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12 商業都市アルフオータ

 翌日、俺たちは朝早くから出発の準備に追われていた。

 訂正。

 俺とオウガとファフ以外は出発の準備に追われていた。


 ビーストマスターとドワーフとドラゴンは、酒場の前のベンチに並んで座り、時間を潰していた。

 大通りの交差点に引き出された二台の荷馬車の周りでは、商人さんや日雇いの村人が荷物の積み替えや商品の確認を行っている。

 エルも帳簿を片手に女商人のティカさんと話し込んでいた。


「俺たちは手伝わなくていいの?」


「ワシらは護衛が仕事。ゴメスが村人を雇っているんじゃ、彼らの仕事を取るわけにもいかんだろう」


「そういうもの?」


「ふむ。そういうもんじゃ」


 俺とオウガが話をしている真ん中で、ファフは焼きたてパンを両手に持ち、ご機嫌でほお張っている。

 夜遅くまで働く酒場の主人が、わざわざ早起きしてファフにパンを焼いてきてくれたのは昨晩の歌への報酬だそうだ。

 俺とオウガは主人からパンをもらえなかった。まぁ、歌ってないし。

 ファフに一口味見させてもらおうかとも思ったが、「はじめてのほうしゅう」とニコニコとパンを見せびらかす姿を見てやめておいた。

 初めてのクエスト報酬とは感慨深いものだ。

 俺も最初のグランディアクエストでもらった「うさぎのしっぽお守り」は捨てられずに大事にとっていた。

 グランディア皇国のホーム倉庫に大切にしまわれたそれは、今となっては取り出す手段もないが。


「オウガはなに作ってるの?」


 俺よりもかなり小柄でありながら、俺よりも大きな手をしたドワーフが器用に彫刻らしき作業を続けている。

 オウガは俺と話をしながらも、ずっと手元で何かを削っていた。


「うむ。出来上がりじゃ」


 工具袋から布を取り出し小さな白っぽい何かを磨く。

 ひとしきり磨いた後、ファフの頭越しにオウガが俺の目の前に差し出したのは


「……アクセサリーっぽい?」


「鎧大亀の骨から削り出した髪飾りじゃ。あとでエルに処理を頼めば、耐火効果もつけられるぞ」


 オウガはそういうと、ベンチから降りてファフの前で片膝をついた。

 首を傾げたファフが両手のパンを背中に隠す。

 いや、ファフ、違うと思うぞそれは。

 ファフのその反応を見てオウガは楽しそうに口元をゆるめ、髪飾りを差し出した。


「北の果ての孤影に、デルハイムのドワーフから捧げものじゃ」


 少女の白藍髪に髪飾りをつけたオウガは、きょとんとしているファフに片目をつぶってみせた。

 口の片端を上げ、ウインクした目と反対側の眉がきれいに上げられている。

 様になるなぁ、ドワーフ。 

 ようやく何が起こったかを理解したファフが喜びを顔にみなぎらせた。


「ありがとう、オウガ! あっという間に作ったの? すごいね! 魔法使いみたい!」


「ワシはただの職人じゃ。武器や鎧を作るのが専門だが、まぁ髪飾りも防具みたいなもんじゃろ」


 ファフの反応が予想以上だったのか、ちょっと戸惑いながら鼻のあたまをかくオウガ。


「オウガは武器も作れるんだ! じゃあ私の武器も頼んだら作ってくれるの?」


 なんだろう。

 この流れに既視感を覚える。

 オウガと初めて会った日、鍛冶職人だと聞いて同じような質問をした記憶が甦る。

 ファフの言葉に一瞬目を丸くしたドワーフは、すぐに笑い声を上げた。


「なるほど、ケイスケの娘じゃな」


 小首を傾げるファフに、オウガはどんな武器が欲しいのかを聞いた。


「ケイスケみたいな斧か、メイスがいいかな!」


「ふむ、そうか。まかせておけ」


 あ、この流れは「高いぞ」っていう返事じゃないんだ。


 金策がんばらないと、俺。

 オウガなら金はいらないとか言いそうだけど、そういうわけにはいかないだろう。

 ロハでよろしく、とか言ったらエルにも怒られそうだし。

 アルフオータで、手っ取り早く稼ぐには何かあったっけ。

 あとでいろいろとエルに相談しなきゃな。

 オウガの返事に喜ぶファフの横顔を見ながらそんなことをつらつらと考えていると


