エンカウント率100%の日常
序章のみの登場人物(登場順)
アレク(13)茶髪。煙突掃除夫をしている。
髑髏のロザリオの女性(20代半ば)黒髪。勇者っぽい服装。氷の盾を使う。
パーカーの少女(10代前半)ピンク髪。魔法の杖を持つ。大岩を操る。
黒い虎(若い成虎)ホワイトタイガーと配色が逆。喋る。雷に変身する。
おっさん(30代?)冴えないおっさん。仲間に慕われている様子だが……
鳥の羽を持つ少年(10代半ば)緑髪。斥候を務める。風を操り、空を飛ぶ。
その時、絶望の淵に沈んだ少年の横を颯爽と女が通り過ぎる。つづけざまに子供、次は大きな黒い虎、そして4人目が歩いた。
アレクは肩に手をやる。青い光がぽわんと浮いていた。
最初に通り過ぎた女が振り向く。歳は20代半ばで、髑髏のロザリオを提げる以外は身軽そうな格好だ。まるでおとぎ話に出てくる勇者のような格好でもある。
「ご安心を。それはあらゆる傷を癒やす魔法です」
説明口調でわけのわからないことを言った。
「ま、魔法?」
今度は二番目に通った子供が振り向いた。
カジュアルなフード付きパーカーをまとい、背丈より長い杖を担いだ女の子だ。
ぽつぽつとつぶやくように解説する。
「魔法は何でも叶える力や。遠くで見物でもしとき」
黒い虎は振り向かず、かたわらの男に声を掛ける。
「勇者しか倒せないだとよ、リーダー」
アレクは思わず「猫が喋った……」と漏らす。
黒い虎は勢いよく振り返ってグルル、とアレクに威嚇した。
リーダーと呼ばれた男は頭を掻きながら振り返る。
無精髭を生やした30代、……いや20代か40代くらいにも見える冴えないおっさんだ。
見るからに頼りなさそう。あからさまに普通じゃないメンツの中で、このおっさんのおっさんらしさは場違いなくらい普通だった。
「アンタ、勇者なのかい? だったらこのおっかないの、なんとかしてくれよ!」
アレクは黒い虎を指しておっさんに訴えた。
「いや、俺は勇者じゃないんだが……。
まあいいや。ほらー、やるぞー、モンスター退治だー」
虎は威嚇をやめ、こちらへ行進する化物の群れに視線を向けた。
雲間から光が差し込み、四人を照らす。
おっさんは残りの三人を見て、ざっくばらんに手刀を切った。
「後はよろしく頼む」
三人はうなずいた。
次にロザリオの女性が左手を払うように切ると、そこに氷の盾が出現した。表面は鏡のようにつるりとし、白い霜が縁取る。
その鏡面に青い筋が浮かび上がった。街の俯瞰図のようだ。
「今回、魔王軍の奇襲に後手へと回りました。現状、我々の目的は拠点防衛です」
街の中心を指さす。寺院のある場所だ。
黒い虎が耳を立てた。傍らにつむじ風が起こり、カランコロンと音が鳴る。羽根に括り付けられた一通の手紙が宙を舞い、風が止む。
パーカーの少女がぴょんと小さくジャンプし、それを取る。結いだ糸をほどいて中身を読み上げる。書き手の性格を反映しているのか、先程までの低血圧な振る舞いから一転、年相応の子供らしい口調だ。
「通路やお店にスライムがいました! 首なし騎士はときどき出てくるみたい。空には小悪魔が3匹かな? 北の門のそばに棍棒を持ったトロルが1体いるのが見えたよ。モンスターのリーダーはいないかな? ……にしても汚い字やな」
手紙の本文はところどころ間違っており、字の大きさもマチマチだ。
虎がため息を吐く。
「あの子が文字を覚えたのはつい最近よ。大目に見てやんな」
「はいよ。ま、あのガキンチョが空から偵察せんでも、うちが一発かませばこの程度の街くらいなら一望できるんやけど」
不敵な笑みを浮かべる。
それをロザリオの女性が氷の盾をコンコンと叩いてたしなめた。
「敵の規模は分かりました。まずは市内のモンスターを撃破。一発かましたいなら北門から先にどうぞ。トロルは任せます」
「分かっとるやん。ほなな」
女の子は杖を石畳に当てる。そこから隆起した岩にまたがると、岩とともに石畳を掻き分けながら行く。まるで地面で波乗りをしているかのようだ。巻き込まれたスライムは少女の乗る岩か掻き分けた土に押しつぶされて破裂する。
「次はあたしの番さ。作戦に変更は?」
「変更ありません。寺院に向かってすり抜けたモンスターをお願いします」
「あたしの電光石火に任せな」
黒い虎は低い姿勢を取る。
周りから湯気が立ち込める。空気中の水分が蒸発しているようだ。
女の子が進んだ方と反対側で首なし騎士が現れる。次の瞬間、虎の姿が消え、首なし騎士が塵と化す。
青白い筋状の光が街の各所で見え、雷鳴がとどろいた。
