#9 侵入
俺達は、大型船を探す。
が、考えてみりゃあ、大型船なんてものはそう滅多に出会えるものじゃない。今まで何度もこの航路を行き来しちゃいるが、1000メートル級ならともかく、3000メートルを超える船には滅多に出会ったことがない。
もしかして俺達は、めちゃくちゃ困難なことに手を出したんじゃあるまいか?俺がそう疑ったその日に、運のいいことに、どでかい大型船を捉える。
そいつは全長10キロをゆうに超える、文句なしの大型船。多分、ここらでは最大級の民間船ではないか。こんな大きな船、俺達の地球414周辺でもほとんど見たことがねえ。とにかく、今まで出会ったことのない大きな船であることは間違いない。
その大型の船への入港を試みる。
「こちら地球188船籍の商船、識別ナンバー2855432。交易品受領のため、入港したい。入港許可願います。」
『交易商船アルパイン号より識別ナンバー2855432の商船へ。入港許可、了承。第33番ドックへ入港されたし。』
「了解、33番ドックへ入港する。」
これは連合も連盟もそうだが、識別ナンバーの他に、船から別の識別コードが送信される。この2つの組み合わせが適切かどうかを、コンピューターで割り出す。そのアルゴリズムは、連合と連盟でそれぞれ異なる。
だが、この船が偽装コードを使っているとはバレなかった。最初の難関を、あっさりと通過する。どうやら、こちらがつかんでいるアルゴリズムからの変更はまだ行われていないようだ。
「ビーコン捕捉、進路修正、左0.5!」
「両舷前進最微速!33番ドックまで、あと700!」
全長10キロの大型船のドックが、徐々に近づいてくる。いや、こっちが近づいているのだが、敵陣営の船に乗り込むという緊張感が、こちらの感覚を狂わせる。まるで捕らえられるために向かってるような、そんな感覚が俺を襲う。
ガガーンという繋留ロックとの結合音が、船橋内に響き渡る。とうとう捕まっちまった……いや、別に捕まったわけじゃねえが、これで俺達は、簡単に逃げられなくなったとも言える。
通路が接続され、船のハッチが開けられる。曲がりくねったフレキシブルパイプの先は、俺達にとってはいわば敵地。俺はグレースとクレメンテ、オレガリオの3人を伴い、その敵地に足を踏み入れる。
「ようこそ、アルパイン号へ。」
通路の先の小部屋には、2人の人物が立っている。にこやかな顔で迎え入れる彼らに違和感を覚えつつも、俺は挨拶する。
「このモレストロ号の船長、マカリオです。今日は積荷の引き取りのため参りました。」
「ご苦労様です。では、身分証の提示をお願いします。」
ここで俺は一瞬、焦る。なんだここは、身分証なんてものをチェックするのか?そんな話、聞いてないぞ。どうやらこの2人は、検査官のようだ。丁寧に出迎えたかと思いきや、俺たちをチェックするために待ち構えていたのか。
一応、偽の身分証は持っている。が、適当に作った代物、機械に通されれば当然、偽物だとバレる。だが、ここで引くわけにも行くまい。俺はその偽の身分証を提示する。それを受け取る検査官。そしてグレース、クレメンテ、オレガリオの身分証も受け取り、それを一つづつチェックする。
「あの、グレースさん、でしたっけ?」
その検査官が、何かに引っかかったようだ。だが、俺ではなく、グレースに問いかける。
「なんでしょう?」
「いえ、あなただけ地球733出身なのですか?」
「そうです、交易業者である父の手伝いのため、ここにきたんです。」
「ああ、そうなのですか。」
そう言いつつもその検査官は、グレースの身分証を手元の端末に通す。
グレースの身分証だけは本物だ。こればかりは偽装している暇も、必要もない。正真正銘のこちら側の人間であるグレースの身分証がチェックされると、その結果を見た検査官が口を開く。
「ああ、ほんとですね。交易業者の方でしたね。失礼しました。」
そういうとその検査官は、グレースに身分証を返却する。そしてそのまま俺達の身分証も各々に手渡される。そしてもう一人の検査官が、奥のゲートを開ける。
……なんだここは、本当にザルだな。一瞬、焦ったが、まさか全員のチェックをしないとは。それにしても、グレースだけがたまたま別の地球の出身で、しかもそれが本物だったのが幸いだった。俺の身分証をチェックされていたら、確実にここで捕まっていたな。
そして俺達4人はゲートを抜けると、そこで今度は所持品のチェックを受ける。もちろん、銃なんて持っちゃいない。そんなものを持ち込んだら、1発でアウトだ。チェックを終えるともう一つのゲートを抜け、エレベーターに差し掛かる。他に行き場がない。だが、この船の構造がどうなっているのか、全く分かっていない。
連盟側の船なら、繋留ドックの下には貨物スペースが配置されている。そこで荷物を受領し、荷物を乗せることになっている。
侵入したのはいいが、これからどうするんだ?荷物を奪って、トンズラする。それが基本だが、そもそもこんな厳重な船から一体、どうやって荷物を奪うと言うんだ?ともかく、エレベーターに乗り込もう。俺達はまず下の階へ向かい、この船を探索することにした。
エレベーターを下る。扉が開くと、そこには警備員らしき男が立っていた。男の左右には、通路が続いている。
さて、どっちに行ったものか……俺はまず、右に向かうことにした。3人を引き連れて右へ曲がろうとすると、警備員が呼び止める。
「おい!」
……なんだ、何かまずいことをしたのか?俺は尋ねる。
「な、なんでしょうか?」
「お前達、何しにきた?」
もしかして、何かを勘繰られたか?まだ積荷にすら辿り着いていないと言うのに、ここでゲームセットを迎えるというのか?
