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大魔導師様の内緒のお仕事は刺激的。

オッス俺月見ユウジ17歳!現在国軍がチビッ子に持ってきた仕事を達成すべく王国から遠く離れた辺境の村へと移動中だ!

高価な馬車には高価な内装が施されてるから、どんな悪路を進んで車体が揺れようと痛くナーイ!お尻痛くナーイ!



「で、仕事ってなんなの?」

「………急になに?」



窓枠に頬杖をついては車体が揺れてアゴがガクガクしている俺を、チビッ子は冷ややかな深紅の瞳で見てくる。



「いや、気になってさ。だってシンプル過ぎるじゃない? “辺境にある虚無の村《ボイド》に向かって欲しいとのこと”って。」

「……それで充分なんだよ。……ボクは、それしか能が無いから。」

「で、なに?」

「……国軍御用達の馬車の運転手ですら聞かされてないこと、聞きたいの?」

「国家機密かホッホーゥ!…で、なに?」

「………見れば、わかるよ。」



チビッ子は含みのある様子でそう言い、下を向いた。

それからしばらく馬車は走り続け、日が3回沈んで訪れた夜。馬車は停まり、チビッ子の小さな身体にもたれかかって爆睡していた俺は、肩を揺さぶられて目を覚ます。



「………着いたよ。…っていうかなんで隣に座ってるの?」

「んぁ…お前が可愛いからじゃダメ?」

「うるさい。」



ズビシッ。―容赦ない目潰しが寝ぼけ眼に襲いかかる。

悶絶する俺をよそにチビッ子はスタスタと馬車を降りていったので、俺も慌てて続こうとして馬車からひっくり返った。顔面着地いてーわ。



「いてて………。」

「ではグリム殿、私どもはここで。」



敬礼する国軍の兵士達を見向きもせずにチビッ子が歩いていくので、俺が代わりにペコペコしながらそんな彼女に続く。


鎧を着て。腰に剣を差して、完全に武装した大人達に。

陰気な黒のローブを羽織っただけの小さな少女が、その小さな背中を見送られている。

その光景は、俺にとって不思議なものでしか無かった。


チビッ子のその小さな肩に、国軍はどれだけのものを負わせているんだろう。ふと、そう思った。



「……仕事の時は、これで顔を隠すんだ。」



チビッ子は懐の小さな巾着袋の中から牛の頭蓋を加工した仮面を取り出し、深く被って魔族のような姿に見せかける。

俺には猿の頭蓋を加工したような質素で小物感が凄い仮面を差し出してきた。被れって事だろうから被る。


そうそう、因みにこの世界じゃ当たり前に四次元ポケットが存在している。

魔力には火、水、土、木、雷、光、闇の七種類があって、光と闇の魔力には時空に干渉する性質を持つ魔法も実現する力があるらしいのだ。

丈夫な素材を揃え、光か闇の魔力と時空干渉魔法を身につけた職人が時間をかけて魔法と魔力を素材に馴染ませることで、四次元ポケットは完成する。なのでまぁ決して安くはない。

安くはないが、王族や凄腕の冒険者、名のある商人なら大体持ってる。そういうもんだと、奴隷商人から教わった。



「着いたよ。」



うっそうと茂る森をしばらく歩いていると、チビッ子がふと立ち止まった。

茂みの向こうには、とても裕福とは言えず、文化レベルもかなり残念そうな小さな村が見えている。

夜中だからか村の中心では大きな火が焚かれ、簡素な槍を手にした原始人のような格好の若者が、何人かで村の中を周回して見張りをして回っているようだ。

こんなクソ田舎だから、恐らく野生の魔物を警戒しているのだろう。



「………ボクの仕事、気になるんだよね。」

「ああ。」

「………見てていいよ。見たままだから。」



チビッ子はおもむろに村へと手をかざした。


しかし なにも おこらない!

むら には こうか が うすい ようだ!



