ウェブ小説で高度な文学性なんて必要とされてないんだよ。いや、いいぜ別に、文学をやったってさ。そこは自由だから。けどみんなに読まれたいなら、せめて読まれる努力はしろよ。読者の読解力がどうこう言う前に、お前のその文章は本当に読み易いのか、読まれる価値があるのか、よく考えてみろよ。面白い作品なんか他にいくらでもある今の状況で、敢えてお前のその作品を読みたいと読者に思わせる努力をしたのか?」
「ぐぬぬ……」
「分かったか?」
「分かり……ましたぁ(泣」
「分かったならいい。じゃあ早速、今回の依頼について聞かせてもらおうじゃないか」
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不定期連載ッッッ!!!!!!!!!!