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最下層階級の絶望騎士  作者: ぶい


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それは決着ではなく始まり

 魔力は使い切った。

 予想していなかったリバウンドが、俺の体を傷つける。

 よく考えてみれば当然のことだ。

 絶望と希望がいかに近しいものだとしても、その性質は真逆なのだ。

 そしてどちらも強大な力。

 そんな力を性質変換を体内で行うなんて、ただの自殺行為だ。

 俺だからこそ耐えられたわけだが。

 これで倒れてくれるといいんだが……

「よくもやってくれたな」

 全魔力を注ぎ込んだ一撃だったんだが、どうやらやつには届かなかったようだな。

 俺の周りの靄が落下する俺をふわりと包み、着地の補助をしてくれる。

 態勢を整えて再び観察すると、悪魔の体にも多少の傷は見て取れる。

 だが、それだけか。

「なかなかやるな。これほどまでとは思わなかった」

 咳き込みながら血を吐き出した悪魔。

 見た目以上にダメージが入っていたことに驚く。

「希望の魔力か。実に興味深い」

 どうやら希望の魔力は悪魔に効くらしい。

 それもそうか、絶望とは正反対の希望なんて力の術式なんだから。

 それに、天使の魔力と呼ばれるものだしな。

 だが、困ったな。

 元々あの悪魔はどこかに魔力を送っていたんだが、それが止まってしまっている。

 魔力を持っていかれることを前提としてなんとか生き残れると考えていたが、これでは……

「魔力が……戻ってきた?」

「術式が終了したみてぇだな」

 たしかにリヴァプールの方角にあった謎の魔力は消えている。

 親父が何かを仕組んでいたのか。

「どうした?帰らねぇのか?」

「くっ……いいところで水を差してくれる……ッ!」

 なんだ?

 どういうことだ?

