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09 オウルベア狩り

 宿場村に戻った俺たちはゴメスさんに報告をして、礼を言った。

 商人さんたちはファフがひとりで村に帰ってきてたりしないか、全員で見張っていてくれたらしい。

 ファフについては俺の娘で、一緒に旅をしており、昨日はこの村で俺の帰りを待っていてもらっていたと説明した。

 昨日を振り返れば俺の行動と多少食い違うところもあったが、ゴメスさんたちは特に詮索もせず、見つかって良かったですと笑ってくれた。


 四人で宿の食堂に戻ると、朝食は既に片付けられていた。

 まぁ、結構時間もたってるし仕方がないか。


「ふむ。馬車の修理には今日一日かかるという話だったし、どうするかの」


「私はゴメスのところへ行って、ファフの服を見繕えないか相談してきます。運んでいる商品の中に衣料品あったかしら。ケイスケの分も用意した方がよいでしょうし」


 エルが形の良い顎に手を添えて、俺とファフの身体をつま先から頭まで計るように何度も視線を上下させる。


「え? 俺も?」


「あなたもファフも寝間着もないでしょう? ケイスケはありもので大丈夫だとしても、ファフの分はサイズを直すより、作った方が早いかしら」


 そういえば、アイテムストレージが使用できなくなっていたので、本当に着の身着のまま状態で旅を始めたんだった。

 とりあえず人里へ出ればなんとかなるだろうと思っていたが、所持金もなしだったので金策からだ。

 ウチの子たちのためにも、お父さん、がんばらなきゃ。


「今日もこの村にいるのなら、俺ちょっと外に出てさくっと狩りをしてきたいんだけど。この周辺で稼ぎになりそうな素材とかモンスターってわかるかな?」


 手を上げてドワーフとエルフに相談してみる。


「ふむ、金策か。ケイスケも扶養家族が増えたしな。ワシも協力しよう。だが、金策に適している対象はわからんな」


「私もちょっと……それもゴメスに相談してみましょうか」


 稼ぐための情報は冒険者よりも商人に。

 別れたばかりのゴメスさんの姿を求め、宿の裏庭へ向かった。

 裏庭ではゴメスさんを筆頭に商人さん達と職人さんたちが一台の荷馬車をひっくり返して、大掛かりな修理を行っていた。

 車軸以外にも細々としたダメージを受けていたらしい。

 ゴメスさんに獲物の件を相談したら、他の商人さん達も手を止めて集まってきた。

 みんな目が輝いている。

 やはりこういう話は商人としての血が騒ぐのだろうか。


「ほう。この周辺で狩りですか」 


「うん。俺とオウガで倒せるモンスターで割がいいのって、何かいますかね」


「この周辺のモンスターならばお二人で倒せない相手はいないでしょうが。ええ、いいモンスターを知っていますよ」


 考える間もなく答えがあると言ったゴメスさんはニヤリと口の端を上げ目を細める。


「では自分は先に、買い取りの商談してきます」


「私は村人に協力してもらえるよう、行ってきましょう」


 商人さん達は全員正解がわかっているようだった。

 頭にターバンを巻いた小太りの熊人族商人アルバンさんと口髭ダンディのハーフエルフ商人イグナーツさんがそう言って裏庭から出ていく。


「ケイスケさまも昨日を思い出せば、正解に辿り着きますよ」


 うん? 昨日?

