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最下層階級の絶望騎士  作者: ぶい


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ひまわり

74部分 命の在り方からの続きです。

「ヒロ君!」

 夢花の声がして、俺はそばに駆け寄る。

「何か見つかったか?」

「見つかったけど、それより先に言うことない?」

「うん。何も言わずに始めた。悪い」

「よろしい」

 夢花と打ち合わせしてからじゃないと逃してしまう可能性があった。

 だから俺の行動は軽率だと言えよう。

 しかし、行動が遅ければ秋は無事ではすまなかった。

 夢花はおそらく妖精さん(?)なんかで、俺がどうして乗り込んでいったのかを知ったんだろうな、追及してくることはない。

 夢花に連れられ石垣と合流する。

「久しいな、派世」

「悪いな、変なこと手伝わせてしまって」

「構わんよ。さてと、ではその地点まで急ごうか」

 足止めしてないってことは、博士たちはどこかで落ち着いているのか、それともそれとも失敗したのかってところか。

「八田月君と警察とで、メディアの侵入をしばらくは防いでくれるが、それでも自由に動ける時間が少ないのには違いない」

 分かっているとも。

 石垣が用意していた車で、俺たちは山の中を進む。

 博士たちが用意していたいくつかの道路、その一つを進んでしばらく走ると、ぷすぷすと上がっている煙を見つける。

 あれは……

 研究所の爆発があそこでも起きていた、とは考え難い。

 となるとあれはもっと別の何かの可能性が高い。

「何があったんだ?」

 隣の夢花に訊ねるが、見た方が早いと返される。

 よく分からない。

 いったい何が……

 着いて降りると、そこには火の上がった車と、人の肉が焼ける独特の臭さがあった。

「燃えてるのは?」

「博士たちだよー」

 おっとり夢花さんがおっとりしてないから、事態の重大さに気づいているということだ。

 テレビのロケで使われるような大きめの車、それがひっくり返っていること。

 車の爆発は研究所の爆破よりかなり遅れて行われたこと。

 人為的要因が最も考えられるということ。

「博士はこれが全員か?」

「そうだよー。もう一人、これを行った人物がいたみたいだけどねー」

 それはおそらく、俺が研究所に入った時になっていた警報、それを鳴らされていた者だろう。

「それで、お前のその……妖精さん?はなんて言ってるんだ?」

「うーん……なんか、近付けないって、言ってるんだよねー。ごめんね。詳しくは分からないよー」

「そうか」

「でも、今は近くにいないらしいから安心してー」

 今いないのなら、俺の存在には気付いていなかった?

 どうだろう?

