もう、モブには戻れない~助けて、クラウディオ様 編~
続きはありません。
神は無慈悲に言った。
「管轄外だから、それは無理」と。
この世界は、悲恋系少女マンガ『リミテッド・ブルー』。
中世ヨーロッパ風異世界。
四つの勢力の内の、二つの敵対勢力にある恋に落ちた二人のお話。
私は、シルヴィア・バルドゥッチ。
ヒロインであるアナスタージア・バルドゥッチの従姉です。
少女マンガでは、名前すら出ない『モブ』。
作者が出した、設定資料集でこの従姉の名前が分かるくらいです。
国のシークレットな部署に勤めているので、家の籍からは抜けています。
これは、勢力の均衡を保つためです。
このシークレットな部署に勤めていることで、家に私がいるとパワーバランスを崩してしまうのです。
それが、この『バルドゥッチ家』です。
もう一つの勢力は、ヒーローであるクラウディオ・カランドレッリがいる『カランドレッリ家』。
四つの内の『キャロモンテ家』と『チャルディーニ家』は敵対していたのですが、この二つの家の長男二人が恋に落ちたため、話合いで協定を模索中とのこと。
ですので国にとって、あと二つのバルドゥッチ家とカランドレッリ家を何とかするのが命題です。
私は冗談半分で、『愛は平和をもたらす作戦』を提案しました。
この部署、私を含め五人ほどいるんですけど何の案も浮かばなかったので、半ばヤケクソで言ってみたのです。
この提案に、残念上司は食いつく食いつく。
私と同僚はまさに、ポカーンとしてしまいましたよ。
「クラウディオ様、クラウディオ様、クラウディオ様...」
学校の休み時間で、アナスタージアは人様の名前を何度もつぶやいていました。
何かの呪文を唱えているみたいで、それ怖いですよ。
「アナスタージア、それってクラウディオ・カランドレッリのことですか?」
「えぇっ!?うそっ!?クラウディオ様って、カランドレッリ家なの?家と仲が険悪な家じゃない!」
「神は格も美しき人を作ったというのを体現した人、美の女神すら嫉妬する美貌、綺麗な瞳、とにかく『美しい』としか表現しようのない人でしょ?」
「うん、そんな感じの方だったわ」
「間違いなく、その人はクラウディオ・カランドレッリですね」
「最悪じゃない! 前世だって、悲恋だったのよ! この世界も、悲恋じゃない!」
アナスタージアにも、前世があります。
私の前世の世界では、『初恋は、情熱より早く』という悲恋映画のヒロイン。でも、アナスタージアにとっては現実で起きたこと。
アナスタージアの前世の世界では、この世界は映画化されたベストセラー小説だったようです。
とりあえず、幼い頃のアナスタージアが前世のことを私に言った時に、私は周りの人たちに言わないようにきつく言いました。
こんなことを言えば、周りに電波少女だと思われるか、危ない子どもだと思われて避けられるか、精神科に入れられるかのいずれかになります。
ちなみに、私はアナスタージアに前世があること覚えていることを言っていません。
言ったら、面白くないですから...
それに、アナスタージアがこの先苦労するフラグはある程度壊しているのですよ。
彼女は知らないのですが、『リミテッド・ブルーの設定資料集』は恋愛メインだった少女マンガで描く必要性のなかった四つの家の勢力図や弱みになりそうな情報などなどを詳しく書いてあり、これ一冊でもかなり読み応えのある充実した内容となっていたのです。
王城の中にあるトップシークレットな部署への勤務日のお昼の休憩時間、城下にあるリーズナブルな価格設定がしてある食堂に向かいました。
今日は、ロコモコ定食を食べるのです。
私がロコモコ定食を食べていると、クラウディオ・カランドレッリとその友人たちの話声が聞こえてきました。
「今日の夜会の招待状、エミディオに見られたから無理やり奪われて、破り捨てられたよ。バルドゥッチ家主催だから、入手が難しかったのに!」
エミディオとは、従兄です。
気に入らない家のものとはいえ、横暴な振る舞いは許しがたい。
今度、じっくり『調教』しましょうか?
