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#14 不可解

地球(アース)188近傍の星雲を新たな活動場所とした俺達だが、そこは獲物が多い代わりに、遠い場所である分、いつもより活動できる日数が少ないのが欠点だ。


ただ、今のところはすぐに獲物が見つかる。海賊とは無縁の宙域だったせいか、警戒心が薄いためだ。だがこれも、いつまで続くか分かったものじゃない。

いずれは他の宙域並みに警戒されて、ここもやり辛くなる。小型船の密集化や、軍船によるパトロールの強化など、他では常識的に行われている様々な対策が施されるだろう。そうなれば、活動日数が伸びざるを得ない。

何か対策を打たねえと、この宙域から手を引かざるを得なくなる。その前に、俺が海賊を辞められるほどの蓄えを手に入れられればいいんだが……今のペースじゃ、当分は無理だな。


とはいえ、まだここは海賊天国。しかも、俺達以外の連中はまだここにはきちゃいねえ。となれば、()り放題だ。まるで豊富な漁場を独り占めしている気分、ただしそこには時々、人喰いザメが現れるという、危険な()り場。獲物を得たら、すぐに立ち去るのが賢明だ。


「なあ、あの船はどうだ?」

「そうだな……周りに他の船はいねえ。軍船らしき船影も、今のところねえ。この先に逃げ場となるような、ワームホール帯や小惑星(アステロイド)もねえな。」

「それじゃ、決まりだな。あれを狙おう。」


今回もあっさりと獲物が見つかった。いつまでもこの調子ならいいんだが、こういうこともあと3、4度が限度だろう。さすがにそろそろこの辺りでも、警戒を高めてくるんじゃねえか?


俺達は、狙いを定めたその獲物に徐々に接近する。いきなり襲いかかってもいいが、この先のことを考えると、あまり海賊に怖いイメージを持たれても困る。あくまでも紳士的に、優雅に、奴らの荷物だけを奪う。

距離はすでに400まで迫った。だが、まだ不審には思われていないようで、定速度で航行を続けるターゲットの船。この辺りでも海賊が出たという話はそろそろ耳にしていてもおかしくない頃だろうが、自分事としては思っていないようだ。人間なんて、自分の身に現実が降りかからない限り、そんなものだ。


もうちょっと接近することにする。速度を落とし、そのまま1時間かけてさらに200キロ接近する。が、全く反応がない。いくらなんでも、紳士的すぎたか。考えてもみりゃあ、交易船同士がこの程度接近するのは珍しいことじゃない。これじゃ普通の交易船だと思われても仕方がねえ。


急に馬鹿馬鹿しくなってきた。何をやってるんだ俺は。時間を無駄にしちまった。急に俺は我に返り、そして船橋(せんきょう)内で叫ぶ。


「あーっ、イライラしてきた!あれを全力で追っかけるぞ!なりふり構うな、一気にふん捕まえて、金目のものを掻っ攫う!」

「了解!待ってやした!」


周りもイラついてたようで、俺のこの号令で吹っ切れたように行動を始める。4組の機関が、一気に唸り出す。

たかが200キロだ、あっという間に距離を詰める。さすがにあの船もおかしいと気付いて、逃げ始めた。だが、全力運転に入った時には、俺達はその背後にいた。


「おい!停まりやがれ!さもねえと撃つぞ!」


紳士的にやろうなんて言ってたのは、どこのどいつだ……って、俺か。まあ、今となっちゃそんなことはどうでもいい。結局、最後はこうなる。俺達に紳士的なんて言葉は、似合うはずもない。


それから10分ほど追いかけっこが続くが、例の救難信号用のアンテナを狙撃するや、いつものようにおとなしくなりやがった。そして俺達はいつものようにエアーチューブをこの船のハッチに連結し、2人の手下とグレースを伴って、中に潜入する。


まあ、小型船なんてものはどれも同じで、短い通路に、壁にはいくつかの扉、その奥にはすぐに船橋が見えている。その船橋内には、乗員が集まっていた。不安げな顔で、こっちを見ている。


ちょっと変わっているのは、ここの女が乗っているということだ。まあ、女船員がいないわけじゃねえが、小型船では珍しい。少ない人数で船の操舵をこなさなきゃならねえ小型船に、あまり女が乗ることはない。が、いないわけではないな。現にグレースだって、小型の船舶に乗ってたわけだし。


「おい!見ての通り俺達は海賊だ!積んでいる荷物を洗いざらい引き渡せば、それ以上は何もしねえ!誰か荷室まで案内しやが……」


いつもの口上を述べ始めるが、ここでその女船員が叫ぶ。


「や、やめてください!」


なんだと?やめろだって?海賊に向かって略奪をやめろとか、なんて勇気のあるやつだ。グレース以来だな、こういうのは。小型船に乗った女ってのは皆、こうなのか?


