#12 縄張り
「よし、アンテナに命中!もう一度、警告しろ!」
相変わらず、小型の船舶を襲う俺達だが、今度ばかりは、なかなか止まらねえ。往生際の悪い船だ。すでに救難信号も送れなくなったってのに、なぜ逃げようと考えるんだ?
で、その船をどうにか捕まえた。エンジントラブルを起こしたようで、動けなくなったようだ。で、乗り込んでその船の船橋に向かうと、なんとその船橋内にバリケードを築いて待ち構えていた。
「……おい、何の真似だ?」
「ここら辺に出る海賊は、容赦なく人を殺すって聞いたんだ!お前ら、我々を殺すつもりだろう!」
「は?」
何を言ってるんだ?今どき、そんな無益なことをする海賊がいるのか?俺は応える。
「俺達はそんなことしねえ。積荷さえ奪ったら、それでおしまいだ。だからさっさと荷物を渡せ!」
それを聞いたこの船の乗員らは、呆気に取られた顔をしている。
「……し、信用できねえ。俺達を殺さねえって証拠を見せてみろ!」
無いことの証明。それは普通、証明し難いことという意味で「悪魔の証明」と呼ばれている。そんなことを要求されたって、どうすりゃあいいんだ?
「おい、グレース。」
「なによ。」
「お前、あっちで人質になれ。」
「はぁ!?」
「しょうがねえだろう。手早く仕事を終わらせるためだ。」
「だったら、ぺぺさんでもレミヒオさんでもいいじゃない!なんだって私なのよ!」
「男はダメだ。人質に見せかけて、そこで暴れられるかもしれないって、逆に警戒される。別に何も起こらねえから、ちょっとの間、そっちに行くだけだ。」
「……しょうがないわね。分かったわよ。人質になればいいんでしょう。なれば。」
てことで、グレースを使って、どうにかその場を収めた。そのグレースと引き換えに1人、乗員がこちらにやってくる。俺はその乗員に荷室まで案内させ、中の荷物を運び込む。
「そうだ、おい、機関室まで案内しろ。」
「えっ……き、機関室?」
「そうだ。」
ついでに、この船の機関室へと向かう。行くと、確かにトラブルを起こしていた。俺は同行する機関担当のレミヒオに調べさせる。
「どうだ?」
「こりゃあ、核融合炉と重力子エンジンの間を繋ぐ伝達管がやられてますねぇ。機関そのものには、損傷はねえようだ。」
「直せるか?」
「そうさねぇ、うちの部品を使えば、なんとか。」
「そうか、ならすぐに取り掛かってくれ。」「了解。」
その会話を聞いていたここの乗員が、呆気に取られた顔で俺に尋ねる。
「な、直すというのか?」
「なんでえ、直して欲しくねえのか?」
「いや、そんなことはねえが……海賊が、襲った船を直すなんて、聞いたことがねえから……」
「はぁ!?トラブルを起こした船を助けるのは、当たり前のことだろうが!でなきゃお前ら、この宇宙で漂う羽目になるぞ!それでもいいのか!?」
「いや、良くはねえが……」
妙なことを言うものだ。宇宙船がこんなところで立ち往生してしまえば、帰るに帰れねえ。いずれ酸素切れになり、乗員は皆、死んじまう。
「船長、終わりやした。これで慣性装置も作動しますぜ。」
「そうか、ならそいつもついでに動かしておこう。いつまでもふわふわ浮いてるのも、あまりいい気分じゃねえからな。」
重力子エンジンのトラブルのおかげで、この船は無重力状態になっている。荷物の運び出しの時は無重力の方が好都合だったが、いつまでも無重力だと、胃液が上がってきそうだ。
「慣性装置、作動ーっ!」
レミヒオの掛け声と同時に、船内に重力を発生させる慣性装置が作動する。すると俺の身体に、ずしりと重みがかかる。
やっぱり、地に足ついてた方がいいもんだな。そう思いながら俺は船橋へと向かう。そこでは残りの乗員と、グレースの姿があった。
しかしグレースのやつ、しきりに顔を撫でているが、どうしたんだ?
