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希望と絶望の境界

 なんだこれは。

 家に帰ると小包みがリビングの机の上に置いてあった。

 フロストが受け取ってくれていたようだが……差出人不明とは。

 とりあえず開けてしまおう。

 住所はうちになっていることだし、両親宛ての重要書類は郵便なんかで送られないし、俺が開けても問題ないはず。

 小包みを開けると、いくつもの錠剤が入れられた容器と、それの説明書が。

 親父の字だな。

 となると、まず間違いなく俺宛てだな。

 どれどれ……

『辛い時、苦しい時、この薬を飲め。きっと嫌なこと全部ぶっ飛んで、最高の気分になるぞ』

 何この説明!

 この薬所持していて大丈夫なのかよ⁉︎

 違法とか脱法とか、そういうものじゃないよな⁉︎

 いやまあ、そういうものでは俺の体に全く変化はないんだけどさ⁉︎

 とりあえず、一錠飲んでみて……

 それを喉を通すと、少しして力が湧き上がってくる。

 馬鹿な⁉︎

 こんなことが可能だなんて⁉︎

 この薬は、俺の魔力を補充するもの。

 辛い時、苦しい時に飲め、か。

 確かにこいつはいいものだ。

 こいつさえあれば、大抵の相手は倒せるだろう。

 先日完成させた術式もあるしな。

 しかし、一錠でこの程度だと、あの術式は一度しか発動できないな。

 試しに使ってみるが、それで綺麗になくなった。

 重ねがけは……できるようだな。

 しかし二錠飲んでもまだ片目を紅く染める程度か。

 染まった右目の色を戻すため、また同じ術式を使う。

 最低二錠は必要だな。

 確か親父の戦闘服で、こいつを袖に仕込めるようなものがあったはず。

 フロストが開かないと言っていた部屋を開けて、親父のクローゼットを漁る。

 部屋に入るのにわざわざ術式を解いて入らなければならないのは、本当に面倒なシステムだよ。

 いい加減これを外してくれてもいいだろうと思うが、重要書類もあるから絶対に外せないと両親揃って言っている。

 二人とも重要書類を部屋に置いてないのにな。

 この術式は親父とお袋、そして俺の三人しか解けないし仕掛けられない。

 奏未にはお袋側の力ばかりが遺伝したからな。

 親父の力を色濃く受け継ぎながらお袋の力も多少扱える俺とは違う。

 残念ながらそっちを扱えない。

 もしかすると使い方が分からないだけで使えるのかもしれないが、その可能性は低いだろうな。

 親父の昔の戦闘服はきっちりと手入れされており、傷んでるとかもなく、問題なく着れそうだ。

 丈が合わないかと思ったが、なぜかサイズはピッタリだ。

 親父の方が背は高いのだが、どうして俺にピッタリなのかな?

 この服は確か五年ほど前にあったもののはずなんだが、と思い調べてみると、どうやらこれは新品らしい。

 同じものを俺のサイズに合わせてもう一着用意しておくって、何の必要があってそんなことを……

 探ってみると、もう一着、親父サイズの服が出てきたよ。

 まあ、こうなることを見越していた、ということなんだろうな。

 有り難く着させてもらうか。

 俺サイズの方を持ち出して、もう一着は元の場所にしまっておく。

 その後で一応戦闘服を確認する。

 誤って自分サイズをしまっている可能性があるからな。

 そんなミスをやらかすはずもなく、俺は術式を組み直して、部屋を後にする。


 奏未が買ってきた紙に血で文字を綴っていく。

 俺は札を使わなければ一つしか術を使えないから、この作業には慣れている。

 術式を組めても札がなければ発動できないのはかなりの痛手だ。

 戦闘の際に札を作っている暇などないからな。

 それに、札だと発生も遅れるから、なかなか不便なんだよなぁ。

 他人に渡しても効果があるのは利点だが、素撃ちできるに越したことはない。

 そうして二枚の退呪の札を作成する。

 後は日溜用の札だな。

 全く別の術式を記した札を三十二枚追加で作る。

 俺の血より奏未の血で書いた方が効力はあるだろうけど、やはりこの量の血を使うのはなぁ……

 奏未が力を使えばどうってことはないが、奏未の力は温存しておきたいしな。

 しかし、この術式をあれを相手に使うのか……

神法(しんぽう) 霊怪剥離(れいかいはくり)

 いや、効力は確かなんだよ?