 まあ、接触してこなかったのだから、今のところは放置しておいてくれるのだろう。

 俺とは対峙するつもりがないのかもしれないな。

「さて、これをどう八田月君に伝えるべきか……」

 ああ、そうだったな。

 これは八田月の管轄ということになってるんだったな。

 研究所に手を出すなってのが八田月に下されていた命令だが、この件の報告も仕事の内なんだった。

「まあ、どの道俺が面倒をみることになる。軍に動けないようにさせる方法はあるからな。取りたくはないがそうするしかない。攫われていた子どもたちも守れるしな」

「どんな手段が取れると?」

「見た方が早い、というか、見ないと信じられないだろうな」

 あーあ、俺の秘密を知る人が、また一人増えてしまった。

 知る人は少ないことに越したことはないんだけどな。


 石垣が拠点としていた小屋で俺は机に向かう。

「何を書いている?」

 石垣に聞かれるが、俺は真剣な表情で、紙に血文字を書き続ける。

 これで国は黙る。

 そんな影響力のある、一枚の紙切れ。

「こんな紙切れに、なんの意味があるというのだ?」

「気付けるやつは気付ける。こいつを見せれば上も納得するはずだ」

「だからなんだと……まさかッ⁉︎」

 完成したそれを見て、震え出してしまう石垣。

「実物を見るのは初めてか?」

「これは、お札か……血文字のお札、この文字、写真で見たものに似ている」

「特殊な家なんだ。代々巫女をやってたりやってなかったりする家系なんだよ」

「なるほど、理解した。これを提出すれば、全ては丸く収まるというわけか。八田月君はお咎めなし、子どもたちも口封じに殺されることはない」

 石垣も八田月同様に特殊部隊の一員だ。

 だから思い当たったようだな。

「ふむ、それではこれは任せてもらおう。八田月君に顛末の説明をしなければならないしな。報告書もこちらで作成しよう。仕事が忙しいと聞いている」

「ああ。八田月に少しでも楽させてやってくれ」

 カバンの中を漁り出した石垣は、中から小さな箱を二つ取り出して俺たちに渡す。

「口止め料だ、受け取ってくれ」

「被害者の子どもたちにもあるのか?」

「口止め料に、被害に応じて保障が下りる。心配することはない」

 まあ、金を渡して解決する問題ではないんだがな。

 トラウマってものは金じゃ拭えないんだ。

「では、私は行くとしよう」

「お疲れ様」

「君に関わるとロクな目に合わないな」

 八田月の苦労が分かったか?