「オウガ、これ、ほうしゅう」


 ベンチから降りたファフが手に持ったパンをオウガに差し出した。

 再び目を丸くしたオウガは、今度は笑い出さなかった。

 パンを受け取り、二口で食べつくす。

 ドワーフ、ワイルド。


「ふむ、美味い。これに見合う武器となると、かなり気合を入れにゃならんな」


 なんか作る武器のランクがあがったっぽい。

 よーし、俺も気合いれて稼ぐぞー。

 両こぶしを持ち上げ、心の中で自分にエールを送っていると、相好を崩すドワーフと目が合った。


「ケイスケ。お前、金の心配をしてるな? いらんぞ、そんなもんは」


「いや、そういうわけにも……」


「報酬ならすでにファフから受け取った。それに」


 オウガは大きな手のひらでファフの髪をやさしくなでた。


「ワシは始原の八竜ファフニールに望まれ、その武器を打ったドワーフになるんじゃ。鍛冶師としてこれ以上の誉れがあるじゃろうか」


 ファフを抱き上げ、肩に乗せるオウガ。

 肩幅が広くてがっちりしているので、その姿も様になる。


「そっか……そういうもんなんだ?」


「ふむ。そういうもんじゃ」


 オウガがいつもの口調でそう話を終わらせると、ちょうど出発の準備が出来たとエルが呼びに来た。




 二台の馬車と三頭の馬は朝のうちに村を出ることができた。

 俺とファフが乗る栗毛の馬は、オウルベア狩りの報酬で購入したものだ。

 この時間から出発できれば、アルフオータには日が落ちる前に辿り着ける距離という話だった。

 

 ハインツとオットーは、周辺にゴブリンが残っていないか三日ほど調査してからアルフオータへ戻るらしい。

 (ゲート)と鎧大亀の件は先にアルフオータへ戻るオウガがギルドに報告することになった。


 隊商の先頭で馬を進めていると、後ろからエルとオウガの会話が聞こえてきた。


「オウガ、ファフから聞きましたよ。彼女の武器を打つんですって?」


「うむ。今回の依頼が片付けたらすぐに取り掛かる。いや、依頼は後回しにして先にファフの武器を作ろうか。ノックスで多めにヒヒイロカネも仕入れられたしの」


 オウガはヒヒイロカネの加工もできるのか。

 それはもう「名のある鍛冶師」とかってレベルじゃなくて、世界最高クラスの職人さんでは。


「もう、せっかく褒めてあげようと思ったのに。ダメですよ、今の依頼を後回しにしては。ギルドマスターから直接依頼された特別なクエストなんでしょ?」


「ふむぅ。まぁ、そうじゃの……」


「はいはい、そんなに落ち込まないの。アルフオータに戻ったら、あなたの好きな木苺パイを焼いてあげるわ」


「ほう、珍しいことを言うな。それはファフの武器を打つことに対するお前からの報酬か?」


 オウガのしょげる様と立ち直る様が目に見えるようだった。

 デルフレイムのドワーフが蒼竜ファフニールのために武器を打つ逸話。

 彼が受け取った報酬は全て食べ物だった、なんてトッピングがついても面白そうだ。

 金銭はいらないと言われたけれど、アルフオータについたら俺も何か料理を贈れないか考えてみよう。

 そう計画すると、俺は馬の歩みを緩め二人に並んだ。


「アルフオータについたら、まず俺とファフは冒険者ギルドに登録に行こうと思うんだけど」


 冒険者ギルドに所属できれば、報酬付きのクエストを受けられるだけでなく、素材の買取や、欲しい素材の相場や仕入先を調べる上で様々な恩恵を受けることができるはず。

 あちらとこちらの冒険者ギルドが同じようなものならば。

 そのあたりの認識の違いがないかと、登録の際の手順や費用について質問をすると、オウガは遠い目をして考え込み、馬上で髭を撫でた。


「お前に会わせたいという人物の話を覚えておるか」


「うん。ドラゴン案件で相談にのってくれるかもって人?」


「そうじゃ。まずはそいつに会ってから色々考えるといい。冒険者ギルド登録の件もそいつがなんとかしてくれるじゃろう」


「へぇ、頼りになりそうな人なんだね」


 そう答えると、オウガは苦虫を潰したようにふむぅと唸り、エルは眉を八の字に下げて、苦笑いを浮かべていた。

 あれ? なんだろうこの反応。


 


