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最下層階級の絶望騎士  作者: ぶい


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短く長い戦いは、最後に彼に光を与える

 観戦していた悪魔たちは、フィリアのひと睨みで散っていった。

 鬼門がほとんど閉じかけて、俺は体を走る激痛に悶える。

「広人、大丈夫なの?」

 喋るのも辛いので目で訴える。

 伝われ!この思い!

「大丈夫そうね」

 そんなわけないんだよなあ!

 鎖同士が擦れるような音が響き、日溜の到着を知らせる。

 中に黒白凰も乗っているようだ。

 後ろに繋がった車には、氷に覆われたあの夜の死体が載せられている。

 よく止めれたな。

 他にもエンジン音がするから、車が接近していることが分かる。

 悪魔でも人間でも嫌だなぁ。

 どちらにせよ俺は敵だと思われるからな。

「ヒロ君立てる?」

 しゃがんで俺に訊ねてくる夢花。

 能力を使えば会話できるだろ!

 俺に触れろ!

 能力を使え!

「話すのもできないくらいひどいのかー」

 分かったなら能力を使ってくれよ!

「派世ぇ!」

 日溜が合流してきたところで、エンジン音が止まる。

 視線をエンジンのした方へと向けると、そこには領土警備軍が。

 予想はしてたし、特別驚くことではないな。

 ここにいる誰もが軍の接近には気付いていた。

 ここにいる誰もが軍の出現に驚かない。

「ご苦労様」

 黒白凰のやつ、ご苦労様なんていう上からな物言いで軍へと呼びかけている。

 度胸のあるやつだ。

「なぜ勝手に侵入している?」

 ここにいる部隊を率いているらしい男が、黒白凰に質問する。

 ガバガバ警備でよく言うよ。

「なぜ?理由を話してどうなるんだい?」

 能力を使う余裕もないくせに、どうしてそう挑発的なんだあいつは!

 これには日溜もニッコリ。

「さて、交渉開始だ」

 これは……あれだな。

 間違いない。

 黒白凰が軍を呼んだな。

 正確には呼ばせた、か。

 このために輝咲を連れてきたのか。

「交渉?何を?」

「決まっている。報酬の話さ」

「報酬?何を言うかと思えば、そんなもの、手続きを済ませ依頼として来なければ無効だ」

 そんなに金が欲しいのか?

 いや、欲しがっていても不思議はないか。

 あいつには輝咲がいるからな。

「手続きを踏まえることはできないよ。なぜなら、僕は狩人(ハンター)ではなく、彼らはまだ学生だからだ」

「それは狩人じゃない貴様が悪いだろう」

「そうかな?」

「そうだとも」

 言い方を変えた方がいいな。

 報酬が欲しいのなら、軍をあっと驚くようなことを言って、流れを自分のものにしないと。

「それなら、こう言ったらどうかな?ここに逃げ込んだブルグルフを追って攻め込んだ、と」

「何?」

 ブルグルフ、八田月が追っていたから、間違いなく軍も追っているだろう。

 これなら効果的な言葉だ。

 そのまま自分のペースに持ち込めば勝ちだ。

「彼の運ぶあれが証拠さ。そしてちゃんと倒してきたよ」

「調べろ!」

「ダメだ!」

 咄嗟に拒否する日溜。

 ようやく取り戻せた父親の体。

 軍に渡れば呪いの研究のために開かれるのは確実だからな。

 瘴気が残ってなくとも、そんなことは知る術がないから、とりあえず開くのが医者や軍だ。

 呪いはCTじゃ分からないからな。

「なぜ?」

「俺の父親の死体だからだ!それに、呪いは解いた!だから調べても何も分からない!」

「呪いを解いた?」

 言わないで欲しかったが、奏未が来れば特に問題なく解決するだろう。

「ならばその術を教えろ。そうしたら報酬もいくらかは考えてやろう」

 考えてやろうってことは、まず間違いなく考えるだけで支払われることはないってことだな。

「隊長!たしかに顔はブルグルフの連れていた死体と一致します!」

「……嘘ではないようだな」

「話を戻そう。君たちポンコツ軍隊に変わって僕がブルグルフを倒したわけだけど」

 言い方にトゲしかないな。

「そのついでにここの悪魔も大方片付けた」

「ご苦労だったな」

「そして、それを君たちの成果にしようにも、流石に無理があると思うんだ」

「どうしてそう思ったのか、話だけは聞いてやる」

 奏未遅いなー

 先にバスに戻ったのかな?