 彼らと出会った時に戦ったモンスターといえば、ゴブリン、ダイアウルフ。

 ダイアウルフの牙や爪は確かに素材としては有用だが、あれはそうそう出会える獲物でもないはず。

 違うな。

 村への移動中にその手の話になった記憶はないし。

 と、なるとこの村に入ってきてからか。

 酒場に入って……。


「あ。オウルベア」


「正解です。酒場に買い取ってもらいましょう。我々も賞金を上乗せしたいくらいですよ」


 この村でオウルベアのカツレツを食べないとノックスから帰ってきた気がしない、と笑うゴメスさんは、商人を馬車修理組と狩りサポート組に分けて準備を進めるよう指示した。


 エルはゴメスさんに服の相談を持ちかけ、女商人のティカさんと共に衣料商品の確認をしに別の荷馬車へと向かった。

 ファフは狩りにも興味があったようだが、服のサイズを一緒に確認したいし、好きな色と柄を選んでほしいとエルに声をかけられるとそちらについていくことにしたようだ。

 ドラゴンと言えども女の子、ということなのだろうか。

 あの二人、この短時間でほんと仲良くなったよなぁ。


 エル達を見送った後、ゴメスさん、オウガと作戦会議を行う。

 ゴブリンが出没して危険なため狩りが出来ないということだったが、俺やオウガならば問題ないだろう。

 課題はオウルベアを狩った後だった。

 成育したオウルベアは3メートル近い体長と500キロ以上の体重となる。

 俺とオウガで倒せたとしても、村まで運ぶには荷車か何かが必要となる。

 アイテムストレージが使えれば簡単に解決する問題だったのだが、メニューウインドウを再確認してもやはりページ切り替えはできなかった。


 村人に相談をしに行くと言っていたイグナーツさんがひとりの村人を連れて戻ってきた。

 村一番のオウルベア狩人さんは足の負傷で出歩くことができないらしいが、そのお弟子さんらしい。

 狩りの話をしたら、協力させて欲しいと申し出てくれたそうだ。

 オウルベア運搬用の担架や道具、馬と荷馬車も貸し出してくれるらしい。

 

 荷馬車で街道を進み、オウルベアの生息地に近い地点をキャンプにしてゴブリン対策でてオウガと氷雪豹リゼが護衛に残る。

 翼蛇ニルギリが空から偵察を行いオウルベアを発見したら俺に位置情報(コールシグナル)を飛ばし、俺と鬼天竺鼠アッサムも合流してオウルベアをキャンプになるだけ近い場所にまで釣って(プルして)きてお弟子さんと共に倒す。

 そのように大筋を決め、あとはゴブリンが出没した場合の状況をいくつか想定して細かい点を決めていく。


 昼前には作戦と荷馬車の準備が整った。

 ゴメスさんや弟子さんと村の入り口へ空の荷馬車を移動していると、小太り商人のアルバンさんが酒場の主人と獣人の給仕さんと共にやってきた。

 給仕さんが差し出した大きなバスケットを受け取ると、中には干し肉が挟まれたパンが山盛り詰められていた。


「おぉ、ありがたい。朝飯が中途半端じゃったからな」


「大物を期待しているよ、オウガ、ケイスケ」

 

 そうウインクをする給仕さんと酒場の主人に礼を言っていると、エルとファフ、女商人のティカさんも見送りに出てきてくれた。

 ファフの腰まである白藍色の髪には濃紺のリボンが結われていた。


「ねえ、ケイスケ、似合う? 似合う?」


 見せびらかすようにくるくると回った後、両手を後ろで組み、首を傾げて見上げてくるファフを抱き上げる。


「かわいくて良く似合ってるよ。ちょっと出かけてくるけど、エルとティカさんの言うことを聞いていい子にな」


「うん!」


 満面の笑みで返事をするファフをエルに預け、馬車に乗り込む。

 そうこうしてる間にも、商人さんたちだけでなく多くの村人が見送りに集まってきていた。

 ちょっとした金策狩りのつもりが、思いのほか大事になっていることに少し戸惑いを覚えるが、悪い気はしなかった。




 結論から言うと、オウルベア狩りは大成功だった。

 途中、二度ゴブリンの集団と遭遇したが、事前の作戦通りあわてることなく対処ができ、四頭のオウルベアを狩ることができた。


 できるだけオウルベアの外傷を少なくしようと、俺は弓矢を狩人の弟子さんから借りていた。

 ビーストマスターは、一次職「射手(アーチャー)」からの転職を行うジョブであり、弓矢の扱いには慣れている。

 ビーストマスターの武器としてはメインではなくサブ扱いとなる弓だが、扱えると色々と便利なのでドラゴンファンタズム時代には弓矢スキルはマックスまで上げていた。

 ニルギリ、リゼ、アッサムがオウルベアの足止めを行い、弓矢スキル「ピアッシングシュート」で一撃必殺を狙うスタイル。

 オウルベアとのレベル差も大きくあったため、四頭を仕留めるのに使った矢の本数は十本以下だった。


 狩人の弟子さんは、俺の弓矢の腕にも驚いていたが、それ以上に翼蛇ニルギリの索敵能力や、オウルベアの攻撃を紙一重で避け俺が弓矢で狙いやすい位置に誘導する氷雪豹リゼ、ゴブリンとの戦闘で受けた腕の軽傷を回復魔法で癒す鬼天竺鼠の姿に感銘を受けたようだ。狩人の修行を続けるなら、そのままビーストマスターも目指せるよ、と勧誘しておく。