「なんでえ、ぐだぐだ言うと、タダじゃおかねえぞ!」

「あの、私達、新婚なんです!」


いきなりそいつは、隣にいた男の腕を掴み、そんなことを言い出しやがった。俺は応える。


「……それが、どうしたっていうんだ?」

「結婚して、初めての航海なの!だからそんな航海を、嫌な思い出にしたくないの!」

「いや、だがな……」

「お願い!見逃してちょうだい!」


なかなかしつこい女だな。こうなったら、グレースの時みてえに船の床が汚れちまうかもしれねえが、ここらでちょっと脅してやろうか?

……と思ったが、俺は少し考えた。この先もここで海賊を続けるんなら、この手の話はあまり無碍にしない方がいい。さっきまで俺自身、言っていただろう。紳士的に、優雅に、と。


「……しょうがねえな。」


俺は応える。それを横で聞いたオレガリオが、俺に反論する。


「ちょっと、船長!何こんなところで、こんなやつに情けなんてかけてるんですか!」

「いや、確かに一生の思い出を台無しにするのはよくねえなと思ってな……」

「何を言ってるんです、船長!」

「ああーっ、ちょっと黙ってろ!」


俺はオレガリオに怒鳴り返す。そして俺は、その女船員に尋ねる。


「まあ一応、確認しておこう。お前ら、本当に夫婦なんだな?」

「は、はい、そうです。」

「じゃあ聞くが、どうやって知り合って、どこら辺が気に入って結婚したんだ?」


俺は堅気の者同士の結婚事情というものを知らねえ。知っているのは、襲った船で命を狙ってきた女と、成り行きで結婚しちまった誰かさんだけだ。だから少しこいつらに、興味がある。


「はい、見ての通りのこの小型船で私達、出会ったんです。それで、一緒に仕事をしているうちに、一生懸命仕事をするこの人の真面目なところに惹かれて……」

「ふうん、一緒に仕事をすると、惹かれあうものなのかね?」


そう自分で言いながら、ふと自身の胸に聞いてみる。そういやあ俺とグレースも、共に仕事しているうちにこういう仲になっちまったな。あながち、おかしなことは言ってねえ。


「で、男。おめえはどのあたりに惹かれたんだ?」

「えっ?あ、はい、可愛らしいんですよ、時折見せる表情がとても……そこが、惹かれたところですね。」


この男の気持ち、俺にはよく分かる。俺もそうだ、グレースが時折見せる、あの悔しげな、敗北感丸出しの表情。あれが可愛いくて仕方ねえ。


「なるほどな……確かにお前ら、本物の夫婦みてえだ。なら、しょうがねえな。」


海賊というのは、金目のものを奪ってそれを換金し、稼ぐ商売だ。だが一方で、なりふり構わず奪えばいいってものじゃねえ。実際、漁場でも、漁師は魚を取りすぎねえようにしてその漁場から獲物がいなくなるのを防いでいる。海賊だって同じだ。逆恨みされてまで、やるもんじゃねえ。

そう考えた俺は、通路を通って帰ろうと振り返る。他の2人とグレースも、渋々ながら俺の後についてくる。そして俺が船橋の出入り口に差し掛かった辺りで、見逃されて安堵したのか、その女船員が男にこう話しかける。


「よ、よかったですね、アランプール船務長!」


そのセリフを聞いたグレースが、不意に立ち止まる。そして振り返って、あの女船員の前に立つ。


「ちょっといい!?」

「えっ!?あ、はい!」

「あんた達……ここでキスして!」

「は!?」


何を思ったのかグレースのやつ、この2人にとんでもねえことを要求する。俺はグレースの肩を掴む。


「おいグレース、この新婚夫婦に、何てことさせるんだ?」

「あんた、気づかなかったの?やっぱりおかしいわよ!なんで夫婦のくせして、自分の夫のことを『船務長』呼ばわりするのよ!」


……そういえばそうだな。確かにこいつはそう言っていた。考えてみりゃあ、グレースなんて俺のことを、一度も『船長』などと呼んだことがねえ。


「いえ、ついいつもの癖で……」

「あんたの言い訳なんて聞いてないわ!夫婦何でしょう!?いいから、言われた通りにしなさい!」


詰め寄るグレース。その気迫に押されて、渋々応じる女船員。そして男の顔を両手で、手繰り寄せる。

が、ちょっと申し訳なさそうな表情で、その女は男の顔を見る。そしてその男の唇にそっと、口づけする。

だが、それを見たグレースは、女船員に向けて叫ぶ。


「ダメね、全然ダメ!」


ダメ出しをするグレース、そしてこいつは、こんなことを言い出す。


「本物の夫婦のキスってやつを、見せてやるわよ!」


おいグレースよ、今、なんて言った?本物がどうって……するとグレースは突然、俺の腕を引っ張る。呆気に取られている俺の頬を両手で掴むと、俺の口に向かってキスしてきやがった。

