〔2〕
田村に車で迎えに来てもらい、遼、優樹、アキラの三人は『ゆりあらす』に向かった。
詳しい話は向こうに着いてからと、アキラは何も話さない。
だが遼は、その苦渋の表情から漠然とした胸騒ぎを感じていた。
彼らを迎えた神崎の表情はいつになく硬く、最近見せるようになった気さくな友人の顔は微塵もなかった。
それは、遼が美術室で初めて会った時に見た、まさしく刑事の顔だ。
「言ったはずだ、須刈君」
リビングでテーブルを挟み向かい合うと神崎は、静かに、しかし断固とした口調で言い放った。
「軽率でした……申し訳ありません」
アキラは素直に詫びて、目を伏せる。
「来栖先輩に何かあったのか? 俺達にもわかるように説明してくれよ」
何事かを察したのだろう優樹の問いに、神崎が小さく溜息をついた。
「来栖君は、石膏像制作者の話を須刈君から聞いて、思い当たる人物に会いに行ったのかも知れないんだ」
予感が逃れようのない事実として目の前に突きつけられ、遼は愕然とした。
犯人を捜したいと願い警察の真似事をした結果、もし関係のない人間が犠牲になったとしたら責任は自分にある。
悔恨に唇を噛むと、アキラが「大丈夫だ」と言うように手を重ねた。
「多分、来栖は何か切り札を掴む事が出来たんだ。そして確かめに行った……目的は解らないが、都合のいいカードを得るためにね。あいつの性格はわかっていたはずなのに、危険性を軽く見ていた」
アキラの口調は冷静だが、いつもより気持ち弱気に聞こえる。
「なんだよ、あんなヤツどうなろうと勝手じゃないか? まだ事件に関係してるとは、限らないんだし」
面白くなさそうに呟いた優樹を、遼はきつく睨んだ。
「来栖先輩がどんな人間であろうと、君にそんなことを言う権利はないよ。僕も彼の事はあまり好きじゃないけど……だからといって、どうなってもいいと言うのは間違っている。君は本気で、そう思うのかい?」
途端、優樹は赤面した。
「……悪かった、もう言わないよ」
神崎が意外そうな顔を向けたが構わず、遼は「手掛かりは?」と尋ねる。
すると神崎は、上着のポケットから小さなメモリースティックを取り出した。
「須刈君から電話をもらってすぐに、館山署の少年課から来栖君のパソコンデータをコピーしてもらってきた。捜索願が出された時に手掛かりとして預かったらしいが……サイトのブックマークとSNS、メールのログだ」
「じゃあ、来栖の友人関係は調査済みですね?」
アキラに聞かれて神崎は、苦々しそうに笑った。
「申し訳ないことに、警察は事件性のない行方不明者の捜索にはあまり熱心じゃないんだ。データはまったく手つかずでね、メールに関しては急いで当たってくれるように頼んできたから、そっちは任せてくれたまえ。あとは、そうだな……。彼がどんな人物を心当たりにしたのかわかると絞り込めるんだが、何か知らないかい?」
「来栖は自己顕示欲の強い男ですから、どこかに必ず痕跡があるはずです。秋本は何か聞いていないか?」
「いえ……何も。先輩は最近、僕にあまり近づかなかったし……」
遼は少し決まり悪そうに、アキラに向けた目を臥せた。
「そう言えば俺も少し気になっていたんだった。ヤツと何かあったのか?」
「別に、大したことじゃありません。館山の画材店で先輩に会った時、ちょっと嫌がらせのようなことをされて……一緒にいた大貫の叔父さんに、手厳しい注意をされたんです」
「何を、されたんだよ」
優樹が真面目な顔で問いただす。
「だから、大したことじゃないって言ってるだろう? いつものように、モデルになれって迫られただけさ」
顔を上げ、遼は笑顔で答えた。
余計なことを言えば、優樹は怒り出すに違いない。今は、取り成している時間など無いのだ。
遼の意図を察したのかアキラも、詳しいことは聞かなかった。
「学園内に、友達が少ないやつだからなぁ……情報を集めようがない。そうだ、ヤツはFBやってたな、何か書いてあるかも知れない」
「FBは、警察で調べているよ。手掛かりがあれば、私に連絡があるはずだ」
外に手はないかと目で問い賭けられ、何かを思いついたアキラが笑みを浮かべた。
「神崎さんが持ってきてくれたメモリスティックが役に立つかも知れません……」
「関連性のある人物が解るのか?」
「いえ、ブックマークから裏サイトを調べるんですよ」
「裏サイト?」
怪訝そうな顔の神崎に、アキラは頷く。
「来栖のマニアックな友人が管理するサイトで、表に出せないような作品を紹介したり売買したりしてるんです。ネットで石膏像制作者を捜すうちに、それらしいサイトがあると解って来栖から聞き出すつもりでした。生憎それが裏目に出てしまいましたが……早速調べてみます。篠宮、おまえパソコンあるだろう? ちょっと貸してもらえるかな」
「悪ぃ……先輩! 俺のパソコン、もうかなり前から壊れてるんだ。直せば使えると思うけど……」
「ええっ? また?」
遼は呆れて声を上げる。
どういう訳か優樹はパソコンが苦手で、操作すると必ずと言っていいほど動作不良を起こしてしまうのだ。
バイクのメンテナンスや家電品のハード面の修理は得意だが、ソフトに関しては必要最低限の事しかやらないため、たぶんウイルスにでもやられたのだろう。
優樹の部屋を訪れるたびソフトを再インストールするのは、遼のお定まりの仕事となっていた。
「困ったな、修理してる時間なんてないぞ。仕方ない急いで寮に戻ろう、俺のPCはMacだがデータは読めるし……」
アキラが席を立ちかけると、思いついて優樹が呼び止める。
「そういえば事務室に、田村さんのパソコンが二台あった。片方は俺のと使い方が違うから多分マックだと思うけど、もう一台はウィンドウズマシンじゃないかな? このペンションのホームページを作ってるくらいだから、通信速度も速いよ」
「そいつは好都合、貸してもらえるか聞いてみよう 」
アキラはそう言うと、神崎と顔を見合わせ頷いた。




