第二話
「初めまして主席さん。私は一年時の主席、ランフィア・エルデ・ガルドレアよ。どうぞ宜しく」
「初めまして。俺は今年から通う事になったライル・コフィン・ヴァンピスタ。こちらこそ宜しく」
さぁ悔しい悔しい元主席さん。次はどう出るのかな?
「貴方、実技と筆記の試験はどうだったのかしら?」
「あぁ、それなら合格通知表に結果が書いてあったね。両方満点だよ」
「っ!?そ、そう…優秀なライバルが出来て私も張り合いがあるわね」
「ランフィアさんも、魔力の流れがかなり綺麗だ。才能だけでその魔力の流れは作れない。相当な努力を重ねてきたんだね」
「なっ…え、あの…ありがとう。そんな事を言われたのは初めてよ。貴方他人の魔力の流れが見えるのね」
「これも修行すれば身につくよ。今度教えようか?」
「え、えぇ…是非お願いするわ」
案外素直な奴だな。もっと突っ掛かってくるかと思ったんだが…
やはり人間というのは自分が認められる、または自分の努力が認められる事で承認欲求が満たされトゲが無くなるのか。
「お、おい…あのランフィアさんが丸め込まれたぞ⁉︎」
「というかアイツなんでランフィアさんと普通に会話出来るんだ⁉︎」
「普通学年トップの貴族様にあんな冷静にタメ口で話せねぇよ」
「しかもガルドレア侯爵家だぞ?この国でも超有名な武闘派貴族じゃねぇか」
ほう、中々優秀な家系の者だったようだ。
しかしガルドレアとはどこかで…
あぁ、確かそんな名前の奴と80年程前に共闘した事があったな。
あれは戦争だったか、魔物討伐だったか…
「貴方、私の事聞いても何も動じないのね」
俺に聞こえていたということは、当然コイツにも聞こえていたわけだ。
本人は言われている言葉に怒りでは無く寂しさを感じてるようだがな
「畏った方が良いかい?君はそういうの、嫌そうな気がしたんだけど」
「っ⁉︎…そうね、家名にだけ反応して距離を決められるのは好きじゃないわ。結果を全て才能で片付ける連中もね」
「だろうね。だからこのまま接するつもりだけど、良いかな?」
「えぇ、構わないわ。突然主席剥奪なんてどういう事かと思って難癖つけちゃったけど、貴方からは底知れない雰囲気を感じるし、突然の非礼を謝るわ」
「こちらこそ構わないよ。俺は色々な人を見て学びたくてこの学校に来たから、君とは良い関係が築けそうだ」
「ランフィア…呼び捨てでランフィアで良いわ」
「じゃあランフィア、俺の事もライルで良いから」
「えぇ、改めてこれから宜しく」
ランフィアが自分の席に戻ってから、誰も俺の下へは来なかった。
侯爵家の娘と一瞬で打ち解け実力も満点と示せば、大抵の者は萎縮するだろう。
そんな奴等に俺も用はない。俺が欲しいのはそれでも俺に関わってくる馬鹿か、怖い物知らずか、実力のある奴だけだ。
そして教師が現れ最初の授業が始まった。
最初の授業は担任が行うらしいが、この担任面接官だった奴だよな?
暗い茶髪が肩くらいまでの物腰の柔らかそうな雰囲気の教師。全体的に落ち着いていて牧師のような男だ。
…そうか2年の最初はこんな内容だったな。
流石に中級魔法程度は殆どの者が扱えるようで、今は上級魔法に至る為という内容だ。
「では何故中級と上級でこんなに難易度が違うのか。編入したばかりですがライル君、分かりますか?」
「はい。初級から中級の段階では純粋な魔力量で解決出来ます。つまり使えるだけの魔力さえ有れば初級魔法と同じ感覚で使えるのです。ですが上級魔法は魔力がいくらあっても意味は有りません。適切な道筋に魔力を流し、精密な魔力操作による魔法構築。それが上級魔法を扱うコツです。それさえ出来れば、初級魔法と同じ魔力量で上級魔法を放つ事も可能です」
「「「「……え?」」」」
あ?なんだこの生徒達の反応。
ランフィアですら唖然としているだと?
