表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
古事記 〜神々の物語〜  作者: 野月 静
2/15

別天つ神

 寂しい。淋しい。


「さびしい! そう思いませんか!?」


 どこまであるのかわからないほど、ずっとずっと向こうまで広がる世界の中に、叫び声が響いた。

 声の主は天之御中主(あめのみなかぬし)。最高神である。


 この世の中の初めなど誰にもわからない。このさびしいと叫んでいる神さえ、まだ存在していなかった時なのだから。ただ、天も地も何もわからない、混沌とした世であったことは言える。


 しかし、次第に世は天と地に分かれていく。その、高天原(たかまがはら)と呼ばれる天上の世界に先ずなりでたのが、アメノミナカヌシ。次いで高御産巣日(たかみむすび)神産巣日(かむむすび)という神が生まれた。


 一方地上でも(あし)の芽のようにウマシアシカビヒコヂと、アメノトコタチという二柱の神が萌えでた。地上は葦原(あしはら)の中つ国と呼ばれる。ちなみに、ウマシアシカビヒコヂは生物に命を吹き込む神で、人間の祖先神とされている。


 このようにこの世に誕生した五柱の神々は皆、男でも女でもない独り神であり、後に成る神とは別で、特別な天上の神という意味である「別天つ神(ことあまつかみ)」と呼ばれる。


 さて、時系列を今に戻そう。

 今は別天つ神がアメノミナカヌシによって集められている。


「このようにどこまでもどこまでも浩々と広がるこの地にいるのは、我らだけです。たった五人! 少ない! さびしい! そう思いませんか?」


 ミナカヌシに問われた神々は顔を見合わせる。「そのような事、考えたことがない」と、誰の顔をも書いてあった。


 それはそうだろう。この五柱の神にとっては、これが当たり前なのだから。ミナカヌシがズレているとしか言いようがない。しかし、これでもこの方は最高神。身分は一番高く、そのような方の言葉を無視はできまい。


 混乱する頭を軽く押さえながら、タカミムスビが口を開く。


「さびしいとおっしゃいますが……ミナカヌシ様は一体、何をなさりたいのでしょうか?」


 比較的前向きな返答、と取ったミナカヌシはにこりを笑って言った。


「神を増やすのです」


 天上だけでなく地上にも、これでもかっていうくらい神で溢れたら、楽しくなりそうだと思いませんか?

 

 ミナカヌシの中では楽し気な光景が流れているようだが、残りの神々は想像すらできない。そもそも、自分たちでさえどのように生まれたかわからないというのに、どのようにして神を生むというのか。


 ますます訳がわからなくなってきた四柱の神々をよそに、ミナカヌシはどんどんと話を進めていく。


「高天原には、気付けば我々を含めて十七の神がいます。けれど……」


 ミナカヌシが下を覗き込む。それにつられて、他の神々も下を覗く。葦原の中つ国も果てのないほど広く世界が広がっている。しかし、


「神が誰もいません」


 葦原の中つ国で萌えいでたウマシアシカビヒコヂとアメノトコタチはミナカヌシの「みんな一緒にいた方が楽しいと思いませんか?」という言葉で、こちらへやってきた。恐らく、ミナカヌシは何も考えず、単純にそう思ったから言ったのだろうが、最高神がそのような事を言っては、命令になる。二柱の神々は二つ返事で高天原へ来た。タカミムスビとカムムスビに同情めいた目で迎えられたのは言うまでもない。


 自分のせいで葦原の中つ国がガラガラであることは綺麗さっぱり忘れているようで、最高神は笑みを深めて先ほども聞いた事を言う。


「だから、地上に神を増やしましょう」

「どのように、でしょうか?」


 カムムスビの素朴な疑問にミナカヌシは固まる。

 己がどうして誕生したのかわからないし、その後に誕生した神々がどのように誕生したのかもわからない。どうやって神を生むと言うのか。


 それだけではない。ここ最近、男女という区別があることをこの五柱の神々は知った。これまで存在した別天つ神である五柱の神やクニノトコタチ、トヨクモノの二柱の神は全員独り神だった。しかし、その後は男女一対の五組、十柱の神々が生まれたのである。ちなみに、クニノトコタチから男女の神々十柱をまとめて神代七代(かみよななよ)という。


「そうですね……皆さん何か案はありますか?」


 ミナカヌシは丸投げを覚えた。

 タカミムスビが驚愕の表情を浮かべる。

 言い出しっぺのくせに何も考えていないのか。これが最高神で大丈夫なのか? そう思ったのは、恐らくタカミムスビだけではないだろう。


 一抹、どころではない不安がよぎるが、問われたら答えなければならない。タカミムスビ達は必死で頭を回転させる。しかし、良い案など思い浮かぶものか。


 そう思っていると、「あの、一つお伝えしたい事がございます」とウマシアシカビヒコヂが挙手した。ミナカヌシが先を促す。


「葦原の中つ国は高天原と違って、この様に足をつく場さえございません。ですので、地上に神を増やすのは……なかなか難しいかと」


 それは、遠回しに「諦めろ」という言葉だった。

 確かに葦原の中つ国は、地上とは言うものの水面に油の様なものが浮かんでいる様にしか見えない。パッと見ただけでもそこに住うことなど不可能とわかる。


 しかし、ミナカヌシには裏の声が伝わらなかった様だ。


「なるほど! ならば、先ずは葦原の中つ国に島を作らなくてはなりませんね。でしたら、これを使うのはどうでしょう」


 そう言いながら取り出したのは大きな矛だ。


「これはを使えば島は作れます。そうすれば、初めの問題は解決ですね! 次は、誰が下に向かうかが問題なのですが……」


 ミナカヌシの言葉に全員が視線を逸らした。未知の場所には行きたくない、という感情が嫌でも伝わってくる。ウマシアシカビヒコヂとアメノトコタチも天上の世界に慣れてしまい、もう戻りたくない、と思っている様だ。


 そんな四柱の反応に、残念そうに溜息を吐いたミナカヌシだが、すぐに出した空気を全て吸う勢いでスゥっと息を吸い「そうだ!」と叫んだ。全員が軽く飛び上がる。その叫ぶ癖はやめて頂きたい、心臓に悪い、とカムムスビが眉間に皺を寄せるが、その様なことには気付かずにミナカヌシは言葉を続ける。


「一番最近生まれた神……イザナギとイザナミでしたか? 彼らを葦原の中つ国に送り、国造りに励んでもらいましょう!」


 身分的に考えても妥当と言えるが、かなり唐突である。加えて、目的が「神を増やす」から「国を造る」に変わっている。


 もう好きにしてくれ。そう思いながら、タカミムスビはミナカヌシに言われた通り、イザナギとイザナミを呼びに行った。

いよいよ国造りが始まります。

タカミムスビは優秀が故にミナカヌシに振り回されまくり。

カムムスビは上手いこと流れています。

他の神は影が薄い。


次は、イザナギとイザナミです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