第1話
あの男達が帰ってきた!
というか何があった…?
キャラが濃すぎるぞ…?
S県S市O駅付近の喫茶店で、初老の男達が再会を果たしていた。
席に着いているのは二人。
一人は黒目黒髪の標準的な日本人。
穏やかな風貌に笑みを浮かべて、時折声をあげて笑う姿は特に特徴もなく、どこにでもいる容姿をしている。
テーブルに積まれているのは時間を潰すために読まれていた、4ヶ国語以上の言語で書かれた書物の数々。
男の名前は杉山裕司。
【万能言語】のギヤマと呼ばれる男である。
つい先月、会社の特別顧問の仕事を辞したばかりだった。
とある経験から、どのような言語ですら理解し話すことができる能力を持つ。
もう一人の男は目や髪の色こそ日本人らしいが、相貌は彫りが深く、背も高いため、海外の血が流れていることが窺える。
カジュアルなスーツを着こなし、シャープなデザインのメガネが知的なナイスミドルの雰囲気を醸し出していた。
時折タブレットが鳴り、その度に手慣れた手つきで操作をする。
名前をジョージ・ミート・謙一。
実はとっくに仕事は辞めているが、孫に立派に見られたくてスーツとタブレットを常備している、そんな残念な祖父。
【盤上逆転】のジミーと呼ばれる男。
先程から操作しているのもAI相手の電子チェスである。
なぜか、どのような勝負事からも最終的には生き延びることができる性質を持つ男。
ちなみに命の危険のないゲームの腕前は並みである。
今まさにチェックを突き付けられた所だ。
カラン……カラン……
『いらっしゃいませ』
入ってきたのは同じく二人組みの男達。
ただし年齢には差があるようだった。
片方は足が不自由らしく杖をつき、もう片方の男が近くで補佐するべく寄り添っている。
杖をついた男は席に着いた二人と同年代、付き添いの男はまだまだ青年と言っていい年頃の見た目をしている。
「ここまででいい。適当に時間を潰してきてくれ。…ああ、待ち合わせだ」
前半は傍らの青年に、後半は案内にきた店員に向けられたもの。
「よぉ、久しぶり」
コツンと左脚の義足を鳴らし、黒い杖をついたスキンヘッドの男は席に着いた二人に気軽に挨拶をした。
初夏ということもあり薄手のシャツに丈夫そうなズボンという格好だか、鍛え上げられた肉体は実年齢より男を若々しく見せた。
左目には物々しい黒い眼帯をつけ、露出した肌には生々しい傷跡も多く、よく見れば指も何本か欠けている。
明らかにカタギではないその男の来店に他の客たちは僅かに騒つくが、挨拶された二人は気軽に挨拶を返していく。
「久しぶりだね、宮崎君」
「遅いぞ、つね」
第三次世界大戦を始めとした数々の戦争を生き抜き、戦役を退く直前の作戦で片脚と片目、ついでに数本の指を無くした時の話は随分と前のことだ。
何度か会っていた二人にとっては今更驚くようなことではない。
名前は宮崎常春。
陸上自衛官だった男。
【生還者】と呼ばれている。
どのような状況下からも生きて帰ってくることからそう呼ばれるようになったが、本質的には死神に愛されているように運が悪く、しかし同時に幸運の女神からも愛されているように土壇場で幸運が訪れるのだ。
見た目に似合わず今は児童館の用務員をしている。
ジミーの上位互換とは言ってはいけない。
ボードゲームに関してはジミーの方が強い。
「悪い悪い、義足が言うことを聞かなくてな。さすがに最新のものは高くて旧型にしたんだが、やっぱこういうもんはケチるもんじゃないよな。孫にも心配されちまったよ」
「いっそのこと海賊船の船長みたく棒一本に替えたら?」
「子供達には大人気だな」
「ははは!ガキは良くても保護者に引かれちまうよ!っと、まだ阿部ちゃんは来てないのか?」
常春の問いかけに頷く裕司とジミー。
「ま、いつものことか」
そして常春も頷く。
あらゆるトラブルに巻き込まれとフラグを乱立させる男、阿部佑樹。
その生き様と背負った業から【主人公】と呼ばれる男。
彼は今……