「分かりやすくなくてもいいから説明してくれ」

 親父にそう言うとすぐに返事が返ってくる。

「そいつのお仲間さんがピンチなんだよ。なぁ?『名もなき悪魔』さん?」

 悪魔は答えない。

「仲間?それは誰だ?」

 俺の質問を無視して、親父は悪魔に撤退を促す。

「どうした?すぐに行かねぇと殺されちまうぜぇ?」

 撤退なら撤退で、さっさと帰ってほしいな。

 俺の体の限界が近い。

「そうか。あいつが負けたのか。仕方ない。ここは引くとする。また会おう、愚かしくも勇ましい人間たちよ」

 その悪魔は転移魔法で消えてしまう。

 緊張感が消えて、身体中の痛みに膝をつく。

「ヒロト!」

 俺の名前を叫びすぐそばまで駆け寄ってきたティエラ。

 リーラも魔力がなくなったふらふらの足取りで俺のそばまで来る。

「何がなんなんだ……誰かワシに分かるように教えよ!」

 王様が何か叫んでいるが、今俺はそれどころじゃない。

 魔力の反転、思った以上のダメージだ。

 たしかに希望と絶望は紙一重だ、しかしだからといってその性質が近しいかと言われれば、決してそんなことはない。

 むしろその性質は乖離している。

 希望の魔力は天使の魔力と呼ばれるが、なぜそう呼ばれるのか。

 天使と悪魔はよく対比される。

 天使と悪魔で対比されている以上、その性質は対になっていなければおかしい。

 つまりは対応する反対の力であるとされている、ということだ。

 そんな反対の力への変換を体内で行えば、その負担は相当なものとなる。

 現に俺の体はボロボロだ。

 今俺は口からダラダラと血を流している。

 それを心配してティエラが何かを叫んでいるが、ダメだな、もう聞き取れなくなり始めてる。

 今回ので分かったことは、俺には希望の魔力自体には耐性があること、魔力の変換は危険だということ。

 そしてどれほど格が違う悪魔だろうと、希望の魔力ならそれさえも超越することができる、ということ。

 気を張れば立ち上がることだってできるだろう。

 しかしもう戦いは終わったんだ。

 休みたいな。

 寝たらしばらくは起きられなくなるだろう。

 しかし、こうも視界が歪んではな……

 リーラが俺の背をさすり、立ち込める熱いものを吐かせてくれる。

 吐き終えて少し落ち着いたところで、俺は体を支えてくれている二人に倒れ込む。

 とにかく今は寝よう。

 このままではロクに話もできないからな……


「お、おさまった……?」

「ふう〜一安心だぜい」

 皮膚が破れ真っ赤な肉を覗かせる手を抑えて、優日は大きな安堵の溜息をつく。

「お疲れ様でした」

 優日の顔には安堵より疲労の方が顕著に見られる。

 まさしくお疲れの様子な優日は、足を踏ん張れずに鎖のドームから滑り落ちそうになる。

 すると腕と繋がった鎖に引っ張られ大量の血を吹き出し、それと同時に苦悶の叫びをあげる。

 マキナが優日を持ち上げて、少し楽な態勢にする。

「た、助かるぜ……」

 痛みに涙を滲ませながらも礼を言う優日に、マキナはまるで自分のことのように悲しい表情を浮かべる。

 こんなになってまで戦った優日は、()()()尊敬する人物だと、マキナはそう再認識する。

 そして思考によぎった()()()という言葉を疑問に思う。

 どうしてそんな言葉が出たのか、知るはずのない優日を、まさか自分は知っていたのかと。

「もう、能力が維持できない。俺を、下まで運んでくれねーか?」

 当然だとマキナは頷き、鎖が消失すると同時に戦場となった街から少し離れたところで優日を降ろす。

「それでは我々は帰りましょうか」

「何言ってんだ!こんな状態のこいつほっぽってけってのかよ!そんなこと、おいらは御免だね!」

「……勝手にしてください」

 一人去っていくセーシン。

 しかしマキナには、セーシンが遠くで自分たちを監視していることが、なんとなく分かった。

「とりあえず手当てするぜい。一応消毒と包帯くれぇはいつも持ってんだ」

 優日を安心させようと笑顔を見せるマキナ。

 慣れた手つきでテキパキとこなしていき、消毒が染みて痛がる優日を無視して、さっさと処置を施す。

 そうしているときのマキナは、なぜかどことなく嬉しそうで、それにマキナが気付いた時、マキナは自分がなぜそんな風に思っているのかを理解出来ず、激しい苛立ちを覚えていた。

 感情なんてもの、理解できなくて当然なのに……

「旦那はこの後、どこかに行く予定あるか?」

「いや、特には言われてないぜ。連絡があれば電話するって言ってたし、何もなさそうなら休みたいぜ」

「休む場所残ってんのか?街がこんな有り様なんだぜい?」

「街外れのホテルだからな。無限の牢獄(ザ・プリズン)の外でどんぱちしてたやつらが破壊してなければだが、そこに荷物も置いてあるし、残っていることを祈るぜ」

「それなら送るぜい。まだこの街は安全とは程遠い。おいらなら探すのも手伝えるし、それなりに戦力もある。ドーンと頼ってくれていいぜい!」

「そうか……そうだな。それじゃあ、頼らせてもらうぜ」

 優日は包帯の巻かれた腕、能力の使えない体を、マキナに預けて運ばれる。


 どこだ!

 どこかにまだいるはずだ!

 やつはまだ生きてる!

 そんなことくらい分かってンだよ!

 出て来い、『死神』!

