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悪魔のいる日常

「改めて、これからよろしく」

 俺の隣に腰を下ろした紅い髪の少女、フィリアが、改めて挨拶する。

「ああ、よろしく」

 短くそう返し、八田月に恨みがましい視線を送る。

 意図が伝わったのか、ホームルームはすぐに切り上げられ、八田月に呼ばれる。

 俺は席を立ち、すぐさまフィリアを置いて八田月ついていく。

「フィリア、お前も来い」

 あ、結局ついてきちゃったよ。

 八田月に文句の一つでも言ってやろうと思ったのに、本人いたら言えないだろ。

 八田月の口角が吊り上がるのを、自分にとって都合のいいことと悪いことは見逃さない俺の最強観察眼が捉える。

 こいつ分かってて呼びやがったな……!

 八田月に呼ばれ、不思議そうにしながらも、フィリアは俺たちについてくる。

 そうして屋上へと連れてこられた。

 屋上は、危険だからと解放されていないので、生徒が近づくことはない。

 しかし、全く手入れされてないわけではなく、毎日清掃員の人が掃除をしているため、上履きのまま入っても汚すぎるということもない。

 使いもしないくせにベンチが無駄に置かれていたりするから、学校関係者が休憩にでも使っているのかもしれない。

 そう思いながら、一応は話を聞かれないためにと扉から離れていくと、途中で捨てられたタバコを見かける。

 やっぱり誰かが休憩に使っているようだ。

 しかしマナーが悪い。

 屋上のタイルにタバコの火で焼けた痕が残っている。

 今日朝に誰か吸ったのか、或いは生徒が帰ってから吸ったのか、少なくとも昨日今日で捨てられたものになる。

 毎日掃除しているのだから、そういうことになるわけだが、よくよく見るとあちらこちらに同じような痕が残っている。

 俺はやれやれと肩をすくめて、さっさと本題に入ろうと八田月と視線を交える。

 俺が口を開こうとすると、八田月はそれを手で制する。

 言わずとも分かるのだろう。

「悪い。お前に頼っちまって」

 八田月は開口一番謝罪を口にした。

 そう言われたらまぁ、仕方ないよなぁ……

 俺だったら、大体のことはどうにかできるからなぁ。

 大体いつも俺に真っ先に頼ってくるから、限度はわきまえてほしかったってだけだし。

 ともあれ、八田月は普段は拒否権を与えてくれる。

 親父には強制されてばかりだから、今回は大人しく従っておこう。

 普段助けてもらうことも多いしな。

「いいよ。それで?俺に任せるってことは、何かあるってことだろ?」

 すぐに話を切り替える。

 さっさと本題に移らないと、受けたくもない授業に間に合わない。

 あれ?それなら話を引き伸ばしてもいいのでは?

 そうだ引き伸ばそう。

 どうせ受けたところで、わけもわからず眠りこけるだけだしな!

「そうだ。だが話せない。生徒の秘密を教師の一存で話すわけにはいかない」

 いや、もう本題終わったんだが!

 しかし、そうやって言うからにはもちろん、俺のことも話してないのだろう。

 口は堅いやつだしな。

「もういいか?」

「俺は普通に学校や街の案内をするだけでいいのか?」

 知りたいことは教えられないと八田月の表情が語っている。

 だからせめて何を期待されているのか、八田月に聞いておこうと思っての問いだ。

 はたして回答はーー

「ああ。()()()()()()()()()()()

 そういうことね。

 まあ、こいつが何者かなんてことは本人から直接教えてもらえばいいことだし、その上面倒を見るのが他じゃダメってことなんだろうよ。

 俺は少々……かなり特殊だから、任せるには適任と判断されたか。

 とはいえ、八田月の意図も分かったことだし、もう話すことはないな。

 そう思って俺が教室に戻ろうとすると、フィリアの顔に疑問が見えた。

「どうかしたのか?」

 疑問に気付かれると思ってなかったのか、意外そうな顔をする。

「どうして呼ばれたのかなって」

 ああ、そんなことか。

「お前が当事者だからだろ」

 俺のことを気にしてるのかと思ったよ。

 昨日どうせもう会うこともないからと思って、あれを見せてしまったからな。

「早く戻るぞ。まだ授業に間に合う」

 俺は未だに疑問符を浮かべるフィリアを急かして、急ぎ足で教室に向かうのだった。


「俺は日溜優日。よろしくな、えーっと……何さんだっけ?」

「フィリアよ」

「そうだった。よろしく、フィリアさん」

 教室に戻ると、次の授業までの間に挨拶しようと、日溜が真っ先に向かってきた。

 俺もするべきだよな?

