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古事記 〜神々の物語〜  作者: 野月 静
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作戦会議

 アマテラスが岩屋戸に籠ったことにより、高天原も葦原の中つ国も闇に包まれた。それにより、邪神が次々と成り出て、様々な災いが起こり始める。それは、アマテラスが世の陽性と正義、平和を象徴する太陽の神であることに起因する。


 スサノヲは、姉が岩屋戸に籠ってしまったことで、ようやく自分のやってきたことがいかに罪深いかということがわかったようで、大人しく正座している。


 しかし、出来るだけ早くアマテラスに出てきてもらわなければ、この世が乱れ、取り返しのつかないことになるのは容易に想像できる。


「早急に対処する必要がありますね」


 普段からアマテラスの側に仕えていたオモヒカネは、神々を集合させることにした。近くにいた者に、声をかける。


「全ての神を天安河原(あめのやすのかわら)に集合するよう伝達を。可及的速やかに頼む」

「かしこまりました」


 別天つ神の一人であるタカミムスビの息子であるオモヒカネからの招集だ。加えて、この世に異変が起きていることは誰の目にも明らかであるから、神が八百万(やおよろず)いようとも、すぐに集まると思われる。


 オモヒカネの予想通り、天安河原が神々で埋め尽くされるのに、そう時間はかからなかった。



 訳も分からずやってきた者もそのあたりにいる者から聞いたのだろう。そこにいる者は皆、事情をある程度細かく知っているようだ。

 説明する手間が省けたのは、正直ありがたいと思いながら、オモヒカネは岩の上に立ち口を開く。


「皆に集まってもらった理由は、もう説明せずともわかるだろう」


 オモヒカネの言葉に、その場にいる神々が深く頷く。


「アマテラス様が天の岩屋戸に籠られ、世界は闇に包まれている。このままでは、我々は今までのように暮らすことなどできぬ」

「何とかして、アマテラス様に出てきていただかなくては……」


 目の前にいたアマノウズメの言葉に、オモヒカネは深く頷く。


「その通りだ。どうすればアマテラス様が出てきてくださるか、皆で考えようではないか」


 オモヒカネの言葉に、賛同の声が上がった。



 どうすれば、アマテラスは岩屋戸から出る気になるだろう。


「おいしいご飯をたくさん準備するのはいかがでしょう?」

「それで出ていらっしゃるでしょうか」

「では、いっそのこと穴を塞いでいる岩を壊しますか」

「それではアマテラス様がお怪我をするかもしれません。危険すぎます」


 皆、思いつくことを口にするがどれもピンとこないし、詰めが甘いように感じる。数十分意見交換をした後、ある神が言った。


「思ったのだが、ここにいる者の中で一番賢くていらっしゃるのはオモヒカネ様だ。我々は意見を出すより、オモヒカネ様が何か案を思いつかれた時に、即座に補佐できるように、そちらに意識を向けるべきだと思う」


 周囲が「その通りだ」と志向を放棄しだす。


 え、嘘? 何のために私が神々を招集したと……!?


 勢いよく口から出ようとしたその言葉を、オモヒカネは必死に飲み込んだ。まさか丸投げされるとは。思ってもみなかった展開にオモヒカネは驚きつつも、自分がすべきことを優先することにした。

 今は、アマテラスに岩屋戸から出てきてもらうための案を考えることが、何よりも大事である。


 オモヒカネは、今の高天原及び葦原の中つ国の現状を再び確認する。変わらず闇に包まれ、邪神は少しずつではあるが増え続けている。まずは、邪神を追い払うか。


長鳴鳥(ながなきどり)をできるだけ多く集めてくれ。一斉に鳴かせれば、今沸いている邪神を追い払うことはできだろう」

「確かに今のままでは怖くて、落ち着いて策を練ることもできませんものね」


 オモヒカネの言葉にウズメは同意し、他の神々も頷く。数十名の神が長鳴鳥を捕まえに立ち去っていく。


「あ、それなら八咫鏡(やたかがみ)を作りましょうか」


 イシコリドメの言葉にオモヒカネは軽く首を傾げる。どのように使うのか、と言いたげなオモヒカネにイシコリドメはその提案の理由を説明する。


「八咫の鏡が移るものの魂を呼び込む力があることはご存じだと思います。普段のアマテラス様を見ていればわかりますが、彼女は最高神の立場をよく理解していらっしゃいます。ですから、この様に最高神として在ることを簡単に投げ出すなど、普段ならなさらないと思うのです。もしかすると、アマテラス様は少し自暴自棄になっているのかもしれません」