「ら、ライル君。その情報はどこで?流石に初級魔法の魔力量で上級魔法が放てるなんて、私も聞いた事がありません」
「校長先生なら知っていると思いますよ。先程お会いした際に感じた魔力の流れは、それが可能であると確信出来るほどでした」
「で、ではまだ実際に使えたわけではないんですね?」
「そういうわけでも無いですよ。俺は使えますから」
「「「「えぇ⁉︎」」」」
あ、流石にこれは言い過ぎたか。
初日はなるべく目立たずって思ってたんだが、この程度で驚かれるとは思わなかったな。
「次の実技の授業で、私も見学させてもらって良いですか?」
「勿論です。魔法の上達に必要なのは経験。見る事もまた経験です。僅かな向上の隙も見逃さない意思は流石王立の教師と感服しています」
「いやいや、褒めすぎですよ。それにもし本当なら実力も君の方が上という事になるじゃありませんか」
「俺は育ってきた環境が特殊なだけです」
まぁ楽しいから止めるつもりは無いけど。
生徒や教師の反応が面白くて自重出来るか心配になってくるが、まぁ始祖とだけバレないようにすれば後は良いか。
カトレスの胃に大ダメージを与えるだろうがな!
少し脱線した授業も通常運行に戻り、俺は窓の外を眺める。
お、今グラウンドにいるのアイリスじゃねぇか。
高校一年の最初の授業から実技とは、流石実力主義の王立だな。
今は中級魔法の復習か?
アイリスは当然上級まで使えるが、アイツの魔法はなぁ…
中々に個性的というか、見た目とのギャップというか。まぁ簡単に言えば派手なんだが。
繊細で優しくて儚げな美少女と思いきや、放つ魔法は高威力で超ド派手。
別に魔力操作が下手とかじゃないし、むしろ教師より上手いんだが、これは完全に俺の所為だな。
アイリスが小さい頃に魔法を見せてやったんだが、喜ぶと思って全部派手に使ったら、そういうもんだと認識しちまったんだ。
他の奴らが普通なんだが、アイリスからすれば「兄に比べてショボい、弱い、ダメ」と言われるレベル。
この先のお前の魔法の行方が、お兄ちゃん心配だよ。
「ライル、授業終わったわよ。何見てるの?」
「あれ?もう終わったんだ。早いね」
「早いねって貴方、授業内容全く写してないじゃない!ペンは?ノートは⁉︎」
「このくらいなら教科書みれば分かるし覚えられるから、要らないかなって」
「…あぁ、そう。爽やかに嫌味っぽく言われてるのに、嫌味に感じないのが不思議ね」
事実だからな。
誇張して言えばワザとっぽさが出てそこに人は怒りを感じるだろうが、事実を淡々と述べただけではそこまで反感は買わない。
「で、何見てたの?」
「グラウンドだよ。さっきまで一年生が実技の授業だったんだ」
「へぇ、気になる子でもいた?」
「金髪の綺麗な子、中々に魔法の練度が高いね。発動速度も申し分ない」
「…綺麗な子って所に何か言いたくなるけど、評価が真面目過ぎて何も言えないわ」
アイリスは綺麗だからな。恥ずかしげも無く言われれば変な勘ぐりも出来ないだろうさ。
「次は私達が実技よ。グラウンドに行きましょう」
自然に一緒に行く流れになってるな。
まぁ他の奴等は俺らの前じゃ萎縮するだろうし、別に群れたい訳じゃねぇから良いけど。
グラウンドに来ると、背後から強烈な視線を感じたので振り返る。
あぁ、北校舎3階って一年の教室なのな。
で、窓際で俺を凝視してる金髪の少女が一人。
言わずもがな我が妹だ。しかも態々視力強化の魔法まで使って、何をしてるんだアイツは。
「何?誰か知り合いでもいるの?」
ランフィアが寄ってきた瞬間、アイリスの視線が僅かに鋭くなったが、勘違いするな妹よ。
これは別に色恋沙汰などではない。故にここからでも分かる程のねちっこい視線はやめろ。
「あ、もしかしてあの子がさっき言ってた子?知り合いだったの?」
「いや、偶々目があっただけだよ。先輩の実技をあんなに真剣に見てるなんて、真面目な子だなぁって」
「自分の授業に集中してないなら不真面目とも言えるけど、まぁ良いわ。先生来たから行くわよ」
ランフィアに着いていき教師の前に集まる。
短い金髪に鍛えられた身体。流石王立学校、質が高い教師が何人かいるな。
説明を聞きながら別の視線を感じたが、これは校長だな?
