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最下層階級の絶望騎士  作者: ぶい


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21/306

突入

「私たちも行こう」

 先生が入っていって数分。

 私は気配を消して、建物の様子を外から窺う。

 輝咲が消してないから私たちの存在は気付かれてるだろう。

 消していても気付かれてるかもしれないけど。

 何も考えていないように見える輝咲が、とある一室を眺めて割れた窓から入っていく。

 心配だけど私は私の役割を果たさないと。

 別々に入ることにはフレンドリーファイア以外にも意味があるだろう。

 敵は死霊使い(ネクロマンサー)、死霊をどれだけ操作しているかは不明。

 死霊の分散もこの行動に意図しているだろう。

 私は輝咲から随分と離れた窓から侵入する。

 ここまで来たならもう力を使ってもいいはず。

 髪が紅く発光し出し、暗い部屋が明るく照らされる。

 私は慌てて腰の剣を抜き、振り下ろされた大斧を弾く。

 危なかった。

 あと少し遅く力を発動していたら反応できずに斬られてしまっていた。

 私は広人じゃないからそんなことをされれば死んでしまう。

 私は気配を消していた。

 しかし気付かれていた。

 建物がぐらぐらと揺れる。

 きっと先生が戦っている影響ね。

 死霊使いの本体と戦っているはずだけど、やはり死体を呼び出されてしまったのか。

 本体と戦ってこれだけの衝撃は走らないはずだから。

 意識が一瞬逸れただけで、目の前にいたはずの敵は姿が見えなくなってしまった。

 私の力でも、いや、私の力ではぼんやりとしか居場所が分からない。

 この感触は能力ね。

 死体は能力を使えるらしい。

 兄さんなら簡単に見分けられるんだろうけど、私は力を使いこなせてないから動きがまるで見えてこない。

 剣を構えて意識を敵の動きに集中する。

 全身で相手の動きを読み取り、その一点を斬る。

 振り抜くとそこに手応えはない。

 振り抜いた剣をそのまま背後に回して、敵の斧を受ける。

 ビリビリと腕に振動が伝わってくる。

 私の剣はかなりの速度が乗っていた。

 そこに新人類の力も乗せて放ったはずなのに、弾いた反動がこれ程大きいなんて、本当に人間ベースなのよね?

 とても人間の腕力とは思えない。

 こいつ一体でもキツイ。

 これ以上来られたら相手しきれない。

 先生には分かっていたのかな?

 本体と戦うということはこいつらを複数相手取らなくてはならないということ。

 私はなんとか対応できるけど、すぐには倒せない。

 二人の救援には、行けない。

 今は二人を信じるしかない。


 クッ……!

 さすがに簡単にはいかねーか。

 普段通りではダメだな。

「どうしたぁ?その程度かよぉ?威勢良く出てきた割には大したことねぇなぁ」

「それは、どうかな?」

「なに?」

 夜、それはお前だけのグラウンドじゃねーってことだ!

 髪が伸びて、爪も鋭さを増し、普段は隠している耳が起き上がる。

「ほう。人狼ねぇ。それはそれは、長引けば大変なことになりそうだなぁ!」

 満面の笑みを浮かべるブルグルフ。

 楽しんでいるというわけではなさそうだ。

 俺を瘴気で操ろうと考えているのかもな。

「俺に瘴気は効かねーよ」

「それは百も承知。俺はそんなこと考えてないんだよなぁ!」

 だとしたらなぜ笑っていられるんだ?

 人狼を知っているなら、まず戦おうとは思わない。

 背後から忍びよる死体。

 上手く気配を消しているが、俺には見え見えだ。

 振り返ることなく拳で払う。

 軽く放ったつもりだが、死体は車で撥ねられたかのように勢いよく飛んでいく。

 教会の長椅子に頭から突撃し、その死体から霧のようなものが抜け出て、そうして動かなくなる。

「新人類なんて目じゃないな」

 フィリアと比べているのか?

 今ちょうど侵入しているはずだが、だとするとこいつはひどい思い違いをしている。

 新人類の可能性を考慮に入れていない。

 あれと兄妹だと聞いた時はゾッとした。

 あれほどじゃないとしても、フィリアにはそこそこの力はあるはずだ。

 自分でそれに気付いていないだけでな。

 死体が次々と湧き出てくる。

 この数相手はさすがに厳しい。

 だが、無理ではないんだな!