 石垣が出て行くと、俺と夢花の二人だけになってしまう。

 別れ際があれだったから気まずいな……

 俺は箱の中身を確認して、片方を夢花に投げ渡してもう一つを持って部屋を出る。

 夢花は当然のようについてくる。

 何も言わずについてくる。

 分かってる。

 どうして何も言わないのか。

 分かってる。

 どうして俺についてくるのか。

 俺はまた人を殺した、それを夢花も知っている。

 俺は覚悟を決めたはずだ。

 さて、夢花と話さないとな……


 俺は夢花と人通りの多い道を歩く。

 こんな場所で話すようなことではない、しかし、こんな場所をお互い無言で抜けるのは苦痛だ。

 話そう、俺を。

 話そう、全てを。

「なあ、夢花」

「どうしたのー?」

 おっとりとしたいつもの夢花のように、包み込むような優しさをもって俺に返事をする。

「夢花、俺はまた、人を殺した」

「うん、知ってるよー」

 いつも通りに努める夢花は、きっと俺のどんな言葉も、優しく包み込んでくれるのだろう。

 夢花には甘えてばかりだな。

「これからも多分、人を殺す」

「うん」

「例外になってしまったからこそ、俺は例外にしかできない方法で、目的へと進むつもりだ」

「うん」

「たくさん人を殺すし、たくさん人を守る」

「うん」

「それが俺なんだ」

「うん」

「あの時から、そうあり続けることが前に進むことだと、俺はそう信じている。だからさ、ついてこなくてもいい」

 優しく頷き返していた夢花は、これには頷き返してはくれない。

 そうだ。

 これは俺の本心だが、しかし一側面でしかない。

「でもさ、わがままを聞いてくれるのなら……ずっとそばにいてほしい」

 失うのが怖いから、ついてこなくてもいいと言えなかった。

 だが、それさえ本心だったんだ。

 失いたくない、離れたくない、それも本心なんだ。

「ヒロ君?」

「ん?」

「ずっと一緒だよ」

「そっか……」

「これまでもこれからも、ずっと……」

 それから俺は、夢花を家に送るまでの間に、これまであった全てを話した。

 家のこと、血のこと、黒騎士のこと、とりあえず全部、話したことがあっても、なくっても、全部話した。

 夢花はそれを優しく聞き届けてくれる。

 夢花は俺の話を聞いているだけだ。

 しかしそれが、俺にたくさんのことを教えてくれる。

 聞きながらにして語っている。

 夢花の反応で、俺は気付けなかったことに気付かされる。

 結論を出していたことを再確認することができる。

 夢花との関係の、3回目のスタートだ。



 広人、俺とお前は似ている。

 俺もお前も、異常な存在なんだ。

 特殊な存在なんだ。

「魁人!」

 小妖(シャオヤオ)が俺を呼び止める。

 案の定出てきていたな。

「止めようとしていたか?」

「気づかれてたか」

 舌打ちした小妖は、疲れたと帰ろうとする。

 悔しさに歯を噛み締めているな。

 それはきっと、殺させてしまったこと、死人がでてしまったことへの怒り、徹底して殺さないことを語る小妖だから、そう思っているんだ。

「それで、先を越されるかもしれないと言ってたその横取り魔、いたのか?」

「バッチリ、と言えればよかったんだがなぁ……実際にその存在を目撃したわけじゃない」

「いたかもしれないってことか。分かんなくても仕方ねーよ。お前はそうした技能に長けていない」

「うわー直球。まさかのど直球だよ。事実指摘されたら反論できないじゃんか?」

「知るか」

 煤と土で汚れた服装の俺は、街行く人から視線を集める。

 二人で狭い路地へ入っていく。

「さて、次はお前の番だな」

「もう始めてるけどな」

 小妖の仕事内容を知っている俺は、その発言内容に少し驚く。

 驚きもする。

 人を殺しかねないことを行う、それに葛藤があるものだと、そこで止まっているものだと、思っていた。

 振り切れた、というわけではないだろう。

 そうならない自信があるのか。

 慢心ではないだろう。

 安全マージンを取っているということかな。

「派世広人、か。敵対しなければいいが……」

「俺と同じ事件を経験している。可能性は十分ある」

「だよなぁ……」

 あいつは間違いなく、強い。

 以前あいつは中国に来た時があった。

 あいつの滞在時期に起きた出来事、それを見てもしかして、と思い、他の事件も調べてみた。

 それで俺は理解した。

 あいつは俺に似ている、似すぎている。

「もしその時が来たら、可能な限り俺を呼べ。俺が戦うべき相手だ」

「どうだろうな。オレと衝突する可能性だって十分にあり得る。そいつ次第だな」

 自分で決める、か。

 人を殺せないお前じゃ絶対に勝てない。

 そう言いたいところだが、人を殺せるとしても、あいつは殺せないからな。

 だから相手は俺が最適なんだ。

 しかし、もしかするとこいつなら、意外に倒せたりするかもしれないな。

 それでも、あいつの相手は俺がするつもりだが。

 ああ、広人……願わくば、お前が俺たちの敵とならんことを……



 暑い……

 日差しの下を歩く俺は、隣り合う二つの学校、中学と高校が並ぶそこの、高校の方へと向かう。

 校門前と言ったが、どっちの、とは言ってなかったな。

 スマホで時間を確認すると、まだ約束の時間には五分ばかり早い。

 薬を持ち出したり、リーラを送ってったり、準備に時間がかかってしまったが、一応待ち合わせの時間の前に来れた。

 しかしその少女は、そわそわした様子で待っていた。

 様子からして結構前から来ていたな。

「早いな。待たせたか?」

「うん。待っとったよ。ずっと待っとった」

 時間前に来たのに待ってたって……それだけ楽しみにしてたってことか?

 ただ早めに着いただけかも?

 秋の様子を観察してみると、まだ集まったばかりなのに眩しい笑顔を向けてくる。

 天使の笑顔だな。

「お前……傷はもういいのか?」

 気付くのが遅れたが、秋は昨日結構ひどい状態だったはずだ。

 鼻の骨なんかは折れてたと思う。

 しかし今はその傷は見る影もない。

 あるわけないが、俺と同じ異常体質か?