「仕方ないだろ、なんたって俺たちはカランドレッリ家なのだからな」
「チェレステの美しさを堪能したかったのに...」
チェレステは、クラウディオ・カランドレッリの初恋の女性。
この時期はすでに、失恋しているはずでは?
まだ引き摺っているのでしょうか?
ロコモコ定食を食べ終えた私は、彼らに近づき声をかけました。
「今日の夜会の招待状なら持っていますよ。差し上げましょうか?」
「貴方様は、シルヴィア・バルドゥッチ様ではないですか! なぜ、ここに!」
「お昼御飯です。とにかく、私の署名入りの招待状を差し上げますので」
「ありがとうございます。でも、どうしてですか?」
「先ほどのお話が聞こえてしまいましたの。ですので、新たな恋を見つけるために美しい花を愛でてはと思いまして」
「なるほど」
「そこに、我が従姉妹殿も入っていれば嬉しいですが。では、失礼」
私は会計を済ませて、食堂を出ました。
食堂を出れば、我が婚約者殿ベルナールド・アッファイターティ様が待ち構えていました。
「さっきのはなんだ?」
「イヤですね、ベル様。不肖の従兄が、夜会の招待状を破り捨てたらしいので、招待状を差し上げただけですよ。クラウディオ・カランドレッリ様を招待しておきながら、招待状を破り捨てたとなると世間のお嬢様方からバルドゥッチ家が反感を買いますので」
「そうか...」
「あの美貌は羨まししぎますね。半分くらいは分けて欲しいです。あの方の前に立つだけで、全私がマジ泣きです」
「...」
「仕事に戻りますので失礼しますね、ベル様」
「ああ」
何とも言えない表情をしたベル様が私を見送りました。
おかしなことでも言ったのでしょうか?
婚約者のキャロモンテ家長男様は、この国の騎士団に所属するお嬢様方に人気の方で優良物件です。
家の後ろ盾のない私となぜ婚約したのか謎です。
蓼食う虫も好き好きという奴でしょうか?
そして、夜会の当日。
エミディオは、クラウディオを見つけると
「あの野郎、どうやってここに入ったんだ!」
「馬鹿は止めなさい! 彼を招待しないと、貴族令嬢たちの反感を買うだろう。それは得策でない」
「しかし、叔父上!」
私は気配をけして背後からそっと、エミディオに近づきました。
「何か文句がおありですか? 従兄様」
「シルヴィア!」
私から距離を取り、エミディオは怯えたように私を見ました。
私が国のシークレットな部署で働き始めた頃、邪魔なドSな人を言葉で嬲り攻めして、屈服させていたのです。
ドSな人を突いて遊ぶと面白いんですよ?
反応が面白くて、ついついやりすぎてしまいました。
それを、度々、故意に、エミディオに見せていたのです。
それが原因で彼は、すっかり私がトラウマになりました★
「お前、仕事じゃなかったのか!」
「クラウディオ・カランドレッリ様は、私がこの夜会に招待したのです。多分、きっと、従兄様が喧嘩をしに行くかなと思い、立ち寄ってみたのです」
「クソッ」
「口が悪いですよ、従兄様。今宵そして今後、彼に喧嘩を売れば、今度しっかり『調教』して差し上げましょうか?」
ニヤリと笑いながら、私は言いました。
「シルヴィア、エミディオにはしっかり言い聞かせておくから、止めてはくれないか?」
顔色を悪くして腰を抜かしているエミディオを庇って、同じく顔色を悪くした叔父様が言ってきました。
「叔父様に言われれば、仕方ありませんね。調教されたくなければ、彼には関わらないでくださいね。仕事上、困るんです。そんなことをすれば、家単位で責任を取らせますよ。それでは、叔父様。邪魔者はこれにて失礼しますね」
「ああ」
私は、叔父様に一礼して夜会の会場を後にしました。
これから仕事で、ドSな人たちの収穫時期なのです。
トラウマを植えつけてから、処罰しますね。
待ってて下さいねー、私の獲物たちー♪
私は足取り軽く、狩りに向かいました。
翌日、学校でアナスタージアが、嬉々として夜会の成果を私に報告してきました。
「やっぱり、クラウディオ様と私の障害は家だと思うの。だから、家を制圧しようと思う」
なんか、ぶっとんでます。この物語のヒロイン。
前世も今世も、悲恋物語だからキレてしまったのでしょうか?