俺が何もやらかさないように祈る気配が校長室から伝わってくる。
心配すんなって、俺だってこのくらいの歳の子供達がどの程度の実力かなんて分かってる。
「ではライル君、先程の授業で言っていたらしい『上級魔法の初級魔法魔力量での発動』を見せてくれるか?」
あ、そうかそんな事言ってたな。悪いカトレス、早速目立つぞ。
さっきの座学の教師も来てるから、奴に聞いたんだろう。
100mくらい先に試験と同じ的が作り出された。
確かに上級ならこれくらい離れた方が安全だろうな。
どの魔法にしようか。より目立つ為に派手な魔法か。分かる奴には分かる高等魔法か。
よし。校長室から見てるカトレスが、「どうか今のがかなりの高等技術だとバレませんように」とハラハラして欲しいから、高等魔法にしてやろう。
【オリジンブラッド】:模倣・闇属性・上級魔法
「【光喰らい】」
初級の魔力量で発動したから規模は小さいが、的を真っ黒な闇が覆う。
綺麗に的の形で闇が覆い尽くすと、パッと闇が消えて的も無くなっていた。
一見地味で生徒受けしない魔法だが、あの闇の中では小規模なブラックホールが発生し、包んだ物を文字通り消滅させる魔法だ。
この魔法を知っているか、結果から何が起きたのか推測出来る者には冷や汗ものだな。
「な、なんか地味だな」
「あぁ。上級って言うからもっとバーンと派手な魔法だと思ったのに」
「初級魔力じゃこんなもんなんじゃね?」
「まぁそもそも初級魔力で発動できるのが凄いから何も言えないけどな」
やはり生徒では気付かないか。
流石に詠唱すらせず上級魔法を発動した事に驚くかと思ったが、そこに視点が行かないみたいだ。
今頃校長室では冷や汗を大量に流したカトレスが胃の辺りを押さえてるだろうなぁ。
「ほ、本当に初級の魔力量で上級を…」
「この事は後で私から校長に報告しておきます。今年の主席は大物だと」
実に楽しいな高校生活!
カトレスがぎこちない笑みで俺を称える姿が目に浮かぶぞ!
「ライルって、本当に凄いのね…感じた魔力量は確かに初級程度だったのに」
「ランフィアにも出来るようになるよ。一度コツを覚えれば後は同じ事の繰り返しだから」
「ライルに教わるのが楽しみだわ」
さて、本来の実技授業に戻ったか。
また退屈な時間だな。退屈だからと学校に来たのに、大半が退屈な授業の時間とは…
早く昼の休みとか放課後にならねぇかな。
「ライル、授業は…聞いてないしやってなかったようね」
「あはは、まぁね」
「貴方には必要無いレベルかもしれないけど、一応授業なんだから真面目に聞かないとダメよ。もしかしたらほんの少しでも知らない事があるかもしれないんだから」
「ランフィアは真面目だね。じゃあ次の授業はちゃんと受けてみるよ」
「次は2年から新しく習う薬草学だから、そうした方が良いわね。場所は実験室よ」
お、実験か。それは好きだから是非真面目に受けよう。
と言っても俺の実験は変わったやつが多いからな。あまり同じように考えるのはやめた方が良さそうだ。
そう思っていた時期が俺にもあったんだ。
よく考えたら元の教材作ったの俺じゃねぇか。
じゃあ何か?設立当初のこの学校の奴等は初級ポーション程度しか作れない素材から中級ポーションを作れるようにならないと不合格ってか?
我ながら鬼畜だな。
でも今の教科書によると、前の教材は錬金と調合を学びながら魔力操作も鍛えられる画期的な内容として最初はウケたんだが、出来ない奴が多すぎて下方修正された、と。
そりゃそうなるわ。
「はい皆さんこんにちは。薬草学の授業では薬草の効果、調合の仕方を主に学んで頂きます。薬草と一言で言われていますが、中には特殊な処置をしないと猛毒となる薬草もあります。それをしっかりと学んで下さいね」
丸メガネでボサボサとまではいかないが乱れた茶髪の若い教師。
如何にもな研究者だな。
「では君達を代表して主席の…君はライルくんですね。薬草を問わず一つ好きな植物があるなら、理由も含めて教えてくれますか?」
主席ってのは良い的だな。
すぐに目について困ったときに指名出来る。
「俺は『血染めの月光花』が好きですね。昔一人の男性が愛する女性を奪われ泣き崩れる中、血を吸って咲いた月光花が女性の霊魂を見せ、最期の一時を与えたという逸話に惹かれます」
「素晴らしい!その花を知っている事も、その花の逸話を知っている事も素晴らしいです!『血染めの月光花』は名前こそ曰く付きのように思いますが、故人の魔力に反応して一時の奇跡を見せる優しく美しい花です。どこにでも咲いているわけではない為、世間では知られていませんが、まさか学生が知っていようとは!感激です!」
まぁ、自分の事だからそりゃ知ってるわな。
4,200年も前の事だが、この記憶だけは今でも鮮明に覚えてる。
俺もあの頃はまだ2,000年しか生きてなかった若造だった…
おっと、この授業は真面目に受けるって約束したからな。
しっかり聞いておかねぇと。