 なんて余所事を考え出す俺。

「君たちがこれまで何もできなかったから、ここはレッドゾーンとして残っていた。そしてブルグルフも、君たち軍が手こずっていた相手だ。取り逃したり返り討ちにあったりと、君たちに倒せるはずがない、というのが大多数を占めるだろうね。そこに僕の存在がちらつけば、話は変わってくる」

「貴様の存在で大衆の意見が変わると?」

「そうだよ。何せ僕は13位だからね」

 軍からざわめきが起こる。

 別に13位くらい……俺は新たなる可能性(ネクストステージ)相手にしてたんだが?

 というか、統率の取れてるはずの軍隊をざわつかせるなんて、それだけ影響力を持つんだな。

「だから君たちは僕の言ったように、報酬を払うべきなんだ」

「しかし、予め明記された手順を踏まずに、こなせたからと報酬を得られると思っているのか?」

 隊長さんが何か言っているのを横に、俺は体を起こそうと力を入れる。

 痛みには慣れているが、この痛みは鬼門じゃなければ味わえない。

 体の奥底から痛みが湧き上がる。

 鬼門を使うと、体の内側から外側へと、残った力が向かっていく。

 鬼門が解けたその時は、皮膚が破けて大量の血が噴き出すんだろうな……

 それだけで済めばまだマシか。

 交渉を黒白凰に完全に任せた俺は、もはや耳も向けない。

「君たち兵隊だけではこなせないことを、僕たちが達成してあげたんだ、もらえて当然だと思うけどね。そして大阪が取り戻せたことはすぐにでも伝えるべきことだ。だからこの後すぐにでも、軍本部に伝えられる。それを悪魔も知ることになる」

「そういうことか」

「気付いたね。全てを君たちの手柄にしようとするなら、それは日本に悪魔と戦争する気があるとみなされるだろう。しかしそこに僕の名前が出れば、話は大きく変わってくる」

「このクソガキがッ!」

「僕が個人的事情で行ったのなら、悪魔の敵意は僕に向かい、日本は戦争を免れる。今は一触即発の状況。取れる選択肢は限られている」

 少し体を起こし、黒白凰を視界に捉える。

 なんだがまずい雰囲気だからな。

 黒白凰のやつはすでに体力をほとんど消耗しているはず。

 日溜の能力でここまで戻ってきたことが、何よりの証拠。

「それにね。依頼書の文言は、大阪を取り戻せた者に六億くれてやる、と書かれている。つまりは、依頼を達成する必要は、無い。と言っても、僕たちが全額持っていくのもおかしな話であることは認めるよ。だから半分。三億で手を打とうじゃないか」