「はい、荷物の受け取りに来たのですが……」
「ここは、荷物の受け取り場所じゃない!まさか……」
まずい、やはり気づかれたのか?しかしなんだこの警備員は、妙に鋭いやつ、さっきの検査官とは違う。俺達に緊張が走る。クレメンテがその警備員との格闘に備え、拳を構える。
が、その警備員から、意外な一言が飛び出した。
「……お前ら、この船に来るのは初めてなんだな?」
「は?」
「なんだ、違うのか?」
「い、いえ、初めてですよ。だから、迷ってしまって……」
「やはりか!全く、だからこんなところで降りてきたんだな!ここは船内スタッフ専用の階だ、交易商人は入れない場所だ!」
「そ、そうでしたか。それはすいませんで……」
「この船は、地球188船籍で最も大きな船だからな。こういう船に来る時には、ちゃんと下調べしておくもんだ。仕方がない、俺が教えてやる。」
なんだ、俺達を不審に思ったわけじゃないのか。しかもこの男、親切にもこの周辺の施設について事細かに教えてくれる。
積荷のある倉庫は、この2つ上の階にあるのだという。そして一つ上の階には交易商人用の端末が並んでおり、そこで積荷を検索できるらしい。そこで受領する荷物のありかを調べて、引き取りに行く。
しかもこの男は、さらに重要なことを口走った。その検索端末のあるスペースのさらに奥に、船舶検索用端末が置かれているという。その話にオレガリオの目が光る。
実はドロテオから、可能ならば交易船の情報をありったけ引き出せないかと言われていた。その情報を保存し、持ち帰るのがオレガリオの役割だ。最近、連合が新たな識別アルゴリズムに切り替えようとしているんじゃないかという噂が流れている。それを確認するために、できるだけ多くの船舶コードを入手したいと考えている。
その情報を引き出せる場所を、この男はあっさりと俺達に話してくれたというわけだ。
俺はその警備員に頭を下げて礼を言う。考えてもみれば、船内スタッフしかこない階の警備員だから、暇だったのだろう。ぶっきらぼうな態度のわりに、親切なやつだった。まさか相手が海賊だとも知らず、ペラペラと話してくれたものだ。
そして俺達は再びエレベーターに乗り込み、上の階へ行く。そこで俺はオレガリオに言う。
「オレガリオ、お前、上の階に着いたらすぐに船舶検索端末に向かえ。俺達が向かうまで、そこで得られるだけの識別コードを入手しろ。いいな。」
「へい。」
そう言い終えると同時に、扉が開く。今度は広い場所に出る。あの警備員の言う通り、そこには端末類がいくつも並んでおり、そこで数人の交易商人らしき人々が何かを調べている。
で、手筈通り、オレガリオはその奥にある船舶検索用の端末のスペースへと向かう。それを見届けた後、俺はふと振り返る。
その瞬間、俺は焦る。
俺の横にいたはずのグレースが、いない。大急ぎで俺は、あたりを見回す。
グレースはすぐに見つかる。が、グレースのやつ、エレベーター横に立っている警備員に話しかけている。それを見た俺とクレメンテに、戦慄が走る。
あいつまさか、ここで俺達をあの警備員に売るつもりか?そっと接近し、グレースと警備員の会話に聞き耳を立てる。
「……へえ、そうなんだ。ありがとう。」
「いえ、こちらとしても困っていたんですよ。わざわざありがとうございます。」
……なんだ、俺達を売り渡すというわりには、妙な会話をしている。しかもグレースは警備員から俺達の元に戻ってくる。そして検索端末の方を指さす。俺とクレメンテは、グレースの後を追う。
「……何をしゃべってやがった。」
俺はグレースに小声で話しかける。するとグレースのやつは、こう応える。
「ああ、さっきの警備員?実はね、ここに引き取り人不明の積荷がないか、尋ねていたのよ。」
「引き取り人不明の積荷?なんだそれは?」
「これだけ大きな船だと、そういうものが結構あるのよ。誰かが置いていったきり、ずっと倉庫に眠ったままの積荷が。」
「……まさかお前、それをぶん取ろうって言うんじゃ……」