 自分が蒸発させた瓦礫だらけの街をドカドカと足音鳴らして歩き探す。

 大樹があった場所にはおらず、その周囲から徐々に遠くを探している。

 簡単には感知できないのは百も承知。

 だからこうして目視で探している。

 爆発の中心地から遠くに行けば行くほど、瓦礫の形は建物のだと分かりやすくなり、それ自体も大きくなっていく。

『死神』本体が待ち受けていた噴水広場に着くと、そこには新芽が吹いているのを確認する。

 これは……こんな形で『死神』の影響が残っているとはな。

 それを摘み取ろうとして、しかしそれがなんの異常性も持っていないことを認識し、能力によるものでもないという確信を得ると、それから手を離しその場から離れる。

 これがお前の……

 だがな、『死神』、文化ってものは、自然を破壊するだけじゃないんだよ。

 『死神』の目的、『死神』の怒り、『死神』の屈辱、『死神』の恐怖、様々なことを同時に理解し、それらの全てに否定の言葉をぶつけていく。

 違うんだ、オレやお前がそうでないように、人間ってものは、破壊するばかりではないんだよ。

 街の中に誰かが突如として出現した。

 この気配は『死神』ではない。

 オレの仲間でもない。

 つまりは『死神』の仲間である可能性が高い。

 『死神』の仲間には『死神』の居場所が分かるかもしれない。

 急いでそいつを、捕らえる!

 向かおうとして向きを変えた時、その反応は消失する。

 できれば逃したくなかったが、仕方ない……

 ……………………

 ………………

 もう『死神』は逃げてしまったかな?

 それなら僕も帰るかな?

 腹の虫が鳴く。

 リヴァプールの拠点は使い物にならないだろうと、別の拠点に向かう。

「ここからだとマンチェスターが一番近いかな?」

 空腹のフォーコは翼を広げ、空を飛んで東へ向かう。


「まったく……お前は何をやっているんだか」

 培養液に頭と背骨だけになった『死神』を入れる『名もなき悪魔』。

 普通なら死んでいるような状態だが、その目は培養液の中でギョロリと『名もなき悪魔』に向けられる。

 口を動かすが、喉頭がなく、培養液に漬けられていて声は伝わらない。

 『名もなき悪魔』が機械を操作し密閉された容器から空気が抜かれ培養液で満たされる。

『安心しろ。話さなくても言葉は聞こえる』

 これが悪魔と人間の契約の一つ、“(ちかい)”。

 契約者同士はお互いの居場所が分かり、なおかつ距離が近ければ心の内で会話をすることが可能。

『負けたのだよ』

『そうだな』

『さすがは1位なのだよ』

 当然ながら『死神』が第1位と戦っていたことを『名もなき悪魔』も知っている。

 しかしこんなにも無残な状態で帰ってくるとは思わなかった。

 むしろ勝つことさえ想像していた。

『歌わなかったのか?演奏しなかったのか?序曲さえも弾けなかったのか?』

『歌えていれば、弾けていれば、こんなことにはならなかったのだよ』

『ソロもアリアもアンサンブルも、何もできなかったのか?』

『そうなのだよ。何もできなかったのだ。準備はしていたが全て破壊され尽くした。俺のオーケストラは鎖の大蛇に壊滅させられたのだよ』

『それは、災難だったな』

 それがおそらく六火の指示によるものだと、『名もなき悪魔』は理解した。

『ともあれ、お前が無事でなによりだ』

『しばらくはこのまま指示を出すのだよ』

『ああ。ここには誰も入れない。俺が直接指示を受け、伝達しよう』

『任せるのだ。理想の世界のために』

『理想の世界のために』

 そして復唱した後で、『名もなき悪魔』は部屋を出る。

 培養液の中で『死神』はその頭を木のような材質に変えて、それは植物のように、自分からは一切動くことがなくなった。

 背骨は木の根のようになり、そうして培養液の中に佇んでいた。


 宮殿の一室に、国王と第3王女、そして2人の王子に第2位と第8位が顔を合わせる。

「何があったのかは大体分かった」

 現国王、ジェームズ・ヴァーミリオンに、つまりは自分の父親にことの顛末を説明し終えたティエラは、広人に処罰が下らないことにホッと胸を撫で下ろす。

 同席しているルーリックは、自分が殺そうとした妹と同席していることが気恥ずかしいのか、照れたように視線を逸らしている。

 広人に乗せられ本音を語ってしまったのでは、恥ずかしがるのも仕方がない。

 ジェームズは厳しい視線をルーリックに向ける。

 それがたとえ国民のことを思った行いだとしても、家族を殺そうとしたことは許さない、そういった、家族に向けるべきではない憤怒の視線。

 厳罰を科そうとするジェームズを六火が制止する。

「ワシは家族だからと甘やかしたりはせん。貴様の息子を殺そうとしたことも含め、相応の罰を下すつもりだ」

「それなんだが、罰を下すのは広人にやらせてくれねぇかな?」

「何が不満なのだ?公正に裁判にかけると言っておるのに」

「それが問題なんだなぁ〜これが。そんなことをすれば公的記録にお前らから犯罪者が出たことを残すことになるんだよ。あいつはそんなことを望まねぇ。とにかく、議論ならあいつが起きてからだ」

