第二話 ようこそ大和ホテルへ
超久しぶりの投稿です。
西暦1942年 昭和17年10月2日
■大日本帝国 信託統治領 南洋諸島 トラック島
王女の乗った内火艇は、王族旗をはためかせ、大和へと進んでいく。
「大きいわね、今は亡きフィッシャーの爺様が見たら喜びそうな艦よね」
「確かに、世界初の18.1インチ(46cm)砲搭載戦艦ですから」
「インヴィンシブルクラスは16インチ(40.6cm)だったし、折角作った20インチ砲(50.8cm)もインコンパラブルが空母になっちゃって宙に浮いたまま、そしてセント・アンドリュークラスは未起工で18インチ(45.7cm)も駄目と来たからね」
「我が国でも17.5インチ(44.5cm)が最大ですから」
「それそれ、不思議に思うんだけど、何であんな発射速度の遅い17.5インチを新戦艦の主砲に選んだかよね、それより16.5インチ(42cm)の方が全然使えると思うんだけどね」
「建艦計画ついては我々では」
「判ってるわよ、“用兵家とは与えられた兵器を持って最大限の戦果を上げよ”でしょ。全く“貧すれば鈍する”っても言うのに、こんな時期に戦力不足じゃどうしようも無いじゃない」
「殿下、大きなお声でその様な話を」
王女の言動に青くなる侍従武官。
そんな中、大和の近くに停泊する2隻の戦艦に王女の目が行く。
「あれは金剛クラスね」
侍従武官が識別表で艦型の確認を行う。
「はい、金剛クラスの比叡、霧島です」
「成るほど、日本はガタルカナルの敵に対して楽観視しているって言うのは本当のようね」
「しかし、戦艦2隻も増援に寄越しているのですから其処まで楽観ししていないのでは?」
侍従武官の話に王女は頸を振って否定する。
「いえ、英海軍から受け取ったソロモン諸島の海図を見たけど、彼処は多島海よ。確かに大和クラスでは速度不足かも知れないけど、14インチ(35.6cm)の金剛クラスでは砲力不足よ。それならば、遣欧艦隊から急遽引き抜いて本国へ戻した、16インチの天城クラスを連れてくれば良いのに、本国で温存しているわ」
「日本としても、ハワイにいる太平洋艦隊が気になるのではないかと」
「それで、ミッドウェーにアメリカ艦隊を誘き出そうとして、散々うちとイギリスが有限乱数暗号は解読の恐れ有りと注意したのに、長文の暗号垂れ流して、挙げ句の果てに奇襲喰らって、空母3隻も失うなっていうのよ」
「戦争とは時の運もありますので」
「違うわよ、知力体力をトコトンまで絞り出して、その努力の上に時の運が来るのよ。知ってるかしら、日本は出陣前に床屋の店主すら、次の作戦地を知っていたそうよ」
「そ、それは……」
「ハッキリ言って、日本人に機密を下手に渡す事は出来ないわね、大体危機感が無いわよ。此処来る最中に逆探で探らせたけど、折角供与したRDFを全く作動させてないわよ」
「不用心な事で」
「そそ、それに金剛クラスの艦橋にもマストにも、RDFアンテナらしき物が無いわ。有るのは大和にAR17とSR14が乗ってるだけね」
「しかし、RDFはイギリスと我が国から共同開発のAR17、SR14がそれぞれ200セットほどが送られたはずですが?」
「恐らくは、4月のドーリットル空襲の再来を恐れて本国の防空に使ってるんじゃない?」
「それは、幾ら何でも、イギリスや我が国の様に駆逐艦にまで付けろとは言いませんが、せめて主力艦に装備しなければ」
「宝の持ち腐れって事、ミッドウェー海戦で紀伊の艦橋にRDF搭載していたのに、南雲中将と草鹿少将が“電波を出すと敵に探知される”って言って、空襲中でもRDF動かせなかったらしいわよ」
「RDFの利用法は教えたはずですが?」
「其処は、馬鹿参謀が“前線を知らぬ学者風情の戯言など聞く必要は無い”って事らしいわよ」
「前途に不安が……」
「此は厄介よ、どうせ連中、前回の金剛、榛名の勝利に酔って、二番煎じで戦艦による挺身突撃による飛行場への砲撃で砲弾ばらまくつもりでしょ、そうなると、敵だって馬鹿じゃないから、二度目は無いでしょうね、そうなると、待ち構えている可能性が大きいから、うちのRDFが艦隊の生死を司るわね」