 リゼとアッサムは弟子さんにスゴイスゴイと褒められて鼻高々になっていた。

 ニルギリもしきりに尻尾を俺の頭にぺしぺし叩きつけている。

 うん、やっぱりこのぺしぺしは照れ隠しなんだな。


 四頭のオウルベアはどれも大物で、一度で運びきることができずキャンプから村へと何度も往復することになった。

 最後の一頭を運び終わった時には、夕暮れ時になっていたが、大通りの交差点広場には篝が焚かれ、大机が並べられていた。

 村の女衆が大量の木の皿を抱え運んでいたり、宿屋の裏から酒樽が運び出されていた。

 よく見ると商人さん達も酒場や宿屋の中から大皿に盛られた焼肉を運んでいる。

 む、エルとファフも食器を運んでる?

 なんだろう、今日はお祭りの日だったのかな?

 大きな鍋を運んでいたゴメスさんが、俺の姿を見つけてやってきた。


「おつかれさまでした、みなさん。オウルベアが四頭ともなると半分は干し肉にしないと持ちませんし、それなら村の皆で食べてしまいましょうと村長に提案したところ、急遽宴の開催が決まりました。買い取り料金はきちんと保証されるので安心してください」


「オウルベア狩りは普通は三日かけて一頭狩れれば大成功です。まさかこんな短時間で四頭も狩れるとは」


 ゴメスさんの説明に、狩人の弟子さんが付け加える。

 あ、そうなんだ。スゴイスゴイってそういう意味もあったのか。

 知ってた?と隣にいたはずのオウガに聞こうとしたら、いつのまにか姿が消えていた。

 首を振って探してみると、宿屋の前でエール樽の蓋を開けていた。


 俺とオウガと弟子さんが戻ってきたので、村長がこれから宴の開催を告げるらしい。

 一言挨拶をしますか、というゴメスさんの提案を丁重にお断りして、エルとファフを探して人の間を移動した。

 村長が急造の台の上から、ビーストマスターの活躍により云々と言った開会の言葉を述べている中、酒場前のテラスにいたエルとファフを見つけることができた。

 ファフとエルはお揃いのエプロン姿で、二人とも髪を結いあげている。

 同じ髪型だったが、エルは赤いリボン、ファフは紺色のリボンだった。

 ティカさんのセンスなのかな。

 なんだか絵になる二人だ。


「おかえりなさい。大活躍だったみたいね」


「ケイスケ、おかえり!」


 飛びついてくるファフを片腕で抱きかかえてエルの横に並ぶ。

 首に手をまわして頬ずりしてくるファフの髪を撫でると、リゼのように喉を鳴らした。


「まさかこんな宴になるとはね、ビックリだよ」


「私もですよ。ファフやティカと裁縫をしていたら、急にお手伝いを頼まれて……本当に昨日から驚かされっぱなしです」


「ケイスケ、あんまりエルを驚かせちゃダメだよー?」


 多分エルの驚きの理由の大半を占めているはずである原因に、無邪気に頬を引っ張られる。


 村長の話も終わり乾杯のタイミングとなったので、ファフを下ろして三人で飲み物を手にする。

 葡萄酒ふたつと果汁ジュースで乾杯をしたところに、狼人族女商人のティカさんがオウルベアの炙り焼きを運んで来てくれた。

 エルとファフがジョッキを置き、配膳の手伝いをしようとしたところティカさんが


「二人はもういいのよ。今日の功労者のお相手をしてあげて。ケイスケさん、おつかれさま、ありがとね!」


 と、ウインクをして去っていく。

 すごい勢いで尻尾が左右に揺れていた。

 何にテンションあがってるんだろう。

 束の間三人で顔を見合わせたが、そういうことならばと炙り焼きの乗った木べらを持って酒場のテラス席にについた。


 テラスから眺めると、広場には多くの人が集まっていた。

 小さな村とはいえ宿場村、子供の姿はあまり見えなかったが、たまたまこのタイミングで村にいた旅人たちも多かったようだ。

 