「昨日奏未ちゃんに会うたんや。うちが家に向かう途中でな?急に現れて治してったんや」

「監視されてたのか、俺……」

「監視?どういうことや?」

「俺の様子に違和感を感じたんだろうな、そういう時は俺のことを監視して、いつでも向かう準備を整えてるんだ。たまに普段の生活も覗かれてるみたいだ」

「奏未ちゃん、新手のストーカーやな。しかも兄貴に対してなんて、すごいことしとるなぁ……」

 まあ奏未だしな。

「さて、行くか」

「どこ行くん?」

「さあ?どこだろうな?」

 俺が歩き出すと、秋はポニーテールを揺らしてついてくる。

 歩幅を合わせて隣を歩く。

 少女は少し頰を赤らめ、俯き気味に歩く。

 ふと疑問に思う。

 どうしてこの子は俺と一緒にいるのだろう、と。

 目の前で行われた殺人、助けられた感謝はすれど、怯えがあって然るべきだ。

「なあ、お前はどうして俺に、そんな陽だまりのような笑顔を向けるんだ?俺は目の前で、人を殺したはずなんだが……」

 秋の顔を見ずに訊ねる。

 楽しい雰囲気が消える。

 そうしてでも確認する必要があると判断したから訊いた。

「……知っとったからや。あんたが人を簡単に殺せること、知っとったからや」

「知ってた?」

「初めて合うた時、あんたは容赦しとらんかった。容赦なく、人を痛めつけとった。だから、あんたは人を殺したことがあるんやないかって、思たんや」

 初めて会った時って、大阪行く前に奏未を教室から連れ出そうとした日、だよな?

 俺危害加えてないはずなんだが……

 それ以前にもどこかで会ってるのか?

 あれぇ?と首を捻っていると、秋は俺の手を握り、恥ずかしいのか中途半端な笑顔を、しかし幸せそうな笑顔を見せる。

「ええねん、思い出さんでも。うちはそんなあんたでも受け入れるって、それだけ分かってくれればええねん」

 言い切って恥ずかしさが最高潮に達したのか、頭から湯気を出して目を回して立ち止まる。

 固まっちゃったよ……

 恥ずかしいことを言われた自覚はある、だから何か返さないとって、頭を巡らせ言葉を絞り出す。

「そうか。その言葉、後悔するなよ?俺はかなり面倒くさいぞ?」

「そんなん百も承知や」

 俺の言葉に反射的に答えた秋。

 告白もどきをして恥ずか死しかけていた秋も元気付き、俺たちは手を繋いで浮かれた秋に合わせて向かった。


 大通りのアクセサリーショップに入る。

 ここらは人が多いな。

 女の子のグループやカップルで来てる人などが一般的だ。

 しかし、そこには男性だけで来ている人もいる様子から、プレゼントなんかで買っていく人もいるのだろう。

 レジで少し変わった包装を施されたものを受け取っている人がいる。

「た、高そうな店やな……」

 きらびやかなアクセサリーが最初に目に付いたのだろう、そんな感想を抱いている。

 しかし実際はそうでもない。

 ケースに入っているものはたしかに高級だが、その向かいには学生向けのものが並べられている。

 それでも秋には高いかもしれないがな。

 店内を一通り見て回って、似合いそうなものに目星をつける。

 それらを秋につけてみて、一番似合っていたと思うものを選ぶ。

 全部買いたいところだが、それでは秋は受け取ってくれないだろうし、仕方なく一つを選んだが、それ以外のものも似合っていたからなぁ……決めておいて買いに行けずにいる。

 秋自身が可愛いからな、どんなものをつけても似合ってしまう。

 参ったなぁ……

「何を選んでくれてもええよ?似合わんかっても気にせんし」

「似合わないなんてことはないんだ。むしろ、似合いすぎるから決めかねてるんだよ。お前は可愛いからな」

「んなッ⁉︎何アホなこと言うとんねん!うちが、か、可愛いなんて、そないなこと……かわいい……」

 かなり喜んでいる様子。

 いつも奏未なんていう天女の如き美しさを誇る少女を見ているから、自分に対してそれが向けられたことがあまりなく、慣れてないのだろう。

「うん。これだな。イメージにもぴったりだ」

 それを買って秋に渡す。

 すぐに秋は髪留めを付け替える。

 ひまわりの装飾のついた髪留め。

 それでポニーテールをくくると、それを見せつけるようにふりふり尻尾を振って見せてくる。

 感想、言った方がいいのかな?

「我ながらいいセンスだと思う」

「うちを褒めーや!」

 ポニテビンタを食らうが、全く痛くない。

「いい匂いだな」

「なに嗅いどんねん!」

「自分でやっておいてそれ言う?」

 周囲にクスクス笑われたので、秋に引っ張られ店を出る。

「どうした?」

「恥ずい」

 初々しいカップルだとか思われたんじゃないだろうか?

