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それは決められた出会い

 月が雲に覆われて、街灯の無いコンビナートでは、少女の放つ紅い光のみが辺りを明るく照らす。

 だから、誰もが自ずとそちらへ視線が吸い寄せられる。

「ひ、ひるむな!敵は1人、束になれば倒せない相手じゃねえ!」

 悪魔の内の一体がそう叫ぶ。

 自分達を鼓舞していることは明白、勝てないと言っているようなものだな。

 しかし、俺が数に入れられていないことは、納得いかないが、まあいいさ。

 任せてしまえば楽できるし。

 先ほど叫んだ一体の悪魔を残して他の悪魔が少女へと駆ける。

 下手な連携、しかし数が多いというだけで少しは苦労するものだが……

 その全てを捌き、いなし、斬り伏せる。

 やはり、戦い慣れているな。

 俺は一人で静かに感心している。

 すると、少女の戦闘を分析していたせいで、背後から忍びよる悪魔に気付くのが遅れる。

 首を掻っ切ろうと振るわれたであろうその爪を、遅れて気付きながらもなんとか躱す。

 相手が弱いからと舐めすぎていたと冷静になる。

 そして、続けて振り上げられた爪を右手で受け止める。

 しかし、爪が手の平を貫き、どくどくと血が溢れる。

「おいおい、今は俺を狙うながれじゃなかっただろ」

 少しばかり不満をぶつけてみるが、相手に反応はなし。

 慣れているとはいえ、痛みは無い方がいい。

 悪魔を蹴って爪を抜き取り、少し距離を取る。

 するとすぐに少女が悪魔へと大きく踏み出し、俺の横を通り過ぎようとしので、その腕を掴んで止める。

 もちろん、傷を負ってない方の手で。

「どうして止めるの?」

 今日初めてあったばかりの俺が傷ついたからか、焦っているな。

 全く、こんなのはどうとでもなるのだが。

 仕方ない。

 簡易再生(クイックロード)

 右手の穴がみるみるうちにふさがる。

 無茶な回復だから鈍い痛みが残るし、再生も不完全だが、一応傷は塞いだ。

 これで安心してくれると思ったが、思いの外効果があり瞠目して固まっている。

「あれは俺をご指名だ。だから、俺が相手をする」

 右手をひらひらとさせて、もう大丈夫だと伝える。

 少女が何か聞きたそうな顔をしているが、そんなものは無視だ。

 その間に悪魔に歩みよる。

「バカにしてんのか?能力は治癒系なんだろ?だったら、戦闘力皆無じゃねぇか!仲間がいなくなって、お前でも倒せると思ったのか?それとも、こんなことになって頭おかしくなっちまったのか?」

 頭おかしくないが?仲間がいたとしても倒せるのだが?治癒系能力じゃないが?

 そんなことを言ったところで、一度攻撃が当てれたのだから、やはり俺の能力は治癒系で、戦闘能力がなく、自身の力が通じないはずがない、と思うだろう。

「どう見える?」

 あの程度の攻撃なら受け流すこともできた。

 だが、敢えて手で防ぐことで、自分の攻撃が通じると思い込ませる。

 その方が油断してくれて楽に処理できるからな。

 しかし、失敗だったとも思う。

 服が血で汚れてしまった。

 身銭を切る戦い方が板についてきているのは問題だな。

「なぜお前は、俺に標的を変えたんだ?」

 短慮で、血の気が多く、やはりこいつらはぐれの悪魔の例に漏れず、襲った理由も想像ができる。

「お前を喰らいパワーアップする。そうすれば、そいつもきっと倒せる。そんなことも分からないのか?」

 だろうな。

 人間を食せば強くなれる。

 それを純粋に信じている。

「それ、都市伝説だぞ?」

「惑わそうとしても無駄だ!」

 まあそうなるな。

 人間の言葉を簡単に信じるわけないよな。

 どのみち殺すし、信じようが信じまいがどっちでも構わないのだが、悪魔相手でもやはり殺すのは気が引ける。

「話は終わりだ!俺の力の糧となれ、人間!!!」

 はあ〜〜〜

 大きな溜息が溢れる。

 希望を持たなければ、強くなれたかもしれないのにな。

 まあ、短慮であるからどのみち強くはなれないか。

 悪魔が考えることをやめたら、成長なんてものは起こりえなくなるのだから。

 やれやれ、精神的向上心のない者はなんともね。

「一撃で終わらせてやる。絶望を知れ」

 大技を人前で使うわけにもいかない。

 だからこの一撃は、鋭く、確実に殺しだけを目指した一撃でなければならない。

 そう考えながら、筋肉をねじり、収縮させ、右腕の中で力の渦巻く機構を作り上げる。

 悪魔の爪が薄っすらと光り出す。

 魔法で研磨したか。

 だが、さっき学ばなかったのかな?

 鋭さでは俺は倒せないというのに。

 悪魔は姿勢を低くして、腕を素早く突き出す。

 全く悠長なことだ。

 そんな、素早くなんて、表現がもうすでに周回遅れなんだよなぁ。

 そう思うのは、すでに振り抜いているくらいの気概でなければ、俺に速度だけで技を撃ち込むことはできないからだ。

 だからそんな相手の動きは見切っていた。

 左手で受け流し、右手を固く握る。

 そしてーーーー


 つぎの瞬間には、悪魔は後頭部から鮮血を噴き出しながら、後方へと飛んでいった。



「助かったよ」

 少女にそう言って去ろうとする。

 というか、今何時よ?