「むぐぐ……ティエラ、お前はどうしたい?」

 広人と同じ被害者であるティエラに矛先を向けるジェームズ。

 しかしティエラは広人に丸投げという判断を下す。

 ティエラは自分が守られていただけだということをよく理解している。

 ティエラは何もしていない。

 ほとんどが広人の功績で、残りはリーラの功績で、広人に頼んだわけではないが、広人が危険な目にあったのは自分が原因であると思っている。

 広人を危険な目に合わせた自分には、ルーリックを裁くことはできないと、そう語る。

「本人がそう言うなら仕方ねぇよなあ?」

 王家としても隠しておきたいのは山々だ。

 そうできるに越したことはないが、それでは気が済まないのが真面目な王様ジェームズだ。

 しかし当の被害者である広人が寝込み、ティエラが広人に委ねると言うのであれば、ジェームズに口出しはできない。

「仕方ない。それではこの件は一旦保留にさせてもらおう」

 イタズラな笑みを浮かべる六火。

 その表情は明らかに何かを企んでいると、ジェームズは自分の判断は早計だったのではと考え直す。

 しかし言ってしまった以上は、その言葉に責任を持たなくてはならない。

 前言撤回など、立場ある者が容易にできることではないのだ。

 六火はそれを知ってか知らずか、話し合いは終わったと席を立ち部屋を出て行く。

「国王であるワシを前にしてあれとは、緊張感のないやつよ」

 六火の退室を皮切りにそれぞれが退室していく。

「ティエラ、またあの少年のところに行くのか?」

 最後に退室しようとしたティエラを、ジェームズが呼び止める。

 その呼びかけにティエラは、ジェームズに久しく見せていなかった笑顔で頷く。

 ティエラが退室した後の部屋で、ジェームズは一人頬杖をついて考えに耽る。

「もうそんな年頃、ということよのう……」


「お待ちください」

 六火は落ち着いた声に呼び止められる。

「何か用かあ?」

 振り向くとそこには金髪で長身の好青年が立っている。

「あなたは最高クラスの狩人(ハンター)、世界に10人といない狩人(ハンター)の1人」

「だったら?」

「申し遅れました。私は第一王子、ドレイク・ヴァーミリオン」

「知ってる」

「あなたに質問させてほしい」

 王子と狩人(ハンター)、立場が異なれば所有する情報も変わる。

 最高クラスの狩人(ハンター)ともなれば、所有する情報は国連さえも把握しきれていないものもある。

 今回の事件、リヴァプールでの一件については当然把握しきれておらず、カメラ映像も一切残っていない。

 国連としてもイギリスとしても、一切の手がかりがつかめておらず、調査するにしても安全性の保証はない。

 そんな場所に調査隊を送り出すわけにもいかず、藁にもすがる思いのドレイク。

「内容によっては答えねぇぞ?」

「それで構いません」

 六火はドレイクの冷静な表情から微かな緊張を読み取り、立場、時期、状況、それらを加味して意図を探る。

「リヴァプールでのことを知っていますか?」