 まあ、実際はそんなあっさりと語れる関係ではないがね。

 そんな平和な関係だったら、きっと幸せだっただろうななんて、そんなことを考える。

 そんな関係の誰かと、秋が一緒にいられたのなら、それが秋にとっては幸せだったんじゃないか、と。

 俺に関わらなければ、と。

 今更だな。

「さて、次の店に行くぞ」

「まだ連れまわすつもりなんやな」

「用事あったか?」

「ええよ。気にせんで」

「え?何かあったの?」

「用事はない。ただ、奏未ちゃんにお兄さんと仲良おすんなって言われとる」

 奏未はなにを言っているんだ……

「嫉妬やな。お兄さんを取られる思たんやな」

 多分正解。

「奏未ちゃんはかわええなぁ」

「お前も相当だが、そうだな。奏未は可愛いなんて言葉で言い表すことさえおこがましいようにさえ思えるほどだからな」

「べた褒めやな」

「嘘は吐けない」

「ふーん……」

 秋は俺に変態を見るような目を向けてくるが、やがて自分も可愛いと言われていることに気付き、顔を真っ赤に染めて黙り込むのだった。


「昼どないする?」

 あれやこれやと見て遊んでいた俺たちは、お腹の空き始めたころに飲食店を探し始める。

「うーん……なにも考えてなかったな。どうしようか?」

「おすすめの店とかないん?うちほとんどの店は行ったことないから、飲食店のことはよお分からんねん」

 俺は基本自炊だからなぁ……外食するほどの経済的余裕だってあるわけじゃないし、ここら辺の店には来ないんだよなぁ……

 適当に調べればいいか。

「うーん……俺もあまり外食はしないからなぁ……そうだな。ここなんかどうだ?家系ラーメンだ」

「いえけい?」

「家系ラーメン。ラーメン屋って友達が行ってるとか聞いたことあるか?」

「あんまりないなぁ……男子はよお話しとるけど、女子だとラーメン好きの集まった小さいグループが一つあるくらいやなあ。うちらも基本カフェやファミレスやし」

 奏未も節約頑張ってくれてるからな。

 まあそうなるな。

「いつもとは違う相手と食事に行くんだから、行きづらい場所に行った方がいい。奏未を連れて行くのは、抵抗あるだろ?」

「うん。ラーメン屋に奏未ちゃん連れてこなんて発想がないなぁ」

「それじゃあ決定だな。量結構あるから大盛りにはしない方がいいぞ?あと、スープは濃い味だからな、ご飯一杯無料だから、それを入れて雑炊にして食べるのがうまい。やってみるといい」

「行ったことあるん?」

「ここらで唯一行ったことがある店だ」

「よくそこチョイスする気になったなぁ」

「行けば分かるよ。俺がそこを進めたわけが」


 券売機で二人分のチケットを購入し、それを店員に渡す。

 テーブル席が埋まっていることもあり、俺たちはカウンター席で並んで腰を下ろす。

 ラーメンができるまで適当に話して待っていると、店員さんの掛け声の後でそれが運ばれてくる。

「うっま!なんやこれ!めっちゃうまいやん!」

 とりあえず、固さも濃さも油の量も全部普通で頼んだが、気に入ってくれたみたいだ。

「ああ、語彙力が足らん!」

 美味しそうに食べるなぁ〜

 一杯でもそこそこのボリュームがあるから、俺でも後で雑炊にすれば腹は満たされる。

 秋は麺を平らげると、残ったスープにご飯を入れ、レンゲですくって一口口に含む。

 先に食べ終えた俺は、秋が食を楽しむ様子を眺める。

 見られているのが気になったのか、食べ物で頰が膨らませたまま俺の方を見る。

 嫌だったかな?笑い返しておこう。

 恥ずかしがり屋な秋ちゃんは、俺の笑顔になにを感じ取ったのか、残りを口に掻き込んで、水を飲み干して手を合わせる。

「じろじろ見られると気になるわ」

「悪いな。美味しそうに食っていたから、つい眺めてしまった」

「見んのはええけど、顔ばかり見んのはやめてほしいわあ。恥ずかしいさかい……」

 そうして照れる様子がまた可愛い。

 満足した様子の秋を連れ、店員にごちそうさまでしたと言って店を出る。

「ごっそさん」

「こちらこそごちそうさまだ」

「なんでや?」

 可愛い秋がたくさん見れたからな。

「なんでだろうな?」

 これだけのことであの顔が見れるのなら、また誘ってみようかな?