「それでもお前はここで終わる。喜べ!お前はこの俺様の研究に使ってやるからよぉ!」

 それで喜べってのは無理な話だな。

 研究、か。

 なるほど、たしかに人狼は希少で研究する価値は高いだろうな。

 だからここまで嬉々として戦っているのか。

 一斉に襲いくる死体たち。

 爪と爪を擦り合わせ、虹を描くように振る。

 鋭さを増した爪が指から抜けて、死体たちの額を次々と貫く。

 爪はすぐに生え変わり、石の地面を砕きながら真っ直ぐにブルグルフに駆ける。

 死体が防ごうと間に入るが、そんなもので俺を止められるわけがない。

 何か仕掛けてくる。

 直感でそう判断し、その死体を蹴飛ばす。

 案の定その死体の背後から剣が刺されて、しかし蹴飛ばされた死体が剣の持ち主ごと吹き飛ばして俺には剣先が触れることすらない。

 そうなることを予想できていたらしいブルグルフは、そのほんの数秒の攻防の最中に俺の懐へと潜り込んでいた。

 至近距離で繰り出された掌底を肘で叩き落し、そのツラ目掛けて裏拳を放つ。

 それを転がって回避したブルグルフは気色の悪い笑みを浮かべている。

 お互いギリギリの戦いだ。

 笑っているのは勝ち筋が見えたからか、ブラフで笑っているのか、ただ奴が狂っているだけか。

 なんにせよ、俺には突進あるのみだ。


 ぼんやりと室内を見渡す。

 暗い部屋には輝咲一人しかいない。

 しかし輝咲には何かが感じられたのだ。

 この部屋には誰かがいると、姿もないのにそう感じたのだ。

 ゆっくりと部屋全体を見渡した輝咲は、何を思ったのか左腕の包帯を解き始めた。

 輝咲が音を立てることはない。

 呪いでずっと眠らされていた輝咲は、寝ている間の情報入手を耳に頼っていたこともあり、聴覚が異様に発達している。

 包帯をポケットに無理矢理押し込み、ぼーっと突っ立って油断を見せる。

 戦い方なんて知らない輝咲だが、知らないからこそ純粋に油断しているように見える。

 輝咲はたしかに音を聞きつけこの部屋に入った。

 しかし、それから音が立つことはなく、敵の居場所が分かっていない。

 だから無駄に警戒するということもなく、一点に意識を集中するということもなく。

 水が流れるような音を聞き取った輝咲は左手を背中に回す。

 地面から出てきた大柄の死体は、背後から輝咲の心臓目掛けて細剣を放つ。

「やっぱりいたのさ〜」

 その剣は輝咲が後ろに回した左手に触れると、途端に動きを止めた。

 本来なら左手ぐらい簡単に貫いてしまえそうなものだが、剣先が触れる左手から一切の出血はない。

 死体はかなりの力を入れているが、剣はピクリとも動かない。

 瘴気で生きている時と変わらない様を保ってはいるが、当然死体なので体のリミッターは外れている。

 筋力は生者の比じゃない。

 そんな死体がどれだけ力を込めても剣が動くことはない。

 押そうと引こうと、剣が動くことはない。

 輝咲が体の向きを変えたので死体は剣を捨てようとするが、その手をすかさず右手で掴んだ輝咲が剣から左手を放し、その手を今度は死体の胸に持っていく。

「ご冥福をお祈りしますなのさ」

 ただ触れられただけ。

 そのはずなのに、死体にかけられていた呪いの術式が機能を停止して、そうして起こるはずの瘴気の暴発も起こらず、死体はただの死体となる。

 これこそが輝咲に宿る力。

 触れたものを停止させる左手だ。

 どんなに鋭利な刃物でもその手に傷をつけることはできず、何百何千度の高温物質でも熱運動を停止させられてしまう。

 人が持つには似つかわしくない力。

 人の『能力』とは異なる力。

 その力は呪いをも停止させた。

「それで、これからどうしたらいいのさ?」

 一息ついて、輝咲はそう首を傾げる。


 息が上がるとかそんなことはない。

 しかし、未だに敵を倒せず、ずっと攻撃を弾き、受け流し戦っている。

 すでに壁に追い詰められた。

 窓から一旦抜け出す、ということもできない。

 何か弱点はないの?

