#19 来世
「よし、ドロテオ、そのまま追い込め。おい、クレメンテ!」
『なんだ!』
「今だ、アンテナに向けて1発撃て!救難信号を断ち切るんだ!」
『分かった、任せろ!』
今日もまた、小型船を追いかける。今回の獲物はなかなかしぶとかったが、1時間ほどかけてどうにか捕まえた。
ここは地球188近くの星雲宙域だ。ここもだんだんと警戒する船が増えてきた。小型の船は何隻も密集して航行するようになる。これも、俺達が海賊業に精を出しすぎたせいだろう。
で、そんな中、ようやく見つけた無警戒な船を追いかけて、いつものように積荷を奪い取り、俺達は帰路に着く。だが今回は、少し様子がおかしい。というのも、軍船がすぐに追いついてきやがった。
『直ちに停船せよ!さもなくば、攻撃する!繰り返す、直ちに停船せよ!』
まさかとは思うが、さっきの船、実は俺達を誘き寄せるための囮だったのか?そう疑いたくなるほど早く、軍船が現れる。
「おい、ドロテオ。どうだ?」
「距離は35万キロ。ワームホール帯も近い。頑張れば逃げ切れるだろう。」
「そうか。まあどのみち、俺は停船などするつもりはねえがな……よし、それじゃあいつものようにずらかるとするか。おい、ベニグノ!機関いっぱいだ!全力で逃げ切るぞ!」
『アイアイサーッ!』
「ドロテオ、このまま全速前進だ!おい、ぺぺ、砲撃に備えて、レーダーのノイズを逐一報告しろ!」
「了解、船長!」
久しぶりの追いかけっこだ。4基の機関が吠える。この船橋内は、まるでディスコ会場のように重々しい音がズンズンと響く。
「ねえっ!ほんとに逃げ切れるの!?」
「分からねえ、が、今までは逃げ切ったんだ!今回も、そうするさ!」
相変わらず心配性だな、グレースは。追いかけっこは別に、これが初めてじゃねえだろう。今度だって、上手く逃げ切ってやる。
窓の外にはパァっと青白い光の筋が走る。初弾はかなりずれてやがる。おそらくは威嚇だろう。おれはぺぺに叫ぶ。
「おい、レーダーにノイズが現れたら、すぐに叫べといってるだろう!」
「す、すまねえ!」
「次が来るぞ!見張りを怠るな!」
「軍船までの距離、28万キロ!」
連合の軍船め、一気に距離を詰めてきやがったな。まあいい、いつものように30分間、逃げられればいい。そうすれば奴らは俺達を追いかけてはこられない。
「レーダーにノイズ!」
「よし、取り舵いっぱい!」
だが、2発目からはキツくなってきた。いつもよりも、距離が近い。ぺぺの合図のおかげでどうにか回避できたが、なんだか以前の時より殺意を感じる。
こいつら、最初から俺達を殺しにかかっちゃいねえか?俺の中で、そんな懸念が湧き出す。そして3発目も4発目も、ギリギリを抜けてきやがった。今度の砲撃手は、腕がいい。
くそっ、こんなところでやられてたまるか。だが、追いかけっこが始まって20分、タイムリミットまであと10分というところで、やばい1発がきた。パッと青白いビームが光ると同時に、ドーンという音と共に、船体が大きく揺れる。
「どうしたぁ!」
俺は叫ぶ。すると、セリオが応える。
「左後部のシールドの一部に、高熱反応!」
「なんだと!?やられたのか!」
「い、いや、ちょっと待ってくれ、船長!」
初めてだな、こんなことは。まさか被弾するとは。俺はイライラしながら、そしてグレースはハラハラしながら、セリオの報告を待つ。
「大丈夫、かすっただけだ!機関もセンサーも、健在!」
今ので一瞬、血圧が上がりやがった……が、それを聞いて俺は安堵する。だが、すぐにぺぺが叫ぶ。
「レーダーにノイズ!」
「くそっ!仰角10度!」