 炙り肉をつつきながら、ファフとエルに狩りの様子を説明したり、ティカさんが昼の間にファフの服を何着も揃えてくれたことを二人から聞いたりしていたら、次々とテーブルに人が訪れてきた。

 まずは村長とゴメスさんがやってきて礼を言われる。

 次は、狩人の弟子さんが松葉杖の師匠と共にやってきて弓矢技術談議について盛り上がった。

 怪我が治ったらビーストマスターを目指してみようかという師匠さんに、弓術メインにする場合のおすすめ契約獣を紹介しておいた。

 小太りの商人アルバンさんや口髭のイグナーツさん、見習い商人さんたちも入れ替わりやって来たが、全員がカツレツを食べずにこの村を去るという悲劇を回避できて本当に良かったと口々に熱く語っていった。

 この隊商、どんだけ好きなのさオウルベアカツレツ。まぁ、確かに美味しかったけど。

 そんなことを思っていたら、酒場の主人が出来立てのカツレツを自ら持ってやってきた。

 昼食のバスケットの礼を言うと、毎日三食出すから村専属の狩人にならないかとスカウトされたので、狩人師匠さんがビーストマスターを目指すかもという情報を伝えておく。

 最後にテーブルを訪れたのは酒場の給仕さんだった。


「いや~、大物を期待してるとは言ったけど、まさか四頭も狩ってくるとは思わなかったよ~」


 串焼きを手にバシバシと肩を叩いてくる給仕さん。

 あれ? お姉さん酔ってます?


「エルさん、このお二人って旦那さんと娘さん? ちゃんと紹介してよ~」


 あ、エルがむせた。

 豪快にむせている。

 ファフがあわてて椅子からおりて背中をさする。

 お揃いのエプロン姿で、同じように髪を結いあげて並ぶ姿に感じたものはそれだったのか。

 うん。確かに母娘っぽかったな。

 姉妹と言ってあげても良かったが。俺がそこに交じると推察的にはそうなるのが自然なのか。

 ちなみに、獣人給仕さんの言葉には俺も最初かなり動揺していたが、目の前で激しく狼狽しているエルを見ると、かえって冷静になれた。


「ち、違いましゅ! なな、な、なぜ」


 噛み噛みである。

 いくら高貴なエルフといえども、言葉を噛むという行為を優雅にこなすことはできないようだ。


「え~? だって昨日、エルさんとケイスケ、いっしょのお皿でカツレツとか食べてたじゃない? エルフがそういうことするのって、そういう意味じゃないの? あれ?」


 その後、エルが色々と言い訳を試みていたが、俺が竜の加護を受けていることはもちろん、エルが銀竜の巫女であるということもあまり口外することではないらしく、それらを伏せたまま説明をしようとして泥沼にはまっていた。

 最終的に獣人給仕さんがどういう理解をしたのかは謎だが、去り際に禁断の恋なのね!と耳打ちされてしまった。

 エルさんクエストフェイルドっぽいです。


「……疲れました」


 テーブルに突っ伏すエルの銀髪をファフがポンポンと撫でる。


「なんていうか、あー……ごめん、エル」


「いえ、ケイスケが謝ることではありません」


 ファフを抱いて、膝の上に乗せ頬を寄せるエル。

 ファフはよくわかっていないのか首を傾げていたが、気にするのをやめてエルに抱きつく。

 髪の色も種族も違うけど、本当に姉妹のようだ。母娘と言っても以下略。


 その後も肉料理が次々とテーブルに乗せられた。

 ファフは、ノックスで仕入れたという調味料をふんだんに使ったゴメスさん渾身のオウルベアステーキが気に入ったようだ。

 だが、次の皿が空くあたりでお腹がいっぱいになって眠たくなったのかウトウトしだした。


「もう食べられないよ……むにゃむにゃ」


 テンプレな寝言を呟きだすファフをしばらく二人で見守っていたが、しばらくすると、エルはファフを抱いて宿屋に戻っていった。

 エルのグラスにはまだ葡萄酒がかなり残ったままだった。


 宴はまだまだ夜遅くまで続くということだったが、昨日の失敗を繰り返さないようにとエルにも注意されたことだし。

 俺もほどほどで退席し、宿の部屋に戻ることにした。


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