「ふざけるな!それらを認めたら、名誉も報酬も貴様にに集中するだろ!そんなこと許すと思うのか!」

 名誉を欲していると分かった黒白凰。

 隊長さんはかなり頭に血が上っているようだから、そろそろ危険だな。

「君が許すかどうかは重要ではないよ。君は僕のことを含め報告する。そうなれば自然と、僕に名誉は集い報酬も払われる」

「それは……貴様が生きていればの話だ!」

 銃が取り出され黒白凰に向けられる。

 ハンドガンだ。

 銃に詳しくないからあれがどんな性能なのかは分からないが、そんなこと知る必要はない。

 その引き金が引かれる前に、残った力を足に集めて、黒白凰と隊長の間目掛けて、地面を強く蹴る。

 放たれた銃弾。

 しかし今の俺には、それすら止まって見える。

 二度目の銃声。

 俺は腕を伸ばして銃に手をかける。

 そして反対の手で後に放たれた銃弾を掴む。

 マズイ、先に放たれた銃弾に手が届かない。

 いや、大丈夫だ、こんな時のための魔力がある。

 魔力を伸ばして銃弾を掴む。

 よかった、ちゃんと掴めて。

 そして俺はそのまま建物の壁に頭から突っ込む。

 首の骨が折れたような気がするが、まあ大丈夫だろ。

 銃を強引に奪い去られ、トリガーにかけていた指が折れたらしい隊長がその指を抑えて苦しんでいるが、人に銃を向けたんだから仕方ないよな。

「クッ……なんだ今のはッ!」

「そんなことより、僕は今の君の行動の方が気になるけどね」

「チッ」

 自分で立場を悪くしたな。

 魔力で首を戻すと、首から大量の血が溢れ出す。

 傷が治らないな。

 このままだと大量出血で……いや死なないわ。

 今までもこういうこと何度かあったし。

 しかし、しばらく傷の治りが遅いのは辛いな。

 首の骨はしばらく折れたままってことだもんな。

 それだけならいいが、じきに鬼門が閉じきる。

 そうなったら、鬼門の反動が俺の体を本格的に襲う。

 おそらくこれまでよりさらにひどい状態を晒すことになるだろう。

 今までであれば、外皮が破れ肉が弾けて血が噴き出すくらいで済んでいたが、今回は三段開門だ。

 全身に亀裂が走って肉も骨も木っ端微塵くらいは覚悟しておかないとな。

 聞いた話だと、三段開門の反動は開いた人間がもう二度と普通の生活を送れなくなるくらいらしいからな。

 自分の仕事が済んだからと、のんびりとこの後のことを考える俺。

 って、鬼門閉じたし。

 奏未も到着したようだし、もう心配いらないな。

「なんだこいつは?」

「隊長、電話です」

「何だ!」

 電話に出る隊長。

「……ッ!」

 相手の声を聞いて、血相を変える隊長。

 言葉を聞いてかな?

 まあどっちでもいいか。

「そんなッ!何言ってるんですか!……あ、いえ、命令を聞けないとか、そういうことではないんです!はっ!了解しました!」

 電話だというのに敬礼なんかしちゃってる隊長。

 しかしその顔は納得してないな。

 相手は上官だろう。

 なんの説明もされてないが奏未が少し得意げな顔をしていることから、間違いなく本殿に連絡を入れていたと分かる。

 はい、話し合い終了。

 日溜が俺の元へと駆け寄ってくる。

「お前すごい見た目してるな。出血もひどい。早く病院に連れて行ってやるぜ」

 俺は話そうとして、首がやられていたせいで話せず、魔力で首を簡易的に修復しておく。

 話せないのは不便過ぎる。

「大丈夫だ」

「大丈夫なわけないだろ!」

 体の各所で、骨の砕ける音がする。

「病院には連れて行かないでくれよ。俺はこの程度では死なない。物凄く痛くはあるが」

「何言ってんだ!お前このままだと死ぬぞ!」

「大丈夫だ。明日には……明後日には治ってる」

 明日完治するとは思えないからな。

 それほどにはダメージが大きい。

 フィリアと夢花も俺の元へと集まってくるが、その顔に元気はない。

 やっぱり心配してるよな。

 死なないと知っている二人でこれだ、日溜の心配はいったいどれほどのものだろうか?

「バスまで運んでくれ。家に着くまでにはかなりマシになっているはずだ」

「バスまでって……」

「病院には連れて行くなよ。紫ってだけでかなり待遇悪いのに、今のこの怪我だとバカみたいな額が請求されるからな」

 日溜なら分かるだろ?

