第4話
S警察署の取調室では、佑樹と2人の男たちが机を挟んで向かい合っていた。
1人は二十代前半のいかにも若手に見える青年。
おそらくは“バッジ組“。
将来的なエリートとしての研修を兼ねてこの取り調べに連れてこられたのだろう。
もう1人は深いシワが何本も顔に刻まれた、いかにもベテランといった風貌の刑事。
剃刀のように鋭い眼光に、武人のように強者の空気を纏った男。
もっとも今はその鋭さも鳴りを潜め、疲れたような雰囲気を滲ませていたのだが。
「はぁ……、また先生ですか。結果的に毎回最小限の被害に抑えられているのと、状況的に完全に被害者であること、それ以外にもまぁ理由はありますが、概ね事件の解決に貢献する姿勢などが加味されてるわけですが……」
深い、深い溜息が取調室に響く。
「毎週のように、多ければ日に何度も来られちゃこっちも仕事になりませんよ。いや、この場合仕事が増えてってより、解決してるのに後始末にてんてこ舞いってやつです」
上司のそんな疲れ切った様子を見るのは初めてなのか、狼狽した様子の青年があたふたとしている。
ベテラン刑事に憧れる若者は多いのだ。
いずれ幹部となることが約束されていたことで調子に乗っていた彼も、ベテラン刑事のダンディズムに触れて改心し、今では見事に好青年へと昇格を果たしたという過去がある。
そして佑樹はと言うと、
「いやぁ、申し訳ない!」
実に申し訳なさそうに頭を下げていた。
学生時代に巻き込まれたとある事件により本格的に目覚めてしまったこの“体質“は、この半世紀で弱まるどころか成長するばかりだ。
学校で教鞭をとっていた頃などは、教職員たちからどころか保護者たちまで事件は毎週訪れる行事扱いだったほど。
彼のいるクラスの子どもはその経験の密度から同年代の子たちとは比較にならないほどの成長をみせると評判で、問題になるどころか名物教師扱いされていた。
定年後の今でも彼の教え子たちは各界に散らばり、佑樹をサポートしてくれている。
何を隠そうベテラン刑事もまた彼の教え子の1人だった。
佑樹の体質に巻き込まれ、助けられ、そして彼を慕って協力してくれる理解者の1人である。
【主人公補正】。
これのせいでとにかく佑樹は事件に巻き込まれる。
フラグが、乱立する。
若い頃は数え切れないほど死にかけたし周りに迷惑をかけた。
今でこそ自分だけの力で解決することができるだけの実力が身についたが、それでも被害を最小限にするだけでやはり周りも巻き込まれる。
現代社会で生きていくにはこの“呪い“とも“加護“とも言うべき体質は枷でしかない。
もっとも娘や孫、最近生まれた玄孫たちの姿を見れただけでも生きてきたことに幸はあったわけだが。
そして佑樹にその自覚はないが、各界に散らばる彼の教え子たちは佑樹の影響もあってそれぞれの業界で盤石な地位を固めつつあり、佑樹が頼んで回ればちょっとこの国をどうにかしてしまうことすら可能な現状がある。
いっそのこと、この国を佑樹にとって都合の良い形に変えてしまえればよいのだが、良くも悪くも主人公のような男、あくまで人助けや後始末程度にしかコネを使わない。
ある意味一つの国の平和を守る男、阿部佑樹とその仲間たち。
今日も世界は平和である。
「大変です!署に爆弾が届けられました!」
取調室に別の若手刑事が飛び込んできた。
今日もまた、この世界は佑樹を中心にまわっていく。