 予想通りの言葉に、用意していた言葉を怪訝そうな表情で話す。

「何を言っているんだぁ?」

 分からない、とそう言う六火に、ドレイクは眉をひそめる。

「今回の質問は、あなたが先ほどおっしゃった『内容によっては答えない』、に抵触する内容でしたか?」

 それは六火が何かを知っていることを知っていると言うかのように、そう発せられた言葉。

 しかし六火はそれがカマかけだとすぐに気付く。

 知っていて秘匿している可能性を考慮した上での言葉に、六火はドレイクの認識を改める。

「へぇ〜、そんな返しをするのかぁ……」

「……申し訳ありません。少し回りくどい言い方をしましたね」

「それもまた興味深い返しだなぁ……いいぜぇ?このわしにカマをかけるその根性に免じて答えてやる」

 一瞬身構えたドレイク。

 しかし続いた言葉に警戒を解く。

「まあ、お前が信じられるかどうかは、分からねぇけどなあ!」

 ガハハと笑う六火。

 映像記録の残っていないリヴァプールの一件、当然ドレイクは六火の言葉を疑ってかかる。

「あれは第1位と第5位によるぶつかり合いだ」

「……は?」

 新たなる可能性(ネクスト・ステージ)が1人いるだけでも信じがたいことなのに、それが2人、しかも片方は第1位ときた。

「なぜ1位と5位が?」

 決して信じていないドレイクが、信じられる根拠を示せと言う。

「1位と5位が戦っていた理由は、わしの予想でよければってことになるなぁ」

 六火も2人が、二つの組織がぶつかっていた理由までは知らない。

「それで構いません」

「そうか……それでだ、1位と5位がぶつかっていた理由だが、1位には元々彼ら、捕食者(プレデターズ)を追っていた様子が見られた。わしの見た限りでは、あれは仲間を殺された仇討ちに1位が仕掛けた戦いだな」

「仲間を殺された仇討ち?そんな理由で街一つ滅ぼすのですか?」

「あれにとって人間は、悪魔も、復讐の対象となってもおかしくない存在だ。第1位、彼はかつての戦争で、大切な人を奪われたんだよ。だから人間の街がどうなろうと知ったことではねぇってことだ。そしてそんな経験をしたからか、身近な存在を奪われるのが許せない、んだろうなぁ……」

 しみじみとそう語る嘘くさい六火の話だが、ドレイクはそれを信じようと思った。

 第1位に人間らしさがあった方がまだ対処のしようがあるという希望的観測。

「わしの仲間が被害は最小限に抑えた。第5位のやろうとしていた神殺しの術式も、わしが阻止した」

「……あなたは1位の仲間なのですか?」

「違うな。わしは今回たまたま1位側にいたってだけだ。やつらの目的によっては、敵にもなるし味方にもなる」

「嘘のような話ですね」

 1位と5位、神殺しの術式、そして六火という最高クラスの狩人(ハンター)の存在。

 信じがたい言葉を次々と並べ立てた六火。

「紛れも無い事実だ。言わせてもらうが、基本的には新たなる可能性(ネクスト・ステージ)の相手は新たなる可能性(ネクスト・ステージ)にしか務まらん。だから集まるのは仕方ねぇことなんだ」

