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私立叢雲学園怪奇事件簿【第一部 青龍編】  作者: 来栖らいか
【第五章 女神の彫像】
46/47

〔10〕

 無線で現場待機を命じられた田村が一縷の望みを掛け、双眼鏡を頼りに海上を隈無く探したが、大貫らしき姿を見つけることは出来なかった。

 潜水設備の用意も無く、これ以上は何も出来ない。

 喪失感が支配する船上に、流れる時間が永遠に感じられた。

 間もなく海上保安庁の巡視船と千葉県警の船が現場に到着し、潜水隊員が海中深く大貫の死体を探したが、潮の流れもあり見つけ出すのは難しいと判断された。

 海上を漂う船体の残骸は細かく、見る影もない。

 岩礁に乗り上げただけで、あれほどの爆発炎上が起こるとは信じられない。長期逃走に備え、燃料を余分に積んでいたかもしれないと田村が警察に説明している。 

 座礁し転覆しても、大貫を助けられるかもしれない……。

 わずかに抱いていた望みは、船体と共に砕け散ってしまった。

 水平線上に太陽は沈み、残照は色濃い闇に浸食されていく。代わって洋上を、冷たい月の光が寂しく照らし出した。

 港に帰るクルーザーのデッキ上。黙って海を見つめる優樹の瞳に、先ほど見られた怪しい光は影もない。

 見間違えであったのか? 

 見間違えであって欲しいと遼は願う。

 そうでなければ……。

「こんな事言うとまた、おまえに怒られるかも知れないけど……大貫さんはああするしかなかったんだ。どんな理由があるのか解らないし、多分、俺には理解が出来ないことだと思う。だけど、あの人は自分の居場所を見つけることが出来なかった。それだけは、わかる気がする」

 優樹の言葉に、遼は頷く。

「うん……君の言うとおりだよ、きっと。『この世の全ては必然から成り立っている。偶然の要因は存在しない』と、昔誰かから聞いたことがある。多分、叔父さんの死は避けられなかった……」

「おまえ、よくその言葉を覚えてたな」

 えっ、と、遼は優樹の顔を見た。

「それ、俺のオヤジが死ぬ前に俺達に言った言葉だ。オヤジが危篤になったとき、田村さんや大貫さんと一緒におまえと、おまえの両親も会いに来てくれただろう? 付き合いがあったからな。その時、俺達二人を病院のベッドの枕元に呼んで、オヤジがそう言ったんだよ。オレはオヤジを心配させたくなくて、泣くの我慢してた。そしたらオレの代わりみたいに、おまえがボロボロ泣いてたよな……。俺が最後の言葉を覚えてるのは当たり前だけど、おまえも覚えててくれたんだな」

 ああ、そうだ。何故今まで忘れていたのだろう? 

 確かに、この言葉は優樹の父親が死の直前に言った言葉だ。

 そして彼は、「優樹をお願いしたよ」と遼の手を強く握ったのだ。

 あの時は、目の前の死にゆく人間の姿が恐ろしくて、何を言われたのか、どういう意味なのか考える余裕がなかった。

 大貫の死も、優樹の父親が亡くなったのも、本当に必然なのだろうか?

 避けることは、出来なかったのか?

 助けられるものなら……。

 遼の頬に涙が伝う。悔しいような、哀しいような複雑な思いに、それをとどめることが出来ない。

「なんだ、また泣いてるのか? おまえ、男のくせに泣き虫だなぁ……。俺はオヤジと約束したから、どんなことがあっても泣かないけどな」

「ほっといてくれよ、君と違って僕は……」

 先の言葉が続かない遼の肩に、優樹が手を置いた。

 マリーナでは濱田や警察関係者と共に、アキラが彼等を待っていた。

 遼の両親の姿もあったが、母親の千絵には田村小枝子がぴったりと寄り添っている。

 度重なる出来事に涙も枯れたのか、千絵は血の気のない顔色ながらも気丈に警察と話していた。

 田村からの無線で経緯を聞いたのだろう、アキラがクルーザーから降りた遼に声をかけた。

「来栖は取り敢えず病院に行ったけど、ぴんぴんしてたよ。水も食料もきちんと出されてたようだし、それどころか大貫さんからアドバイスをもらいながらアトリエでフィギュアのモデル像を粘土で造ってたんだぜ? 大したヤツさ。……大貫さんは、辛い結果になって残念だったな」

 無理に笑顔を作ろうとすると、優樹が「無理、するな」と肩を支える。

「悪いが三人とも、これから本署で事情聴取があるんだが来てもらえるかな? もし後日がよければ……」

 気兼ねするように、神崎が尋ねた。

「いえ、僕なら大丈夫です」

 遼は、はっきりと答えて優樹と共に神崎の車に乗った。アキラも濱田と車に向かう。

 彼等の後を追うように、晩秋を迎えようとしている海上から冷たい風が渡った。

 風は渦を巻くと天空へ昇り、未知なる獣の遠吠えのように鋭い咆吼をあげた。

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