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プロローグ

 平凡な日常生活、何か特別なことが起ればいいと思うのは罪でしょうか?

 私の身に起こった出来事が罰だとすると、おそらく罪深い考えだったのかもしれません。


 その日、私は酷く喉が渇いていました。

 フェーン現象の影響か知りませんが、今年の夏は物凄く暑かったのです。

 外回りの営業で、歩き疲れていた私は喫茶店を探していました。

 自販機で冷たい飲み物を買えば良かったのですが、会社に帰らなければいけない時刻に余裕がありましたので、喫茶店で涼もうと考えたのです。

 そして見つけたのが、怪しげな雰囲気を放つ、『夏の夜の夢』という喫茶店でした。


「変な名前だなあ。どこかで聞いたことがあるが」


 そのときはシェークスピアの喜劇が由来だと気づきませんでした。

 しかし酷く喉が渇いていた私はここでいいやと思い、中へ入りました。


「いらっしゃいませー」


 おそらく高校生くらいの年齢の女の子が元気よく出迎えてくれました。そういえば世間は夏休み。学生がアルバイトしていてもおかしくない時間帯でした。

 席に着くなり、女の子はおしぼりと水を私の前に置きました。


「お冷です。ご注文はお決まりですか?」

「えっと、アイスコーヒーを一つ」


 女の子は笑顔で「かしこまりましたー」と言って、喫茶店のマスターらしき人に私の注文を言いました。

 マスターは中年の男性で無愛想に頷いて、アイスコーヒーの準備をしました。

 アイスコーヒーを待つ間、私は水を口に含みました。まあ、普通のミネラルウォーターでしたが、喉が渇いていた私には美味しく思えました。


 喫茶店の外を行き交う人々を見つめながら、私はぼうっとしていました。

 すると突然、喫茶店の扉が乱暴に開きました。


「てんちょ、てんちょ! ようやくみつけた! しんじつのあい!」


 入ってきたのは、その、どう言っていいのか分かりませんが、明らかに知的障害者の顔つきをした、小汚い小男でした。

 私はあまり良い気持ちはしませんでしたが、マスターは黙ってビンのコーラをコップに注いで、カウンターに置きました。

 女の子も「田所さん、よく見つかりましたね」と笑顔で言いました。


「そうそうそう! おれ、みつけた! あいを、みつけた!」


 カウンターの席に着くなり、コーラを飲む田所と呼ばれた男。むせることなく、一気に飲み干して、盛大にゲップをしました。


「さあ、聞かせてください。田所さんが見つけた、真実の愛を」


 女の子の言葉に、私も興味が湧いてきました。


「うん、いう! しんじつのあいを、おれいう!」


 そして語りだした田所の『真実の愛』。

 それは平凡な日常を送っていた私が道を外してしまうのに、十分な話でした。

 

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