「え、マジで何してんの?」

「………もう始まってるよ。」

「ん?……ん?」



村を周回していた若者数人が、急に悲鳴を上げ始める。

少し時間を置いてそれぞれの家屋から女子供や老人が不安そうに出てきて、彼らは一様に、何かに追い立てられるかの如く村の中心にある焚き火へと集まっていた。

すし詰めに近い状態の村人達は、総勢で百人余りに上る。子供は寝ぼけ、大人は怯え、赤ん坊は泣いていた。


端から見れば少し滑稽な光景だ。彼らが何を恐れてわざわざ夜中に焚き火の周りに集まっているのかが、見ているだけではまったくわからない。

ふと、一人の若者が槍先に火をつけ、怯えながらも勇ましい声を上げて闇の中へと駆けていく。



「ウォォ―」



―シーン。―その声は、冗談みたいに消えてなくなった。闇の中で光っていた火も、同時に見えなくなる。


さながら、闇に溶けて消えてしまったかのごとく。


それを見た村人達は悲鳴を上げ、自然災害にでも襲われているかのように顔に純然たる恐怖を貼りつけ、困惑している。

チビッ子はそんな人々に手をかざし、ただ、淡々と深紅の瞳でその光景を見つめていた。


村人達は悲鳴を上げながら焚き火へと後ずさり、より焚き火に近かった者は押されて火の中に倒れてしまっている。

さっきまで寝ぼけていただけの年代の子供達もついには泣き出して、それはまさに阿鼻叫喚の地獄絵図と言うのが相応しい光景だった。



彼らはなにに怯えている?



―――その疑問の答えは、よく見ればすぐにわかるものだった。


…闇だ。彼らは、闇に怯えている。どれだけ火の明かりに近づこうと、その光を食み、迫ってくる不気味な深淵に。


火の中に押されて燃え上がった村人が、悲鳴を上げて火から飛び出す。

内側から外に向かってドミノ状に倒れた村人達は、その端から次第に闇に飲まれ、悲鳴すら上げずに消滅する。近くに居た子供が慌てて闇の中に手を伸ばすが、その子供も青ざめた顔をして闇の中に引きずりこまれ、声さえ上げずに居なくなった。


闇の中で何が起きているのかはよくわからなかった。

だが火だるまになった村人が熱気から逃げようと闇の中へ飛び込み、あれだけ大きな火の塊が闇に触れた途端に消えた光景を目の当たりにして、俺は理解した。



―――それは、ただ、闇そのものである。



蠢く深淵がじりじりと村人に迫り、老若男女関係無しに飲み込んでいく。

涙も、悲鳴も、懇願も。未来も、勇気も、命の種さえも。

全て関係無く、彼らがすがっていた大きな焚き火もろとも、飲み尽くした。


そして、そこにはもう、何も無いのだ。


否、闇はある。闇だけは当たり前のようにそこに居続けている。

家屋も、人も、明かりも飲み干して、さも当然のごとく、不気味な闇だけがそこには残っていた。―――不気味な静けさだった。


不気味な、不穏な静寂。

チビッ子は、ふと手を下げた。そのまま村のあった場所に背を向け、元来た道を淡々と戻っていく。



「……なぁ。」



チビッ子は返事をしない。俺の顔には、かわいた笑みが張りついていた。

ちゃんちゃらおかしな話だからだ。だから、ヘラヘラと、虚しくならずにはいられない。



「いつもこんなことしてんのか?」

「………そうだよ。」

「はは、そうか。で、あの人達はどうなったんだよ?」

「………もうすぐ死ぬ。」

「なんで?」

「……虚構世界に送ったから。そこじゃ、人間は長くは―」

「なんで死ななきゃならない?」

「……見てわからなかった?」



その声には少し苛立ちが混ざっている。



「………抵抗する時、誰も魔力を使っていなかったの、見てたよね。…ワースレスだからだよ。 ……ワースレスがワースレス同士、力を合わせて国に反乱する準備をしていた。…だから皆……死ぬ。」