 道中はトラブルもなく順調に進み、アルフオータへの街道の最後の丘を登りきると、眼下に大きな城郭都市が見えてきた。

 丘の上からは城壁の内にある街や塔が見える。

 遠目にも街の活気が感じられ、風に乗って鐘の音が聞こえてきた。

 ファフにとっては初めての、俺にとっては懐かしい風景だった。


「変わってないな……ほんと懐かしいや」


「ケイスケはこの街にも来たことがあるの? 大きな街だね」


「あぁ、いい街だよ。きっとファフも気に入ると思う」


 城壁の正門の前には日暮れ前に都市内に入ろうと多くの人が並んでいた。

 初めて見るであろう人の多さにファフが言葉を失い、馬の上から前のめりで行列をながめる。

 六大国の中でも一番の種族の坩堝であるアルフィス、その首都であるアルフオータは種族間の意識の壁や差別がほとんどなく、世界中を旅する冒険者にも居心地が良いと人気が高い。


 俺とファフの件で、手続きに時間がかかるのかなと危惧していたが、ゴメスさんとオウガの一言であっさりと顔パスだった。

 正門の前に並んでいる人達の横を抜け、別門から街に入る。

 衛兵達だけでなく、すれ違う人々がゴメスさんやオウガに挨拶をしてくる。

 この二人、かなり有名人っぽい?


 ハインツとオットーの対応と話しぶりから、オウガはギルドでもランクの高い有名人なのだろうと推測できていたし、ヒヒイロカネを加工することができる鍛冶職人だとも聞けば人々のこの対応もわからないでもない。