「佐鳥夢花だよー。分からないことがあったらなんでも聞いてね」

 夢花にも先を越された。

 さて、何て名乗ろうか…。

「えーっと…?派世広人だ。これといって挨拶が浮かばんな」

 少しでも愛想よくしとこうと思っていたが、あまり明るい性格でもないから、苦手なんだよなぁ、こういうの。

「挨拶なんて適当でいいだろ」

 挨拶で印象決まるだろ。

 挨拶大事だろ。

「それにしても、日本語上手だね」

「俺だって上手だぜ?」

「日溜うるさい」

 日溜が上手なのは当たり前なんだよ。

「教え込まれたからね。父が厳しい人で、覚えておきなさいって」

 なるほど、父の教育の賜物ね……なんで日本語?

 もしかしたら他にも言語が話せるのかも。

 ともあれ、これ以上は聞くなオーラ出してるから、家のことは聞くべきではないな。

 2人は流れを読めないし、俺が気を利かせないとな。

「そういえば今日、放課後暇か?暇なら町の案内でもしようか?今日は夢花の家で晩御飯食べるから、遅くまでは付き合えないんだが……」

 急で不自然だが、話題を変える。

「今日はじゃなくて、今日もだろ?なんだお前、今週は佐鳥さんウィークか?」

 フィリアは何を思ったのか、じっと俺の顔を見つめた後、「助かるわ」と首肯する。

「日溜、お前も来てほしいんだが」

「残念ながら、俺は先生の仕事を手伝わなくてはならないんだぜ。だから2人で行ってくれ」

 そうだったな。

 おそらくは昨日のメールについてだろう。

「夢花……はダメだな。俺の晩飯の支度がある」

「ごめんね」

 仕方ない。

 いや、一緒に買い出し行ってとか、それくらいならできるが、ともあれすぐに支度で分かれるなら、一度家の方に向かってから方向転換は効率が悪い。

 暑い中動き回らせるのはフィリアにとっても辛いだろう。

 仕方ない、俺だけで案内するか。

 フィリアが何か聞きたげな表情をしているが、とりあえず今はそっとしておこう。

 もし昨晩のことなら、あまり他人に知られたくないな。

「聞きたいことがあるなら、案内の時にでも聞くよ」

 聞くだけ、答えるとは言ってない。

「わかったわ」

 やっぱりと何かに納得したように、フィリアが了承したところで授業開始のチャイムが鳴った。


 生活において頻繁に利用するであろう場所を中心に、この町を案内する。

 駅や商店街、鍛冶屋、人通りの多い道、少ない道。

 たくさんのことを質問されたが、いつからこの街に住んでるのーとか、おすすめのレストランはーとか、そんな程度で踏み込んだことは聞かれなかった。

 そうして俺はフィリアを家に送り届ける途中で、ペットの散歩コースとして利用されている公園の横を通る。

「この公園は、今のような日が沈み出した時間に行くのはやめたほうがいい」

 そう言いながら少し公園の中を探ってみると、

「キャーーーー!!!!!」

「このように悪魔に出くわ………」

 悪魔に出くわすことがあると説明しようとしたところで、実際に悪魔の魔力を感じとり説明文を変えて話そうとして、先に聞こえてきた悲鳴に遅れて反応し言葉が止まる。

 悲鳴が聞こえたな。

「待ってて!私行ってくるから!」

 俺が呼び止める間も無くフィリアは走り出した。

 フィリアは柵を飛び越えて、悲鳴の方へと向かっていく。

 誰だよ、こんな時間に近づいたやつは!

 日が暮れたら近づくなって、看板立ってるだろ!