左右に逃げてばかりだから筋を読まれてるんじゃねえのか。そう思ったのか、ドロテオは進路を上向きに変える。すぐ脇に青白い光が横切る。
しかしあの軍船の砲撃手、いい腕してるな。もしかすると、クレメンテよりもいいんじゃねえのか?いやいや、俺達を殺そうとしている連中を褒めてどうする。
そんな追いかけっこが、あと10分も続く。距離はもう2万キロまで迫っていた。が、ここでやっと、あちらの船の速力が落ちる。ようやく限界時間が来た。今度も逃げ切った、そう確信した俺は叫ぶ。
「おいみんな聞け!あっちはやっと限界が来たようだ!あとは全速で、射程外まで逃げ延びれば俺達の勝ちだ!もうちょっとだ、がんばれ!」
すでに30分も追いかけっこをやってて、おそらくこちらも疲労の限界だろう。が、俺の鼓舞で勢いを盛り返したようで、船に精細さが戻る。
だが、まだ射程内だ。あちらはバンバン打ってくる。今回ほどビームがギリギリをかすめることはなかったな。だが、それももうすぐおしまいだ。
前方50万キロ先に、ワームホール帯がある。そこは小さな恒星系に繋がるワープポイントで、そこを1日かけて横断し、連盟側の支配圏である中性子星域へと抜ける。
距離は徐々に離れる。
そしてワームホール帯を目前に、やっとあの軍船の射程圏外へと抜けた。
「ふう……やっと逃げ切ったぜ。」
今回もどうにか逃げ延びることができた。まだあちらは追いかけてくるから、こちらはまだ全力運転のまま。しかし、通常運転同士の勝負なら、この海賊船が勝つ。
「ワームホール帯まで、あとどれくらいだ?」
「そうですね……あと、30万キロってところですか。」
「てことは、あと20分はかかるか……せめてこのあたりに、小惑星帯でもありゃあ、そこに隠れて……」
と、俺がぺぺにそう言いかけた時、異変が起こる。窓の外に、パッと青白い光が走る。
「せ、船長!ビームです!軍船が、撃ってきやがった!」
「なんだと!?そんな馬鹿な!軍船は、はるか後ろだぞ!」
セリオが叫ぶ。が、おかしいな、後ろの軍船は、すでに射程外だ。にもかかわらず撃ってきた。どういうことだ?まさかあいつら、30万キロを越える射程のビーム砲でも持っているのか……?
だが、それは実に簡単な理由だった。ぺぺのレーダーで、発射元が特定される。
「大変だぁ!レーダーに感!前方、ワームホール帯直前に、軍船らしき船影!」
このぺぺの報告に、船橋内の緊張は一気に高まる。ドロテオが叫ぶ。
「おい、そんなバカな!2隻の軍船が前後に構えるなんて、そんなことが……」
だがその時、俺達にその残酷な現実を思い知らせるビームの光がまた通り過ぎる。俺ははっきり見た。あれはどう見ても、前方から撃ってきている。
「おい、ドロテオ。」
「なんだ、船長。」
「このまま航路を外れて、他のワームホール帯に行くなんてこと、できるか?」
「何言ってやがる、ワームホール帯はあそこにしかねえ!あそこを潜らなきゃ、俺達は帰れねえ!」
「そうか。それじゃ、決まりだな。」
俺は船内マイクを握る。そして、こう叫ぶ。
「今度は、前方に軍船が現れた!」
この一言に船中が今、肝を冷やしただろうな。やっと逃げられたと思ったのに、もう一隻、別の軍船が現れた。こんなことは初めてだ。おそらく心臓が止まりそうな衝撃が襲っただろう。
「だが俺達は、このまま正面突破を試みる!連合の船がなんだ!俺達、海賊を舐めるな!」
まあ、空元気ってやつだ。だが、ここでネガティブなことを言ったところで、事態は好転しやしない。となれば、やれることをやるしかない。
「おい、正面突破しようっていうのか……」
「そうだ。そういう前例も、ないわけでもねえだろう。」