 病院にかかることがどれだけ他人に苦労をかけるのか。

 話し合いが終わり、奏未と黒白凰が帰ろうとする。

 日溜が鎖で俺を持ち上げて、なるべく揺らさないようにと慎重に運ぶ。

 何度もフィリアにおぶらせるわけにもいかないからな。

 日溜が余力を残していてくれて助かった。


 俺はバスの最後部の五人座りの座席に寝かせられ、そのままバスが発車した。

 輝咲とリーラはすごい驚きようだったが、今では落ち着いている。

 ちなみにバスに戻るまでの間に、鬼門の影響で生えていた角はなくなった。

 バスの後ろには鎖の車が繋げられ、日溜の親父の体が運ばれている。

「広人角生えてたよね?あれ、何?」

 フィリアがそう訊いてくる。

 答えは分かっているだろう。

 つまりこれは確認だな。

 嘘を吐いても見破られるだけだし、そもそも嘘を吐く気はないし、答えるしかないよな。

 奏未に目配せして答えてもらうように伝える。

 俺は話せるが痛みはある。

 応急手当てしかしてないからな。

 俺の視線が奏未に向けられたことで奏未が答えると分かったみんな。

 全ての視線が奏未に集まる。

 俺の指示であったこともあり、奏未はあっさりとそれを告げる。

「鬼門、おそらくその三段階目だよ」

 そして確認が取れたフィリアは、さらに表情を険しくして俺を睨む。

 こっちは怪我人なんだがな。

「どうしてそんな無茶な力を使ったの?」

 どうしてって言われてもなぁ……

「使わなければ倒せなかった」

 それだけなんだよなぁ。

 俺は使いたくて使っているわけではないし。

「鬼門って何だ?」

 日溜の純粋な疑問に、フィリアが答える。

「鬼門は人が鬼の力を得られる技術。広人の有り様を見て分かるように、使った後は反動で体がぼろぼろになる」

 奏未と夢花には言ってあったから、俺が無茶することは分かっていた。

 フィリアも薄々感じていただろうけど、さすがにこんなになるまでとは思っていなかったようだ。

 多くの者は誰かの苦しむ姿を嫌う。

 そういう道徳観が、世界のどこでも見られるからな。

 フィリアや日溜、輝咲もその例に漏れない。

「お前バカだろ!そんなになってまで戦って、死んだら終わりなんだぞ!」

「死んだら終わり、その通りだ。だが、大丈夫だ。俺は死なない」

「何バカなこと言ってんだよ!どんなに強くたって人間死ぬ時は死ぬんだよ!」

 日溜の言い分はよく分かるが、俺は不死身だからそれは当てはまらないんだよな。

「それでも俺は死なない」

「例え死ななくても、痛みは伴うはずだ!俺はお前にそんなになってまで、戦って欲しくない!」

 これには黒白凰以外みんな賛成のようで、どこか共感のようなものが見られる。

「お前はもう鬼門を使うな。俺が代わりに戦うから」

「ありえないね」

 ここで否定したのは俺ではなく、前の方の座席に座る黒白凰だ。

 俺も否定するつもりだったが、黒白凰も俺と同意見なのだろうか?

 暗技が使えないと読めないから話を聞かなきゃならんのが面倒だな。

「彼の代わりに君が戦うなんて、ありえない」

 少し怒ったようにそう言った黒白凰に、お兄ちゃんの言うことは絶対、なのか、輝咲もうんうんと頷く。

 話が分かっているのかどうか怪しいな。

「彼は彼の意思で戦っている。誰かが戦うなんてありえない。それは君が君のために戦うだけ。彼には彼の戦いがある。君には君の戦いがあるはずだ。彼の戦い干渉するのは君の自由だけどね、君のは彼の意思がない。だからありえない」

 俺の言いたいことと大体同じだ。

 さすがは黒白凰だな。

「たしかにそうだが……それでも俺は戦って欲しくない。こいつが傷つくのを見たくない」

「それは彼も同じだ」

 日溜が傷つこうが俺はどうでもいいが、まあ死んでほしくはないから、そういうことにしておくか。

「そうだとしても、こんな戦い方、認められねえ!」

 日溜がぐるりとみんなの顔を見回す。

 みんな日溜の言葉が、思いが理解でき、だからこそ、黒白凰の言葉が深く刺さる。

 誰しも自分の戦いがあるということ、それは戦場を知る奏未には、フィリアには、夢花には、理解できすぎてしまう。

「お前には言われたくないな」

「何?」

「お前のその頰の傷。それは敵につけられたものではない。内側から破れたものだ。つまり、お前は身体の限界を超えて能力を使用したということだ」

「んなッ……⁈」

 その傷に気付いてさえいなかったようで、傷の存在を確かめるように撫でている。

 それも国連のブラックリストに載った技術だ。

「俺が鬼門を使ったように、お前はリミットブレイクを使用した」

 奏未とフィリアは知っていたようだ。

 俺から出てきたその言葉に、フィリアは驚き奏未は納得を示す。

「俺たちは自分の戦いしかできない。気にするだけ損だぞ」

 話に一区切りついたところで、黒白凰が手を音を立てて合わせ、それを合図にみんな納得しないまま口を閉じる。

 それぞれがそれぞれの思考を重ねる中、俺は寝返りも打てない体で眠りにつくのだった。


「着いたぜ」

 俺は日溜の声に起こされる。

 バスは俺の家の前に停まっていた。

 体はまだ動かない。

 寝て体力を回復した奏未が能力を使い俺をリビングのソファーへと運び、日溜は父の亡骸を病院へ運ぶため、そのまま能力で病院まで行くらしい。

 フィリアと夢花、そして輝咲はすでに家に送ったそうだ。

 残った三人を家に上げる。

「おつかれさま、派世広人君」

 涼しい顔してるな。

 まあそうだよな。

 寝て体力を回復したようだからな。

 俺のような傷があっても、今の黒白凰なら能力で治せてしまう。

 そうだ、黒白凰の能力があれば……

「俺の体を治してくれ」

「無理だよ」

 即答か。

 しかし、無理ときたか……

 能力を使う体力はあるだろうし、最初は敵だったが、今は敵対する理由がない。

 協力したのだから、俺を治さないのは気持ちの問題ではないだろう。

 ならどうして治せないのか……

「すでに君を治そうとはしたよ。でも、治せなかった。人でも悪魔でも時間を巻き戻すのは可能なはずなんだけどね。なんて言ったらいいんだろう……そうだね。無理矢理表現するとしたら、僕の知る時間の流れと違い過ぎた、かな?」

