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00 プロローグ

 目を開けると、何もない空間だった。

 上下左右の感覚もなく、ただ白く広がる空間に、俺は浮かんでいた。


「あ、死ぬときって、こんな感じなんだ」


 目を開ける直前の記憶。

 会社帰りの夜道、車道を逸れて突っ込んできた大型トラック。

 トラックのフロントライトが眩しい、と感じたところまでは覚えている。

 ゲームの中だったら、あれぐらいの突進、受け止めることができたのになぁ。


「白い空間……まるで『ドラゴンファンタズム』で死んだときみたい」


 でも、ゲームみたいにフェードアウトしたらマイホームで目が覚める、なんてことはないんだろうな。

 どうなるんだろう。


『君の家で、というわけにはいかないが……』


 あ、何か聞こえる。


 これが走馬灯?

 走馬灯って聞こえるもんじゃなくて、瞼に浮かぶものじゃなかったっけ?


『目が覚めれば、ドラゴンファンタズムの世界ユランスティア、という選択肢を君は選ぶことができる』


 頭の中に響いて来たその声に、俺は首を傾げた。


 どうやら走馬灯じゃなくて、俺の未練が生み出す幻聴のようだった。


 VRMMORPG『ドラゴンファンタズム』。

 それまでのオンラインゲームとは一線を画する、新型VRデバイスを使った世界初のフルダイブMMORPG。


 サービスイン当初から、昨年末サービスを終了するまでの十二年間。

 中学生のときにプレイを始め、大学を卒業しIT会社で働き始めてからも睡眠時間や休日の人付き合いを削って遊んだゲームだ。

 俺の、青春だった。

 ……言葉にするとなんか恥ずかしい。


 昨年末『ドラゴンファンタズム』のサービスが終了した後、ゲームフレンドのほとんどは別のファンタジー系VRMMOへと流れていったが、俺は心の中での区切りが付けられず、新しいVRMMOを始めることができないでいた。


「俺、そこまで『ドラゴンファンタズム』に未練があったのか?」


 疑問形で呟きながらも、心のうちでは『あたりまえだ、ありまくりだろう』と苦笑するもう一人の俺がいた。

 

 『人生で大切なことのほとんどをドラゴンファンタズムで学びました』

 採用面接のときに言ってしまった黒歴史セリフを思い出して顔が熱くなる。

 あ、これはなんだか走馬灯っぽい。


 あんな発言した学生を良く採用してくれたよな……と当時の採用担当だった上司の顔を思い出す。

 なんか死んじゃったみたいなので、仕事を途中でほっぽりだすことになりそうです。すみません。

 心の中でドラゴンファンタズムで同じギルドに所属していた上司に頭を下げる。


『本当に死んでしまう前に早く選択してもらいたいのだがね』


 あれ?

 なに?

 本当にドラゴンファンタズムの世界をまた体験(プレイ)することができるの?


『君が望むならば。さぁ、選択したまえ』


 さっきから人の心を読んで語り掛けてきてるっぽいから、答えはわかってるくせに。

 そこは確認するんだ。


『……』


 む、なんだかちょっとイラっとしたのが気配でわかる。


 うぅ、ごめん。

 OK。わかった。じゃあ答えるさ。


 それで願いが叶うのならば、俺は望みをきちんと口にしよう。


「俺は―――」

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