しめじ三郎 幻想奇談〜あなたは誰?〜(888文字小説)
梨子は内気な女子大生。彼女の趣味はインターネットの小説投稿サイトに自作を投稿する事。
母親にすら内緒にして、夜遅くに自室で黙々と執筆している。
自分の事を知られるのが怖くて、本名はもちろんの事、出身地も年齢も公表していない。
唯一、明かしているのは女性だという事。
引っ込み思案な梨子だが、同じサイトのユーザとは何人か交流できるようになった。
それでも、女性だという以外は一切会話の中でも明かす事はなかった。
ある日の事。
梨子はメッセージボックスに着信があるのに気づいた。
交流のあるユーザからではなく、知らないユーザからだった。
「貴女の作品は全部読ませていただいております。お気に入り登録をさせていただきました」
男性のユーザだったが、言葉遣いも丁寧で、梨子は好感を持ったので、相手をお気に入り登録した。
彼のハンドルネームは「けんじ」。彼は所謂「読み専」で、投稿は一つもしていなかったが、梨子の小説に対する感想は適切で、誉めるばかりではなく、悪い点も指摘してくれた。
梨子は好意以上のものをけんじに抱き始めていた。
ところが、ある日送られてきたメッセージには、
「眼鏡を替えたんですね。とても似合っていますよ」
息が止まりそうになる事が書かれていた。
(まさか?)
梨子は背筋が寒くなった。身近にいる誰かが自分がインターネットをしている事を知って……。
ストーカーかと思ったが、それは考えられなかった。
小説を投稿している事は誰にも話していないからだ。母親も気づいた様子はない。
「貴女は太ってはいませんよ。他人の目なんて気にしないで」
次の日のメッセージも衝撃的だった。
「あなたは誰なんですか? どうして私の事を知っているんですか?」
梨子は思わずそう返信してしまったが、けんじからのメッセージはそれきり来なくなった。
(彼を傷つけてしまったのかしら?)
梨子は落ち込んだ。
「何してるの? 早く支度しなさい」
母親がドアを開いて顔を覗かせた。
「え?」
梨子は我に返って母親を見た。すると母親は呆れた顔になり、
「今日は迎え盆でしょ? お墓参りに行くのよ、お父さんの」
梨子にはけんじの正体がその時はっきりとわかった。