「たしかにそうだと思いますが……」

「これから先、こんな機会が増えることになる。理解できねぇのなら今回で慣れろ。そうしねぇと、この国はこの先、やつらによって滅ぼされるぜぇ?」

「ご忠告感謝します」

「一応5位の資料は印刷しておいた」

 六火は荷物の中から何枚かのプリントを渡す。

 ドレイクは知る。

 六火はドレイクが話しかける前からこうなることを知っていたと。

「あなたはいったい……」

「わしか?わしは第8位、新たなる可能性(ネクスト・ステージ)だ」

 歩き去る六火を見送ったドレイクが呟く。

「あの方が予見者でしたか……」


「広人の様子はどうですの?」

 王宮内のティエラの自室のベッドで眠る広人。

「相変わらずぐっすりですよ」

「そうでしたの……」

 広人の様子に責任を感じるティエラ。

 リーラは無表情だが、広人の手を固く握っていることから、心配していることが見て取れる。

 未だに信じられないティエラ。

 ティエラとルーリック、ウォルレスにジェームズは、六火から広人が不死身だと聞いた。

 簡単に信じられることではないが、広人の傷は放っておいても勝手に修復された。

 心配する様子の一切ない六火がその証拠だが、ティエラはそれでも心配だ。

 リーラも広人が不死身だと知っているが、心配している。

「不死身、ですのよね?」

「です。広人さんが全身を刃に貫かれているところを見たことがあるですが、このように綺麗に治ってしまったですよ」

 大阪での広人と一刀(いっと)の戦闘を思い出しながら、リーラはそう不死身である事実を確認するように語る。

 広人の静かな寝息。

 心配する二人の眼差し。

 六火は翌日の朝に目覚めると言っていた。

 しかし広人はこのまま目を覚まさないのではないかと思わせるほど安らかに眠っている。

 2人には信じることしかできない。

「きっといい夢を見ているから、起きたくないだけですよ」

「そうだと、いいですわ」

 ティエラは広人の頬に優しく触れて、その体温を肌で感じとる。

「食事の用意ができました」

 扉の向こうから声がして、ティエラは名残惜しそうにその手を離す。

 リーラも握る手を放し、ティエラに続いて部屋を出る。

 残された広人は眠り続ける。

 その安らかな寝息は、きっといい夢を見ているだろう。


 もう電車が駅に入る、という時に優日が口を開く。

「これは相談なんだが……」

「おうよ!おいらで力になれることならなんでも言ってくれ!」

 内容を聞きもせずにそう答えるマキナ。

 優日はそれならとちょっと踏み込んだ相談をしようと思ったが、それはなんとか踏み止まって、本来の相談を持ちかける。

「お前ってナイフとか作れないか?」

「ナイフ?」

「ああ。こんなナイフなんだが……」

 優日は昔広人が使っていたナイフの写真をスマホで見せる。

「作れるぜい。だけどよ、なんでナイフなんでい?」

「俺の友人に必要なんだよ」

「その友人ってどんなやつだ?」

 あれこれ気になるマキナ。

 ナイフ自体も気になっている。

 しかしそれはさておいて、優日の友人関係の質問をする。

 自分でもなぜそれを聞いたのかは理解していない。

「あー……そうだな。不思議なやつだよ。あいつは。格上相手でも倒せるくせに、自分は最下層だなんて言ってる」

「そいつは興味深いなぁ……」

「たしかに階級は紫だけど、だからといって最下層だなんて自分を卑下にしなくてもなぁ〜」

「いや、それは卑下にしてるわけじゃないぜい」

 駅を出てバスに乗り込む2人。

 観光地へと向かう道すがら、時間潰しにマキナは話を長引かせようとする。

「そいつが言う最下層はきっと、階層構造の意味での最下層だ。階級ってものは簡単にその壁を越えることはできねぇもんだ。それが階級だぜい」

「それで、階層構造ってのとはどう違うんだ?」

「階層ってものの境界は曖昧なものなんだ。だから越えるのは簡単だし、階層の移動は頻繁に発生する。本来簡単に変えられない、とされる階級なんだが、それをそいつは簡単に変えられるものだと考えているんだろうぜい」

 それを聞いて優日は、階級はやはり階級と呼ぶにふさわしいものだと思った。

 しかしマキナがこう語ると言うことは、何か移動を行う方法を知っているのだと考える。

「興味深いことを教えてくれた礼ってわけじゃねぇけどよ、作ってやるぜい。それよりさらに性能のいい、最高のナイフってやつを」

「それならついでにこれも作って欲しいぜ」

「おいおい、請け負ってからの追加注文はなかなか困るぜい?」

「最初の注文が礼じゃないなら、これはお礼がわりに頼むぜ」

「調子のいいやつだぜい。……こんなちっこいサイズでいいんですかい?」

「ああ。これでいいぜ。あいつは両方揃って真価を発揮するからな」

「ついでにそれ用の服も作ってやるぜい」

「おっ!気がきくねー」

 優日はスマホに保存してある広人のサイズデータを見せる。

 よく服をダメにする広人だから、自分が制服の注文に行けない時ようにサイズを教えていたのだ。

「んで、完成したらどこに届けたらいいんですかい?」

「ああ、それなら俺に届けてくれ。お前の手渡しじゃああいつは信用して受け取らねーかもしれないからな」

「りょーかい」

「あ、俺の住所は勝手にそっちで調べてくれよ」

「なんでそこだけ協力的じゃねぇんだ!はぁ……がってんでい。任せておけってんだ」

「頼むぜ」

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