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古事記 〜神々の物語〜  作者: 野月 静
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スサノヲの武勇伝 前編

 スサノヲは、歩いて歩いて歩いた先に出雲(いずも)の国にある、()(かわ)の上流に着いた。ずっと歩き続けてきたので、水を飲んで少し休憩しようと思い、川に近寄る。すると、川上から箸が流れてきたではないか。


 スサノヲはそれを拾い上げて、上流の方を見る。


「誰か住んでいるのか」


 しばらく人に会っていなかったので、スサノヲは少し気持ちが明るくなるのを感じた。どんなに一人の方が好きな人でも、何日もずっと誰とも話さないでいると心が元気ではなくなるものだ。


 少し休憩した後、スサノヲはさらに上流を目指して再び歩き出した。今までと違って目的があるので、疲れているものの足取りは先ほどよりも軽い。



しばらく歩くと、何棟かの家が見えてきた。同時に人の気配を感じて、体から軽く力が抜けるのが分かった。何か食べ物をもらい、あわよくば泊めてもらおうを考えていると、一人の娘を抱きしめて泣いている老夫婦が見えた。

 何となく声をかけにくい雰囲気であるが、好奇心が勝ったスサノヲは、その翁に声をかけた。


「其方らは何故泣いているのだ?」


 スサノヲの良く響く低い声に反応した三人がはっと顔を上げる。三人とも泣きはらした顔で、目と鼻が真っ赤になっている。

 翁は一つ深呼吸をして、スサノヲの問いに答える。


「私たちにはこの子の他に七人の娘がおりました。しかし、彼女たちはいつからか現われ始めた八俣(やまた)大蛇(おろち)に毎年一人ずつ食べられていったのです。今年も奴がやってくる時期になりましたので、こうして泣いているのでございます」

「八俣の、大蛇……? それは一体何だ?」


 スサノヲは聞いたことがない言葉に首を傾げる。


 翁は変わらず泣きながら、スサノヲの質問に答える。


「奴の目はほおずきのように真っ赤で、腹は一面血が染みてただれております。もっとも特徴的なのは何といっても体で、一つの体に八つの頭と八つの尾があるのです。加えてその体には日陰鬘(ひかげかずら)や檜、杉が生えており、その姿はまるで八つの谷と八つの峰のようでございます」


 話を聞いただけではとてもその姿は想像ができない。スサノヲがどうにかその形を理解しようと頭を全力で回転させていると、老夫婦に抱かれて静かに泣いていた娘が顔を上げて言う。


「貴方はわたくしを助けてくださるのですか?」


 どうやら八俣の大蛇への解決策について考えこんでいるように、スサノヲの姿が見られていたようだ。

 その声につられてスサノヲは彼女を見る。ずっと下を向いていたので気がつかなかったが、娘はかなりきれいな顔立ちをしていた。この娘がもうすぐいなくなってしまうのはかなり惜しい。


 そう思ったスサノヲは翁に向き直り、こう提案した。


「其方の娘を私にくれぬか」


 唐突な提案に、翁とその妻は目を丸くして、顔を見合わせる。

 それもそうだろう。つい先ほど知り合った男に娘が求婚されたのだ。同時に少し警戒されるのも無理はない。


「恐れながら、私はまだ貴方のお名前を存じません」


 翁は言いにくそうにそう言ってきた。確かにまだ自己紹介をしていなかったし、誰かわからない男に大事な娘をやるような人はそうそういないだろう。


「私はアマテラスオオミカミの異母弟(いろせ)であるスサノヲだ。訳あって、今天上より(くだ)ってきたところだ」


 スサノヲのその言葉を聞いて、老夫婦と娘は大きく目を開いた。


 それもそうだろう。アマテラスは最高神であり、この世に彼女のことを知らない人などいないほどだ。その異母弟が目の前にいるとなれば驚くのも無理はない。


「さようなお方でいらっしゃるとは恐れ多いことです。娘を差し上げましょう。遅ればせながら、私はアシナヅチ、妻のテナヅチ、そして娘のクシナダでございます」


 紹介されたクシナダは小さくお辞儀をすると、両親の元を離れ、スサノヲの隣へやってきた。


「君のことは必ず私が守ろう」

「ふふ。心強いお言葉をありがとうございます」


 小さく微笑んだクシナダは、スサノヲが今まで出会ったどの女性よりも美しく、そして可愛らしかった。


 スサノヲは、彼女を絶対に守ると再び固く誓う。そして、アシナヅチにオロチの対策を指示する。


「まずは家に垣を巡らせるのだ」

「垣ですか」

「そうだ。そしてその垣に八つの入り口を設け、その入り口ごとに棚を設けよ。そこには酒の器を置いて、酒を注いでおけ」

「酒は、何でもよろしいのでしょうか」


 翁のその問いにスサノヲは「いや」と答えながら首を横に振る。


「酒は何度も繰り返し醸造した強い酒にするのだ。あるか?」

「一応、酒樽数個分はございます」

「完璧だ。それでは作業に移れ」

「かしこまりました」


 指示を出し終えたスサノヲは、隣で静かに立っているクシナダを向く。当然だが、まだ不安は拭えていないようで、穏やかな笑みの中に負の感情があるのがわかる。


 スサノヲは妻の手を取り、努めて穏やかに言った。


「安心しろ。絶対にオロチなどに其方はやらぬ」


 その言葉に、クシナダは笑みを深めて答える。


「そうだ。其方には、近くでオロチとの戦いを見てもらおう」


 そう言うと、スサノヲはクシナダを目の細かい櫛に変身させ、自分の髪に刺した。


「さあ来い、オロチよ。このスサノヲが相手だ」

私個人の意見としては、戦いの最前線にはいたくないですね。

できるとこなら家にこもって、戦いの開始と終了だけ教えてほしいと思ってしまいます。

しかも、櫛に変えられてしまうのですから……。

皆さんはどうですか。


次は「スサノヲの武勇伝 後編」です。

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