「おい、グレース。どうした?」
「どうしたも何も、急に重力がかかったから、落っこちたのよ!」
「はぁ?慣性装置を作動させる時に、掛け声をかけただろうが。」
「早過ぎるのよ、動かすのが!もうちょっと待っててくれてもよかったじゃない!」
こいつ本当にグズだなぁ。他の乗員が無事なところを見ると、こいつが単にノロ過ぎたのが行けなかっただけだろうと思うがな。
「ともかく、積荷は頂いた。機関トラブルも直した。これで俺達の仕事はおしまいだ。さ、グレースを返してもらおうか?」
「あ、ああ……」
機関まで直したことが、よほど効いたようだ。すんなりグレースを引き渡すと、船長が俺に話しかけてくる。
「いや、海賊がこんなに紳士的だなんて思わなかったから……こんなことなら、もっと早く停まれば良かったな。」
「はぁ?何いってやがる。俺達はいつも紳士的だ。」
「だが以前、この辺で海賊に襲われた船があって、その船が酷いことになったと聞いてたんで、てっきり我々も殺されるんじゃないかって……」
「そんな海賊が今どきいるのか?何かの間違いじゃねえのか。」
この船長の言い草はおかしな気がするが、ともかく、海賊に対する誤解は一つ、解けたようだ。
で、船橋を出ようとすると、通路の脇に何やら箱状のものが置かれているのを見つける。何やら、取ってつけたようなそれが、気になった。
「おい、これはなんだ?」
「ああ、これか。これは救難信号用の機器だ。」
「救難信号?」
「海賊やトラブルにあったときに使うやつで、地球188の宇宙省から支給されたやつだ。」
「ふーん……」
そういえば、グレースが言っていたな。こいつが連合側の軍船に位置情報を送ってるって。言ってみればこれは、海賊にとっては忌むべき存在ってわけだ。
それを聞いた俺は、こいつが無性に欲しくなった。
「おい、これ、もらっていってもいいか?」
「へ?これをか?」
「そうだ。ダメか?」
「いや、どうせ今は使えねえから、構わねえが……」
「そうかい。じゃあ、機関の修理代ってことで、貰っといてやる。」
そういうと俺は手下に命じて、そいつを外させる。そして、船に引き揚げていった。
「両舷前進半速!」
あの船から離脱するモレストロ号。程なく、あの小型船もその場を離れる。俺達は一路、地球414へと向かう。
さて、今回も無難に仕事を終えられた。あとは中性子星域を抜け、エステポルナ港に行くだけだ。
だが、ここはまだ、連合側の支配圏。またいつぞやのように、軍船に追いかけられるかも知れねえ。さっさとずらかるに越したことはない。
しかし俺達が出会ったのは、ある意味で軍船よりも厄介なやつだった。
このモレストロ号よりも、ひとまわり大きな船が接近してくる。全長が300メートル。最初は軍船かと疑ったが、ステルス塗装を施した軍船が、こんなにはっきりとレーダーに移るわけがない。
まさかとは思うがこいつ、海賊船か?だが相手が海賊船なら、この船が海賊船であることは識別ナンバーから分かるはずだ。しかしこの接近パターンは、交易船を狙う海賊船そのものだ。猛烈な速度で、こっちに近づいてくる。そしてそいつはいきなり、ビームをぶっ放してきやがった。
「な、なんだ?」
そいつの識別ナンバーを調べると、やはり地球414出身の海賊船だった。まさかとは思うが、この船が海賊船だと気付かないのか?俺はそいつに一言、文句を言ってやろうと無線機のマイクを握る。ところが、先に通信してきたのはあちらだった。
『俺様は、ここらを縄張りにする海賊、シプリアノだ!直ちに俺様の縄張りを立ち去れ!』
いきなり警告なしに威嚇射撃をしてきた上に、縄張りだのと言いやがった。何を言い出すんだ、こいつは。
「俺はモレストロ号船長、マカリオだ。こっちも同じ海賊船だ。仲間に向かって撃ってくる奴があるか。」
『はぁ~!?仲間だぁ~!?何言ってるんだおめえ、こちとら一流海賊なんだよ!おめえみてえな三下とはわけが違うんだ!』
今どき「俺様」という言葉を使うのも気になるが、一流海賊だなどと自称する奴も珍しい。それに縄張りだぁ?海賊同士、連携することはあっても、縄張りを主張し一方を追い払うなんて、そんな海賊、聞いたことがねえ。