 全く意味が分からん。

「僕は死にゆく人を生き長らえさせることはできない。それは時間が、この世界から外れかけてしまっているから。死者の世界の時間軸に切り替わっているのかな?そんな感じで、多分君には君だけの、いや、鬼門という別の時間軸に切り替わっていたんじゃないかな?」

 別世界の時間軸か……

 鬼道と仙道は真逆に位置すると言われている。

 仙人には仙人界なるものがあると聞いたことがあるが、そうなると鬼にも同じようにあってもいいと思う。

 そしてそれらが死者の国同様に、時間の流れがこの世界と異なっていてもおかしくない。

 鬼門を使った俺が能力で時間を戻せなかったのはそういうことか。

「だが、それだとおかしくないか?」

「何か気になることでも?」

「ブルグルフ、あいつは死霊使い(ネクロマンサー)だ。時間に逆らい死者を呼び戻すブルグルフにも、お前の能力は通じないんじゃないのか?」

 死霊使いも一応人間ではある。

 しかし、時間の流れからは外れていると言えるだろう。

 そもそも人間からもかなり外れている。

「僕の基本攻撃は、相手の存在時間を揺さぶり、崩壊させること。それ自体は自分と相手の時間の違いなんて関係ないよ」

 分からない能力だな。

「そんなことより、気になったことがあるんだけど、いいかな?」

 何を遠慮しているのか。

「言ってみろ」

「僕は君とブルグルフの戦い、あの夜の戦いを見ていた」

 うん、気付いてた。

「その時そこには輝咲がいた」

 たしかにいたな。

 八田月が呼んだのだろう。

「それが関係あるのか?」

「大いに関係あるね」

 輝咲のことだからか若干食い気味に話す黒白凰。

「あの日輝咲はたしかにいた。そしてそれをブルグルフも確認していたはず。なのに彼は輝咲が生きていることを知らなかった。僕が生きていると言った時、初めて知ったかのように驚いていた」

 なるほどな。

 何を訊きたいのか分かった。

「それが演技だったとはとても思えない。だとすると、なぜ彼は知らなかったんだい?」

 話しても良いものか……

 これはブルグルフの事情だからな。

 しかし……

 ……知っておくべきだな。

 黒白凰はブルグルフの意思を知っておくべきだ。

 黒白凰だけじゃない。

 他のあらゆる人間も、ブルグルフのことを知っておくべきだ。

「そうだな……それは呪術、その内の(のろ)いを使っていたからだ」

「どういうことだい?」

(のろ)いを使うために必要となる瘴気、それを使えるようになるためには、何か代償に捧げることになる」

「何か?」

「何かだ。それは自分では決められない。そしておそらく、ブルグルフは代償に視覚を持っていかれたんだろう」

「そうだったんだね」

「その瘴気を得る条件には他にも、底無しの怨念が必要だ」

 思うところがあるのか、黒白凰は目を伏せる。

(のろ)いを使う者は基本的には元々呪術を扱っていたものだ」

「待って。元々呪術をって、呪術は(のろ)いだけじゃないのかい?」

 そう思われがちだ。

「“呪”の字には“(のろ)い”の読みと“(まじな)い”の読みがあり、その内の(まじな)いには、陰陽師の扱う陰陽術や、聖職者たちの扱う神聖術も含まれる。そして、そういった者たちは人の負の部分に触れる機会が多い。だからかどうかは知らないが、憎悪に囚われ呪いを使うようになる」

 奏未が軽く作った料理が、黒白凰に運ばれる。

 黒白凰はそれに目を向けることなく、話の続きを促す。

 黒白凰に食べる気がないと思ったらしいリーラが、奏未に料理を指差して何かを目線で訴えている。

「その時瘴気を得るために、自分の何かを差し出すことになるが、それは自分が怨む過去に起因する。だから自分で選べない」

 やはり考え込む黒白凰。

「考え込む必要はない。ただ、お前にお前の事情があるように、あいつにもあいつの事情があるってことを知っておけば、それでいい」

 考え込むのをやめた黒白凰は、奏未が用意した食事に手を伸ばして、それがないことに気付く。

「あれ、僕の食事は……」

 どこにいったのかと周囲を見回し、満足げなリーラと食器を洗う奏未を見て合点がいったようだ。

「なるほど……リーラなら仕方ないね」

 お?リーラには優しい?