「……それがお前の仕事なのか?」



チビッ子がふと立ち止まったので、俺も立ち止まる。

彼女が牛骸の仮面を取ったので、俺も頭蓋の仮面を取った。



「………平和を守る為には犠牲が必要なんだ。でも、平和の中で生きている馬鹿は、平和の中しか知らないから、犠牲なんていらないって考えを持っている事が多い。」

「だからお前が、人知れず王国の邪魔者を消すのか?ああやっていつも一方的に、死体さえ、生きた証さえ残さずに。相手が下等だから。」

「………そう。」

「はは。ならお前と一緒に居たら、俺は一生心が生き返ったりはしないだろうなぁ。」



俺は爽やかに笑い飛ばしたつもりだった。

でも彼女は、何も言わずに歩き出す。


……いいんだ。わかっている。

俺が彼女に何をされようと、根底に潜む絶望を覆す気が無いように。

彼女も俺に何を言われようと、強大な平和の手先として、脆弱な自由の使者を蹂躙する今の仕事を、やめたりする気はきっと無い。


なんでかって、そんなの簡単だ。

例え今の自分が醜かろうと、残酷だろうと。やがてそれにとって殺されるのだろうとしても、それでも、変わらずにいるのは平穏だからだ。


だから人は変わらない。変われないんじゃない。

変わらなくていいから、誰も変わらないんだ。そしてやがては、そんな自分に殺される―――。



「――でもいいんだ。今のは当てつけでもなんでもない。 俺はそもそも、最初っから生きてた時なんて無かったんだ。」



脳裏に過るのは、最初に枷を与えられた幼い日の記憶。



「………でも、君には生き返ってもらわないと困る。」



そんな俺に、こんなチビッ子が、まだそんなことを言う。

だからちゃんちゃらおかしな話だと、虚しさでヘラヘラ笑ってしまうんだ。



「………その為の策も、幾つかある。」

「―え?」



チビッ子はただ淡々と歩き続ける。

俺は呆気にとられて少しだけ立ち止まってしまったが、小走りでそんな彼女の隣に並んだ。



「策?策ってなーに?ねーねーご主人たまぁ!」

「………うるさい。」



―ズビシッ。―再び目潰しを仕掛けられたが、目蓋で白刃取りしてそのまま彼女の隣を歩き続ける。

多分我ながらビジュアルがキモい。チビッ子も指を抜こうと踏ん張っているが、決して離すつもりは無い。



「ねえおっぱい?それもしかしておっぱい?」

「おぱ…! ………ま、まぁ、おっぱいは………ある。」

「ひゃっほーう!」



俺はチビッ子を高い高いしながら、夜の森ではしゃいだ。

チビッ子は照れたような、怒ったような顔で、降ろせだの、乳触るなだのと喚いている。乳無いのに!




―――空虚さは、こうして道化を演じていれば、いくらでも紛らわすことができる。

だから俺は誰に頼まれずとも、こうしてヘラヘラし続けるのだ。紛らわした空虚なら、きっと誰も飲み込まないから――。




「―しかしチビッ子、お前お尻は柔らかいのな!」

「な……! さ、触らないでよっ!」

「触ってねーよバカか!顔埋めてんだよ!!!」

「死ね!!!」



チビッ子の非力ックも鼻くそパンチも俺にはまったく通じない。俺は全力でチビッ子を抱え上げ続け、その尻に顔を埋めて鼻で息をし続けるばかりである。クンカクンカすーはー。


まぁそうだな…どうせなら、こうして最後も道化として、ヘラヘラしながら死ねればいいとは思ってるんだ。

最悪、チビッ子には元気になったと嘘をついて、さっさと殺してもらおう。

それが、お互いにとって一番良いことなんだと、俺は勝手に思ってる。



………

……



もぬけの空となっているグリムとユウジの家の前で、小柄だが胸周りの発育だけは抜群な獣人の少女が、鼻をクンクンと鳴らしている。



「―――ひどくくさい。ウソのニオイ、ガオ………。」



月下にあるその少女は、鋭い碧色の右目をギラリと光らせながら、ふと空を仰いだ。

グリムより多少背が高い程度の小柄な身体に、豊かに実った豊満なバスト。それを覆うのは、前の開いたワイルドなジャケットだけである。

ユウジなら、間違いなく嬉々として“めくり”たがる格好だ。



「殺す為、生き返らせル……。…くだらなイ。」



―――チャキッ。そのくびれた腰で圧倒的な存在感を放つのは、一振りのシンプルなバスターソード。

彼女が長い柄を握ってカチリと鞘を鳴らした瞬間、遠く背後にあった大木は、ひとりでに伐採され、轟音をあげて崩れ落ちた―――。



「茶番、付き合う暇、無イ。……ガオ。」



その姿、まさしく小さき修羅の如く。道化を演じるユウジの運命や、如何に…。

次の更新は三日後となります。我慢できなかったら早くなります(意味深)

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