 ゴメスさんはアルフオータ商人の顔役みたいなこともしていると言っていたけど、かなり控え目な表現だったのだろうか。

 挨拶をしてくる人達の反応を見るに、オウガよりも格が高い印象を受ける。

 なんだろう、実は貧乏旗本の三男坊とかだったりするのかな。

 エルの横に馬を並べ、こっそり聞いてみた。


「ゴメスはアルフオータ評議会の議長の子息で八大商人の筆頭ですよ」


 さらりと答えてくれたが、どれぐらいすごいのかはわからなかった。

 たぶん、すごく偉いだろう。

 そんな人がなんで荷馬車でノックスまで行き来してたのかとかは気になるが。

 それも気になってもう一度エルに聞いてみた。


「ゴメスはお祭り好きなんですよ」


 わかったようなわからないような返事だった。


 商業区に入ったところで、荷馬車商人組と護衛組が分かれることになった。

 ゴメスさん達は商会へ荷物を届けに、俺たちはオウガとエルの帰還報告のため冒険者ギルドに。

 商人さん達と握手を交わし、礼を言う。

 ティカさんは、ファフに頬ずりをして別れを惜しんでいた。


「アルフオータで困ったことがあったらいつでも尋ねてきて。あと、頼まれなくてもファフちゃんのお洋服勝手に作っとくから、落ち着き先が決まったら教えてね」


 そう言われて、ティカさんからお店の印章が入ったカードを渡された。

 宿場村で見繕ってもらったファフの服のお礼もちゃんとしに行かなきゃな。


 ドラゴンファンタズムの中で何度も訪れたギルド本部は、俺の記憶通りの場所にあり外見も同じ感じだった。

 各国の支部に比べてもかなり大きい本部の建物は、学校の校舎一棟程度の大きさがある。

 冒険者窓口だけでなく、様々な専門家の研究室や訓練所などがあるためだ。


 周りの風景も思い出にあるとおりで、懐かしいなと辺りを見回していると、その中で見覚えのない像を見つけた。

 ギルド本部の前庭にある大きな噴水に設置された巨大な像。

 それは、後ろ足で立ち、右手をくいっと上げている白竜クエレブレの銅像だった。

 前はただの大きな噴水だけだった気がする。


「……こんなのあったっけ?」


「出来たのは最近じゃ。旅の無事やクエストの成功を祈ってな、こう……」


 そういうとオウガはポーチから銅貨を取り出した。

 あぁ、泉にコインを投げ入れると願いが叶うとかいうヤツか、と思ったら。

 オウガはおもむろに硬貨をクエレブレの像に投げつけた。

 カチンと乾いた音を立てて跳ねた硬貨が噴水の泉に沈む。


 やってみるかとオウガがファフに銅貨を渡すのを見ながら、俺はある光景を思い出していた。

 ドラゴンファンタズム最終日前日に行われた、24人オールサムライアライアンスによる「銭投げだけでクエレブレを倒す会」。

 後ろ足で立ち、右手を招き猫のようにあげているクエレブレの姿は、あの戦いでヤツが見せた格好に酷似している。

 あのイベントでクエレブレが何か思いついちゃったりしたのかなぁ……。

 ファフの投げた硬貨がクエレブレ像の髭を折ったようにも見えたが、うん、見なかったことにしよう。


 ギルド本部の中は、日が落ちた時間ということもあってか冒険者であふれていた。

 クエスト帰りであろうパーティや、素材持ち込みの冒険者でいっぱいのホールを抜け、奥のカウンターへ辿り着く。


 ギルドマスターに報告と相談があるとオウガが告げると、待たされることもなく別の職員がやってきて最上階に案内された。

 オウガレベルになるとクエストの達成報告も、ギルドマスターに直接するものなのかと内心でビックリしたが、今回のオウガのノックス行きのクエストはギルマスターから直接の依頼だとか言ってたっけ。


 そういえば「ギルドマスター」なんて存在にはドラゴンファンタズムの中で会ったことはなかった。

 受付嬢にはよくお世話になったんだけどなぁ。

 一体どんな人物なんだろうか。

 うむ。この世界、知っているようで知らないことが多い。


 「オウガだ。入るぞ」


 ノックと同時に、返事も待たずドアを開けたオウガ(それでこそドワーフだ)に続いて部屋に入ると、豪勢な事務デスクで書類の束と格闘していた猫人族の女性が顔をあげた。

 白い襟付きシャツにループタイ。アップスタイルにまとめた黒髪と腕まくりをして書類を持つその姿はゴメスさん達商人のような印象を受ける。

 年のころは……女性で猫人族となると年齢はまったく見当がつかない。

 そんなに年上でも、年下でもないように思う。


「やぁ! オウガ、エル戻ってきたんだね、おかえり! 戻ってさっそくだけど二人に緊急クエストを依頼したいんだ。特にエルの力が必要かもしれない」


 服装と雰囲気から秘書かなとも思ったが、見た目と裏腹に、しゃべり方や話す内容はまったく秘書っぽくなかった。

 だが、少し早口で、矢継ぎ早に言葉を重ねるこの感じは、世間によく知られる猫人族のイメージそのものだった。

 部屋の中に他に誰もいないということは、彼女がギルドマスターなのだろうか。


 オウガと握手しようとして、右手に書類を持ったままであることに気がついた女性は、肩をすくめ再び口を開いた。

 うん、そういうとこも猫人族っぽい。


「人を探してほしいんだ。多分、大森林周辺にいるはずで場所の手がかりはそれくらいしかわからない。肌は浅黒くて、いやそれは変わっているかもしれないな。あとは青い鞘の剣を持っているはず」


 女性は目を閉じ、指で自分の額を叩きながら何かを思い出そうと眉間にしわをよせた。


「ビーストマスターで、ボクの記憶だと……鬼天竺鼠と白い猫と……えぇと」


「翼蛇?」


 拳で額を叩き記憶を手繰りだそうとする女性に、ファフが助け舟を出した。


「あぁそうそう、翼蛇。お嬢ちゃんありがとね。その三匹を連れているビーストマスターを探しだして欲しいんだ。そう、ちょうどそこにいる彼のような装備のはずだよ」


 俺の方をビシっと指さした猫人族は、そのままの姿勢で固まった。

 黒髪から顔をのぞかせる猫耳がピンッと立ち、尻尾もこわばっている。

 目が合ったので、とりあえず軽く頭をさげてみた。


「ふむ。ではその緊急クエストやらの報酬額を聞こうか」


 オウガのその発言は女性の耳には届かなかったようだ。

 彼女の視線が俺の頭からつま先を何度も行き来する。 


「……ケイスケ?」


 女性の質問に頷き、多分そのビーストマスターですと返答する。


「ふむ、報酬は受付でもらえば良いのか? お前からか?」


 オウガの言葉は、今度は女性の耳に届いたようだったが、ドワーフを一瞥しただけで受け流すことにしたようだ。

 髭をひと撫でして目をぐるりと天井に向けたオウガは、肩をすくめてため息をついた。


「とりあえず話を前に進めるか。ケイスケ、こいつがギルドマスター、クラウディア・フォンターナで……」


 いまだ俺を指さしたままの手を下ろさせたドワーフは、女性の背中を叩き、紹介を続けた。


泉乙女(シャナ)の守護者、白竜クエレブレの現身だ」



次回予告

ビーストマスター、猫人族にクンカクンカされるの巻

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