 俺が珍しいものを見たような顔をしていたからか、フロストが解説をしてくれる。

「組織にいた頃、この人はリーラを本当の妹のように可愛がっていたんです。仕事で一緒になる機会が多かったから、というのもあるでしょう」

「あまりにも不憫だったからね」

 なるほど。

 やはりリーラは魔力が特殊で、中級悪魔だが下っ端だったようだな。

 年齢はおそらく奏未以上、俺より下ぐらいだろうから、14〜16歳ぐらいか。

 その年齢だと、悪魔では成人してすぐだ、組織に属する悪魔も少ないだろう。

 下っ端なのも仕方ないな。

 悪魔の組織の下っ端は人間のブラックが可愛く見える程度と聞いているから、相当大変な生活を送っていたんだろう。

「不憫って、どんな生活を送ってたんだ?」

「そうだな……朝から晩までずっと仕事で、風呂は週に二度。食事は組織の上の連中が食べた後の残り物だよ。まず間違いなくメインとなるおかずはないね。そしてご飯も冷たい」

 それは辛いな。

 食事は生命活動の基礎だ。

 それが貧相なのは何よりも苦痛だ。

「睡眠時間は1日2、3時間、週休ゼロ」

 週休ゼロで2、3時間の睡眠とか、死ねって言ってるようなものだぞ!

 なぜそうしているのか理由は分かるが……

「僕のような者を運ぶ役割やその後の片付け、対象の身辺調査も、集めた情報の整理や、他の情報の処理も全て担っていた」

 住居と食事が付いていても、この内容だと割に合わない。

 そして悪魔は貨幣社会ではない。

 つまり給料はゼロ。

「悪魔を育てるのに必死だな」

「分かるですか」

「分かるよ」

「どういうことだい?」

 リーラは言葉の意味が分かったが、他が分かっていないようだから説明するか。

「悪魔は己の抱える絶望によって魔力が変化する。絶望が濃ければ濃いほど、その魔力の質は向上し、量も増える。だからそれほどの仕事を与える」

 風呂が沸いたので、奏未がリーラを連れていく。

「さてと」

「行くのか?」

「うん。いつまでもここにいるわけにもいかないからね」

 一人で出て行こうとする黒白凰。

「待て」

 足を止めた黒白凰は、疑問顔で俺に視線を戻す。

 その手はすでにドアノブにかかっている。

「フロストを連れていけ」

「どうしてだい?」

「お前といるべきだからだ」

「僕は一人の方が動きやすいんだけどね」

「きっとこいつは力になる。お前がこの先何をするつもりかは知らんが、何をするにしても、こいつの存在は間違いなくお前の助けになる」

 悪魔のことを色々と知っている俺にはその確信があった。

「君が言うならそうなんだろうね。フロストはいいのかい?」

「願ってもない話です。それでは荷物を取ってきますので、少々お待ちを」

 まとめるではなく取ってくると言ったあたりが、もうすでに出て行くことを考え、その準備をしてきていたということだろう。

 フロストだと俺の力にはなれないからな。

 フロストがリビングを出て行くと、俺と黒白凰の二人だけになる。

「お前、これからどうするつもりだ?」

「どう……するんだろうね」

「とりあえずでも、何か方針はあった方がいい」

「方針はあるよ。ただ、何をすればそれになるのか……」

 それ?一体何のことだろう?

 暗技の使えない今の俺では、言葉が何を意味しているのかすら分からない。

「まあ、それは追い追い考えていくさ」

「そうだな」

「じゃあ、また会おう」

 できれば二度と会いたくないな。

 会うたびにぼろぼろにされてる俺の気持ちを考えてほしい。

「あ、そうだ。報酬は君たちで山分けしてくれていいよ。僕とフロストはもらわないから」

 黒白凰も出て行くと、俺一人になった。

 バスの中で寝ていたのでまだ眠くない。

 しかし本来今は深夜そろそろ無理矢理にでも寝ないとな。

 この調子だと明日は学校に行けないだろう。

 来週はテストだというのに……

 俺は大きな溜息を零した。

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