 オモヒカネは、その言葉に納得した。しかし、鏡がその力を発揮するのは、当然対象となる人物が映った時である。つまり、八咫鏡にアマテラスを映す必要があるのだ。

 鏡には完全に映る必要はない。少しだけだとしても鏡に映ってくれればいい。恐らくだが、この様な状況で一気に岩屋戸を開けるとは思えない。そう考えると、八咫鏡は有効に使える気がする。


 オモヒカネがイシコリドメの案を採用すると、タヂカラヲが更に意見を出してきた。


「少しでも開けば、少々乱暴ではありますが、アマテラス様を引きずり出すことができます」


 タヂカラヲはニカッと大きな力こぶを作りながらさわやかに笑う。


 彼は八百万の神々一、力が強い神だ。正直、結解さえなければ、彼一人で岩屋戸を塞いでいる岩くらい取り払うことができるだろう。


 アマテラスに傷一つつけないという約束をしたうえで、タヂカラヲにはその役をしてもらうことにした。


 しかしこの計画を実行するには、アマテラスが自ら、最低でも彼女自身が出られるほど戸を開ける必要がある。それが一番重要なことで、しかし一番難しい問題だ。アマテラスはああ見えて頑固なところがある。ちょっとやそっとのことでは戸を開けはしないだろう。


 オモヒカネが考え込んでいると、はっと手を打ったウズメが不敵な笑みを浮かべる。


「アマテラス様って、最高神としての素質があるかたですよね」


 ウズメが何を考えてそのような顔と発言をしているのかは解らないが、彼女の言う通りではある。彼女が最高神としての強い矜持を持っていることは、オモヒカネが一番よく知っている。

 オモヒカネは、ウズメの言葉に「確かにそうですね」と返す。


 すると、ウズメはさらに笑みを深めて続けた。


「わたくしが岩屋戸の前で舞います。皆様には、盛り上げていただきたいのです」

「その考えは悪くはないが、先ほどの発言と何か関係があるのか?」


 タヂカラヲがウズメに問う。オモヒカネも、ウズメを見つめる。


「アマテラス様よりお美しく、尊い女神が誕生したといえばいいのです。その祝いの祭りをしているのだと」

「それで……出ていらっしゃったとして、彼女の怒りを買わないでしょうか」


 オモヒカネは疑問を口にする。いくら彼女に出てきてほしいからと言って、彼女の性格を利用し嘘を吐くのはどうだろうか。気分を害する可能性もあるし、彼女が怒ったらどうなるのか、知らないからこそ怖いものだ。


「それは……まあ、貴女に出てきてほしかったのです、と正直なわたくし達の気持ちをお伝えすればいいのではございませんか。流石に自分を心配する気持ちを向けられて怒り続けようなこと、彼女に限ってない……ですよね?」


 自信がなくなったのか、最終的にウズメはオモヒカネに疑問形で返した。

 オモヒカネも、聞かれたところでわからないものはわからない。どうなるだろうか、と考えてみる。しかし、やはり答えは出ないし、答えが出ないことを悩んでも仕方がない気がする。ただいたずらに時間が過ぎていくだけだ。


「……取り敢えず、今出ているものをすべて実行しましょうか」


 オモヒカネは徐々に集まってくる長鳴鳥を横目に、次々を指示を出す。


 長鳴鳥と八咫鏡の他に、八尺(やさか)勾玉(まがたま)真榊(まさかき)牡鹿(おじか)の肩甲骨を準備するように言った。


 そして、ウズメは香具山の日陰鬘(ひかげかずら)(たすき)掛けにし、真折(まさき)という鬘草(かずらぐさ)を髪飾りとし、笹の葉を束ねて手に持った。さらに、桶を一つ持ってくる。


「ウズメ、それは何に使うのですか?」


 桶を何に使うのか疑問に思ったオモヒカネは、ウズメに問うた。


「これの上に載って舞うのです。そうすれば、靴が当たるたびに音が鳴るでしょう? 軽快さや愉快さを増幅させられるかと思ったのです」

「なるほど」


 頼んだものも集まり、ウズメの準備も終わり、タヂカラヲもアマテラスからは死角になるであろう岩の側に立った。

 準備は整った。あとは、決行するのみだ。


 オモヒカネが手を挙げたのを合図に、ウズメは舞い始めた。

神々がここまで頭を悩ませるのは、明るい世のためか、純粋にアマテラスに出てきてほしいからか。

いずれにせよ、大勢に必要にされているというのは羨ましいことですね。


次は、「事の顛末」です。

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