「聞き捨てならないわね、引き取るのよ。そのお荷物を。あの警備員さんに、長らく放置されている荷物の中に、私達が引き取る荷物があるらしいのよと言ったら、あの人、喜んで教えてくれたわよ。」
なんてことだ。荷物を奪うと言っても、いわば文字通りの「お荷物」を奪おうというのか。なんだか拍子抜けだな。
しかしそれなら足がつかねえ。なにせ邪魔以外の何物でもない荷物だ。むしろ引き取ってくれた方が清清するという代物だ。感謝しかされねえだろう。
だが、そんな荷物、果たして金になるのかと思っていたが……残り物には福があるというが、これがなかなかの品だった。グレースが探り当てた引き取り人不明の荷物とは、銀食器だった。おそらくはどこかの星の貴族か王族が発注した、大量の社交会用の銀食器だが、どういうわけか引き取られることなく、2年ほど放置されているらしい。
まあ、銀食器なら腐ることはねえ。金にはなるし、ありがたくいただくとするか。俺達3人は端末に向かい、その銀食器の詰め込まれた荷物の場所を調べ出す。
「いやあ、大漁ですよ!」
その後、オレガリオのところに向かうと、たくさんのコードを得て興奮気味のオレガリオがそこにいた。が、慌てて俺は奴を睨み、黙らせる。船舶検索端末の前で興奮する奴があるか。明らかに怪しいだろう。
で、そのまま4人で上の階に向かう。
エレベーターの扉が開く。そこにもお約束のように、警備員がいる。だが、俺達はここに荷物を引き取りに来ただけだ。さすがに今度ばかりは、怪しまれる要素はないだろう。俺達は、倉庫のある方に向かって歩き出す。
だが、その警備員が俺達を呼び止める。
「おい、待て!」
今度はなんだ。どう考えても、怪しい要素は何一つないはずだ。ここで呼び止められる理由が分からない。
いや……一つだけあるな。実はグレースのやつ、さっきの警備員に俺達を通報していたんじゃないか?となれば、ここに現れた瞬間に俺達を捕まえるため、あえて油断させる策に出ていたとも考えられる。
もはや、これまでか。俺はクレメンテに目で合図する。クレメンテは俺の背後で構えて、警備員に飛びつくタイミングを見計らっている。やつが飛び出すと同時に、俺はグレースを捕まえて……
そう考えていると、その警備員は後ろを指さしてこう言い出す。
「船外服は、こっちにあるぞ。まさかお前ら、その格好でエアロックに向かうつもりなのか?」
……俺達はその警備員が教えてくれた方へ向かい、4人揃ってレンタルの船外服に着替える。そしてさっきの警備員にお礼を言いながら前を通り過ぎる。そしてようやく、指定場所の倉庫にたどり着く。
扉を閉めてボタンを押すと、空気が抜け始める。ドックにあるモレストロ号へこのコンテナを運び込むため、この倉庫内の空気を抜いて外に出られるようにするためだ。確かに、船外服なしでは運べないな。
ようやくエアーが抜けて、外側の扉が開く。その向こうには3隻の船が並んでいるが、その真ん中が我がモレストロ号だ。
大きなコンテナを、倉庫の外にあるアームを使って運び出す。モレストロ号側でもこちらの荷物に気付き、ハッチを開く。そして10分ほどかけてようやく、荷物を船内に納めた。
で、あとは再び倉庫から船内に戻り、船外服を返却してあの検査官のいるゲートを通って、モレストロ号へと戻る。その間も幸い、最後まで海賊だとはバレなかった。
「繋留ロック解除!モレストロ号、発進!」
この大型船に滞在したのは、わずか2時間ほどだった。だが、それは長い長い2時間だった。まったく気が抜けない状態で過ごす2時間が、これほど長く感じるとは思わなかった。そんな時間は、たった10分でもかなり消耗する。ましてやそこは、敵地だ。
確かに今回の仕事は、収穫が多い。高価な品に、連盟側にとって貴重な情報まで手に入れた。おそらく俺達は、これまで得たことのないほど多額の報酬を得ることだろう。
だが、あそこにもう一度行けと言われたら、俺は断固断る。一生分の忍耐を使い果たしたような気がする。大型船訪問はもう、御免だ。