 だがなぁ、相手の四方に、左右と前後に正八角形をこの札で作るなんて、さすがの日溜でもできないのではなかろうか?

 この術は、本殿でも有数の実力者のみが扱える術式で、本来は素撃ちするための術式だ。

 札で行うには難易度が高過ぎるからな。

 それこそ風を操る能力者でもないと、いや、紙を風で操るのも至難の業だったな。

 そんな術を日溜に渡そうとしている俺は、こんな方法しか提示できない俺は、なんとも無力なものだな。

 やり方を紙に書いて、俺は休息をとる。

 さすがに疲れたからな。


 少し休んだだけだが、かなり楽になったな。

 もともと休息なんか必要ない体なんだけどね。

 俺の体は痛みや疲れなんてものまで回復させてしまうのでな。

 それでも寝た方が早く回復するけど。

 原理は俺にも分からない。

 さてと、そろそろ出発するかな。

 奏未はもう起きていた。

 奏未は本殿で能力を使っていただろうに。

 精神を摩耗する能力だから、まだ休み足りないと思うが、せっせとお握りを作っている。

 やっぱり食糧は大切だ。

 移動にも時間がかかるから、向こうに着いたとき、戦闘前、戦闘後、飯はやっぱり欲しいところ。

 腹が減っては戦はできぬってやつだ。

 俺は無くても問題ないけど。

 昔十日以上飲まず食わずの時があったし。

 断食じゃないぞ?

 戦闘服に着替えた俺は、袖口の機構に薬を二錠入れて、そこをしっかりと閉じておく。

 薬の残りは部屋に置いておく。

「奏未。少し早いけど行くぞー」

「はーい」

 奏未は作ったおにぎりをリュックに詰め、俺にそれを渡してくる。

 兵隊が持つような銀色の四角い水筒をいくつか詰め込み、リュックを背負って冷房を切る。

 奏未は負担が少ないようにと巫女服で行くようだ。

 フロストがいないが、準備をしていたのだろうと、集合場所に直接来るだろうと、そう判断して家の鍵はかけて出て行く。


 やはり早く着いてしまったな。

 予定時刻の三十分前。

「派世くん」

 そう声をかけてきたのは中木。

 話聞かれてたからな。

「こんな時間まで学校にいたのか」

「質問していたんだ。テスト前だからな」

 来週からテストだったな。

 すっかりと忘れていたな。

 しかし、こうも忙しい日々が続くと忘れるのも仕方ないと思うぞ?

「また危険なことをしようとしているようだな」

「そのようだ」

「おれは手伝えない。全員無事に帰って来ることを祈るよ」

 中木はそれだけ言って帰ってしまう。

 大阪に行くと言い出さなくて助かった。

 あいつと組んだことがあるのは俺と日溜の二人だけ。

 あいつの力は異様過ぎるから、フィリアは大丈夫でも奏未と黒白凰が使い物にならなくなる。

 日溜も能力なしだと大して役に立たないし、夢花はまだ体ができてない。

 まだ暗技の動きまでしか使えないんだ。

 つまり俺とフィリア以外とは組むべきではないのだ。

 たしか委員長の能力も封じたはず。

 まだ闘技がある分マシだがな。

 体術ってことで言えば、悪魔は体を硬化できるからCQCは通らないし、暗技か闘技もしくは新人類の力でもなければ、悪魔を本当に素手で倒すことはできない。

 そこまで深く考えて結論を出したのかは分からないが、俺たちと一緒に戦っても俺たちの役には立たないとは分かっているだろう。

 あいつは頭がキレる。

 まだ学校には電気の切られていない部屋がいくつかある。

 教師がまだ残っているということだろう。

 校門前でリュックを一旦下ろし、門にもたれかかる。

「気付かれていたのかな?」

「当たり前だ」

 空斬(からぎり)小金(こがね)校長。

 食えない奴が来てしまった。

「何かするつもりか?」

「何もするつもりはない。僕が何かをしてしまっては面白くないからね」

「面白くない?」

「そうだ。僕はこの世界がひどくつまらない。だから、面白いものを探していたのさ。そして見つけた。君を見つけた。君は面白い。君の関わった事件は、常に面白い方向へと向かった」

 俺の関わった事件を面白い、だと?

「そうさ」

 心を読まれた?

「心だって読めるとも。世界全てを見続けている僕が、君の心くらい読めないとでも思ったのかい?」

 世界の全てを見続けている?

 こいつは何を言っているんだ?