「まあ、あまり聞いたことはねえが、仕方ねえ……やるか!」
この老練の航海士が、やる気になった。こうなりゃあ俺達は、負ける気がしない。
また1発撃ってきた。だが、さっきの船の砲撃手と比べると、こっちのは下手くそだ。弾筋で分かる。ならばまだ、希望はある。
こうしてまた、全力運転での追いかけっこが始まった。いや、追いかけるんじゃねえ、突っ込んでるんだが。近づくに連れて、徐々にビームの狙いが良くなってきた。こっちが距離を詰めてるんだ、当然だろう。
で、ワームホール帯まで、あと10万キロというところまできた。このまま全速のまま、ワープしてやる。今回も、逃げ切ってやらあ。
が、そう思った矢先のことだ。
この船に、深刻な問題が起きた。
ビームが光ったわけでもないのに、急にモレストロ号の後部からドドーンと大きな音がする。と同時に、船体が大きく揺れる。
「な、なんだぁ?」
何が起きたのか、まったく分からねえ。だがその後に、船橋の扉をバンと開けて駆け込んで来たやつの姿を見て、俺は初めて絶望という心情を心に抱える。
それは、血だらけになったオレガリオの姿だった。
「た……大変だぁ!」
頭から血を流して叫ぶオレガリオ。俺は尋ねる。
「おいどうした、何が起きた!?」
「左機関室で、爆発発生!その衝撃で、上部の核融合炉と重力子エンジンが落下!ベニグノさんが、その下に……」
俺はこの瞬間、悟った。この船はもう、終わったと。その時、ぺぺが叫ぶ。
「レーダーにノイズ!」
「くそっ、取り舵いっぱい!」
青白いビーム光が脇をかすめる。そして、ドロテオが叫ぶ。
「おい、右機関室の出力が落ちてるぞ!おめえ、こんなところにいねえで、なんとかしてこい!」
「りょ、了解!」
ドロテオの叫び声で、血まみれのまま、オレガリオが走り去っていった。
だが、無理だな。時間の問題だ。この船のじゃじゃ馬機関は、あの男なしに操れるものじゃねえ。
実際、徐々に出力が下がり始めている。回避運動もままならねえ。速度も徐々に落ち始めた。
俺は立ち上がり、グレースの肩を持つ。
「すまねえ……今度ばかりは、無理みてえだ。お前を巻き込んじまって、本当にすまねえ。」
俺がこういうと、グレースのやつは俺に抱きついてくる。
「しょうがないわね。それじゃあ今度、生まれ変わるときは、海賊じゃない真っ当な仕事についてね。」
「えっ?あ、ああ……」
咄嗟に返すグレース。だがこいつ、変なことを言いやがる。何を言ってるんだ、生まれ返るかどうかなんて、分からねえだろう。だが、グレースは続ける。
「そして、生まれ変わった私を、早く迎えにきてちょうだい。約束よ。」
そう告げるグレースだが、こいつ自身、これから起こる裁きの瞬間が怖いのだろう。こいつの震えが、俺の身体にも伝わってくる。
こいつはいつもそうだ。覚悟と身体が伴わねえ。死ぬ覚悟があると言いながら、身体は死への恐怖ですっかり怯えてやがる。出会った時も、そして今も、だ。
「分かった、約束するぜ。すぐにお前を捕まえてやらあ。」
だが、俺はこう応える。そうだな、もし生まれ変われることがあったら、こいつをどうにかして見つけて、今度こそのんびりと暮らしてやろう。俺はそう思った。
「レーダーにノイズ!」
「だ、ダメだぁ!機関停止!舵が効かねぇ!」
船橋内に、ドロテオの断末魔が響く。そして、俺の人生の最期をもたらす光が、俺達を覆う。
目の前は、真っ白になった。
ちょっと待てよ?ふと思ったが、俺は海賊だったから、こいつに出会えたんだ。
てことはまず、海賊にならなきゃ、こいつに会えねえじゃねえか。
しょうがねえ……やっぱり俺は、生まれ変わっても、海賊になるしかねえな……
(完)