「では、私は……、おっと」
建物の二階からスライムがおっさんめがけて飛び出してきた。
女性が氷の盾で防御する。それと同時にスライムの体は凍りつき、石畳に落ちた衝撃で粉々に砕け散った。
「改めて、私は市民の救助へ向かいます」
ロザリオをアーマーの内側にしまい、おっさんに挨拶する。
「おう」
対するおっさんはぼんやりした返事。
女性は颯爽と立ち去り、道の脇でうずくまる女性の怪我を癒やし始める。
アレクはおっさんに期待の視線を向けた。大岩で波乗りした女の子、雷に変身する黒い虎、氷を操り人を癒やす美人に続き、このおっさんはどれだけすごい特技を隠し持っているのか気になったに違いない。
「あ、俺? 俺は戦わないよ」
アレクは「はあ?」と驚きと呆れの混ざった声を漏らした。
しかし、おっさんの答えはまだ続く。
「でも、最強の陣形なんだよね、これが」
おっさんが照れくさそうに頬を掻く。その頬をかすめ、三叉槍が空から降り、地面に突き刺さった。二人は空を見上げた。
出来損ないの胎児がゲラゲラ笑いながら、背中の羽で飛んでいる。しかも、1匹だけじゃない。その数は3、4匹、いや、5匹だ。
「お、おいおっさん! これだけのモンスター、戦わないでどうすんだよ!!」
アレクがすごい剣幕でおっさんに振り向く。だが、そこにおっさんはいない。というか、一目散に逃走し、アレクを置いてけぼりにした。
おっさんの背中が、入り組んだ路地へ逃げ込むのが見えた。
「嘘だろ……! 戦わないのに、人を見捨てるのに、何が最強の陣形だよ!?」
おっさんは彼の悲痛な叫びに振り向きもしない。一心不乱に逃げている。ゴミ箱を躱し、躱した反動で壁に肩をぶつけ、よろめきながら奥へ進む。おっさんが洗濯物の陰に隠れた瞬間、三叉槍が二、三ほどまとまって放たれ、洗濯物を穿ち、路地の行き止まりに突き刺さった。
「死んだか? いや、いない。クソッ、見捨てて逃げる野郎の心配なんて……」
眼の前で人が死ぬを見たらつらくて当たり前。グレタの死をまだ飲み込めていない少年には、見ず知らず、しかも自分を見捨てたおっさんの死ですら見たくないと思っているのだろう。
そして不安は的中せず。おっさんの姿は路地になかった。
胎児のような悪魔はしわくちゃのまぶたから爬虫類に似た瞳をぎょろりとさせ、民家の一階の窓めがけて槍を飛ばす。けたたましい破壊音が二回鳴る。奥の窓も割ったらしい。おっさんのシルエットが民家の一階の窓に浮かび上がった。もちろん悪魔は見逃さない。
悪魔の放つ三叉槍はおっさんを狙い、二枚目の窓を突き破る。三枚目の窓は二階だ。四枚目は割られない。おっさんは二階に上っていると踏んでいても、どこにいるかの見当がつかないからだ。小悪魔たちはアレクを無視しておっさんを追う。
ここでアレクは不思議な体験をした。小悪魔が自分の真横を通っても、まったく自分に危害を加えようとしてこなかったのだ。
「あれ? どうして狙われないんだ……?」
少年が眉間にシワを寄せた時、突風が二階の窓を左から順にすべて割る。そして折り返し、集まった小悪魔たちを右から順に真っ二つにした。
一瞬の静けさが辺りを覆い、窓からおっさんが「バカヤロー!」と叫んだ。叫んだ先は隣の建物の屋上だ。鳥のような羽を背中に生やした10代半ばほどの少年が、ドヤ顔でおっさんを見下ろしている。
「ボク、なんで怒られてるのかな? あのー、ボクが助けてあげたんですよ?」
「俺は体じゅうガラスまみれなんだよ!」
「あっ、そういうことですね! えっと……、ごめんなさいです……」
しゅーんとしたあと、おっさんのところへ滑空する。
しばらくした後、許してもらったらしい少年は、おっさんの手を取って地上まで滑るように降りてきた。
その時、北門で大きな爆発音がしたが、次第に街じゅうに張り巡らされた緊張感が解けていった。
アレクは少年にお礼を言う。
「ありがとうならこの人に言ってよ。ああやって離れた場所に逃げてなかったら、君きっと巻き込まれていたよ」
「それはどういう意味だい?」
「だって、この人モンスターを引き寄せるからね」
おっさんが「あっバカ」とつぶやいたところを見るに、どうやら秘密にしていたことらしかった。
だからおっさんは面倒くさそうに頬を掻き、やっと名を名乗った。
「俺はアドルファス・アキレス。たぶん、人類最強の囮だ」
ご評価ありがとうございます(まだ1話しか投稿してないのでちょっと困惑かも汗)。
評価・感想・レビューなどいただけるとうれしいです。