 小さな溜息をつく。

 見捨てては置けないので、俺も柵を飛び越えて、悲鳴の方へと走り出す。

 自業自得だなんて割り切れたら楽なんだけどなぁ。

 そこまで広い公園ではないから、すぐにフィリアに追いついた。

 悲鳴をあげたのは、あの母娘だろう。

 まだ小さい娘を抱きしめて、目を瞑って震えている。

 娘は、おかあさーんと叫びながら泣いていた。

 ベンチのそば、自販機の前、母娘のそばに転がった飲みかけのジュースの缶、そして二人で縮こまっている姿は、容易に状況を想像できる。

 この暑さだ、少し先のコンビニまで娘さんが我慢できなかったってところか。

「広人⁉︎どうしてここに⁉︎」

 母娘を守りながらだからか、戦いづらそうだ。

「野郎ども!そろそろ食事といこうぜええぇぇぇ!!!」

「娘さんの目と耳、ちゃんと塞いでおけ。大丈夫だ。なんとかなる」

 母娘の側まで歩き、なだめるようにそう言う。

 完全に悪魔に包囲されている。

 どれも下級ですらない雑魚ばかりだ。

 フィリアはきっと、子供の前で斬ることを躊躇っていたのだろう。

 両刃式の剣のため、峰打ちなんてこともできない。

 甘いやつだ。

 悪魔は身体能力強化して、一斉に襲いかかってくる。

「迷惑なやつらだ」

 俺は本気の殺気を放つ。

 母親の肩がびくりと跳ねて、少女が泣き止む。

 悪魔たちも咄嗟に距離をとる。

 フィリアはギョッとした顔で俺を見ている。

 全員が全員、直接向けられたわけでもなく、感じ取ることができるほどの濃密な殺気。

 それを俺は、一番近くにいた悪魔に鋭く向ける。

「ひっ!」

 どさっと尻餅をついて、ガタガタと震え出す。

 その悪魔の呼吸を読み、息を吸うタイミングで足を踏み出す。

 その行為に、悪魔は息を吸うタイミングを失い、うまく息継ぎが出来ずに()せかえす。

 そこへさらに強烈な殺気を浴びせると、今度はキュッと気道が締まってたちまち気絶してしまう。

 今の光景を見て、他の悪魔にも恐怖が広がる。

 俺がニヤリと不気味な笑みを浮かべると、悪魔たちは慌てて逃げ出そうとする。

 いつまでもここにいるべきではないと思い、俺は母娘に公園から出るよう促す。

 母親は一礼してから娘を連れて走り去る。

「あなた、どうかしてるわ」

 よく言われるよ。

「お前だって、ほんの数秒の間に悪魔を斬り倒したじゃないか」

 俺が母娘を逃がしている内に、フィリアは逃げた悪魔を全て殺した。

「殺気だけで悪魔を倒したあなたほどじゃないわよ」

「違いないな」

 気絶した悪魔にとどめを刺して、公園を出る。

 公園の入り口では、さっきの母娘が待っていた。

「どうした?忘れ物か?」

「ち、違います!あの、ちゃんとお礼を言いたくて…助けていただき本当にありがとうございました!」

 娘さんも母親に見習い礼をする。

「偶然居合わせただけだ。大したことはしていない」

 母親は何回も頭を下げて、娘の手を引いて歩いていく。

 娘さんは元気にぶんぶん手を振っている。

 それを見送り、再びフィリアを家まで送る帰路につく。

「やっぱりあなたが分からないわ。何者なの?」

 今まで全く触れてこなかった話題だが、ここにきて直球だな。

 自分だって聞かれたら答えないだろうに、さて、どう答えるべきか……

「うーん……ダメだな。言えるようなことがない」

「そう。ならいいわ」

 諦めが潔すぎるな。

 自分が特殊だからか、無理には聞いてこない。

 俺のことも特殊な背景があると思っていそうだが、実際その通りだし、隠し方も自分特殊ですアピールだから、そう思ってくれていいんだけど。

 そうしたら深く聞いてこないし。

「ほら、着いたぞ」

 この辺は一軒家が多く、空き家が多い。

 東京でもこの辺は、悪魔との戦闘やら街中の雑用やらを生業とする狩人(ハンター)や、退役軍人が多い地域だ。

 空き家が多く地価も安めである。

 だから、売りに出されていた一軒家を買ったのだろうが、となると家族でこっちに来たってことか。

 フィリアのご家族が出てくるかと思って少し居住まいを正しておくが、なぜかフィリアは黙ったまま入っていこうとしない。

 どうしたんだろうか?

「ねえ」

 これまで以上に真剣な声音だ。

 自然と気が引き締まる。

「さっきの戦いを見て、あなたの目に、私はどう映ってる?」

 変わった質問だな。

 今までそんなこと聞かれたことないぞ。

「ごめん。変なこと聞いて」

 それが変な質問だとフィリア自身もよく理解しているようだ。

 フィリアは家の扉を開く。

 何か答えるべきだ。

 俺はここで何か答えないといけないような気がして、気の利いた返しはできなくても、いや、できないからこそせめて実際に見たままを伝えようと思った。

「俺には、無理をしているように見える」

 フィリアは俯き固まる。

 驚いていることが丸分かりだ。

 俺は気まずくなって、じゃあと別れを告げて、夢花の家へと足を向けた。

 しかし、あの質問にはどんな意味があったんだろうか?

 悩んでも答えはでなさそうだから、俺は考えるのをやめた。


 翌日。

「あれ、親父。帰ってきてたのか」

「おうよ。少し用事があってなあ。またしばらく家を空ける。奏未(かなみ)にはよろしく言っといてくれ」

 また仕事だろうか?

