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傲る平家の悪党主義  作者: 委員長
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序章『“平家”と“悪党”』

 朝日が昇り出して半刻が過ぎた午前七時。 見るも立派な二階建て屋敷のベランダに一人の少年がいた。

 赤い鎧直垂の上に燕尾服を着た長身の少年は、屋敷の玄関から一人の人物が出て来るのが見えた。

 白と黒のメイド服を着た侍女である。 彼女は箒を手に庭に散らばる桜の花びらを掃き始めた。

 今は四月の下半期。 庭に植えてる木の殆どは侘しさの残る葉桜であった。

 懸命に仕事をする彼女の黒髪は日の光に当たり金糸の如く輝く。

「お~い、景清~。 ちぃーと良いかの~?」

 覚えのある低い声が少年の後ろから聞こえた。 後ろを振り返ると、其処には藍色の和服を着た初老の男が立っていた。 少年の父親である。

 何だ、と言い少年は父親を見た。

「実は京都の六波羅屋敷から手紙が届いてな……」

 父親は白髪混じりの髪を掻きながら目線を下に向ける。

 六波羅屋敷とは、京都の守護を命じられたある名家の広大な屋城の事。

 景清は父親の態度からしてある事を悟った。

「ズバリ、テメェの処刑の日が決まったんだな。 よっしゃ今日は赤飯だ」

「違うし儂死なないしっ! 何で喜ぶしっ!」

「身に覚えが無いと? 遂にボケ……いや、常にボケてるから解らなかったか」

「わーい息子がセメントだぁー!? 助けて“一角”ちゃーん!」

 父親はベランダに設けられた柵に身を乗り出し、庭にいる侍女に助けを請いた。

 黒髪の侍女は掃除の手を止め顔を上げる。 男ならば誰もが息を呑んでしまう色白の美顔。 だが額には一本の角が見えた。

「忠清様、朝ご飯はもうすぐですので少々お待ち下さいです」

「こっちもかー!?」

 頭を抱え叫んだ瞬間、柵の木材が重さに耐えられなかったのか、或いは腐っていたのか、父親は鈍い音と共に庭へと落ちた。

「ひょあー!?」

 醜い悲鳴を上げながら忠清の五体は地面にめり込む様に叩きつけられた。 そして息子は壊れた柵の間から頭を出し現状を確認した。

「一角、バカは死んだか?」

 一角は忠清に近づき竹箒の柄でつつくと、うっ、や、おっ、と言った声を聞いた。

「Нет(いいえ). 残念ながら軽い打ち身程度で御座いますです」

「そうか……――では、追い打ちをかけろ。 重く強く情けなくだ」

 一角は手に持つ竹箒を逆手に持ち、変え剣道で面を打つ構え、

「хорошо(了解しました).」

一気に振り下ろした。

「きっ、緊急回避~!?」

 しかし忠清はその身を左へと転がし避ける。 さっきまでいた彼がいた場所には竹が折れる音が響き、掃けの部分が壊れ小枝が散らばった。

「……惜しかったです」

「安心しろ次がある」

「有ってたまものかぁ!」

 忠清が両手を上げ立ち上がると、彼の懐から封筒が落ちた。

 失礼します、と言い、一角は竹箒だった物を手放し封筒を拾い上げた。 封蝋には揚羽蝶が描かれており宛名は、

「景清様宛ですね」

「俺に? まぁ読んでくれ」

「хорошо(了解しました).」

 一角は封蝋を外し中から三つ折りになった手紙を広げる。

「『伊勢藤原家七男、景清に命ずる。 敬は四月二十八日の午前十時に六波羅屋敷へ来るように。 尚、部外者を連れる事は禁ずる。 大政大臣・浄海入道より』……――以上です」

 一角は目線を上げ、いつの間にか目の前に立って腕を組んだ景清を見た。 その顔は何かを思い積める様である。

「……景清様?」

「んっ? あぁ、済まない。 しかしまぁ、今日行きなり呼び出しとは、驚かせるのがお好きな方だな」

「いえ、この手紙は三日前に届いた物の様ですが……」

 その言葉を聞いた景清は、先が割れて刃に負けぬ鋭さを持つ竹を拾い上げて、

「クソ親父ぃ~!!」

音を立てずその場から離れようとした愚か者を睨んだ。




 ●●●




 京の都は何時にも増して人の群れで溢れていた。 何故なら今日はフリーマーケット最終日。 商人達は腕によりをかけ手持ちの品を道行く客に売り込み、懐を温めようと画策する。 無論、違法な商売を行う者も含めてだ。

 その為フリーマーケットには赤い礼服を着た多くの憲兵達の姿があった。 怪しい物を売っていないか商品を一つ一つ確認する者や、物影から商人の働きを見る者から様々である。

 しかし、その中でも一際目立つ背の高い女の憲兵がいた。

 膝下まで伸びた白に近い銀色のウェーブヘア。 服装は他の憲兵達と同じ赤色だが、胸元から臍下にかけて肌が酷く露出されていた。

 日本でには特に見ない美顔と揺れる胸大きな胸に、道行く男達は彼女を二度見三度見してしまう。

 そんな魔性の女はふと足を止めた。 右腕を胸の谷間に挟み、人差し指を顎に当て小首を傾げる。

「此処は……もしかして先程通りましたかしら?」

 自問自答し女は辺りをキョロキョロ見渡し、そして気付いた。

「アラアラ。 (わたくし)、迷子になってしまいましたわ」と、呑気に笑って。

 どうしましょ?、と再び自問自答すると同時に、通信端末の着信音が彼女の胸元から響いた。

 彼女は揺れる谷間から携帯を取り出し、色気のあるおっとりとした声で通話に出る。

「はい、皐月で……」

『今何処にいる芋女ぁ~!?』

 電話から聞こえたのは荒々しい男の怒り声。 彼女はいやん、と言い、腕を伸ばして端末を耳から遠ざけた。

『テメェ、人様があんだけ隊から離れるなと言ったそばから突然いなくなりやがって……、揉むぞコラァッ!』

「えいっ」

 余りにも五月蝿いので皐月は通信を切った。 だが直ぐに再び通信が入り、

『切んじゃねぇぇぇっ!!』

逆効果だと彼女は気付く。

『取りあえず他の隊の奴に合流させるから其処を動くな解ったかっ!?』

「はーい♪」


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