〔7〕
叢雲学園正門前、パトカーや鑑識の灰色の車に混じって、白地に南国の花々を彩った大型ワゴンが一台止まっていた。
ペンション『ゆりあらす』の送迎用自家用車である。
ペンションオーナーで優樹の叔父である田村は二人に、腹が減っただろう、と笑いかけただけだった。
十人乗りの車内。いつもなら遼の隣に座る優樹が、今日は一番後ろの席に一人で座り拗ねたように無言だ。
当事者として事件の矢面に立とうとしたが失敗し、機嫌が悪いのだろう。
優樹の沈黙が重くのし掛かり、遼は困惑する。
自ら名乗り出た理由を、どう説明すればいいのか。しかし、この件は自分にとって何か特別な意味がある気がして、黙ってはいられなかったのだ。
気詰まりな空気を察したのか、田村が運転席から声をかけた。
「実はね、遼君。館山からお母さんが……千絵さんが家に来てるんだ」
「えっ、母が……?」
遼の母親、秋本千絵は館山市内にある大学病院で看護師をしていた。
夫と別居することになったのは、その不規則な生活が理由とばかりは言えないが、叢雲学園に入るように勧めたのは仕事を優先して遼に負担を掛ける事を案じたからだ。
学園には寮があり、親しい知人である田村の家が近いので安心できると思ったのだろう。
その母が、仕事を差し置いて駆け付けるような事件……。
遼の胸に、いい知れない不安がひろがった。
「それと、大貫の叔父さんも来てるから」
大貫は千絵の弟で、田村とは高校時代からの親友であり釣りを趣味とする仲間でもある。
遼と優樹は大貫の経営するレンタル会社の小型クルーザーで、沖合まで釣りに連れて行ってもらうのが好きだった。
この週末も約束していたのだが、どうやら叶わぬこととなりそうだ。
母親が来ていると聞いた遼の落ち着かない様子を伺い見て、優樹が気まずそうに声を掛けてきた。
「あの……さ、俺はただ……」
うん、と、遼は小さく頷く。
優樹が自分を庇おうとしたことは、わかっていた。
いつもそうだ、優樹の影にいれば、表に出なければ、降りかかる火の粉は払ってもらえる。
しかし、あの石膏像に関しては逃げてはいけない。理由は解らないが、何か抗いがたい力が遼に働きかけていた。
守られる自分から、変わらなくてはいけない。
敢えて目を合わせず、遼は窓の外に視線を逸らした。
「ちぇっ……!」
背中に、ふてたように小さく呟く優樹の声が聞こえた。