「仕事ではない。だが、誰かがやらなければならないことだ」

 さらっと思考を読まれたな。

 ところで、親父が帰って来ているならとキョロキョロとあたりを探す。

雨露(あまつゆ)ならいないぞ」

 お袋を探しているとよく分かったな。

 親父はどうせフィリアのことを教えてくれない。

 お袋が何か知っていればと思ったんだが……

 まあ、本人がいないところで聞こうというのも失礼な話か。

「本殿へ行った。広人、事態はある人物を中心に、もう動き出している。分かってるな?」

 俺は黙って頷く。

 そいつ誰だよと思ったが、どうせ答えてくれない。

 まあ、どうすればいいかは分かるしよしとするか。

「ならいい」

 親父はその言葉を残して、家を出る。

 なんのために帰ってきたんだか……

 親父に限って忘れ物ってことはないだろうし、うちに用があったというよりかは、別の何かのために来て、近くまで来たから一度帰ってきた、といったところから。

 一昨日家にいたんだから、寝るわけでもないなら帰ってくる必要ないような気もするが。

 この分だと、しばらく両親2人とも帰ってこないな。

 食卓の上には、使えと言わんばかりの通帳が置いてある。

 いや、パスワードわからんから金おろせねーし。

 いつも適当過ぎるんだよな、親父は。


 土曜日なので学校は休み。

 俺は日溜に呼び出されて、昨日の公園に来ていた。

 悪魔の死体は片付けられている。

 昼間から子供たちは元気に走り回っていて、昨日の光景が嘘のようだ。

 八田月、仕事早いなぁ。

 昨日のうちに八田月に連絡して、片付けをお願いしておいた。

 階級紫で悪魔倒したから片付けといてなんて言っても、公的機関はどこも信用してくれない。

 八田月も紫だが、八田月の立場は()()だからな。

 そういうツテがある。

 俺のためにその特殊な立場になってくれたそうだが、それはさておき。

「どうした?急に呼び出して?」

 日溜は顔を伏せていて、表情が読めない。

 呼び出しておいて顔伏せるとか、なんか深刻な相談でもするのかね?

「派世ぇぇ……お前、悪魔に詳しいよな?」

 本当にどうしたんだ?

 日溜がこんな調子になることはとても珍しい。

 悪魔絡みだと興奮気味になる日溜だが、逆に落ち込みムードなのは初めて見る。

 悪魔と何かあったのか?

 悪魔と殺りあってたのは聞いてるが、敗走したわけではなさそうだし、悪魔に何か言われたのだろうか?

「ここ最近、悪魔が異様に多いんだよ。殺しても殺してもきりがない」

 確かに。

 2日連続で悪魔と遭遇するなんて、かなり珍しいことだ。

「悪魔の目的、お前なら分かるんじゃないか、なんて思ったんだが…」

 分かるはずがないだろう。

 強いて言うなら、人間を食おうとしているとか?

 だが、日溜がキリがないと言うのだから、それなりの数と戦っていることだろう。

 それに人間を食うことが目的だとして、そうだとしたら日溜はわざわざこんな質問しないはずだ。

「だよな」

「当たり前だよなあ?」

「なら」

 ん?続きがあるのか。

 暑いし本題も済んだだろうと帰ろうと思っていたんだが…

「悪魔が何を求めているのか分かるか?」

 そんなもの、悪魔によって違うだろ。

 と、言いたいところだが、親父の言っていたこともある。

 それに悪魔が関係しているのなら、

「安心………だろうな」

「安心?どういうことだ?」

 分からない。

 動き出しているのはなんとなく分かるが、何がどうなっているのか、悪魔たちには何が見えているのか、皆目見当もつかない。

「どういう、ことだろうな」

 日溜も考え込む。

 おそらくは、フィリアを疑っているのだろう。

 あいつが転校してきたことと、ほぼ同じタイミングで、悪魔たちは動き出した。

 俺はフィリアが関係していると思っているが、もしそうだとしても悪人には見えないから、狙われているのか?

