醜い気持ち
叔父の経営している骨董品店。常に閑古鳥が鳴いている癖に、何故か凄い屋敷に住んでいる。今日はその中の一室、客間のように向かい合わせに設置されたソファに横たわり、私はだらんと足を下ろした。
双眸は…………生気を失ったように死んでいる。
「人を恨むなって言うけどさぁ……。無理なんだよそんなの……。人間嫉妬する生き物だし、羨むし、見下す生き物なんだよ……。何で其れを……抑制するの…………?」
「いきなりどうしました?」
叔父は向かいのソファに腰掛けて、口元に近付けた紅茶を啜っている。何時も通り精神を逆撫でするように落ち着いた仕草だった。だから……凄くムカつくし……腹立つ。
不意に一滴の涙が私の頬を伝った。
「また、苦しい事でもありましたか。ならば」
──言って終いなさい。それで気持ちが晴れるのなら、幾らでも──
「いい。言わない…………。余計醜さが増す……。考えている時点ですげぇ醜いのにね……」
私はそっぽを向き、背凭れに思い切り顔を押し付けた。
夢を見た。将来の、とても怖い夢。
私と同じ学力の子が、同じ学校を受験して、私じゃない子が受かった。其れを知った時は笑顔を浮かべ、『おめでとう』と言った癖に、心の何処かでは酷く憎んでいる自分がいた。
『どうして私じゃないの?』『どうして一緒じゃないなの?』。そんな醜い思案が心を埋め尽くし、どろどろと穢していった。
幸いこの出来事は長い、嫌な夢で済んでいたけど、これが現実だったら……と思うと悪寒がした。冷や汗が体の熱を奪い去っていった。
きっと同じ事をするだろう。酷く恨むし、羨む。そんな醜さが私の心を抉り尽くす。
そう思い悩んでいると、後ろからフラットな声が飛んでくる。
「抑制しなくて良いんですよ。そんなの」
「えっ?」
意外な答えに驚いて、すぐさまソファから飛び起きた。叔父の方を見ると、午後の茶会と言わんばかりに杯を傾ける。私の目線に気が付くと、目をゆったりと細める。
「美徳なだけの人間なんて居ません。人間なら嫉妬するし、恨みます。そんな事しないのは聖人ぐらいです。ただね──」
一瞬目付きを鋭くさせると、長い足をゆっくりと時間を掛けて組んだ。気持ちの整理をするように、落ち着けるように。
「やりすぎは良くない。それで人を殺めたり、非道徳的な、非常識的な事をしたりしてはいけない。あくまでも人としての道は歩きなさい」
言い終わる頃には、叔父の瞳は優しい色を発していた。さながら菩薩か言い放った聖人のようだ。全ての罪を許し、浄めるような。
私は目が合わせられず、目を逸らす。
「弱音吐いたって、世迷い言垂れたって良いんですよ。なんなら叫んで泣き喚いてもいい。時と場を考えればね。だって人間なのですから。らしく生きましょうよ」
─終─
すみません、これはただの言い訳です。
救いに(絶対ならん。なる筈がない……)なれば幸いです……。