「君には期待しているよ。せいぜい僕を楽しませてくれ」

 気配が消失する。

 門の向こう側には、もう空斬校長はいない。

 見えてこないなぁ。

 空斬小金、いったい何者なんだ……

 奏未は空斬校長を気味悪がっているが、あれは俺や奏未に近い存在のような、そして遠い存在のような気がしてならない。

 やめだやめだ!

 深く探り過ぎると、あれが何をするか分かったもんじゃない。


「揃ったね。そして、時間通りだ」

 学校の前に一台のバスが止まる。

 扉が開くとフロストが降りてくる。

 運転席には別の悪魔の少女が。

 中級悪魔か。

 その少女が降りてくることはなく、俺たちを見ても表情一つ変えることはない。

 窓を開けて中から声をかけてくる。

「運転手を務めるものです」

 淡青の髪の少女。

 髪はそこそこ長めで、少し跳ねているところが犬っぽいと感じさせる。

 背は小さめだな。

 40後半ってところか?

 そんな見た目だが魔力はなかなかの量だ。

 しかし、不思議な感じがする。

 この魔力は何ができて何ができないのか。

「安全性は確かなんだよな?」

 当然と言えば当然なんだが、日溜は悪魔が信用できないようで、まさしく鬼気迫る形相ってやつだ。

「僕が保証するよ」

「元々敵だったやつに保証されてもな」

「こいつの行動原理は輝咲だ。復讐よりもそっちを優先する。その輝咲を連れて行くということは、こいつは安全だという証明になるんじゃないか?」

 日溜は少し考えた後にバスに乗り込む。

 納得した様子はないが、行かなくては自分が復讐できないからな。

 妥協したと言うべきだな。

 まあ、日溜はそんなに復讐にこだわってはいないようだが。

 そうだな……復讐より取り戻す方を優先しているように見えるな。

 先にみんなをバスに乗せ、残るは俺とフロストと黒白凰の三人になる。

「必要ないかもしれないが、一応渡しておく」

 黒白凰にそれを渡すと、それを受け取った黒白凰はまじまじと見つめて服の内ポケットにしまう。

「なんだかよく分からないけど、有り難くもらっておくよ」

 分からないけどもらっちゃうのか……

「それで、さっきの紙はいったいなんだったんだい?」

「呪いを弾くお札だ」

 日溜にはもう渡した。

「そんなものまで作れたのですね」

 巫女の家系だからな。

「それは助かるよ」

「広人さん、あの子のことで相談が」

 青髪の少女に聞こえないような声で言われる。

 あまり聞かれたくない話らしいな。

「どうした?」

 黒白凰も話に混じってる風を醸し出しているが、これは少女に警戒させないためだ。

「あの子、表情に出ないから何を考えているのか分からないんです。今回だって二つ返事で了承をもらいました。だから少し心配なんです」

 心配?

「それは、どこかの組織に属しているかも?ということか?」

「いえ、そうではなく。あの子がいた里ではあの子はあまりにも浮いていまして、組織でも浮いていたので居場所がないと感じているのかも、なんて思っているのです」

 ふむ?