 それだと夜に助けられたことがあべこべな気がするんだよなぁ。

「なあ、転校生のこと、どう思う?」

 俺の意見が聞きたいのか、それとも自分の考えに確証を持ちたいのか。

 少なくとも、フィリアを疑っているのは明白だ。

 悪魔に狙われているのなら、日溜は安心して戦える。

 しかし、悪魔を操っているのなら、こちらの動きは筒抜けとなる。

 日溜が疑うのも仕方ないな。

「あれは明らかに異質だ。一挙手一投足に、ベテランのそれが滲み出ている」

 日溜にはそう思えるのか。

 俺には、一般人を装おうとしているように見える。

「お前には、感じ取れるんじゃないか?フィリア・ユスティリアの心ってやつが」

 いくら俺でも、心まではさすがに読めないよ。

 この技術はそういうものではないからな。

 それに、あいつと俺とでは、味わった“絶望”が違う。

「あいつは何かを恐れてる。俺にはそれしか分からない」

 ……………

 ………

 …

「派世?どうした?」

 俺が急に立ち上がったことで、日溜もなぜか立ち上がる。

 気付いていない日溜はおいておいて、俺は後方10メートルほどのところにある木へ、真っ直ぐ歩いていく。

 日溜に気付かれなかったのは褒めてやろう。

 しかし、甘いな。

 俺は気配で感知するタイプじゃないんだ。

 木の後ろには、困り顔のフィリアがいた。

 家を出てから、ずっとついてきていた。

 この距離なら声は聞こえていたはずだ。

 それを分かった上で会話をしていたわけだが、やはり俺に気付かれていたとなると、フィリアは気まずく思うよな。

 しかし俺は気にしていないように振る舞う。

「気になるなら、本人に直接聞いたらどうだ?白か黒か」

「青よ」

「「階級の話じゃねーよ」」

 ツッコミでハモった。

 これじゃあ仲良しに思われちまうじゃねーか。

 仲良しだけどさ。

「なあ、答えてくれ。お前は敵か?それとも味方か?」

 日溜はいつになく真剣な面持ちで告げた。

 俺は嘘を見抜ける。

 それを日溜も知っている。

 だからこそできる荒技だ。

 手を鉤爪のようにしていることから、能力をいつでも使えるようにしていることが分かる。

 敵だと言ったらすぐに無力化できる。

 必要ないと思うんだけどな。

「ごめん。あなたたちにはたくさん迷惑をかけることになるわ」

「よし。敵」

 明言を避けたフィリアに対してすぐに日溜が突貫しようとした。

 俺は日溜の首根っこを掴み、動きを制する。

「お前、戦いたいだけだろ」

 またまたフィリアが困り顔をしている。

 本日二度目だぞ。

 しかも、この短時間で。

「悪いな。こいつ、頭いいけどバカなんだ」

「気にしていないわ。それよりも、あなたは始めから、私を疑ってなかったようね」

 ありゃ、気付かれてたか。

「まあな」

「どうして?」

 どうして、とは、また返しにくい質問を……

「派世ぇぇぇぇ。もう離してくんね?」

 暴れられると困るので、言われてすぐに離す。

 さて、フィリアにこんなことを言っても信じられるかどうかはわからないが、嘘は吐けないからな。

「お前からは、悪魔の匂いがしないからだ」

「悪魔の匂い?」

「それ以上に説明の仕方がない。悪いな」

 当然、疑問をいっぱい浮かべているようだが、無理矢理納得させたか、フィリアが笑顔になる。

 どうやら満足したようで、少し話したらすぐに帰ってしまった。

「とすると、悪魔は何を恐れてるんだろ?」

 俺がフィリアに助けられたことを話されていない日溜は、俺が話した考えなくてもいいことにずっと頭を抱えていた。


 彼は何者だろう。

 彼のことはほとんどが分からない。

 あの夜、確かに私たちは出会った。

 彼は全く触れてこないけど、確かにあの時私は力を見られている。

 彼も力について触れてほしくはないのだろう。

 だから彼は私に質問してこないの?

 何も分からない。

 彼のことがなにも。

 掴みどころがないというよりは、彼には流れが見えていて、私のあらゆる全てが綺麗に流されているような気がする。

 それでいて、私を今までで一番理解してくれているような気がした。

 私は悪魔に狙われている。

 どこから漏れたのかは分からないけれど、私がこっちに来てから、悪魔が非常に活発に動き出した。

 私は情報を集めるために、夜中悪魔を襲撃して回っている。

 しかし、あのはぐれ悪魔たちはどうやら、誰かに指示されて動いている訳ではなさそうだった。

 人手が足りない。

 こんなにも悪魔が動いているのに、裏で何も動いていないなんて、そんなことはありえない。

 しかし手がかりが見つからない。

 だから、彼のような仲間がほしい。

 強く、そして私を理解してくれる、そんな仲間が。

 しかし、彼が私を知った時、果たして何を思うだろうか?

 これまでと同じように接してくれるだろうか?

 彼とは出会ったばかりで、大して何も知らないくせに、ただそれだけが怖かった。

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