『そういうことだから、さっさとこの宙域から立ち去れ!さもねえとこっちのビームをぶち当てるぞ!』
気の短い船長だが、この言葉の後に、本当に撃ってきた。青白い光の筋が、窓一面をパッと明るくする。
「せ、船長……」
ぺぺのやつがビビってやがる。少し癪だが、どうせこれから帰るところだし、早めに離れた方が良さそうだ。俺はドロテオに命じて、この場を去ろうとした。
が、やっぱりちょっと、気に入らねえ……こういう性格のやつをのさばらせると、後が厄介だ。ますます増長して、今度は積荷を寄越せと言い出しかねない。同じ宙域で活動するやつなら、今後のことも考えて、きついお灸をすえておいたほうがいい。
と、その時だ。俺の脳裏に、あの方の言葉が思い浮かんだ。あの方は俺に、こう教えてくれた。「使えるものは、敵でも使え」と。
それを思い出した瞬間、俺はあるアイデアを思いついた。
「おい、ラリオ!」
「なんです、船長!」
「さっき、あの船から奪った、あれを使えるか!?」
俺は船橋の後ろに置かれたあるものを指差す。
「えっ!?あれですか!?ああ、はい、すぐに使えますが。」
「よし、そいつをすぐに繋いで作動させろ。おい、ドロテオ!」
「なんだ。」
「反転しろ!今の道を、逆戻りする!」
「はぁ!?お前、正気か!?さっきのが撃ってくるぞ!」
それを聞いたグレースが、俺に反論する。
「ちょ、ちょっと!なに挑発に乗ってんのよ!ほんと、正気なの!?」
まあ、理由もなくそんなことをするのは、やはり正気には見えねえだろうな。だが俺は、グレースに応える。
「おい、グレース。海賊船同士が追いかけっこをしていると、普通は思うか?」
「お、思わないけど……って、それがどうしたのよ?こんな時にそんなこと、聞いてるんじゃないでしょう!」
「いやあ、その応え次第で、俺の腹は決まる。」
「な、なんのこと!?」
そこで俺は、船橋内の皆にアイデアを話す。それを聞いたグレースはやはり俺を気が触れたといい、ぺぺはあっけに取られる。が、ドロテオは案の定、俺の案にのった。
「ようし、180度回頭!しかるのちに全速前進!」
「よしっ、一か八か、やってみるか……急速回頭!全速前進!」
モレストロ号がその場で反転する。そして、目一杯機関を回す。俺は無線機のマイクを握り、やつにこう言い放った。
「おい、シプリアノとかいう、威勢が良いだけの海賊よ!残念だが、ここは俺らの縄張りなんだよ!お前なんかに易々と、渡すわけにはいかねえ!」
『な、なにぃ!?』
「悔しけりゃあ、追いついてみやがれ!連合の軍船すらも追いつけなかった、モレストロ号自慢の機関に、お前のポンコツ船がついて来れるか!?」
ブチッという大きなノイズ音が聞こえて、通信が切れた。多分あれは、通信機を壊したか、マイクを引きちぎったかのどちらかだな。いずれにせよ、俺の挑発に乗ったことは間違いねえ。
現に、後ろから猛烈な速度で追いかけてくる。相当頭にきたようで、まっすぐこちらに向かってきた。だが、速度はほぼ同じ。距離200キロを保ったまま、互いに離れず追いつかず、だ。
しかし、奴らの怒りが手にとるように分かる。何せ奴ら、ビームをバンバン撃ってくる。少し蛇行気味に進んでいるから当たりそうにないが、そんなことはお構いなしに、奴らは撃つ。窓の外に、青白い光の筋が通り過ぎる。
しかし、俺も海賊業をやって3年以上になるが、海賊船から追われるのは初めてだ。いつもは追っかける側で、たまに軍船から追われることはあるが、同業者から追われる日が来るとは思わなかった。
そして距離を保ったまま、この連合側支配圏の只中で、2時間ほどの間、追いかけっこを続ける。
「……どうだ、そろそろ、何か動きはねえか?」
「いえ、まだ何も。本当に大丈夫なんでしょうかねぇ?」
「さあな、俺もグレースからの情報を頼みにやってるだけだからな。」
「何よ!私が嘘ついてるっていうの!?ていうか、こういうことをするために使うもんじゃないでしょう!」