「成るほど」
「と言う事で、各艦はRDFのメンテナンスを完璧にするように連絡を入れて」
「はっ」
侍従武官が短距離無電電話で指示をする中、内火艇は大和の正面を横切った。
「しっかし、前から見るとまるデブ猫ね」
「殿下、くれぐれも向こうでその様な事は」
大和を見ながら悪態をつく王女に侍従武官が慌てて注意をする。
「大丈夫よ、侍は簡単な事じゃ激高しないんでしょう、ましてや目上の者に手をあげられる訳、無いじゃない」
ウインクしながらそう言う王女を見て侍従武官は溜息をつく。
「殿下、少しはお淑やかにして頂かないと」
「判ってるわよ、物語のお姫様みたいに嫋やかで儚いお姫様を目指しましょうか」
王女が普段の活発な姿から、嫋やか風にくねる姿に侍従武官は思わず笑いそうになるが我慢した。
「其処までとは申しませんが、一国の代表として彼方に会うのですから宜しくお願い致します」
最後には懇願する形になる侍従武官は苦労人である。
「向こうさんに会うのが楽しみね、アドミラル・山本はギャンブラーだって言うし、参謀長の宇垣は黄金仮面って渾名らしいわ、それに参謀の黒島は変人だって」
「ですから、その様な物言いは、お止め頂きたく」
にやつきながら侍従武官の慌てる姿見ながら、王女は「判ったわよ」と手を振る。
暫くして内火艇が大和に接舷すると、今までおちゃらけていた王女の顔が凛々しくなり別人のようになる。軍楽隊によるメィルティア王国国歌が流れる中、王女はタラップを上がって行く。上がりきると、其処には純白の第2種軍装で着飾った、聯合艦隊司令長官山本五十六大将以下の面々が出迎えに来ていた。
「殿下、聯合艦隊司令長官山本五十六です。お越し頂き恐悦至極に存じます」
山本大将が代表して英語で王女に挨拶する。
「メィルティア王国第一王女、海軍中将、マリア・レーニア・マーガレットです。態々のお出迎えありがとうございます」
マリア王女は流暢な日本語で対応する。
「殿下は日本語がお分かりですか?」
余りにも流暢な物言いに驚く山本以下の面々。
「はい、幼き頃より英語、仏語、独語、日本語などは習っておりましたので」
「それにしても、流暢ですな。まるで日本人と話しているようです」
その言葉使いに多くの将兵が驚きの顔で見ている。
「さあこちらへ」
王女以下の面々は、山本五十六の案内で艦内へと入っていった。
艦内へ入ると早速、食事に招待された。
純白のテーブルクロスに覆われ、花を飾ったテーブルへ座ると、食前酒に始まり、フランス料理が饗された、献立はもちろん、前菜から始まってスープ、魚料理、肉料理、デザートにいたる正式なフルコースであった。
マリア王女はフルコースを食しながらも、“戦場では泥水啜り草を噛む生活をしている”というのに何と贅沢な事かと思ったが、態々波風を立てたも仕方が無いと、敢えてそれは言わなかった。
食事が終わると早速会議が始まったが、其処でマリア王女の爆弾発言で会議室が静まりかえった。
「我が国としては、日本に対して戦時急造空母6隻と防空駆逐艦24隻を明年8月までにお渡しする事が出来ます」
「そっそれは」
驚く山本長官以下聯合艦隊参謀達に更なる衝撃が走った。
「申し訳ありませんが、戦時急造故、ヴェアトリスの様な装甲空母でない事は御了承頂きたいのです」
何も話せない状態に追い打ちを掛けるように侍従武官が細評を話す。
「空母リョセフィーヌ・サリアクラス、基準排水量17,500噸、全長230m、全幅27m、機関出力102,000馬力、速力31ノット、搭載機数常用60機、補用12機」
更に王女が追加する。
「それに、タンカー、工作艦、揚陸艦、諸々ですわね」
日本側の驚愕は更に続くのであった。
この世界、第一次世界大戦で日本が欧州へ陸軍を派兵したので、日英同盟がそのまま継続されています。
アメリカは、結局参戦を渋り、ドイツ敗戦一週間前に参戦しました。
また、ワシントン軍縮会議も高圧的なアメリカと、英、日、仏、伊、メが対立しお釈迦になり。建艦競争の末1925年にロンドンで軍縮条約が締結されましたが、主力艦比率が、米、英、メ10割、日7割、仏、伊、4割になっています。