かなり、強烈な口づけだ。息ができねえ。だがまもなくグレースは俺から顔を離すと、女船員に言い放つ。


「これくらいじゃないと、本物とは言えないわよ。どう?あんたにできるかしら?」


それを見た女船員の顔は、すっかり真っ赤だ。そしてグレースに言い返す。


「い、いや、そういうことは堂々とできるものじゃないわ!それこそ、海賊やれるくらいの神経じゃなきゃ無理よ!」

「何言ってるの!命かかってんだから、本気でやれるでしょう!それとも何!?この男に、遠慮があるっていうの!?夫婦なのに!?」

「違う!違うけど……」


なんだか、女同士の喧嘩に発展しちまった。どうするんだ、これ。俺と2人の手下はただ、この2人の言い合いを眺めるしかない。

が、ここであの男が叫ぶ。


「やめよう、サビーナさん!」


男は、その女船員の手を握り、引き寄せる。


「で、でも船務長……」

「いくらなんでも、強引すぎだ。これ以上、抵抗するのは危険だ。だからもう、夫婦のふりをするのはやめるんだ。」


グレースの読み通りだ。やはりこの2人、偽装夫婦だったな。まんまと騙されるところだった。

だが、それを知った俺は、無性に腹が立ってきた。せっかくの俺の善意を利用しやがって。おかげで俺は、手下の前で恥をかかされた。このまま積荷だけを奪って戻るのは、どうにも癪だ。


俺は銃を取り出す。そしてその銃口を、女船員に向ける。いきなり訪れた生命の危機に、この女はへたり込む。殺しはしねえが、こうなったらこいつに相応の恥をかかせてやる。この床を、こいつの排泄物まみれにしねえと、気が済まねえ。


急に悲壮な表情に変わった女船員。今まで海賊相手にズケズケと喋ってやがったが、いざ武器を向けられると、己が置かれた立場に気付いたらしい。その表情は、グレースほどじゃねえが、いい顔だ。


だがその時だ。あの船務長ってのが、俺の前に立ちはだかる。そして、俺の顔を睨みつけてきた。

何だこいつ、銃が怖くねえのか?いや、額に汗を浮かべてやがる。しかし、眼光だけは気迫十分だ。その気迫に押されたわけじゃねえが、俺は銃を引っ込めて言う。


「……積荷を引き渡せば、それ以上は何もしねえ。誰か、さっさと案内しろ。」


それから20分ほどで、俺達はこの小型船から積荷を奪う。仕事を終えて、いつものようにチューブを切り離してその場を離れる。そして反転し、全速でこの宙域を離脱する。


やれやれ、とんでもねえやつに出会ったものだ。積荷を奪われまいと、咄嗟に思いついたアイデアなのだろう。ダメ元で仕掛けたつもりが、かえってグレースの心に火をつけちまった。危うく俺も、変な海賊伝説を作り出しところだった。


「あの2人、これで本物の夫婦になりそうね。」


食堂でボーッとコーヒーを飲んでいると、グレースが話しかけてきた。


「なぜ、そう思う?」

「銃を向けた時のあの男の顔を見たでしょう?あれは本気よ。それに、命を助けられて惚れない女はいないわ。」

「ふうん、そんなものかねえ……」


俺の隣に座って、グレースはそう語る。グレースによれば、結果的に俺達はあの2人のキューピットだったというわけだ。


ああ、それはそれで伝説になりそうな話だな。海賊に出会うと、恋が実る。そういうポジティブな噂なら大歓迎だ。そうすりゃあ、交易船がこぞって俺達に襲われたがるかもしれねえ。いや、まあ、さすがにそれはねえか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] グレースさん、海賊に染まりすぎでね? [気になる点] 私はグレース。星の海は私のふるさと。 泪を忘れた女と呼ぶ者もいるがなんとでも言うがいい。 私はグレース 永遠の星の…
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