髑髏のロザリオ
二十五年前(主人公幼少期)の登場人物
アド(6)アキレス家の子息。この頃は繊細そうな子どもだった。
ルキ(4~5)アドが孤児院で引き取った子ども。現在教育中。
乳母(20代前半)世話役兼教育係。乳を与えたりはしていない。
アドルファス・アキレスが名を名乗った時から二十五年前。
地方貴族の館で二人の幼児に、乳母の女が寝る前の読み聞かせをしていた。
「むかしむかし、人々は魔法を使って暮らしていました。
魔法で洗濯し、魔法で料理し、魔法は人々を幸せにするために必要でした」
大きな本の左側のページには、7つの輝く石が描かれている。
乳母の細い指が次のページをめくった。
「ある時、人々から魔法を奪おうとする魔王が生まれます。
魔王は魔法の源・魔力を吸い取るモンスターを造り、人々を襲わせました。
人とモンスターの戦争は100年続き、人々は疲れ切ってしまい、もう誰も魔法を使えなくなっていました」
空に尾を引く巨大な岩石に、睨むような目が一つ付いている。おそらくこれが魔王なのだろう。そして、その尾から降りてくるのがモンスターたちだ。
ページがめくられる。
「そんな人々の前に現れた男は、奪われた魔法を取り返してくると約束しました。
そして本当に彼はモンスターを倒し、少しずつ魔法を取り返します。
最後に彼はすべての元凶である魔王を滅ぼしに旅立ちました」
モンスターの亡骸が山のように積まれ、その上に男が立つ。
男の防具は胸当てとガントレット程度の軽装だ。
二人の幼児のうち、一人が笑みをこぼして次を急かした。
「それ以来、モンスターが出ることはなくなりました。
しかし、彼は戻ってくることはありませんでした。
やがて人々は彼を讃え、勇者と呼ぶようになりました」
乳母が本を閉じると、美しい装丁を施された表紙が見える。
次を急かした方の幼児が身を乗り出した。首に提げたロザリオがろうそくの明かりにきらめいた。ロザリオは十字架が髑髏をつらぬくように象られ、髑髏の片目にはめ込まれた黒い石に炎が映り込んでいる。
「私、将来は勇者になりますっ! だってこの首飾りの石はモンスターを倒した証なんです! そうおじさまが言ってました!」
乳母にロザリオを見せつけながら、勢いよく宣言する。
「はいはい。それじゃあ正しい言葉遣いを覚えましょうね、ルキ。まず、アド様のお父上は、『おじさま』ではなく、『だんなさま』と呼びなさい。はい」
そう促され、ルキは棒読みで復唱する。
「そうだんなさまが言ってました」
「はい、よくできました」
乳母がルキの黒い髪をなでる。
ルキは無邪気な笑みを浮かべた。
それを傍らで見ていたもう片方の幼児が茶々を入れる。
「本当は『言ってました』じゃなくて『仰ってました』が正しいんだよ」
膝を立ててベッドボードに寄りかかっている幼児は頭に包帯を巻いている。
乳母は彼の気持ちを察し、傍らに座って抱き寄せた。
「アド様さすがです」
そう言ってアドの髪をよしよしと撫でつける。
アドはまんざらでもない様子で、頬がゆるんでいた。
その間にルキが割り込もうとしてくる。
「なんだよルキ。さっき褒めてもらっただろ!」
アドがルキを足で押しやろうとしたが、乳母が足を掴んで阻止した。
「いけません、人を足で押すのは。それにルキはアド様が孤児院から引き取った子でしょう? 彼女を大切に扱えないようでは、立派な大人になれませんよ」
アドは乳母の話をよく聞いて、きょとんとした顔のルキを見る。
「たしかにそうだったな。父様との約束だ。ルキを大切にすると誓った」
ルキはアドと比べて2歳ほど幼く、まだ言葉の意味が分かっていないのか、二人をぼんやりと眺めるだけだ。
「だからルキ、お前は勇者なんかにならなくていいからな」
ルキは「なんで!」と怒鳴った。
続けてまくしたてるようにアドへ迫る。
「アドは大人になったら何になるんですか!」
「俺は大人になったら……」
第1章はじまりです。
全部で10話くらいになります。
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2019/06/07~2019/06/13にかけて、ヒロイン「ルキ」のキャラクターデザインを決めるアンケートを実施します。
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