 しかし、奏未の友人と二人きりで遊ぶことがあるとは、少し前まででは想像もつかなかったな。

「まあええわ。なんか満足しとるみたいやし」

「さてと、食休めにどこか落ち着ける場所に行こうか。この近くだと……カフェに喫茶店、図書館があるのか……」

 周囲の店を検索したが、落ち着けそうなのはこんなところか。

 図書館は秋にはどうなんだろう?

 俺は好きだが保留だな。

 カフェは入るのにあまり抵抗ないだろう。

 奏未はたまに行くっぽいし、たまに行くと秋自身が言っていた。

 せっかくだし、喫茶店に行くことにしよう。

「で?どこ行くん?」

「喫茶店。行ったことある?」

「ない。行く勇気が湧かんなぁ」

「なら行こう。俺も行ったのは1,2回だがな」

「勇気あるなぁ」

「特別勇気がいる場所でもないよ。この時間ならテーブル席も空いてるだろう」

 ラーメン屋の狭い店内で肩を並べて座るよりかはどのみち楽になるだろう。


 コーヒーを頼んで席に座る。

 今度はテーブルで向かい合わせだ。

 店内にはちらほらと客がいる。

 老人やPCを打つ学生らしき人、新聞を読む少し太った人、なるほど、時間に余裕のある人や落ち着いて作業をしたい人が利用しているのか。

 カフェだと話し声とか結構聞こえて落ち着けないからな。

 カフェの魅力は凝ったお菓子などにあるだろう。

 喫茶の魅力はこうした雰囲気にあるかもしれないな。

 運ばれたコーヒーを口に運ぶと、一緒に出されたお菓子を食す。

 俺はコーヒーが好きというわけではないが、なるほど、これはなかなかいいものだな。

 秋は注文した烏龍茶を飲むと、店内を見回し出す。

「どうした?」

「ええ雰囲気やなー思てな?」

「そうだな。こんな雰囲気の空間は、学生ではなかなか味わえないものだからな」

 図書館とはまた違った落ち着いた時間の流れがある。

 それはきっと、この場所に染み付いたコーヒーやたばこの匂いが、そうさせているんだろうな。

 今この店内でたばこを吸ってる人はいないし、灰皿も席に置いていない。

 長年蓄積がこの店の今を作り出しているのだ。

「しかしあれやな」

「どれだ?」

「こないな場所に来ると、なんや大人んなったみたいな気いするわ」

「大人ねぇ……」

「な、なんや失礼なこと考えてへん?」

「いや、大人な秋を妄想していた」

「なんや?興味あるん?」

「OL秋ちゃんは仕事に一途で、1日の締めには酒を飲むところまでは想像できた」

「え?うちそんなイメージなん?てかもっとあるやろ?」

「なんのことかさっぱりだ」

 ふくれっ面の秋は、お茶を飲んだらすぐに機嫌を直す。

 なんのことを言っていたのかは分からないが、気にしてない様子だしいいか。

「昨日はほんま助かったわ。ほんまおおきに」

 唐突にそう言った秋は、さっきまでの楽しそうな雰囲気とは違う、暖かく優しい、そんな笑顔を見せる。

「お礼まだやったやろ?」

「ああ……言われてみればそうだったな。昨日は謝られただけだった」

「せやから、おおきにやで」

「どういたしまして」

 そうして向かい合っていると、秋がムズムズし始めて、今日何度も見ている真っ赤な顔を見せる。

 そんな秋を何気なく見つめていると、ボンッと音がしそうなほどに顔が赤く染まり目をぐるぐる回す。

「はい終わり!この話はこれで終わりや!」

「店内ではお静かにな?」

「うっさいわ!アホ!」

 そんな様子の秋を、店内の者全てが微笑ましく見守っていた。

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