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古事記 〜神々の物語〜  作者: 野月 静
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天の岩屋戸籠り

 穏やかで静かな時間が流れていたはずの服織屋が、突然天井から崩れた。

アマテラスは、反射できつく目を瞑り、手で頭を守るように覆った。


 バキバキという服織屋を成していた木材が折れる大きな音に混じって、服織女たちの悲鳴と――……馬の悲鳴が聞こえてきた。


 暫くしたら静かになって、アマテラスはそっと目を開けた。側に控えていた側近たちが覆いかぶさるようにアマテラスを守ってくれたようで、彼女自身はかすり傷一つ無かった。しかし、それとは対象的に、周りは散々なことになっていた。


 服織女の数人は走り逃げたようだ。仰向けに倒れている一人しか、服織女は見当たらない。


「起き上がれるかしら?」


 アマテラスは、彼女にのっかっていた板材を除けてあげる。と、


「きゃあ!」


 彼女は、彼女自身の血に塗れていた。見ると、陰部に木の棒が刺さっている。

アマテラスは、その様子に怯えながらも彼女の安否を確かめるため、肩を持って揺さぶる。


「大丈夫? ねえ、お願い、目を覚まして……!」


 彼女は、アマテラスがどんなに呼びかけても応えてはくれなかった。


 アマテラスは、頭から血が引いていき、勝手に涙が溢れでくるのを感じた。先程まで、一緒に服織をしていた彼女が、呆気なく最期を迎えてしまった。


「どうして……」


 どうして突然この様な不可解なことが起きたのだろう。そして、どうして彼女が命を落とさなければならなかったのだろう……。


 色々なことを考えて、そして落ち込んでいるアマテラスの頭上から、聞き覚えのある声が降ってくる。


「わははっ! あの慌てよう!!」


 スサノヲが、遠くへ駆けていった馬を指差しながら、大きな声で笑っている。


「ああ、姉上。脅かせてしまって、申し訳ございません」


 アマテラスの存在に気付いたスサノヲは、言葉遣いこそ丁寧だが、笑いを堪えきれないようで、口角が少し上がっている。


「スサノヲ……? 今のは、貴方がした事なのかしら? スサノヲ……貴方、いったい何をしたのですか?」


 アマテラスの声は、恐怖で震えていた。目の前で人が死んだのだ。普通でいられるわけもない。

少し涙目になって震えているアマテラスとは対照的に、スサノヲはキョトンとして平然と答えた。


「馬の皮を剥いでみたのです。どう言う反応をするのか疑問に思いまして。たまたま服織屋の上でやってしまった為に、皮を剥がれて落ちた馬がそのまま建物を壊してしまいました。姉上がいらっしゃったとは……」


 スサノヲは、近くにいた馬の皮を、尻の方から剥いだと言うのだ。


 アマテラスは眩暈がした。それは、その行動の恐ろしさの為か、弟の言っていることが理解できなかった為か、はたまたその両方の為かわからない。


 それでも、弟が恐ろしい事を平然とやった事が、何よりも怖いのもに感じた。彼は、一人の女性を殺めて、無害の馬を不要に苦しめて、しかし全く反省していない。今でも思い出してはクスクス笑っているのだ。



 そこで、アマテラスは思い出した。今までたくさん来ていた、スサノヲへの苦情を。


 スサノヲがその様な事をするはずがない。


 そう思って、今まで彼を擁護してきた。それに、それらはアマテラスが擁護したら、彼女の言霊によって事なきを得てきた。けれど、アマテラスといえど、人を生き返らせることはできない。


「今まで……」

「アマテラス様?」


 アマテラスの小さな呟きに反応して、側近の一人が彼女の側に屈む。


 アマテラスは思った。


 今まで、その都度その都度スサノヲを注意しておけば良かった。私は、彼の姉であり、何よりここ高天ヶ原を治める者なのだ。

 そうすれば、彼女は命を落とすことはなかっただろうに。あの馬も、苦しまずに済んだだろうに。


 アマテラスは布を被せられた彼女と、数名の男性に抑えられながら治療を受けている馬を見る。

 全部……


「全部わたくしが悪いのです!」


 もう、ここを統治することなどできない。

 怖い。怖い。怖い!

 どうしてお父様はわたくしに高天ヶ原の統治を任せたのでしょう。わたくしは、人々の上に立つ事は向いていません!


 アマテラスは、何もかもから逃げ出したくなった。

 少し後ろを向くと、側近達が追いかけてきているのが見えた。


 アマテラスは、さらにスピードを上げて逃げる。


 どこか……どこか隠れるところは……?


 周りを見ると人が入れるほどの洞窟があるのを見つけた。側にはそこの入り口を塞ぐことができるほどの岩がある。


 アマテラスは、洞窟に入ると、その岩で入り口を塞いだ。そして、誰も開けて中に入らない様に、内側から結界を張った。


「うっ、うっ……」


 完全に一人きりになって気が緩んだのだろうか。勝手に涙が溢れてくる。


 アマテラスは一人、思いっきり泣いた。

神とは、やはり人智を超越した存在です。

小さな洞窟とはいえ、人が通れる出入り口ですから、神々が現代の人間と同じ背丈だとすると、そこは高さが160cmほどあるでしょう。その高さがある「岩」ですから厚みもかなりあると思われます。

そのような大きな岩を、女性一人で……。

流石、神様ですね。


次は、「作戦会議」です。

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