受け身からの肉食系への転身?
「それ違うから。せっかくなら、牛耳るとか屈服させた方が手っ取り早いと思いますけど」
「かんたんにするとすれば、絶対服従を誓わせることかな?」
ヒロインなのに、物騒な思考に行ってる!?
助けて、クラウディオ様!
もう、この子を止められるのはあなたしかいない!
私とシークレットな部署の仲間たちがいれば、とっても簡単にできなくもないですけど。
うん、授業が終わればシークレットな部署に向かおうと思う。
運よく授業のチャイムが鳴り、ここで会話が途切れました。
学校の授業が終わり、すぐに城内にあるシークレットな部署に向かいました。
従妹のアナスタージアが、恋の暴走特急に入ったので『愛は平和をもたらす作戦』をどうするかを相談するためです。
これを聞いた残念所長は、顔色が良くなりテンションが急に高くなりました。
アナスタージアの恋に乗っかって、『キャロモンテ家』と『チャルディーニ家』の二番煎じをしようと。
確かにやり方が分かっている分、国内の混乱を最小限にできますね。
そうと決まれば、残念所長はスキップしながら国王の執務室に向かいました。
何か薬をヤッテいるような感じがしますね。
この後、アナスタージアは家に対して絶対服従を誓わせます。
残念所長はそれに協力し、何かの八つ当たりをするように『バルドゥッチ家』と『カランドレッリ家』を恐怖に陥れました。そして、協定を模索するよう脅しました。
ちなみに、私と同僚たちはそのフォローを。
アナスタージアとクラウディオが両思いになるまで、あともう少し______
【ロコモコ定食】
なぜこの世界にあるのかは、考えてはいけない。
【シルヴィア・バルドゥッチ】
バルドゥッチ家、彼女の周りの顔面偏差値が高いので、自分が美少女であることを気付いていない。
シークレットな部署に勤めていること、容姿で城内で人気の令嬢。
家の後ろ盾がなくても、彼女自身に価値がある。
嫌いな者は、MとドM。だって、気持ち悪いから。
隠しているが、手フェチ。
【アナスタージア・バルドゥッチ】
前世で、悲恋。
今世でも、悲恋系小説のヒロインと知って、ブチ切れた超絶美少女。
「待っているだけじゃダメ、今回は自分で運命をぶち壊し、この恋を成就させる」と意気込む。
【キャロモンテ家とチャルディーニ家】
両家に協定を模索させるよう仕向けた黒幕が、主人公。
キャロモンテ家長男が、前世の主人公の友人(男)と同じ臭いがしたため、主人公が言葉巧みにBLの道に向かわせた。
もともと、男色の毛があったがそれが原因で戻れない道に突っ込んでいく。
キャロモンテ家長男の好みの性格が、チャルディーニ家長男だったので恋心を自覚した彼が強引に迫り、籠絡し両思いになる。
【シークレットな部署】
そのまま、シークレットな部署と呼ばれる。
主人公を含めて全五人。
一人で、一騎当千の実力を持つ。
実力でしか入れない。
敵対する人たちは、この部署の人間を見ると逃げることをおススメする。わりとマジで。
主人公が、自分の人気に気付かなかったのは彼らが原因。
妹分の主人公に、相応しくない奴は彼らが脅して近づけないようにした。
【残念所長】
シークレットな部署の中で、最も残念な人。
部下が残念揃いなので気を揉んでいるが、自分自身が一番残念なのに気付いていない。
【ベルナールド・アッファイターティ】
アッファイターティ家次男。
容姿は、普通と美形の中間。
手が、ものすごくセクシー。
主人公にベタ惚れ。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。