 ふと気になりスマホを見ようとしたところで、夜風に揺れる前髪を気にしながら、俺をしっかりと見据えている少女に呼び止められる。

「待って。最後のあれ、何?」

 こいつ、あれが能力じゃないとわかるのか?

 いやいや、何者だよ、と思ったが、再生能力を見せている以上はこの拳が能力じゃないという結論にはなるのか。

 一人で二つの能力を持つことはありえないからな。

「何だろうな?」

 そう言って誤魔化しを試みるが、全く納得してくれてないな。

 嘘はつかない主義だ。

 だからこれ以上会話を続けるよりかは、なんとかこの場を切り上げたい。

 このままペラペラと話すのはありえないし、無言のままこの場に留まり続けるのも気まずい。

 謎のすごい武術使い、なんて納得してくれないかな。

 少女は少し考えた末に諦めてくれた。

「そう………言いたくないならいいわ。そういうこと、私にもあるから」

 まあ、助けに来てくれた恩人相手とはいえ、出会ったばかりの相手に能力を教えるのは普通嫌がる。

 そう分かってくれたようだ。

 完全に戦闘は終わったと、髪から光が消えていく。

 そういえば、今の今まで臨戦態勢をとっていたのか。

 こっちを警戒してってことか。

 だからさっきの質問…………用心深いことだ。

 不自然な流れもかなり小さくなっている。

 少女は柵を飛び越えて歩き去る。

 はてさて、あの不自然な流れこそ何だったんだ?

 少女の俺への警戒は弱まったが、俺の少女への警戒はむしろ強まっていった。


「朝から憂鬱そうだな。何かあったのか?」

 俺が机に伏せていると、日溜(ひだまり)が後ろからつついてくる。

 俺は何も言わず、元々そこになかった机を、俺の席の右隣の席を指差す。

 嫌な予感しかしないのだ。

「気になるのか?転校生」

 そうじゃない。

「高校と時期を考えろ」

「は?どういう……って、そういうことか」

 分かってくれたか。

「こんな時期にわざわざうちに転校してくる、そんなやつは………」

 他の生徒は盛り上がっているが、俺たちは逆に暗くなる。

「し、しかし、必ずしもそうとは限らないぜ?」

 昨日それっぽいのと会ってるからなぁ……

 俺がおもむろに席を立つと、日溜も続いて立ち上がる。

 八田月が連れてくるだろうから、最悪ホームルームだけでも逃げられれば、きっと中木(なかき)に押し付けられるだろう。

 俺たちが教室を出ようとすると、ちょうど夢花(むか)が入ってくる。

「あれ、ヒロ君?今からホームルームだよ?」

 なんとタイミングの悪いことか。

「おう。そうだな」

 くそ適当に返して教室を出ようとすると、立ち塞がるように夢花が移動してーー

「転校生来るよ?」

「おう、そうだな」

 再び同じ返し。

 それに対して夢花は、畳み掛けるように続く一言を口にした。

「押し付けるって言ってたよー」

 だと思ったよ!

 きっと八田月のやつが俺が逃げ出さないように先に夢花に手を打っていたんだ!

 くっそ、やっぱり面倒ごとを抱えていやがった。

 やっぱり八田月の味方をするらしい夢花に引っ張られて、席に座らさせられる。

 それと同時に、教室の前の扉が勢いよく開けられる。

「お前ら席つけーって、珍しくついてるな」

 転校生が待ち遠しく、早く見たいが為の着席だ。

 俺はそんなことないし、今すぐにでも帰りたいけど。

 うわっ、八田月と目があっちまったよ。

 うわぁ、悪い笑顔と俺は表情を引き攣らせていやいやを表現。

 八田月は諦めろと言う代わりに肩をすくめた。

「分かっていたとは思うが、転校生が来ている。入れ」

 そうして少女が開いていた扉からしっかりと足音を響かせて、堂々とした佇まいで教壇の横へと向かう。

 そうして教室へ入ってきたのは、残念ながら、とっても残念ながら、心底残念ながら、昨日会った赤髪の少女だった。

 クラスの男子からは、可愛いーと声が上がる。

 その気持ちは分からんでもないが、できれば遠慮したかったな。

 向こうも俺に気づいたようだ。

 暗かったから見えてなかったらよかったんだけどなぁ……

「自己紹介しろ」

 転校生にも八田月の態度は相変わらずだ。

 歳二つしか違わないのに、なんでこんな不遜な態度なんだろ。

 あいつ体育会系でもないしなぁ。

「私はフィリア・ユスティリア。アメリカ出身だけど、向こうでのことは聞かないでほしいわ。これからよろしく」

 面倒ごとに巻き込まれる、か。

 親父の言った通りになったなぁ。

 自己紹介が終わると、質問なら放課にでもしとけとばかりに、仕切り直そうとする八田月。

 質問のために手をあげようとした生徒に、ガン飛ばして黙らせている。

 それでいいのか教師よと思わなくもないが、多分ここで質問コーナーなんて始めたら、それこそ収拾つかないだろうな。

 俺はおもむろに両手を両耳に添えようと動かす。

 さて、そんな俺を嘲笑うかのように、今だけの教師的発言をする。

「おい広人、耳塞いでないで、ちゃんと話を聞きたまえ。人の話を聞かないのはあまりにも失礼だ。ということで、こいつは任せた」

 本当に丸投げする気だったのか。

 いやだいやだと思いながらも、俺はそれを引き受けるしかなかった。

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