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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

美しいもの

「努力なんてものはなんの役にも立たない。魔族狩りは才能が全てなんだよ」


 父は私によくそう言った。


 本当にそうだろうか。才能がなくても努力する者の姿は美しいと私は思う。

 万人が認めるような才能に溢れた人でなければ願いを抱くことさえ許されないのだろうか。そのような人間の努力や誰かを守りたいという気持ちはなんの意味も持たないのだろうか。


「あ、いたいた。おーい」


 声を掛けられ私は意識を現実に引き戻される。屋敷の門の所に女の子が立っていてこちらに手を振っていた。


「リーシャ。ごめん、待たせた?」

「ううん、今着いた所。それじゃ予約してた店に行こっか」

 

 この子は私の幼なじみのリーシャ。私と一緒に魔族狩りの組織に所属している。

 ちょっと臆病だがとても素直で大らかな性格の持ち主だ。

 飛び抜けた才能はないもののたゆまぬ努力を続けててきちんと実力を付けている。


「でも凄いね、アリサ。最年少で隊長なんて」

「そんなことないよ。あなたも努力を続けていけば必ずなれる」

「ううん、あたしはやっぱりまだまだだよ」


 そう言って私の顔を見て笑いながらリーシャは言った。


「でも頑張ってアリサに追いつくから。そうしてみんなを守れるような人間になりたい」


 私はその言葉に気恥ずかしくなってしまう。


「やめてよ。私だってまだまだなんだから。でもそうね、一緒に……」


 頑張ろうと言おうとして私は一瞬言葉に詰まってしまった。


「頑張りましょう」


 この時はなぜか頑張ろうの言葉がすぐには出てこなかった。リーシャがどこか遠くに行ってしまいそうだったから。


「こちら本部。魔族が出現した。すでに向かって対応しているものがいるが苦戦している。至急増援に向かってくれ」


 魔族の出現を告げる魔法での通信が私とリーシャに入る。


「あちゃー、お店での食事はまた今度かー」


 リーシャが残念そうに言う。


「仕方ないわよ。ほら行きましょう」


 私はリーシャにそう声を掛け魔族討伐に向かった。




「おや、増援かな。だが残念、お仲間はこの通り」


 私を嘲笑うように魔族の親玉は言った。その足下にはリーシャの死体があった。

 魔族が出現したのは人間が住んでいる町だった。

 私とリーシャは街を襲っていた魔族を手分けして掃討していたがリーシャが魔族を統率している親玉を見つけたといい一人で追いかけて行ってしまった。

 すぐに追いかけようとしたが私の行手を阻むように魔族達が邪魔をし、その討伐に手間取ってしまった。

その結果がこれだ。


「なに安心しろ。君もすぐこいつの仲間入りだ」


 魔族の親玉が嘲笑うように私に言い放つ。父が私によく言っていた、つい先程まで楽しく話していた仲間が死んでしまうのは魔族狩りではよくあることだと。

 私もよくそれは理解していた。それでもこの魔族の言葉には吐き気がする。

 私は怒りに任せて魔族の親玉に剣で切りかかった。剣は敵を捕らえたが、まるで手応えがない。


「!?」

「ほら、こっちだ」


 後ろから声がし、短剣が私に向かって振り下ろされる。すんでの所でそれを躱し、剣を構える。


「私の能力がわかるかな?」

「幻覚系かしら」

「ご名答。君のような剣士にとって目があてにならないのは致命的。さあどう対処する?」


 魔族の親玉が何体も出現する。本物は一体だけだ。


「くくく……お前達人間が積み上げた努力も死によって一瞬で崩れさる。つくづく虚しいものだな」


 そう人間は弱い。努力を積み上げても一瞬で崩れさる。

 誰かを守りたいとかみんなの役に立ちたいといった気持ちも死んでしまっては終わりだ。けれどそれを成そうと一心に努力をする人間は美しい。

 それに才能があるとかないとかは関係ない。無駄なんかじゃない。


「さあ、どれが本物かわかるかな!?」


 魔族の親玉が号令をかけると同時に敵が一斉に襲いかかる。

 私はそのうちの一体を袈裟斬りに切り伏せた。


「ごふっ……ば、馬鹿な。なぜ分かった!?」


 魔族の親玉は血を吐きながら私に問いかける。


「なぜって?彼女があなたの能力を示していてくれたからよ」


 そう言って私はリーシャを指差す。


「な、なに!?」

「私が来た時彼女が口を動かして私にあなたの能力を伝えようとしてたのよ、声は出せなかったみたいだけどなんとか情報を読み取った」


 そう、私が来た時リーシャはまだ息があったのだ。口がかすかに動いているのに気付いた私はなんとか情報を読み取った。


「あなたの作った幻覚は実態がないんでしょ。なら後は音に気を付けてやればいい。本物は質量があるからそっちからは動きがあった時必ず音がするでしょ」

「お、おのれえ……」

「自分が嘲笑った人間の足掻きが切っ掛けで死ぬ気分はどう?それじゃ、さようなら」


 そう言って私は剣を魔族の親玉に突き刺し、とどめを刺した。私は突き刺した剣を引き抜くとリーシャの元に駆け寄った。

リーシャは既に事切れていた。


「……ツ!」


 私は救援に間に合わなかったことを悔み唇を噛む。

ふと近くの物陰から物音がした。そちらを見ると小さな子供がこちらを見つめていた。


「あなた、ここに隠れていたの?」

「う、うん。そ、そこに倒れてるお姉ちゃんにここに隠れててって言われたから」


 見るとまだ体が震えている。今にも泣き出しそうなのを必死で堪えていた。


「もう大丈夫だよ」


 そう言って私は子供を抱きしめる。


「うわあああああああん……」


 堪えるのが限界に達したのか子供は泣き出した。リーシャは確かに守ったのだ。私に言ったみんなを守れる人間になりたいという言葉を。

 私もちゃんとなれるだろうか?ううん、なりたい。いつかリーシャのようにみんなを守れる人間に。






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