 私に勝機はないの?

 探せ!

 思考を止めるな!

 敵の攻撃にはキレがある。

 防ぎ続けるのは得策ではないし、姿を消せるのは厄介だ。

 しかし、攻撃するその一瞬は姿が見える。

 ならばそこを突くしかない。

 それには速さが必要だ。

 反応も放つのも、速さが必要だ。

 できるの?私に。

 できる。

 きっとできる。

 やるしかない。

 目を閉じ剣を構えその場で呼吸を整えて。

 髪がさらに紅き輝きを増して、その目を静かに開く。

 速く、もっと速く。

 研ぎ澄ませ。

 まだ足りない!

 速く!

 速く速く速く!

 もっと、もっと速く!

 この剣に、この一撃に、持てる力全てを!

 最高の一撃を!

 見えた!

 目に見えるようになる。

 すなわち、新人類の力で感知できるということ。

 私は私の力を信じる!

「いっけええええぇぇぇぇ!」

 剣を振り下ろす。

 敵は正面。

 最後は真っ向勝負で決めようとしていたようだ。

 しかし、私の剣は死体のもつ斧ごと斬る。

 というか消し去る。

「え?」

 その斬撃は壁を斬り裂きその先の何かも斬り裂いて、ようやく消滅する。


 自分でしておいてなんだけど、なにこれ?

 いや、分かるよ⁉︎

 こういうことも新人類ならできるってことは知ってたよ⁉︎

 でも私はこれするの初めてで、というか、私はどうやってさっきのを放ったの⁉︎

 それに何か他にも斬ったし!

 きれいに斬り裂かれた壁から外に出て、私が斬り裂いたもう一つの何かを見る。

 それは何か膜のようなもの。

 それは徐々に戻り始めて、何かは分からないけど、嫌な予感がする。

 教会内に戻って部屋を調べると、謎の模様をいくつも見つける。

 これはなんだろう?

 広人なら呪いの術式を読めるし、これが何かの呪いに関することならきっと読めるだろう。

 私には読めないからどうすればいいのか分からない。

 もしかすると輝咲の時のように爆発するかも?

 でもとりあえず、避難しておいた方がよさそうね。

 先生と輝咲にも伝えないと。

 そう思って扉を開けようとした時、その術式は作動した。


 凄まじい爆音と振動、そして下から吹いてくる風。

 風?

 閉じていた目をゆっくり開くと、そこには紅く輝く目の広人の顔があった。

 あまりの近さに驚き、言葉が出てこない。

 何が起きたの?

 広人の顔が近かったことで思考が停止し、そんな疑問はきれいに消し飛び、現状把握もできない。

なぜか初恋の彼と重なる。

「八田月に頼まれたのか」

 いつもよりも険しい顔つきの広人にそんなことを言われる。

 そこでようやく頭が仕事を思い出し、現状把握に取り掛かる。

 どうやら私は広人に、いわゆるお姫様抱っこをされているらしい。

 恥ずかしさを堪えながら下を見ようとすると、広人が体に寄せてくる。

 顔が熱くなる。

 最近の私は変だ。

 広人のことばかり考えているし、広人に見られると恥ずかしく思う。

 こんな時だっていうのに、広人の顔が近いってだけで思考を止めてるし、私おかしくなった?

「あまり動かないでくれ。落ちたら大変だ」

 そう言われて首だけ傾け下を見ると、そこには崩れた教会となぜか距離が近く感じる瓦礫が。

 教会が随分と小さく見える。

 なにがなんだか……

「なにがあったの?」

 そういつも通りの調子で訊ねる。

「教会が爆発した。呪爆(じゅばく)の術式が仕掛けられていたらしい」

 あの術式は輝咲の時と同じ術式らしい。

 生物以外にも呪いってかけれたんだ。

 瓦礫を近くに感じたのは、瓦礫が爆発で打ち上げられていたからだったのか。

 そういえば、先生と輝咲は無事なの?

 教会だったものを観察しても、動いているものは確認できない。

 髪が輝きを失っているのは、さっきの一撃に力を込めすぎたからか。

 そのせいもあって今は力が使えず、二人の無事を確認できない。

 もしかすると広人の表情が険しいのはそういうことなのかも……

 二人とも無事でいて!

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