 何を心配しているのかいまいち見えてこないな。

「いいよ。俺がなんとかするから」

「ありがとうございます」

「お前、礼を言ってばっかだな」

「広人さんが親切過ぎるからですね」

「僕からも礼を言うよ」

 これだけ礼ばかりされると、礼の価値が暴落待った無しだよな。

 しかし、初めから俺に丸投げするつもりだったな、こいつら。

 まあ、フロスト以外の悪魔の協力者がいた方が、俺としても都合がいい。

 フロストは黒白凰に押し付けるつもりでいたからな。


 バスに乗り込むと、少女が軽く頭を下げてくる。

「俺は派世広人。お前は?」

 表情に変化はないが、どうやら驚いているようだ。

 まあ、人間に名前を訊かれるなんて、悪魔には想像もつかないよな。

 悪魔と人間は、ゼラが特殊なだけで、未だに紛争状態にあるからな。

 今から向かう大阪も、その紛争地帯の一つだ。

 取り返そうと何度も軍を送り込んでいるからな。

 全部失敗に終わっているけどな。

 最近は諦めたのか監視しかしてないようだが。

 俺の質問に固まっていた少女は無表情のまま名乗ってくれる。

「リーラですよ」

 名前を反芻し忘れないようにする。

 名前を覚えるのは苦手だからな。

 日溜は俺のお札と使い方を読んだからか、ずっと考え込んでいる。

 やっぱり使い方に困るんだよな。

 すると目をカッと見開き、少し笑う。

 バスが走り出すと、日溜が不思議と笑っていることに気付く黒白凰。

「どうして笑っているんだい?」

 俺はリーラに驚きの内容が飛んでくるから運転に集中するよう言っておく。

 心構えがあるのとないのとでは受け取り方が全く違うからな。

 運転手の気が動転して事故りましたじゃ困るし。

「親父が帰って来なかったってことは話したよな?」

「そうだね。話されたのはそこまでだよ」

 奏未は話されてないけどな。

「ブルグルフが操っている冷気使いの能力者がいる」

 あの時見ていたはずだから、黒白凰も分かるだろう。

「それが、俺の親父だぜ」

 そして空気が凍りつく。

「親父を取り戻すチャンスだ。これが笑わずにいられるか」

 日溜の歪んだ笑顔は、誰もが壊れていると思うようなものだろう。

 しかし、これこそがまさしく日溜なのだ。

 それは普段日溜が隠し続けている、“絶望”。

「もしかしたら、親父を連れて帰れば、お袋だって意識を取り戻すかもしれない。妹も、昔のように無邪気に笑えるようになるかもしれない」

 日溜のお袋さんが意識不明なのはみんな聞いていなかったようで、突然の告白に驚いている。

 驚いていないのは、俺と奏未とリーラの三人。

 俺は知っていたし、おそらく奏未も知っていたのだろう。

 リーラはこの話を理解してないのかな?

 運転に集中して聞いていない、ってわけではないようだが……

「お袋がどうして倒れたのか、お前には話したっけ?」

 そう俺に投げかけてくる日溜。

 自分の秘密をどこまで話したかくらい把握しとけよ。

「話されたよ」

「そうか」

 それで話は終わったとばかりに思考に耽る日溜。

 あ、話さないんだ。

 色々と気になることができたようで、フィリアなんか俺に話せと視線で訴えてきている。

 しかし、他人の秘密を勝手に話すことはできない。

「想像できてるんだろ?」

「できてるから答え合わせがしたいのよ」

 たしかにそれはあるな。

 それでも勝手に話すのはどうかと思うのでな。

「そのうち日溜が教えてくれるさ。それまで気長に待つんだな」

 日溜自身、そこまで隠そうとしているわけじゃないし、親父さんを無事連れ帰れたら、きっと話すだろうな。

 日溜は隠し事が好きじゃないらしいし。

「さて、俺は一眠りするから」

 俺はそう言ってから奏未の座る一番後ろの五人ほど横並びで座れる座席で座って寝ようとすると、奏未が俺の体を倒して寝転ばせ俺の頭を腿にのせる。

 柔らかくていい匂いだ。

 袴がなければすべすべの肌も堪能できたんだがな。


 目を覚ます。

 奏未は眠っていたが、他はみんな起きている。

「寝てないのか?」

「寝てないよー」

 夢花が眠たい目を擦りながら答えてくれる。

 奏未を横にして俺は席を立つ。

「今のうちに寝ておけ。向こうに着いたら寝られなくなる」

「悪魔がいる場所で寝られるかよ」

「俺が起きてる」

 日溜は悪魔を恨んでいるからそう答えるのは予想通りだし、日溜じゃなくてもほとんどの人はそう答えるだろう。

 まあ、俺がいるから信じてみようなんて思えるのが日溜だから、すぐに寝入ってしまうんだけどな。

「お前も寝ておけ」

 フィリアの肩に手を置いて声をかける。

「私は寝なくても一週間くらいなら動けるわよ」

 新人類にはそんな機能も備わっていたのか。

「それでも寝ておけよ。その方が力も出るだろう」

 現在バスが走っているのはどこら辺だろう。

 みんなが寝入ったのを確認すると、俺はリーラの隣に折り畳まれたガイドさん用(?)の椅子を広げて腰を下ろす。

 みんなが寝静まったところで、バスが光に包まれる。

 ほう?

 これがリーラの魔法か。

 術式がもはや芸術の域だ。

 こんな術式を扱うやつがいるとはな。

 バスは凄まじい速さで道路を走る。

 高速道路ではないが、止まることはない。

 全ての信号が青になり、前方の車を飛び越えていく。

 飛び越えて?

