快楽殺人者の欲求
彼は生まれながらにして生物を殺すことが好きだった。彼は呪われた性を背負って生まれてきた。彼は快楽殺人者であった。
しかし彼は、邪悪な出来事にも敏感であった。世の中の非道な行いを心の底から憎んでいた。残虐で非道な話を聞くたびに、彼の心中は怒りに震えていた。
彼は常に生物を殺したいという衝動を持っていたが、彼の邪悪を嫌う心がそれを押し留めていた。彼はそれを残虐で非道な行為だと自覚していた。
しかしとうとうその衝動に耐えきれなくなった彼は、川で見つけたカエルを殺した。彼の脳内は快楽物質が駆け巡り、彼は彼の悦びを知った。
しばらく彼は小さな生物を殺していたが、心の奥底では人を殺したくて仕方なかった。
いよいよ彼は、彼自身の性が抑えきれない事を自覚した。人を殺したくて殺したくてたまらなかった。だから彼は、人を殺すために暗い夜に外を出歩くことにした。
彼が人気のない夜道を歩いていると、不審な男に襲われている女を見つけた。女の衣服は破れ、助けてと叫び泣き、目の奥底は絶望の色に染まっていた。
彼はこの世の邪悪に遭遇し、激しい怒りと燃えるような衝動に駆られた。
彼は背後から男に近づき、その頭を思い切り殴りつけた。男は倒れ血を流していたが、構わず殴り続けた。彼は興奮しながら、頭から血を流している男の首を絞めた。
彼は、その手から命を奪っている実感を強く感じ、快楽に浸っていた。彼が気が付いた時には、男は動かなくなっていた。
そうすると彼は、襲われた女を身を挺して守った勇者として、称賛を浴びせられる事になった。新聞は勇気ある行動と彼を報道し、警察や自治体からは大きな称賛を受けて表彰された。裁判では、不審な男に対する彼の正当防衛が成立し、無罪の判決が下された。
彼は正義になった。
彼はこの出来事を経て、正義を通した殺人は、残虐で非道な行いではないと気付いた。
邪悪を嫌う彼の心と、殺人衝動を秘めた彼の性は、人を殺して正義を為すと決意した。
彼はよく考えた結果、外国へ飛び、傭兵になった。戦場の最前線に出て、敵兵を殺して殺して殺しまくった。
殺人の衝動に身を任せた彼は、戦場で恐れられる優秀な傭兵として知られるようになった。
雇われた国からは英雄と称えられ、胸にはたくさんの勲章をつけるようになった。彼の活躍により世界は平和を取り戻した。
しかしそうすると彼は、戦場に出る事ができなくなった。
人を殺せなくなった彼は、死刑制度のある国へ向かった。
古い国では斧を使って斬首に処す刑があるという。しかもその国では、誰もが死刑執行を行う事を嫌い、死刑執行人がいなかった。
彼が来たことにより、その国の重大な犯罪者は次々と首を刎ねられていった。彼は醜悪な死刑囚の首を刎ね、正義の心を持って人を殺していた。
その国では彼を称え、誰もやらない仕事を進んで引き受ける立派な人物として迎え入れられた。
しかし彼は退屈していた。死刑執行人とは言え、毎日、人を殺すわけではない。最初のうちは良かったが、段々と内なる殺人衝動が沸き上がっている事を感じた。
とうとう我慢できなくなった彼は、殺してもよい人物を探した。それも正義を持って殺せるものだ。しかしそんな人物は見つからなかった。
世の邪悪を探し回った彼はふと鏡を見た。ついに彼は正義を執行できる人物を見つけた。世の平穏が脅かされていた。
鏡に映るその顔は悦びに歪んでいて、その手にはナイフが握られていた。欲求を満たす最高の獲物を見つけた彼は、躊躇わずに彼を突き殺した。
彼の顔が快楽に歪み、彼が今まで体感した何事も勝る快楽が、彼を満たした。彼は人生最良の時間を手に入れた。
彼が殺した人物は、人を数えきれないほど殺した大量殺人者であり、彼の正義と欲求を永遠に満たした相手だった。そして彼は人を殺さなくなった。
(了)
最後まで読んで頂きありがとうございました。
下の欄にございます評価ポイントを是非とも押してください。感想もお待ちしています。
次回作への励みになります。