怒ってる顔も悪くないと、最近は思い始めた。が、今はそんなグレースの顔を楽しんでいる余裕はねえ。早くなんとかならねえものか……そろそろこっちも、キツくなってきやがった。
『機関室より船橋っ!いつまでこんな運転続けるんだ!なんとかしろ!』
『砲撃室より船橋っ!なに逃げ回ってるんだ!1発で当ててやるから、いい加減あいつらを撃たせろ!』
ベニグノとクレメンテが抗議してきやがった。片や忙しすぎて、片や持て余している。両者を足して2でわりゃあ、ちょうどいいんだがな。
そう思っていると、やっと念願のものが、レーダーに映り込む。
「船長!多分、来やした!光点、急速接近中!」
それは小さな光の点だが、間違いなくあれだ。俺は命ずる。
「よし、両舷前進半速!速度を落とせ!」
それを聞いたドロテオが、俺に反論する。
「馬鹿かお前は!イカれた海賊が追いかけてきてるってのに、なんだってここで減速するんだ!」
「この船が目一杯の速度で飛んでたら、海賊船だってすぐにバレるだろうが!この先は、普通の船らしく振る舞うしかねぇ!」
渋々、俺の言葉に応じるドロテオ。減速すると当然、シプリアノの船が追いついてくる。おそらくこちらの動きを、エンジントラブルか何かと思ったのだろう。ここぞとばかりに狙い撃ちしてきた。
窓の外に、ビームの筋が見える。回避運動を続けるが、いつまで避けられるか。徐々に近くをかすめるビームに怯えながらも、俺達はその時を待つ。が、「その時」はすぐに、やってくる。
後ろの海賊船の放つビームなど、おもちゃにしか見えないほどの極太のビームが、窓の外を通り過ぎる。それを見た瞬間、俺は思わず狂喜する。そのビームが放たれた瞬間、シプリアノの船は、攻撃を止める。何が現れたのかを、あっちも察したのだろう。
そしてその直後に、民間船向けの周波数で通信が入る。
『こちらは地球188遠征艦隊所属、駆逐艦3358号艦!海賊船に警告する!直ちに停船せよ!警告に従わない場合は、撃沈する!』
するとシプリアノの船は反転し、全速で逃げ始める。当然それを、現れた軍船が追いかける。
だが、こっちを海賊だとは気づいていないようだ。グレースも言っていたが、海賊船が海賊船を追いかけているなどとは普通、思わないだろう。だからこちらの偽装コードを解析することなく、俺達は見逃された。
俺達はこの追いかけっこが始まると同時に、さっきの小型船から奪ったあの装置で、救難信号を出し続けていた。だから、この近辺にいた軍船が駆けつけてきたというわけだ。
海賊船が、この装置で救難信号を出すなんてことはあり得ない。こいつのおかげで、誰がどう見ても、連合側の民間船にしか見えない。当然あの軍船は、こちらを追っかけてきたシプリアノの船だけを追いかける。
「おい、ガビノ。あの軍船に向けて電文を打っておけ。『救援に感謝する』と。」
もちろん、この電文に返事は来なかった。あの軍船も、目一杯追いかけているはずだ。それどころじゃない。
そして俺達は反転し、悠々と航路に戻る。レーダーサイトを眺めると、ものすごい勢いで離れていく中型船の姿が映っていた。
面白くなってきたぞ。あの自称一流海賊は、まんまと逃げおおせるか、それとも捕まるか、いや、ビームで撃沈されるかもしれないなぁ。だがここまでで、すでに2時間も俺らと追いかけっこをしていた船だ。乗員の疲労も溜まってるし、そろそろ機関も支障をきたし始めるかもしれねえ。
そういやあさっき、あの小型船の連中が言っていたな。この辺りの海賊は情け容赦ない、と。もしかするとシプリアノの船が、その噂の出どころじゃないのか?大体、仲間である海賊すらも殺そうとしたくらいのやつだ。あいつならやりかねない。となれば、このままやつが消滅してくれれば、海賊の悪い噂ごと消えてくれるかもしれねえな。
さて、そんな追いかけっこをレーダーで眺めていたが、ものの10分ほどで圏外に出てしまった。この先どうなったのかは、残念ながら分からなかった。だがその後、シプリアノという名の海賊の存在は、まったく知れねえ。