 いや、飛び越えているのではない。

 走っているのは道路ではない。

 道路の上に魔法で道を作って、その上を走っている。

 黒白凰もフロストも寝ているか。

「すごい組み方をした術式だな。複雑だが無駄がない。伝達回路も発生回路もうまく噛み合っている」

 魔法術式、その回路まで知る俺に、驚く様子は表情には現れないがハンドルを握る手にさらに力が篭ることで伝わってくる。

 表情に出ないというだけで、感情は読みやすいな。

「広人さん、ですか」

 覚えていたようで、少し嬉しい。

 俺は人の名前を覚えるのは苦手だからな。

 覚えられていて嬉しいと思うのだから、俺も他者の名前は覚えるべきだよな。

 リーラは覚えているが。

「術式に関しては後で目一杯話すとして、どうしてこの依頼を引き受けたのか、聞いてもいいか?」

 特に嫌がる様子もなく、あっさりと答えてくれる。

「私は、様々な組織に属そうとしてきたですよ。私の里には戦えるような力はないですから、誰かが守ってくれるように組織に掛け合う必要があったです」

 それは、俺を信用しているとかではなく、ただ純粋に、誰かに話したかったのだろう。

「私は中級悪魔ですが、大して魔法も使えない、初級悪魔の方が使えるとすら言われたです」

 悪魔の魔力はその悪魔の絶望に起因する。

 そしてその絶望によっては、使える魔法、使えない魔法がある。

 稀に血筋で魔力の性質が決することがあるが、そうした場合でも、使える魔法使えない魔法はある。

 そしてリーラは、その魔力が特異過ぎるためか、殆どの術式が扱えないのだろう。

「しかし、他の方は里に必要、居なくなっても平気なのは私だけですから、私がどこかの組織に属さなければならなかったですよ」

 大体察したが、話を続けたそうなので続けさせる。

「だから私は悪魔の秩序(レッドポリス)に属したですよ。ようやく属せたですよ。彼らは約束してくれたです。だから私が生きている間は里は安泰だと思ったです。ですが……」

「組織が滅ぼされた」

「ですよ」

 それは災難だったな。

 しかし、組織に属していて組織が倒され生きているのは、非戦闘員には珍しい。

 組織間の闘争だと、戦闘員・非戦闘員の区別をあまりつけないので、力のない者から殺される。

 本来なら幸運に思うべきことなのだが、その後が大変だったのだろうな、リーラの様子はどこまでも暗い。

「私は渋々里に帰ったです。でも、里には居場所がなかったですよ。元々私は、役に立たないですから」

「それでどうして引き受けることになるんだ?」

「私は誰かに頼られたことがなかったですよ。だから、誰かに頼られたことが嬉しかったです。だから私は、例えこれが最後になったとしても、フロストさんに協力したかった」

 嘘はない。

 俺の予想の裏付けにもなった。

「例え最後になっても、か」

「です」

「所詮は例え話だ。俺がいて、そんな例えが成立するかどうかは怪しいな」

「です?」

 何を言いたいのか分からないようで、無表情のまま小首を傾げている。

「俺に賭けてみる気はないか?」

「どういうことです?」

「里がお前を必要としないなら、俺がもらってもいいだろ?」

「ですっ⁉︎」

 リーラは行き場を失っているのだ。

 何をしていいのか分からないのだ。

 元々組織を探し回って、自分は必要ない存在なのだと思わされてきた。

 だから、必要とされるとそれに過剰に反応してしまう。

 そこに自分の存在意義を見出しているから。

 そこにしか自分の存在意義を見出せないから。

 ならば、俺が存在意義となろう。

 放っておけば危険に足を踏み入れるだろう。

 なら、俺も一緒に踏み出してやろう。

「お前は里を守るために組織に所属しなければならない。しかし唯一入ることができた組織が滅び里からの信用を失った。さらに魔法を使えないお前を、里に置いておくのは生活において邪魔でしかない」

 言葉がグサグサ突き刺さり、リーラが苦しげな流れを滲み出す。

「だったら、里にいる必要なんてない。お前はお前の好きにすればいい。今回お前は生き残る。誰も死なない死なせない。何かあったらすぐに駆けつけてやるさ」

 何にもないのが一番だけどな。

 大阪だからそうはいかないだろう。

「お前の里のことだって、何かあれば俺が協力してやる」

 リーラは黒白凰に頼むつもりだったのだろう。

 しかし、黒白凰かフロストから俺のことを聞いているなら、俺の力を欲しているはずだ。

 俺もこいつを必要としている。

 それなら道は一つ。

「お前が嫌になるほど俺がお前を頼ってやる。だからさ、この程度の頼みで満足するんじゃねーぞ」

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